転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3654話

「さて……無事か?」

 

 インタビューをしようとしていた男とカメラマンがいなくなり、公園に残ったのは俺と雪子だけとなる。

 

「アクセルさん、その……ありがとうございます」

 

 俺を見て頭を下げてくる雪子。

 その表情には困ったような笑みがある。

 今この状況でどういう表情を浮かべればいいのか、本人もちょっと分からないのだろう。

 

「ああいう連中に絡まれたのは初めてか?」

「はい」

「ちょっと意外だな」

 

 それは冗談でも何でもなく、俺の正直な気持ちだ。

 何しろ雪子の家の天城屋旅館は、全国的に有名な老舗旅館だ。

 今までも当然ながら多くの雑誌やTVの取材を受けてきただろうし、そうして取材を受ければ次期女将と認識されている雪子にも注目が集まる事はあっただろう。

 雪子は間違いなく美人と言える顔立ちだ。

 派手な美貌を持ってるのではなく、清楚系? そんな感じの美貌と言えるだろう。

 俺の恋人の中で例えると……例えると……あれ?

 レモンを始めとした俺の恋人達って、基本的に清楚系というよりは派手な美貌の持ち主が多いな。

 俺の好みがそういう感じなんだろう。

 今更ながら理解した。

 もっとも、全員が全員そういう訳でもない。

 例えばダンバイン世界のシーラだ。

 聖少女や聖王女と呼ばれる事もある、清楚系の美人で、系統としては雪子と似ているかもしれないな。

 後は……性格はともかく、外見だけなら円も清楚系に入るか?

 

「意外、ですか?」

「ああ。雪子の事だから、今までもああいう連中に絡まれても珍しくはないと思ってな。目立つだろ?」

「そう?」

 

 あ、素が出たな。

 雪子には少し天然っぽいところがあるのは、俺も何となく理解している。

 自分が不細工だとまでは決して思っていないが、だからといってそこまで美人だとも思っていない。

 言い換えれば、そこまで自分に自信がないと言うべきか。

 いやまぁ、それはあくまでも程度の話ではある。

 例えば自分に自信がなくてウジウジしてるような性格という訳ではない。

 だが、その美貌に対する自分の認識と他人の認識が違う言えばいいのか。

 天城越えという言葉があるくらいに、この辺……八十神高等学校だけではなく、稲羽市にある他の高校や中学を含めても雪子の美貌は評判となっている。

 しかし、本人は恐らくその事について知らないか、あるいは知っても冗談か何かだと思っているだろう。

 

「そうなんだよ。その辺は自覚した方がいい」

 

 今までは特に何も問題がないまま、無事に生きてこられた。

 だが、この先も同じように生きていけるとは限らない。

 それこそ、場合によっては雪子にとって決して明るくない未来が待っていてもおかしくはない程に。

 具体的には、男に騙されるとか。

 

「……」

 

 俺の言葉を聞いても、雪子はすぐに返事をしない。

 俺の言葉の意味を納得出来ていないのか、それとも理解はしてるが返事をするつもりにはならないのか。

 その辺りについては、生憎と俺にもちょっと分からなかった。

 

「以前、言ったじゃないですか」

 

 と、不意にポツリと雪子が口を開く。

 何の事だ?

 雪子の言ってる意味が一瞬分からずに黙っていると、それを察したのか、それとも元々そういう風に話す積もりだったのか、雪子が話を続ける。

 

「親の敷いたレールに従って歩く……それが楽なのは分かります」

 

 ああ、その件か。

 以前天城屋旅館の中にある自販機の側で、俺は雪子の相談に乗った。

 人生相談……というのは少し大袈裟だが、あまり親しくない俺だからこそ、雪子も自分の悩みを口にしたのだろう。

 

「そうだな。楽な人生になるのは間違いない。けど、雪子はそれに納得してないんだろう?」

「……親の敷いたレールに従って生きていく。それは私という人格が必要ですか? 親の言いなりになる人形なのでは?」

「それはちょっと言いすぎだと思うけどな。さっきの奴に何か言われたのか?」

 

