転生とらぶる2   作:青竹(移住)

935 / 2196
3642話

 濃霧の中を進む俺達。

 だが……意外な事に、シャドウが襲ってきたりはしない。

 てっきり濃霧の中を進めば即座にシャドウが襲ってくるのだとばかり思っていたのだが、肩すかしを食らった感じだ。

 いやまぁ、ムラタとかはある程度濃霧の中に入ったりもしていたし、俺の白炎によって結構広範囲の濃霧を燃やしたりもした。

 それでもシャドウがムラタを襲ったり、濃霧が燃やされて一時的にしろ何もない状態になっても、そこにシャドウの類は全くいなかったのを思えば、そうおかしな話ではない……のか?

 そんな疑問を抱きつつ、進んでいると……

 

「あれは、ジュネス?」

 

 遠くに見覚えのある建物を発見し、思わずそう呟く。

 何故TVの中の世界にジュネスが?

 そう思うも、公園がある以上はそこにジュネスがあっても不思議な事は何もないのだろう。

 

「ジュネスだな」

 

 美鶴が俺の言葉に同意し、ムラタと五飛も言葉には出さずとも頷く。

 レモンはジュネスに行った事がないので特に反応を示しておらず、堂島は唖然とした様子で口を開けているのが見えた。

 

「何で……TVの中の世界にジュネスがあるんだ?」

 

 良くも悪くも、堂島はまだこちらの事……シャドウとか魔力とか気とか、そういう非日常に慣れてはいない。

 そうである以上、まさかTVの中にジュネスがあるというのは完全に予想外だったのだろう。

 

「俺達が降りた場所には公園があった。なら、同じようにジュネスがあってもおかしくはないと思うが?」

「そんな事が……」

 

 納得出来るような、出来ないような、そんな様子の堂島。

 とはいえ、今のところあのジュネスくらいしか向かう場所はない。

 濃霧の中をもっと適当に歩けば、あるいはもう少し違う場所に到着する可能性もあるが。

 

「どうする? 今日はあくまでも試しでこうして探索をしてるんだ。あのジュネスに入るか、それとも別の場所を探すか」

 

 幸いという表現がこの場合相応しいのか分からないものの、公園の周囲には特に道路とかそういうのがない。

 地面はアスファルトで覆われている訳ではなく、土の地面だ。

 草が生えていたり石が落ちていたりする、そんな状態。

 そのような中に公園だけがあったのを考えると、色々と疑問はある。

 だが、それがTVの中の世界だと言われれば、そういうものかと納得するしかないのも事実。

 あるいは他のTVから中に入った場合はもっと別の場所に出るのかもしれないが。

 

「いや、行こう。足立が夜にジュネスに出てくる以上、もしかしたらあそこに足立がいるかもしれない」

 

 我に返った堂島が、ジュネスに行くべきだと主張する。

 だが、その意見には納得出来る面があるのも事実。

 今のところ、足立が頻繁に姿を現す場所はジュネスだ。

 ……単純にジュネスがデパートだから、何らかの専門店と比べても色々な商品が揃っており、一度に集めるのに手間が掛からないからジュネスで行動しているのかもしれないが。

 それでもジュネスである以上は、足立がいる可能性が否定出来ないのも事実。

 ただ、問題なのは天城屋旅館から中に入った俺達は公園に出たのに、ジュネスから中に入ったらジュネスという……そんな都合のいい事があるかどうかだろう。

 それを調べる為には、実際に中に入って調べてみるのが一番なのは間違いない。

 

「どうする? 堂島がこう言ってるし、他に反対がないようなら俺も中に入ってもいいと思うけど」

 

 個人的には中に入るのがいいと思う。

 とはいえ、俺と美鶴以外はシャドウと戦うのはこれが初めてである以上、そちらの意見も聞いておきたい。

 デパートの中というのは、じつはそれなりに狭かったりする。

 いやまぁ、商品とかそういうのがあるのだから仕方がないが。

 特にこういう実戦が初めての堂島や、それなりに使いこなせるが鞭を持ったばかりのレモンがいると、ちょっと厳しいかも?

