転生とらぶる2   作:青竹(移住)

931 / 2196
3638話

 雪子の人生相談――というのは少し大袈裟かもしれないが――を受けた日の翌日。

 その日も特にやるべき事はないので、適当にぶらついていた。

 こうしてTVの中の世界については濃霧でどうしようもなく、足立の行方も掴めず、マヨナカテレビの正確な情報とかも得ていない今、特に何かやるべき事がないのは痛いよな。

 いっそ、UC世界に行くか?

 ゴップからのMSの譲渡について、こっちに余裕がある時ならいつでもいいって話だったし。

 今のこの状況で俺が特に何かをやる事はない以上、UC世界に行ってジーラインだったか? そのMSを受け取っても悪くない。

 悪くないとは思うんだが……この場合、問題なのはこのマヨナカテレビの一件がまだ始まったばかりだという事だ。

 鳴上が主人公だとは思ってるのだが、今のところまだそれも確定もしていない。

 ペルソナ使いとして覚醒していないみたいだしな。

 つまり、事件が始まりはしたが、まだ起承転結の起の部分にもなっていないところなのだろう。

 だからこそ、出来ればこっちとしてはそれが起きるまではあまりここを離れたくない。

 俺がUC世界に行った後で大きな動きがあったら、どうしようもないだろうし。

 

「そんな訳で、暇だな」

「……それを俺に言ってどうしろと?」

 

 五飛の呆れた視線が俺に向けられる。

 現在俺がいるのは、天城屋旅館から見える山の中。

 何となくやる事もないので、適当に歩き回って山菜でも採ろうかと思ってやって来たのだが、そこで五飛と遭遇したのだ。

 それで色々と話していたのだが、五飛にしてみれば訓練の邪魔といったところなのだろう。

 見るからに邪魔だといったような視線を俺に向けてくる。

 

「いや、五飛にどうしろとかは言わないけどな。ただ愚痴を聞いて貰いたかっただけで」

「……そんなに暇なら、俺の訓練に付き合ってくれ」

 

 五飛の訓練に付き合う、か。

 そうだな。今は特にやる事もないし、五飛がどれくらいの強さを持ってるのか試してみてもいい。

 特に今回の相手はシャドウだ。

 堂島にも何度も言ったが、シャドウは人型が相手とは限らない。

 いや、寧ろ人型以外の外見を持った者が多かった。

 であれば、そういう人外の存在を想定した訓練とかも必要だろう。

 堂島で思い出したが、今日も朝から五飛に訓練をつけて貰って限界まで疲れ、温泉に入って疲労をある程度抜いてから、仕事をしている。

 とはいえ、堂島は魔力や気も使えない素人だ。

 この先、もっと訓練を積めば相応の技量にはなるかもしれないが、それでも今は五飛にとって……そう、こういうのを赤子の手をひねるとか言うんだろうな。

 もしくは文字通りの意味で朝飯前だとか。

 それでも生真面目な正確の五飛は、堂島をしっかりと鍛えている。

 堂島を訓練する相手として五飛を選んだのは決して間違いではなかったという事か。

 とはいえ、五飛だけでは慣れとかそういうのもあるだろうし、そのうちムラタとも模擬戦をさせて……また、ペルソナを使った美鶴とも模擬戦をさせてみた方がいいのかもしれないな。

 堂島にしてみれば、半ば理不尽なようにも思えるだろう。

 だが、素人の堂島がシャドウと戦うというのは、そういう事なのだから。

 

「来い」

 

 ゲイ・ボルクを空間倉庫から出して構えると、五飛に言う。

 五飛の手には青竜刀が握られており、俺の隙を探るかのようにこちらの動きに集中している。

 とはいえ、俺の場合はしっかりと格闘技とかを習った訳ではない。

 いや、正確には生まれた世界……シャドウミラーが結成されたOGs世界の士官学校で習った軍隊格闘技がベースとなっている。

 とはいえ、士官学校を卒業してから数え切れないくらいの戦いを経験し、更には人間から混沌精霊という別種族になってしまった以上、普通の格闘技では色々と問題もある。

 もっともそういう人外という意味では吸血鬼のエヴァもまた同類なのだが、向こうは柔術を自分流に合わせて改良していたのに対し、俺はそういうのはない。

 つまり今の俺の戦闘スタイルは、根本に軍隊格闘技があるものの、既にそれは微かに影響が残っている……といった程度のものでしかない。

 総合的に見れば、半ば我流に近いのだろう。

 そんな俺に対して、五飛はしっかりと武術としての拳法を習得している。

 いわゆる、中国拳法とかそういうのを。

 その中国拳法に気を使って身体強化をしたり、様々な技術を取り入れたのが、今の五飛の戦闘スタイルだ。

 

