影のゲートから姿を現す。
その先にいたのは、俺にとっても見覚えのある相手だった。
「おや、君は……オールマイトの後継者かい? 一体どうしてこんな場所、タルタロスにいるんだい?」
椅子に縛り付けられているAFOは目隠しの類をされており、本来なら俺の存在を認識出来ない筈だった。
……もっとも、神野区で見た素の状態であっても、視覚が効くとは思えなかったが。
とはいえ、俺はAFOの言葉を無視して近付く。
当然ながら、AFOはそんな俺の存在に疑問を持つ。
「知っての通り、ここにはかなりの数の監視カメラがある。君の存在も既に看守に知られていると思うよ」
挑発するつもりか、あるいはもっとしっかりとした会話をしたいだけなのか分からないが、とにかくAFOはそう言ってくる。
だが、俺はそれを無視して……その身体に空間倉庫から取り出した個性破壊薬の入った注射を突き刺すのだった。
「これがAFOね。正直なところ、そこまで強いの? と思えるのだけれど」
レモンが気絶しているAFOを見ながら、そう呟く。
現在俺達がいるのは、ホワイトスターにある実験施設の1つ。
念の為に、普段使っている所からは離れた場所にいた。
AFOが一体どのような反応をするのか、分からないからというのも大きい。
いやまぁ、それでも量産型Wやコバッタがいれば、対処は可能だったりするのだが。
「一応、その筈だ。……まさか個性破壊薬を使った瞬間に気絶するとは思っていなかったが」
そう言うが、今にしても思えばそこまで不思議な事でもないのだろう。
公安から……より正確にはタルタロスの看守からの報告を公安から聞いた話によると、AFOは神野区以前にオールマイトと戦った時、それこそオールマイトがAFOを倒したと思っていたその時の戦いの怪我で本来なら死んでいてもおかしくはなかった筈だ。
それを集めた個性の力で何とか生き残っていた状態だった。
その上で、神野区での戦いによって受けたダメージを思えば……以前の戦いの怪我がそれなりに回復していたとはいえ、それでも今も何とか個性を使って生きている状況であるのは間違いない。
そんな中で個性破壊薬を使われたら、どうなるか。
「死なないだけマシだったのかもしれないな」
「そうね。……ここは離れているけど、それでも暴れられたら面倒だし。取りあえずこのAFOはどういう実験を行ってもいいのね?」
「問題ない。最悪死んでも、その時はその時だ」
そう言うとレモンは笑みを浮かべて頷くのだった。
この日から、シャドウミラーの技術班における個性の研究は一足飛び進む事になる。
……結果としてAFOはかなりの辛い目に遭ったものの、それについては今までの自分のやってきた事を思えば、仕方がないだろう。
AFOは何度か反逆を企てたりもしたが……コバッタはかなり破壊されたものの、量産型Wについては10人程倒すのがAFOの最大スコアだった。
取りあえずこの先もAFOが死ぬような事はないので、最後までこちらの研究に付き合って貰うとしよう。
「……で、いいのか?」
「ええ。それが私達の本音よ」
俺の問いに龍子がそう言い、優、流子、信乃の3人が揃って頷く。
ここは、ヒロアカ世界の東京にあるホテル。
ヤオモモ達と結ばれたのとは違うが、それでも高級ホテルと呼ばれるホテルであるのは間違いない。
そして、今は2月14日……バレンタインの夜。
そんな夜にこうしてホテルにいるというのは……そういう事だった。
まぁ、身体にチョコを塗って……とか、そういうベタな事をしなかったのは、俺にとっても助かった事ではある。
いやまぁ、そういうのも1度くらいは試してみたいと思わないでもなかったが。
ともあれ、俺はヒロアカ世界でのバレンタインに龍子達4人と結ばれることになるのだった。
「え? 本当なの?」
そろそろ終業式も近くなってきた頃、俺はクラスの皆に転校するという事を告げた。
それを聞いて、真っ先に反応したのは緑谷。
……まぁ、何だかんだと俺は緑谷に訓練をつけていたしな。
