アクセル達がX世界において戦っている頃、UC世界のルナ・ジオンにあるとある場所において一つの問題が上がっていた。
「アクト・ザクか。これは悪くない性能だとは思うけど、あくまでもそれだけなんだよな」
バーニィが自分がテストパイロットを務めている機体に視線を向ける。
アクト・ザク。
ルナ・ジオンが手に入れたペズンにて行われていた、ペズン計画で開発されたMSだ。
その性能は1年戦争時代のMSとして考えれば、かなり高性能となる。
何よりも特徴的なのは、ジオンのMSの代名詞とも呼ぶべきザクシリーズの1機であるにも関わらず、その駆動方式はジオンの中で一般的だった流体パルスモーターではなく、連邦で採用されたフィールドモーターが使われている事だ。
流体パルスモーターと、フィールドモーター。
共にMSの関節を動かすシステムとしては一般的で、どちらが突出して優れているという訳ではない。
例えば流体パルスモーターには、流体パルスアクセラレーターという上位互換のシステムがあるし、フィールドモーターにはマグネットコーティングという技術がある。
そういう意味では、どちらが突出して優れているという訳ではなかった。
もっとも、流体パルスアクセラレーターとマグネットコーティングを比べると、全く新しい駆動システムの流体パルスアクセラレーターであるのに対し、マグネットコーティングは既存のフィールドモーターに磁力コーティングをするだけなので、コストという点では圧倒的にフィールドモーターの方が勝っているのだが。
ともあれ、アクト・ザクというのはペズン計画の中でも特殊な機体と言ってもいい。
現在ルナ・ジオンの兵器メーカーであるディアナが取り組んでいる、ジオン系と連邦系のMS技術の融合の先駆けとも呼ぶべき存在なのだから。
そういう意味では、アクト・ザクというのはペズン計画の中でも特殊な機体なのは間違いなかった。
(もっとも、だからこうしてテストパイロットとかをわざわざやる羽目になってるんだろうけど)
バーニィは改めてアクト・ザクを見上げてそう思う。
(これを見ると、ジオンがMS技術で連邦よりも10年先を行っていたってのは、そんなに間違いって訳でもないんだよな)
バーニィもそう理解はしている。
もっとも、シャドウミラーやルナ・ジオンが協力した結果として、その10年先の技術を持つジオン公国は連邦に降伏する事になってしまったのだが。
その最後の最後……本当に最終盤近くになってからルナ・ジオンに亡命……もしくはスカウトされたバーニィとしては、複雑な思いもそれなりにあったりする。
「よう、バーニィ。アクト・ザクの調子はどうだ?」
不意にそう声を掛けられ、バーニィは声のした方に視線を向ける。
するとそこには、バンダナが特徴的な人物……そして、バーニィの同僚、もしくは先輩といった存在がいた。
「ガルシアさん、一体どうしたんですか?」
「いや、何。バーニィがアクト・ザクとかいう変わり種のテストパイロットをやってるって聞いたんでな。ちょっと様子を見に来ただけだよ。ほら」
そう言い、ガルシアは缶ジュースをバーニィに向かって投げる。
それを素早く受け取るバーニィ。
「ありがとうございます。……それにしても、こうしてアクト・ザクをテストするのはあまり意味がない気がするんですよね。ルナ・ジオン軍で使われているMSは、もうそれなりに決まってますし」
「まぁ、そりゃあそうだけどよ。このアクト・ザクをお前が任されたのだって、決して理由がない訳じゃないんだぜ?」
ガルシアの言葉に、バーニィは喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からないといった微妙な表情を浮かべる。
そう、バーニィがこうしてアクト・ザクを任されたのには、それなりに理由があった。
その理由こそが……
「ザク系のMSと相性がいいって……ジオン軍時代ならともかく、ルナ・ジオン軍で役に立つんですか?」
バーニィが口にしたように、ザク系MSとの相性が非常にいいというのが決定的だった。
それを見たどこぞの混沌精霊は、もうこれは適性とかではなくて、一種のスキルとかそういうのじゃないかと、そんな風に突っ込んだくらいに、バーニィはザク系MSとの相性がよかった。
