何故かマヨナカテレビを見てTVの中に入れるようになったという鳴上。
一体なにがどうやってそのような事になったのかは、俺にも分からない。
分からないが、それでも主人公だからと無理矢理納得しておく。
……他の面々、特に堂島は一体何故自分の甥がTVの中の世界に入れるのか、全く納得してはいないようだったが。
「それでTVの中に入れるようになって、入ったのか?」
そう聞くと、何故か今まで話していた鳴上ではなく、花村が口を開く。
「えっとその……こいつの話を聞いて、それでちょっと里中と一緒にジュネスの家電売り場に行ってみたんだけど、そしたら一緒にTVの中に入ってしまったんです。で、そこがあのスタジオで……結果として、さっき見せた部屋を見つけたんです」
「柊みすずのポスターとか写真があった部屋か」
「首吊り用のロープと椅子もあったな」
俺の言葉に美鶴が付け足す。
美鶴の説明に、シャドウワーカーの面々は嫌そうな表情を浮かべる。
その2つがあるという事が、何を意味するのか想像するのは難しくないからだろう。
……そもそも、ただのロープではなく首吊り用のロープと言ってる時点で、そのロープの使い道を想像するのは難しい話ではない。
ましてや、そこに椅子があるのならば。
「あの部屋は不気味だったな」
「でしょう!?」
俺の言葉に即時に花村が反応する。
あの部屋の不気味さを俺に分かって貰えたのが、それだけ嬉しかったのだろう。
シャドウとかのいるTVの中の世界で、ああいう不気味な部屋にいて、よく無事だったよな。
幸運としか言いようがない。
もしくは、TVの中の世界はシャドウは少ないのか。
だが、シャドウが少ないという事はあるのか?
一瞬そう思ったが、すぐに頭を切り替える。
鳴上がこの事件の主人公であり、今日ようやくペルソナ使いとして覚醒したという事を考えると、これから原作が大きく始まる事を意味している。
だとすれば、今はまだTVの中の世界に出てくるシャドウは少ないし、決して強い相手ではなくてもおかしくはないだろうと。
それでもペルソナ使いではない堂島が日本刀を使って戦っても、容易に倒せないくらいの強さではあるが。
「それで、あの不気味な部屋を見た後で、よくまたTVの中の世界に行こうと思ったな」「えっと……その……」
何だ? 何故か急に言いにくそうな様子の花村に疑問を抱く。
そう思ったのは俺だけではなく、他の面々も同様だった。
そんな視線を気圧されたのか、やがて花村は恐る恐るといった様子で口を開く。
「その……あの世界に行けば、俺もちょっとは変われるんじゃないかと思って」
そう言うのだった。
そんな花村の様子に思うところがある者はいるが、それでもすぐに何かを言うような者はいない。
恐らく花村の気持ちが何となく分かる者が多かったからだろう。
自分を変えたいと思う者は多い。
そんな時にマヨナカテレビとかがあれば、そちらに引っ張られてもおかしくはない。
おかしくはないが……だからといって、それで今回のような騒動を起こすのはどうかと思わないでもなかったが。
「……怖いもの知らずってのは凄いな」
結局俺の口から出たのは、その言葉だけだった。
鳴上が花村のシャドウを見た時にペルソナ使いとして覚醒しなかったらどうなるか。
間違いなく死んでいただろう。
いやまぁ、この世界の原作があって鳴上がその主人公である以上、花村が仲間になるのは既定路線だろうし、その辺の心配はいらないのかもしれないけど。
「あ、あははは」
誤魔化すように笑う花村。
自分でもかなり危険な事をしたという自覚はあるのだろう。
……早紀が花村に対して咎める視線を向けているのが分かった。
早紀にしてみれば、自分がTVの中の世界に入れられて殺されそうになったのだ。
事情とかそういうのを知らないとはいえ、自分からTVの中の世界に行くという事をしたのが、早紀には許せなかったのだろう。
早紀にしてみれば、花村は可愛い後輩だ。
そんな相手が危険な事をしたのだから、怒るのも理解出来ない訳ではない。
ただし、それはあくまでも早紀の認識だ。
花村が早紀を異性として意識して好意を持っている以上……ああ、自分を変える云々というのは、その辺の理由もあったのかもしれないな。
その後も色々と細かい話を聞く。