本来なら俺と付き合っているヤオモモと三奈が最初に反応する筈なのだが、既にヤオモモと三奈には事情を説明している。
また、B組の恋人である一佳と……そして俺の信者である茨も事情については理解していた。
なので、ヤオモモと三奈が俺の話を聞いて驚くような事はなかった。
「ああ、ちょっとした理由があってな。……出来れば、全員にしっかりと別れを言いたかったんだが」
そう俺が言うと、話を聞いていて何人かが残念そうな表情を浮かべる。
現在A組の生徒は20人だ。
本来ならイレギュラーな存在だった俺を入れて21人だったのが20人になったのは、青山が転校した為だ。
つまり、俺は青山に続いて転校するという事になる。
……表向きの話では、だが。
現在青山がいるのは学校ではなく、収容施設だ。
その理由は、AFOのスパイとして。
……そう、明らかに雄英の情報がヴィラン連合とかに知られていたのは、青山が情報を流していたからだったのだ。
俺としてはてっきり教師の中にAFOのスパイがいるとばかり思っていたのだが、まさか生徒だったとは。
まぁ、USJの件はともかく、林間合宿の場所は教師でも知っている者が少なかったらしいしな。
だが、合宿をしている生徒の中にスパイがいれば、襲撃は容易だっただろう。
今にして思えば、USJの件が終わってからだったか? 青山が妙に俺に声を掛けてくるようになったのは、AFOが俺をOFAの後継者だと判断して、その辺りの情報を抜き出そうとして指示を出したんだろうな。
ともあれ、そんな訳でスパイという事が判明した青山は、家族とともに収監されているらしい。
もっとも青山は元々無個性だったのが、資産家である両親が伝手を使ってAFOに辿り着き、個性を貰ったらしい。
その為、AFOに命令されると断る事も出来ず……そもそも青山が雄英に入学したのも、AFOからの命令だったらしいし。
……それでも競争率300倍以上の雄英のヒーロー科に入学出来るんだから、青山はやっぱり優秀だったんだよな。
ともあれ、AFOに脅されたというのが考慮され、タルタロスではなく比較的自由に動ける場所に収監されているらしい。
当然ながら、その件はクラスの面々は知らない。
それこそヤオモモや三奈のような恋人達にも言っていない。
「まぁ、俺も俺で色々とあるんだよ。これからは一緒に雄英の生徒としてはやっていけないが、ニュースとかでお前達の活躍を見るのを楽しみにしてるよ」
そう言うと、緑谷は何も言えなくなり……
「待てやごらぁっ!」
緑谷の代わりという訳ではないが、爆豪がそう声を掛けてくるのだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……クソが……」
倒れている爆豪が、荒い呼吸をしながら吐き捨ててる。
ここは雄英の訓練場の1つ。
現在俺はそこで、A組の面々……だけではなく、B組の中からもそれなりの人数が見学をしている中、爆豪と模擬戦を行ったのだ。
……いや、行っていたという表現の方が正しいか。
その結果が、これ。
「そこまでにしておけ」
ぐぐっと、爆豪が荒い息を吐きながらも上半身を起こそうしたところで、監督役としてきていた相澤がそう言う。
「……畜生、結局俺はてめえに勝てなかったのかよ……」
悔しそうに爆豪が言いつつ、それでもすっきりした表情で俺を見る……ではなく、それこそヴィラン顔負けの表情で俺を睨んでいた。
こういうところ、いつまで経っても爆豪だよな。
そう、しみじみと思う。
とはいえ、何だかんだと俺は爆豪と話す事も多いので、そんな様子は気にせず近づき、手を伸ばしながら口を開く。
「残念だったな。俺の勝ちだ。……また、機会があったら雄英に来るから、その時まで鍛えておけ」
「けっ!」
おや、意外。
てっきり伸ばした手を掴むことはないと思っていたんだが。
そんな風に思っていると、俺の手を握ったまま立ち上がった爆豪が小さく呟く。
「神野区での事は感謝してやるよ」
「……え?」
あれ? 今、爆豪……もしかして、あの時のが俺だって知ってたのか?