 それを言うのなら、俺もまた長柄の武器であるゲイ・ボルクを使っているのだが。

 ただ、槍の場合は突きが主要な攻撃方法となるので、狭い場所でもそれなりに戦いようはある。

 ジュネスの中で戦いになるかどうかは、まだ不明だが。

 

「俺は賛成だ。シャドウという未知の存在と戦えると聞いたからこの世界にやって来たのに、結局やってる事は訓練だけ。いい加減シャドウと戦わせろ」

「おい」

 

 ムラタに思わず突っ込んだのは、ムラタの口から『この世界』などという言葉が出た為だ。

 今のところ、堂島を含めて稲羽署や警視庁とかには俺達がホワイトスターから……世界と世界の狭間に存在する場所からやって来たというのは、知らせていない。

 当然だろう。

 もしその件を警視庁とかに知られれば、恐らくなし崩し的に日本が知る事になり、そして日本が知ればそう遠くないうちに世界もまた知る事になるのだから。

 日本の情報管理の甘さは、何故かどの世界でもそう違いはないんだよな。

 つまりそれが日本の限界なのかもしれないが。

 そんな訳で、将来的……それこそ桐条グループが日本政府に大きな影響を与えるようになるまで、俺としてはあまり日本にシャドウミラーの件については知らせたくない。

 

「どうかしたのか?」

 

 幸いなことに、堂島は今のムラタの言葉を聞いても特に気にしなかったらしい。

 いつもなら刑事として失言を聞き逃したりはしないのだが……TVの中の世界のジュネス、俺達から聞いただけのシャドウという存在、そして足立。

 それらに意識を集中していたお陰だろう。

 今のをお陰と表現するのはどうかと思わないでもなかったが。

 とはいえ、幸いな事に堂島が聞き逃したのなら、その件についてこれ以上突っ込むような事はしない方がいいのも事実。

 

「何でもない。じゃあ、ジュネスに中に入るという事で。……さて、これで一体どうなるかだな。出来れば足立がいるのが一番手っ取り早いんだが」

 

 そう言うも、恐らくそうはならないだろうという確信に近い思いが俺にはあった。

 何故なら、そのようなことになればこの世界の原作がそれでもう終わってしまうのだから。

 さすがにそれは短すぎる。

 いやまぁ、俺がこの件に介入した結果として、原作通りに進んでいない可能性は十分にあるのだが。

 原作だと、恐らく……本当に恐らくだが、足立は今の時点では敵だと認識されていなかった筈だし。

 俺が稲羽署に行かなければ、足立は早紀をTVの中に入れて完全犯罪成立していただろうし。

 ……稲羽署にいた早紀がいつの間にかいなくなっているのを、原作でどうやって誤魔化したのかは分からないが。

 そういうのって、それなりにしっかりと把握してるし、防犯カメラとかもあるだろうし。

 あるいはペルソナを使って何とかしたのか。

 そんな風に思いつつ、俺達はジュネスに向かう。

 

「美鶴」

「どうした?」

「ジュネスに到着したら、美鶴は後方のバックアップに回ってくれないか?」

「……ふむ、なるほど。分かった、それで構わん」

 

 バックアップ……特にその場所の異常を知らせたり、どういう場所なのかというのをサーチしたりといった事は、本来なら山岸が専門だ。

 しかし、その山岸がここにいない以上、俺達で対処する必要がある。

 そして影時間の一件で、山岸が特別課外活動部に参加するまでは、美鶴がバックアップを行っていたのだ。

 幸いと言うべきか、当時の美鶴のペルソナのペンテシレアはその手の能力も持っていた。

 決して秀でていた訳ではなかったが、他の面々のペルソナがその手の能力を持っていなかったので、自然に美鶴がやる事になったのだ。

 

「だが、補助用の機材がない。バックアップをするにも、かなり限定的となるぞ?」

「それは仕方がないだろうな。出来る範囲でいい」

 

 いや、いっそ一度東京の桐条グループに取りに戻ってみるのもありか?

 普通に考えればそんな選択は却下なのだが、俺の場合は影のゲートがある。

 TVの世界から出て、影のゲートを使って東京に行き、そこで美鶴が必要な機材を取ってくるというのは……そこまで時間が掛からない。

 とはいえ、ここから公園まで戻るのは結構な時間が掛かるが。

 このTVの中の空間でも影のゲートを使えればよかったんだが。

 生憎とそれが無理な以上、もし今の案を実行するのなら一度外に出る必要がある。

 ……ムラタが我慢出来ないで突っ込みそうだな。

 

「バックアップ?」

 

 俺と美鶴の会話を聞いていた堂島が、不思議そうに聞く。

 刑事をやっている以上、バックアップとかそういうのの意味は普通に分かるだろうが、それでもこのようなシャドウとかのある場合の話でそういうのが必要だとは思わなかったのだろう。

 

「バックアップだ。美鶴はそういうのが得意……ここにいる者の中では得意だからな。そうである以上、美鶴に頼むしかない」

「いや、けど……戦力が足りなくなるんじゃないか? ペルソナだったか。あれは凄い迫力だったが」

 