「はぁっ!」

 

 瞬動を使って一気に間合いを詰めた五飛が青竜刀を振るう。

 その鋭い一撃は、寸止めとかそういうのを全く考えていない本気の一撃だ。

 ……気を纏わせて強化されたその青竜刀は、俺に傷を付けるに十分な威力を持っている。

 そんな鋭い一撃を、ゲイ・ボルクを横薙ぎにして弾く。

 ギィン、という甲高い金属音が周囲に響いた。

 それは予想通りだったが、予想外だったのは五飛が握っていた青竜刀を手放さなかった事だ。

 今の一撃はそれなりに威力の高い一撃だったのは間違いないのだが、それでも五飛にしてみれば耐えられる程度の一撃だったのだろう。

 以前……どれくらい前だったのかは正確には忘れたものの、エヴァの訓練に俺も参加して五飛と模擬戦をした時があったが、その時は今よりも少し弱い一撃で五飛は青竜刀を弾き飛ばされた。

 どうやら俺が予想していた以上に五飛は成長していたらしい。

 

「はあああああぁっ!」

 

 青竜刀を弾き飛ばされはしなかったものの、俺の放った一撃の威力は大きい。

 その一撃でバランスを崩した五飛だったが、次の瞬間にはそれを利用して蹴りを放ってくる。

 この辺が中国拳法の凄さだ。

 トリッキーな動きを多用し、身体の柔軟性を最大限に活かして思いも寄らない場所からの一撃を放つ。

 実際には中国拳法というのは多種多様な流派があるので、中にはそういうのとは関係のない、真っ直ぐ相手を倒す剛拳といったものもあるのだろうが、五飛の習得している中国拳法はそういう類のものではない。

 

「おっと」

 

 蹴りを回避し、ゲイ・ボルクの柄で地面についている足を掬い上げる。

 だが、五飛はそんな俺の動きをも利用し、空中で回転しながら再度蹴りを放ってきた。

 その一撃をゲイ・ボルクで受け流し、五飛の胴体にそっと手を置き……

 

「はっ!」

 

 その鋭い呼気と共に、押す。

 いわゆる発勁とかそういうのではなく、純粋にただ押しただけの一撃。

 そもそも、俺は発勁とか使えないし。

 発勁は気で放つ攻撃方法だが、混沌精霊の俺は魔力に特化した存在だ。

 ……魔力で発勁といった事も出来るのかもしれないが。

 ぶっちゃけ俺の場合、発勁とかよりも普通に自分で殴ったり、炎獣や白炎を使った攻撃の方が強いんだよな。

 そんな風に考えていると、五飛は空中で身体を捻って木の幹に足を付け、飛ばされた衝撃を殺して地面に着地する。

 

「へぇ」

「ふん。ただ押しただけでどうにか出来ると思ったのか?」

 

 不満そうな様子なのは、俺が手加減をしたからだろう。

 とはいえ、手加減をしなければ五飛は致命的なダメージを受けていたのだが。

 

「その割には回避出来なかったみたいだが?」

「行くぞ」

 

 図星だった為か、俺の言葉を無視して再び瞬動を使って五飛が間合いを詰めてくる。

 五飛にしてみれば、今の反撃として何としてでも俺に一撃を与えたいといったところか。

 青竜刀を気で強化し、連続攻撃を仕掛けて来る。

 気によって身体能力を強化しているのも影響してか、振るわれる青竜刀は重さを全く感じさせない。

 普通の人なら、それこそ気が付かない間に身体を切断されもおかしくはない、そんな連続攻撃。

 そんな連続攻撃を回避しつつ、俺はゲイ・ボルクの石突きで五飛の足を狙う。

 先程と全く同じ流れの一撃を、五飛は素早く後退して回避する。

 それでいながら、青竜刀を振るう速度は殆ど落ちず、素早い連続攻撃が放たれるが……

 

「甘い」

 

 五飛の足下に対する一撃を回避された動きを利用し、ゲイ・ボルクを握っている手を捻り、柄で五飛の胴体を狙う。

 

「ぐぅっ!」

 

 その一撃を青竜刀で防御するも、威力を完全に殺す事は出来ず五飛は吹き飛ぶ。

 もし青竜刀が気で強化されていなければ、恐らく刀身が折れていただろう。

 この辺りの強化はさすがといったところか。

 再度空中で身を捻った五飛は、今度は木の幹ではなく地面にそのまま着地する。

 そうして着地したと思った瞬間には瞬動を使って再び俺との間合いを詰めてくる。

 俺はそれを待ち受けるように、ゲイ・ボルクを構えるのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……この、化け物め……」

 