そう疑問に思ったが、爆豪を見ても俺から視線を逸らしているだけだった。
「それにしても……アクセル、皆が残念がっていたよ?」
「そうですわね。アクセルさんの存在感は際立っていたし」
「アクセルがいないA組なんて……想像出来ないしね」
夜、いつものようにヤオモモが用意したホテルで俺達は恋人同士でお別れ会をしていた。
……もっとも、一佳、ヤオモモ、三奈の3人は俺の真実についてしっかりと理解している以上、そこまで悲壮感はない。
実際、俺が雄英を辞める――表向きは転校――という事になっても、当然ながらゲートは雄英の敷地内に設置したままだし、俺の恋人ともなれば当然ながらゲートは自由に使えるので、会おうと思えばいつでも会える。
ヤオモモや三奈の場合は、一緒のクラスだった時と比べると会える時間は間違いなく少なくなるが、元々がB組だった一佳の場合は、恐らくだがそう違いはないだろう。
……これが全寮制ではなく、夏休み前の時のようにそれぞれが1人暮らしをしている時であれば、毎朝のように俺は一佳と登校していたので、一緒にいる時間は減っただろうが。
「ヒロアカ世界での大きな紛争も終わったしな。……この前のダークマイトの一件とかは、ちょっとアレだったが」
ダークマイト……それは名称から分かるように、オールマイトのパチもんだ。
海外のマフィアだか何だかの者だったが、そいつが騒動を起こしたのだ。
どこぞの金持ちの令嬢やその執事とかも関係してくる騒動だったが……まぁ、うん。量産された個性破壊薬を使って個性を使えなくしてしまえば、容易に対処出来る訳で。
仰々しい感じで姿を現した割には、あっさりとやられてしまったダークマイトは、二流っぽさがこれ以上ない程に強調されたような感じとなっていた。
「それは、アクセルだったからだと思うよ?」
三奈が呆れたように言い、それに俺が何かを言おうとしたところで、扉がノックされる。
「お、来たな」
そう俺が口にすると、ヤオモモ達は微妙に緊張した様子を見せる。
まぁ、来た面々を思えば無理もないか。
そう思いつつ、俺は扉に近づき、開けると……
「来たわよ、アクセル」
「うーん、良いホテルね……」
「本当に凄いわね」
「ねこねこねこ、ここで一晩をとなると、少し緊張するかも」
扉を開けた先にいたのは、龍子、優、信乃、流子の、こちらも俺の恋人となった4人。
言い分けるのであれば、ヤオモモ達が学生組で、こちらは大人組と言えばいいか?
「入ってくれ。多分大丈夫だとは思うけど、あまり見られない方がいいだろうしな」
この階層にある部屋はかなり少なめで、その分1部屋ずつが広くなっている。
その為、この階層まで来る者は少ないし、来たとしてもお互いのプライベートに関与したりはしない。
……いやまぁ、龍子達は全員がプロヒーローだから、そっち方面でサインを欲しがるような奴とかがいる可能性はあるが。
ともあれ、あまり人目につかない方がいいのは間違いないので、さっさと部屋に入れる。
そうして部屋に入った龍子達だったが、部屋の中にヤオモモ達がいるのを見ると、どう反応したらいいのか分からないといった様子になる。
「うーん……何かこう……この子達がここにいるのを見ると、何と言えばいいのか分からなくなるわね」
「ねこねこねこ。私としては、寧ろ安心出来るけど? こういう人だから、私や信乃も好きになったんだし。……ねぇ?」
「そうだけど、あまりそういうのは言わないで欲しいのだけど」
龍子、流子、信乃と、それぞれが口を開く。
なお、一緒に来た中で優だけは特に緊張した様子もなく、部屋の中で寛いでいた。
……これから一体何をするのか、分かっているんだよな?
「取りあえず、お互いにそれぞれ相手は知ってると思うけど……一応、念の為に自己紹介をしてくれ」
そう俺が言うと、この場にいる俺以外の面々がそれぞれ自己紹介を始める。
とはいえ、これもまた俺が言ったようにお互いを知っている者達が多い。
顔見知りじゃないのは……流子と信乃のプッシーキャッツ組と、B組の一佳か?
あ、いや。でも以前プッシーキャッツとして寮に来た時、B組の寮にも顔を出すとか言っていたと思う。
そんな風に思っていると、自己紹介も無事に終わり……
「えっと、その……アクセル。それで、これから……その、するのよね?」
確認の意味を込めて尋ねてくる龍子に頷く。
そんな俺の様子を見た面々がこれからの行為を想像したのか、顔を赤くし……
「取りあえず来てからすぐにってのはどうかと思うから、まずは簡単に食事でもするか」
そう言うと、安堵した様子を見せる。
もっとも、この日は徹底的に……プロヒーローでも体力の限界を迎えるくらいに何度も行為を行い、翌日にはプロヒーロー組も学生組も、全員が昼すぎまで眠る事になるのだった。