転生とらぶる2   作:青竹(移住)

928 / 2196
3635話

「ほら、土産だ。正確には差し入れか」

 

 天城屋旅館の大広間に戻ってきた俺は、そう言って美鶴達にクッキーの詰め合わせを渡す。

 それなりに有名な店で買ったというのは、包装紙を見れば明らかだ。

 そんなクッキーが結構な量あり、それを見たシャドウワーカーの面々……特に甘いものが好きな面々は喜びの声を上げる。

 

「すまないな、アクセル。だが、この店のクッキーをこれだけ買ってきたとなると、それなりに高かったんだじゃないか?」

「そうでもない。俺の懐は痛んでないし」

 

 その言葉で美鶴は俺が何をしたのか理解したのか、複雑な表情を浮かべる。

 美鶴の性格としては、例え相手が悪人……チンピラの類であっても、そんな相手から金を奪うのは感心しないと思っているのは間違いない。

 とはいえ、月光館学園の不良から金を奪ったというのは、後で言っておいた方がいいかもしれないな。

 美鶴にしてみれば、桐条グループが経営している月光館学園でそのような事になってるというのは、全く予想もしていなかっただろうし。

 それで学校が多少厳しくなってしまったら……まぁ、俺に絡んだ奴が悪かったという事で。

 そもそも、もし俺が絡まれていなかったら、恐らく誰か他の奴が絡まれていただろうし。

 あるいは同じような不良と喧嘩をしていたか。

 その辺は俺にもちょっと分からないが、可能性としては否定出来ないと思う。

 そう考えると、やっぱり絡まれたのが俺でよかったのだろう。

 もっとも、月光館学園としてはその程度の事で評判が落ちるとは限らないが。

 

「それで、堂島はどうした?」

「稲羽署から連絡があって、一度そっちに戻っている。かなりきつそうだったが」

「……もう少し訓練で手を抜くべきだったか?」

 

 恐らく……いや、確実に堂島は明日、筋肉痛だろう。

 とはいえ、筋肉痛というのはその時は身体が痛いものの、それによって筋肉がつくのだから、それは悪い話ではない。

 

「いや、堂島の事を思えば、訓練の手を抜くべきではないだろう。もしここでアクセルや五飛が訓練の手を抜けば、堂島も訓練は楽になる筈だ。だが、実際にTVの中の世界でシャドウと遭遇した時に戦えるかどうかは……アクセルなら分かると思うが?」

「そうだな」

 

 元々、ペルソナ使いでも何でもなく、魔力や気を使う事が出来ない堂島がシャドウと戦うというのが、そもそもかななり難易度の高い話なのだ。

 であれば、幾ら堂島にとっては厳しいとはいえ、しっかりと訓練をする方がいいのは間違いない。

 それによって堂島が相応の戦えるようになり、シャドウとの戦いでも生き残れるようになる……かもしれないのだから。

 そこまで訓練しても、やっぱり『かもしれない』程度なんだよな。

 訓練の中で、あるいはシャドウとの戦いの中でペルソナ使いとして覚醒したり、もしくは魔力や気を使えるようになれば少しは話も別だろうが。

 ただ、そこまで都合のいい展開になるかと言われれば、正直微妙だろう。

 敵との戦いの中で一体どういう風に成長するのか……もしくは成長出来ないのか。

 

「堂島がTVの中の世界に行かないのなら、ここまで厳しい訓練をする必要はないのだがな」

「それは無理だと思うぞ?」

 

 堂島の性格を考えれば、一度決めたことをそう簡単に変えるとは思えない。

 あるいはそれがそこまで重要な事でなければ……それこそ、明日の昼食で冷やし中華を食べようと思っていたが、実際に翌日になって牛丼が食べたくなったとか、そういうどうでもいい事――人によってはそれで喧嘩になったりもするが――ならともかく、足立の件は堂島にとっても大きな意味を持つ。

 堂島にとって、足立は短いとはいえコンビを組んだ相手なのだから。

 しかも家に呼び、一緒に食事をする事も多かったらしい。

 堂島の性格から考えて、そんな間柄だった足立を放っておく事は出来ないだろう。

 

「だろうな。俺もそう思う。けどそうなると、やっぱり訓練は厳しくなる訳で……」

「あの!」

 

 俺と美鶴の会話に、不意に早紀が割り込んでくる。

 ……その手に俺が買ってきたクッキーが握られているのが……うん。まぁ、早紀にとっても雑誌とかTV番組とかで美味いと評判のクッキーは気になったのだろう。

 

「どうした?」

「私が、彼の、堂島さんのフォローをしっかりとしますから、彼の望むようにしてあげて下さい」

 

 なるほど、早紀にしてみれば恋する相手には好きなように動いて欲しい訳か。

 とはいえ、そうなると堂島は色々と危ない事になるのだが……それはいいのか?