正確には、相性がいいという表現よりも……そう、ザク系のMSに乗ってる時とそれ以外のMSに乗っている時のバーニィでは、MSパイロットとしての能力が大きく違うといった結果が出ている。
同じジオン系のMSでも、ドムやゲルググに乗った場合は……そこまで極端に悪くはないが、それでも平均程度。
これがグフ系のMSになると、ドムやゲルググよりもスムーズに機体を動かす事が出来て、平均よりも若干上。
だが……これがザク系MSとなると、純粋な能力だけならルナ・ジオンでも上位に位置する。
勿論、バーニィの経験不足といった面から実際に戦いになったりした場合は負けてしまうのだが。
ただし、バーニィの持つ潜在能力の高さは間違いなく一級品だった。
それを最大限利用するのが、ザク系MSでなければならないという妙な条件ではあったが。
しかもそのザク系MSというのは、サイクロプス隊として行動していた時にバーニィが乗っていたザクFZ……いわゆるザク最終量産型と呼ばれるタイプのザクだけではなく、一般的なF型は勿論、地上用のJ型や砂漠用のデザート・ザクといったように、取りあえずザク系ならほぼ全てに適応するといった能力を持っていた、
そういう意味では、アクセルを含めた上層部が注目するのに十分な理由だろう。
それが元々のバーニィの資質なのか、それともバーニィが軍人となる前に受けた訓練によってそのようになったのか。はたまた、その双方が組み合わさった結果なのか。
その辺りの理由は、今のところ判明していない。
ルナ・ジオン軍の軍人を相手に同じような調査が行われたが、射撃戦が得意、格闘戦が得意、防御が得意、高機動が得意……といったように、それぞれに向いているのはデータとして判明したものの、バーニィのように特定の機種に特化した存在というのは他にいなかった。
そして何よりバーニィにとって不運だったのは、ルナ・ジオン軍で採用されている量産MSにザク系はないという事だろう。
現在のルナ・ジオンにおいて、主力量産MSはアクト・ザクと同じくペズン計画で開発されたガルバルディを改修した、ガルバルディβ。
そして指揮官やエース級はギャン・クリーガーに乗っている。
他にも1年戦争の時に使っていたヅダもあるが、こちらは現在次第にガルバルディβとの入れ替えが進んでいる。
もっとも、高い機動力を持ち、装備の変更によって様々な機体特性となるヅダを好む者も多いのだが。
そんなヅダは現在遠距離からの狙撃型であるSP型と偵察型であるE型が主に使われている。
特にE型は、ミノフスキー粒子散布下であってもきちんと偵察出来るようにそちら方面に特化しているので、今でも十分に現役だった。
逆に強襲型のA型は、ガルバルディβやギャン・クリーガーに取って代わられており、数は大分少なくなっている。
他にもケリィが隊長をしているMA隊もいる。
こちらは純粋な戦力という点ではMSを上回るMAの部隊である以上、数は少ないが強力極まりない。
ただし、最新鋭のMAであるヴァル・ヴァロはまだ数が少なく、殆どがビグロやビグロマイヤーに乗ってるのだが。
また、ルナ・ジオンが誇るアプサラスⅢは、現状においてはMA隊ではなくハワイで運用が行われている。
「今はザクは使われてないが、この先もそうなるとは限らないだろ?」
「いや、だってザクですよ?」
ガルシアの言葉に、バーニィがテンション低めでそう言う。
もっとも、ザクはジオンの象徴と言ってもいいMSだ。
ルナ・ジオンがそのようなザク系のMSを採用するかどうか。
普通に考えれば否だろう。
「可能性は皆無じゃないだろ。……ただ、そう言えばアクト・ザクで思い出したが、現在ペズンで次期量産機開発計画が進んでるって知ってるか?」
「……それ、ザクじゃないんですよね?」
「どうだろうな。俺が聞いた話だと、ペズンに蓄積されていた技術をベースにMSを開発するという事だから、ジオン系の技術がベースになってそこに連邦系の技術を入れると思う。それにヅダみたいに装備とかによって機体性能を変えたりするらしい。だとすれば、もしかしたら……本当にもしかしたら、ザクが採用される可能性もあるぞ」
「そういう風になるといいなとは思っておきますよ」
そう言うバーニィだったが、実際にはその新型もザク系ではないんだろうなと、若干諦めが混ざった言葉だった。
