転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3652話

 甥の鳴上を今回の事件に引き込みたくない堂島だったが、今の鳴上達の状況を考えるとそんな訳にもいかない。

 稲羽市に置いておけば、足立が危険な存在だと近付いてくる可能性がある。

 稲羽市は地方都市で人口減少も進んでいて、住人はかなり減っているものの、それでも数万人といった数はいる。

 それだけの中から、ピンポイントで鳴上と花村のようなペルソナ使いを見つけるのは難しい。

 難しいが、それは不可能ではないし、ペルソナ使いとして覚醒しただろう足立のペルソナ能力によっては、あっさりと見つけられる可能性があるのも事実。

 あるいはTVの中に入る能力を持っている足立だけに、その能力の派生といった形でペルソナ使い……に限らず、特定の人物を捜すといった能力を持っていてもおかしくはない。

 つまりペルソナ使いとして覚醒した時点で、鳴上達を稲羽市に置いておくのは難しい訳だ。

 かといって、早紀の家族のように東京に避難させればいいかと言えば……それもまた難しい。

 この世界において、ペルソナ使いというのは完全に未知の存在だ。

 それだけに、どこかの研究機関……それこそ美鶴は言わなかったが、警視庁が関与している研究機関がペルソナ使いを確保すべく動いていもおかしくはないし、それ以外にも様々な研究機関がペルソナ使いとして覚醒したばかりの鳴上達を狙ってもおかしくはない。

 これがニュクスの一件で一緒に戦った有里達なら、桐条グループと親しかったり、何より危険になれば現実世界でペルソナを召喚する事も出来る。

 だが、鳴上達はTVの中の世界でしかペルソナを召喚出来ない。

 ……あくまでも今はの話で、将来的には現実世界でもペルソナを召喚出来るようになる可能性はあるが。

 その辺りの事情……特に今のところは隠さなくてもいい話を説明すると、堂島は何も言えなくなる。

 守るつもりで遠ざけた結果、実験材料になるという結末は、堂島にとっても受け入れがたいものだろう。

 

「つまり……どうすればいいんだ?」

「今回の事件に関わらせたくないという堂島の気持ちは分かる。それなら、俺達が守ってやればいい。不幸中の幸いと言うべきか、まだ確実にとは言えないがTVの中の世界で覚醒したペルソナ使いは現実でペルソナの召喚が出来ないようだし」

 

 鳴上達の安全を、そして何より足立の事を考えた場合、これは非常に大きな意味を持つ。

 最悪に近い、あるいは最悪の1歩手前なのが、足立が現実世界でペルソナを使い、それがメディアに取り上げられるとか、あるいは一般人がネットにアップするとか、そういう事だ。

 だが現実世界でペルソナを使えない以上、その辺の心配はいらない。

 また、現実世界でペルソナを使えない以上、足立はTVの中の世界から出ればただの犯罪者でしかない。

 つまり、もし足立が食料か何かを確保する為にTVの世界から出て来た時、そこに刑事達がいれば、即座に捕らえられる。

 これは稲羽署にとって、大きな意味を持つ。

 自分達の身内から出した犯罪者を、自分達で捕らえられるのだから。

 ……とはいえ、それはそれで少し疑問がある。

 足立は今まで何度も夜中にジュネスに姿を現し、食料とかを盗んでいる。

 多くの刑事や警察官達がジュネスにいるのにだ。

 ジュネスはデパートで、食材とかも豊富にある。

 そのラインナップは一般的には高級品と呼ばれる物も多いだろう。

 どうせ盗むのなら、美味い食べ物を。

 そう思ってもおかしくはないし、そういう意味ではジュネスを何度も狙うのは理解出来る。

 だが……ペルソナを使える訳でもない以上、現実世界で捕まったら終わりだ。

 それは足立も分かってるだろうに、一体何故何度もジュネスで盗む?