 その辺は恋心によるものといった感じか。

 あるいは疲れ切った堂島を癒やして、アプローチするとか考えているのかもしれないな。

 

「どうする?」

「私はそれで構わん。何度も言うようだが、TVの中の世界に行く以上は鍛えなければ死ぬだけだ。シャドウとの戦いは武道の試合ではない。文字通りの意味で、生きるか死ぬかなのだから」

 

 美鶴のその言葉には俺も否とは言えず、結局堂島の戦闘訓練は今日のように続けられる事になる。

 これがシャドウミラーに所属してるなら、魔法球を使ったりも出来るんだが。

 だが、魔法球はシャドウミラーにとって最重要機密と言ってもいい。

 今のシャドウミラーを支えているのは、技術班がもたらす技術であったり、腕利きの政治家の集団とも言える政治班だったり、圧倒的な軍事力を持つ実働班であったりもするが、その根幹と呼ぶべき存在には魔法球がある。

 技術班が研究をするのに、政治班が休むのに、実働班の使う兵器を製造するのに。

 それ以外にも魔法球が重要なのは間違いない。

 そんな魔法球である以上、堂島にそう簡単に使わせる訳にはいかない。

 ……もっとも、UC世界のセイラとかは使ったりしているのだが。

 ただし、セイラはルナ・ジオンという、シャドウミラーが強い影響力を持つ国の女王だ。

 もっとあけすけに、悪い表現で言うなら、属国に近い扱いとなる。

 それでもシャドウミラーから何かを要求するような事はあまりないので、ルナ・ジオンとしてはその辺の自覚はないだろうが。

 こっちが要求してるのは、何らかの新しい技術であったり、新型MSやMAを開発したら譲渡するといった程度なのだから。

 スペースデブリとかをキブツで使う為に買い取ったりはしているが、それはあくまでも買い取ってるのであって、奪っている訳ではない。

 月の周辺には1年戦争の件もあってスペースデブリが結構な量あり、ルナ・ジオンの住人の中にはスペースポッドを使ってそれを持ち帰り、生計を立てている者もいる。

 ちなみにスペースポッドの中には連邦軍のボールやジオン軍のオッゴとかもあったりするが……ボールはともかく、オッゴは修理部品とかがないから、現在使っているのが使えなくなったら部品取り用にして、それも無理になった共食い整備とかをする必要があるだろう。

 何しろオッゴはザクのパーツが多く流用されている。

 しかもそのザクは一番多く作られたF型ではなく、地上用のJ型だ。

 ジオン軍にしてみれば、オデッサの戦いで負けて、ジャブローの襲撃も失敗し、多くのジオン軍が宇宙に撤退した事によって地上用のJ型は使い物にならなくなったので、その部品を流用してオッゴを作ったのだろう。

 F型とかの部品でも修理部品として使えない事もないと思うが、その辺は実際にやってみないと何とも言えない。

 ザクを主力MSとしたジオン軍と違い、ルナ・ジオンはヅダを主力MSとした。

 まぁ、ザクの部品を作ろうと思えばどうにかなるんだろうが、それでもオッゴの為にわざわざ生産性の問題から作ろうとは考えないだろう。

 あるいはヅダの部品で修理が出来るのなら、もう少し話は違うかもしれないが。

 ぶっちゃけ、そこまで無理をする必要はないと思うけど。

 

「アクセル?」

「ん? ああ、悪い。ちょっと別の事を考えていた」

「アクセルは色々と考える必要がある以上、そのように思うのは仕方がないかもしれないが……それでも、今はまずこのマヨナカテレビや足立の件について考えて欲しい」

「そうだな。悪い。……けど、こうして見ると特に事態の進展とかはない感じか?」

「足立もそれだけこちらを警戒しているという事なのだろう。あるいは……これは本当にもしかしたらの話だが、アクセルが何度もTVの中の世界に入っているのに気が付いているのかもしれないな」

「その可能性はあるか」

 

 俺が見るところ、足立はこの事件の中では小ボスか中ボスといった感じの人物だ。そうである以上、TVの中の世界に誰かが入ってきたら分かるといった能力を持っていても不思議ではない。