「とにかく、今はアクト・ザクの運用を頑張っておけ。隊長も期待してたぞ?」
「隊長が……?」
サイクロプス隊を率いるシュタイナーは、腕利きのMSパイロットであると同時に生身の軍人とでも高い能力を持つ。
ルナ・ジオンの中でも重鎮中の重鎮である、ランバ・ラルと同じようなタイプの人種だった。
純粋に能力という点では、それこそシュタイナーは決してランバ・ラルに負けてはいない。
……ただ、カリスマ性という点ではシュタイナーは勝てなかったが。
それでもバーニィやガルシアを含め、サイクロプス隊の面々はシュタイナーを慕っている。
それはシュタイナーから期待されていると言われて嬉しそうな表情を浮かべているバーニィを見れば明らかだろう。
「ああ。アクト・ザクが正式採用されるような事は、まずないだろう。だが、ジオン系技術と連邦系技術の融合を行った最初期の機体であるのは間違いない。このアクト・ザクの試験によって、技術の相性とかが判明する可能性も十分にある」
「相性、ですか?」
「そうだ。具体的には、相性が悪ければMSを開発した当初の予定通りの性能を示さないとかな。……具体的には、本来の予定ならビームライフルとビームサーベルを使える筈だったのに、ジオン系と連邦系の技術の両方を使った事によって相性が悪く、設計した時はビーム兵器を2つ使える筈だったのに、どちらも使えない、もしくはどちらかしか使えないといったようにな」
「それは……」
ガルシアが口にした事は、十分に起きる可能性があった。
バーニィはMSのパイロットだが、それなりに整備や設計についての知識もある。
……元々その辺の知識はそれなりにあったのだが、アクト・ザクのテストパイロットをやるという事で相応の知識や技術は必要となったのだ。
そのお陰で、機体の性能を無理矢理引き出すのではなく、機体性能に合わせて操縦をする事が出来るようになりつつあるのは、成長の証だろう。
そんなバーニィだけに、ガルシアの言葉は十分に有り得る事だと思えてしまう。
(いや、ガルシアさんが言ってるのは、寧ろそこまで酷くない現象だ。場合によっては、ジオン系と連邦系の技術の相性によって、機体を起動させようとした時に動力炉が爆発するといった可能性もある)
その事を想像し、頭の中が真っ白になるバーニィ。
そんなバーニィの様子を見て、ガルシアは鼻を鳴らす。
「ふんっ、どうやら自分のやってる仕事の重要さを理解出来たみたいだな。その調子でアクト・ザクの試験運用も頑張れよ」
「分かりました。……ただ、それでも俺だけじゃなくてもっとテストパイロットの人数が増えてもいいと思うんですけど。アクト・ザクは別に俺が使ってる奴だけしかない訳じゃないんですよね?」
誰か人のパイロットとまでは言わないから、量産型Wとかにも手伝って欲しい。
そう本音を漏らすバーニィに、ガルシアは肩をすくめる。
「さて、俺にもその辺については分からねえな。ただ、そうしないって事は、バーニィだけで十分だと上は思ってるんだろ」
「それ、さっきジオン系と連邦系の技術の融合の重要性って話と矛盾してません?」
バーニィはガルシアの言葉に思わずそう突っ込む。
最初にサイクロプス隊に入った時は、新兵という事もあってか、このような真似は出来なかった。
だが、今はそれなりに付き合いも長くなったお陰もあってから、このくらいの事は普通に出来るようになっている。
「上の方の話だからな。……そう言えば話は変わるんだが、隊長がちょっと面白い話を仕入れてきたぞ」
「あからさまですね。……で、何です?」
「1年戦争中、ジオン軍でビショップ計画というのがあったらしい」
「聞いた事ないですけど」
「それはそうだろう。ジオン軍の中でも極秘計画だったんだからな。けど、月では……というか、シャドウミラーではその成果を確保してるんだとよ。で、そのビショップ計画で開発されたMSのうちの1機が……サイコミュ試験用ザクらしい」
「え……」
その機体についてはバーニィも知らない。
だが、サイコミュとついている以上、ニュータイプ用の機体なのは間違いない。
「それ、幾らザクだからって、俺に乗れとかは言いませんよね?」
恐る恐るといった様子で尋ねるバーニィに、ガルシアは面白そうな笑みを浮かべつつも視線を逸らすのだった。