 その辺は素直に疑問だった。

 現実世界でペルソナを使えないというのを知らないのか、もしくは見つかってもTVのある場所まで逃げれば捕まらないから問題ないと判断してるのか。

 もしくは……ペルソナとかそういうのがなくても、稲羽署の面々を出し抜けると判断してるのか。

 稲羽署の者達にしてみれば、ふざけるなと怒鳴りつけたくなるかもしれないが、実際に足立を捕まえられてないのも事実。

 足立が稲羽署にいた期間はそんなに長くないらしいものの、その間に稲羽署の中にあるセオリー、もしくはマニュアルについてしっかりと理解し、それを知ってるから相手の裏を突けるという点も否定は出来ないが。

 

「ええっと……その、いいですか? 悠について話してるみたいですけど、俺はどうすればいいんでしょう?」

「出来れば天城屋旅館にいて欲しいところだ。足立が頻繁に出没するジュネスの近くにいるのは危険だろう」

 

 既に足立についての情報は、鳴上や花村も知っている。

 特に花村は、自分の好きな相手……早紀がTVの中の世界に入れられそうになったと聞いて、憤慨していた。

 無理もないか。

 花村は実際にTVの中の世界で自分のシャドウと向き合う事になった。

 最終的にはそのシャドウを受け入れ、それによってペルソナ使いとして覚醒したものの、それはあくまでも鳴上がいたからだ。

 もし鳴上がいなかった場合、恐らく……いや、ほぼ間違いなく花村は死んでいただろう。

 ん? そう考えると、もしかしたら山野真由美が死んだ件も、自分のシャドウに殺されたのかもしれないな。

 あるいは他の……野良という表現が正しいのかどうかは分からないが、とにかくそういうシャドウに殺されたという可能性も否定は出来ない。

 そんな危ない場所に好きな相手を入れて殺そうとした。

 しかもその理由も、早紀の身体を目当てに言い寄って断られたのが原因なのだから、花村にしてみればふざけるなと叫びたくなってもおかしくはなかった。

 

「えっと、でも……その、まさか天城屋旅館にずっと泊まるとか、親が許してくないと思うんですけど」

 

 花村のその言葉は、普通に考えれば当然のものだろう。

 何しろ天城屋旅館は老舗の旅館だ。

 泊まっている客も、どこぞの社長やら会長やら政治家やら医者やら……そんな風に金持ちが多い。

 今は山野真由美の事件のせいでそうでもないが、あの事件が起きるまではその手の客が多いのを、温泉で知っている。

 ……その手の客にはプライドが高い者も多く、妙な嫉妬を受けたり、大広間を貸し切ったのが許せずに嫌がらせするように後ろで手を回したりといった事もあったが。

 今はもう多くの客はいなくなってるし、嫌がらせをしてきた連中も桐条グループの力によってお仕置きされている筈だが。

 ともあれ、そんな天城屋旅館だけに1泊とかならともかく、ずっと泊まるのは難しい。

 花村の父親はジュネスの店長である以上、平均的な家と比べれば金持ちなのは間違いないが……それでも結局のところ、1つのデパートの雇われ店長でしかない。

 天城屋旅館に何泊も自由に出来る程に金銭的な余裕があるかと言われれば……正直、微妙なところだろう。

 

「心配するな。宿泊料金の件なら警視庁と桐条グループから出す」

「え……?」

 

 美鶴の言葉は花村にとっても意外だったのだろう。

 間の抜けた声が漏れ出る。

 それも無理はないか。

 現在俺達が接している事件、これがいつまで続くのかは今のところ全く分からない。

 場合によっては、数ヶ月、半年、1年……あるいはそれ以上の時間が掛かるという可能性も決して否定は出来ないのだから。

 その間ずっと天城屋旅館に泊まるとなると、その宿泊費用は一体どれくらいになる事やら。

 まさに桐条グループや警視庁といった組織でなければ、そのような事は出来ないだろう。

 

「だから、宿泊料金は心配しなくてもいい。私達にしてみれば、ペルソナ使いとして覚醒した花村が足立に殺される方が非常に困る」

「殺されるって……」

 

 美鶴の言葉を全て信用した訳ではないのだろうが、それでも美鶴の口から直接殺されるという言葉が出て来ると、どこか衝撃を受けたように見える。

 もしかして、殺されることはないと思っていたのか?

 そもそも自分のシャドウと遭遇した時点で、殺される可能性は高い。

 それは花村も分かっていてもおかしくはないんだが。

 

「殺される……かどうかは分からないが、もし足立に見つかって捕まれば、どういう結果になるのかは容易に想像出来るけどな」

 

 花村の危機感を煽るという目的もあり、俺はそう告げる。

 そんな俺の言葉に、花村は難しい表情を浮かべた。

 

「話は嬉しいですし、俺も死にたくはないので、その話は引き受けたいところですけど……両親にどう説明します?」

「その辺は堂島に説明して貰う必要があるな。出来るか?」

 

 そう堂島に尋ねると、堂島は眉を顰めながらも頷く。

 

「ジュネスには刑事達が行動させて貰っている以上、足立の件についてもある程度は知らせてある。そうである以上、花村が足立の件で知ってはいけない事を知ってしまったといったように話して、こちらで護衛目的に匿うと言えば受け入れてくれるだろう。幸い、この天城屋旅館はジュネスから遠く離れている訳じゃない。会おうと思えばいつでも会えるしな」

「……けど、それだと花村の両親はそのままか。それはそれで危ないんじゃないか?」

 

 早紀の家族を東京に避難させたように、花村の両親も東京に避難させた方がいいんじゃないか?