 だがそうなると、この先は厄介な事になるだろう。

 何しろ俺達がTVの中の世界に入れば、足立がそれを察するとなると、それを感知したら即座にどこかに隠れるか、場合によってはTVの中の世界から出て現実世界に行くといった事をしてもいい。

 隠れているだけなら、あるいは俺達に見つかる可能性もあるが、そもそも同じ場所にいなければ見つかるといった事はまずないのだから。

 

「そうなると……いっそ俺が夜のジュネスで張り込むか?」

 

 今までの行動から考えると、足立は今夜もジュネスで食料とかを確保しそうな気がする。

 なら、俺がジュネスにいれば捕らえられる可能性は十分にあった。

 問題なのは、警察官がジュネスの中にいると、足立を察知するのが遅くなるという事だろう。

 それ以外にも、結局今のところ足立が具体的にどのTVから出入りしてるのかは分からない。

 ジュネスには防犯カメラが多数あるのだが、それでも死角がない訳ではない。

 足立が使っているTVは、その死角にあるTVのどれかなのだ。

 その辺については、まだ正確には分かっていない。

 ……実際には、調べようと思えば恐らく調べられるだろう。

 だが、足立がTVの中からそれを知ったらどうなるか。

 もうそのTVから出るような事はないだろう。

 そうなると、次にどのTVから姿を現すのかが分からなくなる。

 今でこそ、大雑把にではあるがジュネスのTVから出入りしているというのが分かっているものの、足立を警戒させたらジュネス以外のTVから出入りするようになってもおかしくはない。

 そうなると、次に足立を捕捉出来るのがいつになるのか分からない。

 ……ん? けどそう考えると、稲羽署の警察官達が夜にジュネスのパトロールをするのとかって、ちょっと問題なんじゃないか?

 それで足立が警戒して別のTVを使うようになれば問題なんだし。

 

「足立が次にどこに行くか分からない以上、それは止めておいた方がいいか」

 

 自分の意見を自分で訂正する。

 

「いいのか?」

 

 確認するような美鶴の言葉に頷く。

 実際、今の状況を考えるとあまり俺が前に出ない方がいいのも事実。

 

「足立が俺の事を具体的にどのくらいまで知ってるのかは分からないが、それでも影のゲートについては多分知ってると思う。いや、影のゲートとしっかりは知らなくても、転移能力とかがあるというのは予想出来る筈だ」

 

 早紀をTVの世界に入れようとしている時、いきなり取調室に俺が姿を現したのだ。

 扉が開けば足立も当然ながら気が付いた筈だ。

 そして足立は自分がTVの中に出入り可能な能力を持っている以上、自分以外にも何か特殊な……それこそファンタジーと呼ぶべき能力を持っていると予想するのは難しい話ではない。

 

「あら、これ……花ちゃん? それに鳴上君も……」

 

 俺と美鶴から離れていた早紀の声が周囲に響く。

 その声が妙に気になった俺は、早紀を見る。

 すると早紀は、1つのコンピュータの画面を見ていた。

 そのコンピュータが何に使われているのかは、俺も知っている。

 ネットに繋がっているジュネスの防犯カメラの映像を見られるようになっているものだ。

 勿論、ジュネスの中にある防犯カメラの数はかなり多いので、1つのコンピュータだけでチェックしてるのではなく、複数のコンピュータでチェックしている。

 早紀が見ていたのは、そんなコンピュータの中の1つだ。

 鳴上の名前が出たのが気になっての行動。

 一応鳴上は堂島から出来るだけ早く帰って来るように言われていた筈だ。

 そんな鳴上がジュネスに行くのは……いやまぁ、高校生なら学校が終わって友達と寄り道をするのはそんなにおかしな話じゃないか。

 俺が東京で遭遇した月光館学園の生徒のように、学校をサボっているのとは違うし。

 そう思って映像を確認すると……

 

「これ、里中か」

 

 映像モニタに表示されたのは、鳴上と花ちゃんと呼ばれた男、そして俺が今朝知り合った里中だった。

 最初は花ちゃんという早紀の言葉は、その呼び名が女っぽいのもあって里中の事をしめしているのかと思ったが、里中の名前は千枝だ。

 どこにも花という字はつかない。

 あるいはあだ名の可能性もあるが。

 

「あら、アクセルさん。彼女の事を知ってるんですか?」

 

 意外そうな様子の早紀に俺は頷く。

 

「今日、雪子とちょっと一緒になってな。そうして歩いているところで、俺が雪子に言い寄ってると思って話に割り込んできた」

「ああ、天城越え……」

 

 俺の言葉に、早紀は思わずといった様子で笑みを浮かべるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。