 ああ、そうか。

 そう言えば今更の話だけど、堂島は早紀と一緒に美鶴のアルテミシアを見たんだったな。

 そうである以上、戦力として美鶴に期待するのはおかしな話ではない。

 場合によってはもの凄い戦力になると思えたのだろう。

 ……実際、アルテミシアはニュクスとの一件でかなり強化されているのは間違いない。

 その辺の雑魚シャドウなんかは一掃するだけの力はあるだろう。

 そこまでは堂島も分からないだろうが、それでも堂島が今の状況で美鶴という戦力を抜きにするのはおかしいと、そのように思ってもおかしくはない。

 それはある意味、堂島が自分が戦力として期待出来ないと判断しているからこその言葉か。

 実際、堂島個人よりも堂島の近くを歩いている犬の炎獣の方が強いのは間違いない。

 炎獣はそれこそシャドウの数匹は容易に倒せるだけの実力を持っているのだから。

 堂島がその辺について理解しているかどうかは、また別の話だが。

 

「安心しろ。美鶴が強力な戦力なのは間違いないが、それでもこっちの戦力もこれで打ち止めという訳じゃなし」

 

 美鶴が抜けても、グリ、刈り取る者、狛治といった面々を召喚魔法で呼び出す事が出来る。

 ジュネスの屋内での戦いとなると、グリはちょっと召喚するのは難しいが。

 けど、刈り取る者と狛治は人型なので……うん、まぁ、人型なのは間違いないよな?

 角が生えていたり、羽根が生えていたりするけど、大まかな外見は人型なんだから、人型という認識で間違いない筈だ。

 ともあれ人型なので、ジュネスの中でも普通に戦う事が出来る。

 

「そうなのか? ……一体どうやって?」

 

 言葉だけでは信じられない様子なものの、今この場で召喚しようとは思わない。

 いや、あるいはいっそグリは召喚してTVの中の世界を適当に跳び回って何か珍しい物でも見つけて貰うのは……濃霧で無理か。

 さすがにグリにレモンの開発した仮面を被せるのは難しいし。

 無理矢理被せようとしても、元々の大きさが違いすぎる以上はどうしようもない。

 そういう訳で、グリを呼ぶ案は却下だな。

 だとすれば、寧ろ刈り取る者……は言語能力に問題があるので、狛治に仮面を被せて行動して貰った方がいいのかもしれない。

 刈り取る者は俺の言葉をしっかりと理解出来るし、魔法とかも使えるので発声器官がない訳ではないが、それでも俺に話し掛けたりは出来ないよな。

 

「召喚魔法があるし、炎獣を更に増やす事も出来る。お前の護衛を任せた犬の炎獣はしっかりと俺の指示を聞いてるのを見れば、相応の戦力になるのは分かるだろう? ……ちなみに炎獣はシャドウの一匹や二匹は容易に倒せる」

 

 もっとも、シャドウは強さがピンキリだ。

 ゲームで例えるのなら、最初に遭遇するようなシャドウはかなり弱いが、ゲーム後半に遭遇するようなシャドウを相手にする場合、かなり厄介になる。

 ゲームだからこそだが、ラスボスのいるダンジョンで遭遇する雑魚は、序盤……場合によっては中盤に存在するボスよりも強かったりするのは珍しい話ではないし。

 犬の炎獣は間違いなく強いが、そういうラスボス付近の雑魚を倒せるかと言われれば、微妙なところだろう。

 まぁ、そんな強敵がすぐに出てくるとは思えないが。

 ……ただ、俺達はあくまでもイレギュラーだ。

 この世界の主人公――恐らく鳴上――が戦うのならそういうゲーム的なご都合主義も働くかもしれないが、俺達もそれが働くかどうかは分からない。

 寧ろジュネスが実はラスボスのダンジョンという可能性だって、可能性はあるのだが。

 さすがにそれはないとは思うが、それでも万が一というのは十分に有り得た。

 

「この犬っぽいのが、そんな力を……」

 

 恐る恐るといった様子で犬の炎獣を見る堂島。

 堂島にしてみれば、もしかしたら犬の炎獣はそんなに強くないと思っていたのかもしれないな。

 その辺については、実際に戦ってみないと何とも言えないだろうが。

 今はまず、ジュネスの中に入るのを最優先にするべきだろう。

 

「実際にシャドウと戦ってるのを見れば、納得出来るだろう。……さて、いつまでもここで話をしていても意味はない。そろそろ行くぞ」

 

 そんな俺の言葉に全員が頷き……特にムラタはようやくかといった様子を見せつつ、ジュネスに向かうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。