特に大きいのは、やはりクマに対する話題だ。
何でも鳴上達はTVの中の世界から出る時、クマに出して貰うらしい。
俺の場合は映像スクリーンから普通に戻ってこられるのだが……その辺が大きく違うのだろう。
あるいは場所にもよるのかもしれないな。
実際、もしジュネスの家電売り場にあるTVから中に入った時、俺達と同じ公園に出たら、鳴上や花村はそこから出てくる事は出来ない。
現実世界に戻る場所は分かっているが、数mの高さに映像スクリーンと繋がってる場所があるのだから、とてもではないがその高さまで届かないだろう。
あの公園には特に何か足場になって動かせるような物はなかったし。
バスケや陸上の選手……それもかなり高い能力を持った選手なら、もしかしたらどうにかなるかもしれないが、鳴上も花村も普通の高校生でそんな身体能力はない。
俺のように空を飛べたり、シャドウミラーの者達のように虚空瞬動を使えたりもしない。
そんな場所に出たら、それこそTVの中の世界を脱出出来る場所がそこにあるのに、そこから出られないという……かなり酷い状況になるだろう。
そう考えると、クマのいるスタジオに繋がったのは幸運だったのは間違いない。
「そしてペルソナに覚醒か。……ここでの話が終わったら、ペルソナの検証に付き合って欲しいが、頼めるか?」
頼めるか? と尋ねている美鶴だったが、実際にはその口調は半ば命令に近い。
美鶴にその気はないのかもしれないが、美鶴の持つ迫力はそうするようになっているのだ。
そしてただの高校生――ペルソナ使いをただの高校生と表現してもいいのかどうかは微妙だが――がそんな美鶴の迫力に抗える筈もなく……
「わ、分かりました」
花村がそう言い、鳴上も言葉には出さないが素直に頷く。
そんな美鶴の迫力に気圧された2人だけに、その後の情報収集は上手くいった。
そうしてペルソナの検証に入ろうかという時だったが……
「アクセル、事情も大体分かったし、そろそろ私は帰りたいのだけど。……あの子達のペルソナを見たいという気もするけどね」
「なら、ペルソナを見てから戻ってもいいんじゃないか? どうせそんなに時間は掛からないし」
そう言いつつも、俺としては出来ればレモンにも鳴上や花村のペルソナを見て欲しいという思いがそこにはあった。
大きな理由として、レモンもペルソナについてはある程度研究しているというのがある。
桐条グループと手を組むに際して、エルゴ研の残した各種資料やデータのコピーを渡す事が条件の1つとなっていた。
実際には色々とあってエルゴ研の資料やデータで残ってるのはそんなに多くはないのだが、それでもレモンにしてみればそれなりに興味を惹く存在だったのは間違いないだろう。
それ以外にも、荒垣とかを定期的にホワイトスターに呼び出しては、ペルソナを使って貰ってそれを研究したりしていた。
つまり、俺としては桐条グループよりもレモンの方がペルソナに関しての研究は上だと思っている。
万能の天才と呼ばれるのは伊達ではないのだから。
「悪いけど、今はクマから貰った眼鏡を調べてみたいのよ。仮面をもっと改良出来るかもしれないし」
そう言うレモンを止める事は出来なかった。
これは失敗したな。
クマが眼鏡を出した後で、仮面の件でレモンをからかったのが悪影響となった形だ。
まぁ、これも上手くいけば仮面の性能が向上すると考えれば、決して悪い話ではないと思う。
……そう思う事にしよう。
性能が上がって、仮面の防御力が落ちるとかならないといいんだが。
もっとも、仮面の防御力がおまけなのは間違いない。
仮面の防御力が下がっても、TVの中の世界での事をもっとしっかりと理解出来るようになったのなら、それはそれで俺にとっても問題はない。
そもそもシャドウミラーの者達というのは基本的に敵の攻撃は防御するのではなく回避するのを大前提としている。
防御すれば多少なりともダメージを受けたりするものの、回避すればダメージはない。
その代わり、回避に失敗すればそれは大きな一撃となるのだが。
「美鶴、そういう事だから、俺はちょっとレモンを送ってくる。それからで構わないか?」
「構わない。レモンがいた方がいいのは事実だが、無理にとは言えんしな」
こうして美鶴からも許可を貰い、俺はレモンを東京まで送っていく事にする。