 地面に大の字になり、荒く息を吐きながら五飛が言う。

 どこかで見た事のある光景だと思ったが、すぐに堂島が五飛との訓練で全力を出し切り、身動きも出来なくなっている時の様子にそっくりだと思い直す。

 

「化け物という表現はどうかと思うぞ。まぁ、人間でないのは間違いないが」

 

 混沌精霊という存在の本質を思えば、それを化け物と呼ぶのはそう間違ってはいないだろう。

 だからといって、それをあっさりと受け入れるかと言えば、その答えは否だが。

 

「く……次は負けない……」

 

 そう言いつつも、五飛は何とか立ち上がる。

 足が震えているのは、それだけ五飛の限界に近かったのだろう。

 ……本来なら、五飛はムラタと共にシャドウと戦う為にやって来たのだ。

 つまり、いつシャドウと戦うのか分からない以上、こうして体力の限界まで訓練を行うのは致命的だ。

 とはいえ、実際にはそのシャドウとの戦いがまだ行われていないので、五飛にとっても体力を限界まで使っても問題ないと思っているのかもしれないが。

 

「そうか。頑張ってくれ」

 

 これは嫌味でも何でもなく、俺が正直に思っている事だ。

 五飛が強くなるのは、シャドウミラーとしても決して悪い事ではないのだから。

 五飛が強くなれば、それだけ実働班としての実力も上がるという事を意味している。

 それはシャドウミラーを率いる俺にとって、決して悪い話ではない。

 もっとも、五飛は戦いに関しては天才的な能力の持ち主ではあるが、同時に……こう言ってはなんだが、並の天才でしかない。

 そして並の天才と呼べる者達なら、実働班には多数いる。

 並の天才がシャドウミラーの実働班では標準的な技能……というのも、決して間違ってはいないと思う。

 そういう意味では、五飛は実働班の中でも突出した強さを持つ訳ではない。

 これがせめて、ムラタくらいに強ければ話は別なのだが。

 

「アクセル……」

 

 俺の言葉が不満だったのか、五飛がそう呟く。

 そんな五飛に対し、他にも色々と話してもいいのだが、いつまでもこのまま地面で寝かせておく訳にもいかない。

 

「ほら、天城屋旅館に戻るぞ。五飛も朝の堂島みたいに温泉に入って汗を流して、筋肉痛にならないようにしっかりマッサージをしておけよ」

「……分かった」

 

 不承不承といった様子で五飛が頷く。

 五飛のように鍛えていても、限界まで……いや、限界以上身体を動かせば筋肉痛になるのは当然の話だった。

 今日はまずシャドウと戦う事がないので限界まで身体を動かした五飛だったが、明日もそうだとは限らない。

 レモンの事だから、いつTVの中の世界の濃霧を無効化したりする手段を見つけたと言ってくるのか分からない。

 一応桐条グループでも研究をしている筈だが、桐条グループとレモンのどちらが早く解決策を見つけるかと言われれば、俺はレモンだろうと一瞬の躊躇もなく判断する。

 それだけ俺がレモンに抱いている信頼は厚い。

 レモンの能力は五飛も知っているからこそ、俺の言うようにしっかりと温泉で疲れを癒やし、明日に筋肉痛が残らないようにしようと判断したのだろう。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 そう言い、俺は五飛と共に天城屋旅館に戻るのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっぱり運動後に飲むウーロン茶は美味いな」

 

 昨日、雪子に相談を受けた場所で、俺はウーロン茶を飲みながらゆっくりとする。

 俺も温泉に入ろうかとは思ったのだが、五飛がそれを嫌うだろうと考え、俺は温泉に入っていない。

 ……身体中から汗を掻いていた五飛と違い、俺は全く汗を掻いてなかったというのもあるが。

 ちなみに今はもう夕方近くになっているが、当然ながらここに雪子の姿はない。

 まだ学校が終わってないのか、それとも終わったけど旅館の仕事を手伝ってるのか。

 昨日の件もあるし、その事を考えすぎて学校や仕事でポカをやらないといいんだが。

 そんな風に思いつつ、俺は飲み終わったウーロン茶のペットボトルをゴミ箱に投げる。

 ペットボトル用のゴミ箱の中には口が小さい物もあるのだが、ここにあるゴミ箱は特にそういうのじゃないので、無理に狙ったりしなくても無事に中に入った。

 

「アクセル? こんな場所にいたのか」

 

 そんな俺に声を掛けてきたのは、堂島。

 疲れてるように見える……というか、実際に疲れているのだろう。

 あるいは五飛との訓練で疲れて風呂に入って眠いのに、夕方まで時間が経ち、そこに仕事の疲れもプラスさせて余計に眠いのかもしれないが。

 そんな堂島に、俺は軽く手を挙げるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。