 もっとも、そうして次から次に避難させるようなことをすれば、際限がなくなってしまう。

 それこそ最終的には、以前ちょっと考えたように稲羽市にいる全員を避難させるといった事にもなりかねない。

 ……いやまぁ、それが出来たら最善なのは間違いないのだが。

 桐条グループの財力があれば、恐らく資金的には問題ないか?

 いざとなればシャドウミラーの方で援助してもいいし。

 とはいえ、稲羽市は地方都市とはいえ、金だけで全てが解決する訳じゃない。

 実際にそういう事をやろうと思ったら、それこそ桐条グループだけではなく、国としてやらないといけないだろう。

 そして国としてそのような事はまずやらない。

 一般的に考えれば、そのような事をしても国にとってメリットは何もないのだから。

 とはいえ、この国が日本であると考えれば、桐条グループの財力を使えばどうとでもなりそうな気がする。

 俺が知ってる限り、日本に政治家はいない。いるのはせいぜいが政治屋だけだ。

 政治屋がせめてもの良心で、他には売国奴が多数というところに救いがない。

 いやまぁ、このペルソナ世界もそうだとは限らないが。

 ともあれ、稲羽市の住人を合法的に全員退去させるのは無理なのは間違いない。

 違法な手段を使ってとなると、出来ない事もないかもしれないが……稲羽市の件が片付いた後の面倒を考えると、それはそれでちょっと難しい。

 そうなると、やっぱり今の状態でどうにか足立を捕らえるのが一番手っ取り早いし、確実な訳だ。

 

「けど……俺の両親はジュネスの運営に全力を注いでます。避難しろと言っても、多分聞きませんよ」

 

 だろうな。

 早紀の両親の場合は、あくまでもコニシ酒店という家族で運営していた店だから、避難をするといったことも出来た。

 だが、ジュネスはこの稲羽市で最大の商業施設だ。

 当然ながら、そこで働いている者の人数もかなりの数になる。

 これが、例えば数日程度稲羽市を離れるくらいならどうとでもなるだろう。

 だが、いつまでも稲羽市に戻れないとなると、それこそジュネスの運営にも支障がある。

 電話とかで指示を出したり、店長のサインや判子が必要な書類は東京まで送るといった手段を使えばどうにかなるかもしれないが……そう簡単には出来ないだろう。

 

「むぅ」

 

 花村の言葉に堂島が唸る。

 コニシ酒店の時とは大きく違うのを、堂島も十分に理解しているのだろう。

 せめてもの救いは、今回明らかになったTVの中の世界でペルソナ使いとして覚醒したものは、現実世界でペルソナを召喚出来ないといったところか。

 ……実際には将来的にペルソナを召喚出来る可能性はあるので、絶対とは言えないが。

 ましてや、足立は恐らくこの事件の原作において小ボスか中ボスといった扱いだ。

 鳴上達よりもペルソナの成長が早くても、おかしい事はないので、油断は出来ないが。

 

「取りあえず現実世界ではペルソナを召喚出来ないだろうし、護衛をつければいいんじゃないか?」

 

 俺の口から出たのは、折衷案に近い。

 足立も元刑事だけあって、それなりに鍛えてはいるかもしれない。

 だが、足立の身体付きは決して筋肉質ではなかった。

 あるいは絞った筋肉……いわゆる痩せマッチョと呼ばれるような筋肉という可能性もあるが、堂島が聞いた話によれば生身での戦い……柔道や剣道は決して得意ではないらしいし。

 なら、護衛がいれば生身の足立を対処するのは問題ないと思う。

 ……コバッタ辺りを配備出来ればいいんだが。

 あるいはコバッタをジュネスで開発したオリジナルペットロボットという扱いにして護衛にするか?

 一瞬そう思ったが、コバッタの情報がネットに流れれば、間違いなく多くの趣味人がやって来る以上、それは止めた方がいいだろうと判断するのだった。

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