何人かは微妙な表情を浮かべていたものの、結局何かを言うような事はなかった。
「じゃあ、アクセル。私は向こうに戻るわね。……大丈夫だとは思うけど、ムラタが暴走しないようにしてちょうだい」
「ムラタ限定か。いや、分からなくもないけど」
仲間にした当初と比べると、ムラタが大分落ち着いたのは事実。
だが、それはあくまでも仲間にした当時と比べてだ。
シャドウミラー全体で見た場合、ムラタがかなり獰猛な性格をしているのは間違いない。
そんなムラタだが、何もその辺の一般人を相手に斬りたいという衝動を感じたりはしない。
だが、TVの中の世界に存在するシャドウが相手となれば話は別だ。
そのシャドウを求めて、ムラタが暴走する可能性は十分にあった。
悪い事に、ムラタは気を使えるのでTVの中の世界に入るのは難しい話ではない。
ムラタも当然俺と同じ通信機を持っているので、それを使えば容易にTVの中の世界に入れる。
あるいは通信機の映像スクリーンを使わずとも、自分の身体が入れる大きさのTVがあれば、それで問題はない。
そんな諸々を考えると、やはりここは注意しておいた方がいいのだろう。
ムラタの実力なら、敵がシャドウ……それこそ戦車型のシャドウのような存在でも、対処するのは不可能ではないだろう。
しかし、それで下手に暴走して足立を斬ったり……あるいはクマのようにこちらの味方になりそうな相手を斬ったりというのは避けたい。
「じゃあね」
そう言い、以前と同じようにキスをしてレモンはゲートで戻っていく。
以前と違うのは、レモンのキスが濃厚なものではなく、唇を重ねるだけの簡単なものだった事か。
もし今の状況でそういう事になれば……いやまぁ、美鶴が翌日にはシャドウワーカーの指揮を執れなくなるかもしれないし。
そんな風に思いつつ、俺は天城屋旅館に戻るのだった。
「さて、じゃあ行くか」
天城屋旅館の大広間に戻ると、俺はすぐにそう言う。
大広間ではシャドウワーカーの面々や堂島、鳴上、花村、早紀がいる。
ムラタと五飛の姿はどこにもないが……しまったな。
レモンからその辺についてしっかりと言われていたのに。
……まぁ、ムラタもその辺については問題ないと思う事にしておくか。
ムラタの能力を考えれば、TVの中の世界では何の問題もないだろうが、それでも自分だけで、あるいは五飛を引き連れてTVの中の世界に行ったりはしない筈だ。
「分かりました」
俺の言葉に真っ先に鳴上が頷く。
覚悟を決めたといった感じか。
もっとも、別にそこまで覚悟を決める必要がないのも事実なのだが。
別に俺達と戦えとか、そういう事を言ってる訳ではない。
あくまでも鳴上や花村の使うペルソナがどういう能力を持ってるのかを確認したいだけなのだから。
とはいえ、鳴上達にもこっちの手札を幾つか晒すべきか。
そうすれば、こっちも力を見せたのだから、鳴上達もペルソナを見せるのに幾らか抵抗は少なくなるだろうし。
絶対にそうだとは限らないものの、そのくらいはしてもいいと思う。
個人的には、この事件の原作の主人公である鳴上とは友好的な関係を築いておきたいのだから。
そうでなければ、後々色々と面倒な事になるかもしれないし。
「そんな訳でペルソナの調査をするんだが、ただペルソナを召喚するだけならここでもいいが、動き回ったりするとここでは難しい」
「えっと、じゃあどこで? やっぱりTVの中の世界で?」
花村のその言葉に首を横に振る。
恐らく原作が本格的に始まった以上、俺の通信機の映像スクリーンで行ける公園で試すのもちょっと。
シャドウが近付いて来て、それどころじゃない。
あ、でも鳴上と花村がペルソナを使った実戦経験を積むという意味では、悪くないのかもしれないな。
とはいえ、ペルソナの調査をする場所はもう決まっているのだが。
「いや、違う。天城屋旅館の周囲に存在する山の中でだ」
「げ! 今から山の中に!?」
花村が嫌そうに叫んだのは無理もない。
TVの中の世界の一件でかなり疲れているところに、更に山登りをするように言われていると思ったのだろうから。
だが、俺はそんな花村の言葉に首を横に振って口を開く。
「安心しろ。山登りとかをしなくても……俺の魔法で直接山の中に移動するから」
そう告げるのだった。