 実際にはあの男が言った内容……天城屋旅館の客が減ってる云々というのは、俺にも聞こえていた。

 だがそれでも、かなり離れている場所でその声が聞こえたというのが知られると、場合によっては雪子が俺という存在に疑問を抱いてしまう。

 もっとも、俺の予想が正しければ雪子はこの事件の原作の主要メンバーの1人で、鳴上の仲間……つまりペルソナ使いとなるべき者の1人だ。

 だからこそ、俺が普通ではないというのはいずれ知るかもしれない。

 だが……それはあくまでもいずれであって、今ではない。

 いやまぁ、今ここで俺について知って、その結果として鳴上の仲間になる前から鍛えるという選択肢もあるのだが。

 

「はい。実はうちの旅館、最近お客様の数が減ってるんです」

「それは山野真由美の事件の件が関係してか?」

 

 そう尋ねるが、雪子は首を横に振る。

 

「以前から少しずつですが。一気にお客様の数が減ったりはしていませんが、それでも少しずつ、着実に減ってるのは間違いありません。その上で、事件があったので……」

 

 言葉を濁す雪子。

 山野真由美の事件が天城屋旅館で起きた……というのはまだはっきりしていないものの、山野真由美が最後に天城屋旅館に泊まっていたのは事実。

 そこに足立がやって来て……こちらは理由が分からないが、早紀に言い寄った件を考えると山野真由美に言い寄ったところで断られ、それによって逆上した結果、TVの中の世界に入れたのだろうと。

 とにかく山野真由美が最後に天城屋旅館に泊まっていたのは、TVの情報等で広く知られている。

 そうである以上、そのような不吉な事件のあった――何しろ死体はTVのアンテナにぶら下がっていたのだから――旅館に泊まりたいと思う者はあまりいないだろう。

 推理小説とかが好きだったり、人間には無理という事でオカルトについて調べていたり、そんな物好きが泊まるような事はあるかもしれないが、そのような者は少ない。

 また、泊まりたいと思っても老舗旅館だけあって宿泊料金も結構なものだ。

 そうである以上、どうしても客が少なくなってしまうのは間違いなかった。

 

「実際、ゴールデンウィークの予約を取り消したいという連絡もあるみたいですし」

 

 あるみたいと、確定の言葉でないのは、雪子の母親が娘を心配させたくないと思っての行動だろう。

 だが、実際にはさっきの男のような連中がいて、何より雪子も馬鹿じゃない。

 その辺についての情報を察するくらいは出来てもおかしくはない。

 

「そういう意味では、大広間を含めて多くの部屋を借りてくれているアクセルさん達には感謝してるんですよ?」

 

 雪子の言葉に、そうだろうなと納得する。

 天城屋旅館の中でも一番高い部屋を俺と美鶴で借りて、シャドウワーカー達の暮らしている大広間を借りて、堂島一家で、早紀、ムラタ、五飛でそれぞれ1室ずつ。

 特に堂島一家は3人なので少し広い……つまり値段も高い部屋だ。

 こうして考えると、俺達だけで天城屋旅館的には大きな利益となってるのは間違いないだろう。

 寧ろ……こういう表現はどうかと思うが、例年通りに予約客がいた場合、既に予約が一杯だと断るようになっていた可能性もある。

 

「なら、客の減少についてはあまり気にしなくてもいいんじゃないか?」

「今は、ですけど。アクセルさん達も、ずっと稲羽市にいる訳ではなんですよね?」

「そうだな」

 

 足立を捕らえ、マヨナカテレビの一件を仕組んだ黒幕……ラスボスを倒してこの事件を解決したら、俺達は稲羽市を立ち去るだろう。

 元々俺達が稲羽市に来たのは、偶然なのだ。

 X世界の一件で俺達の拠点となる基地の名前を募集したところ、美鶴の提案したアルカディアが選ばれた。

 その賞品として美鶴が望んだのが、ゆかりの卒業旅行として天城屋旅館に行く事だった。

 そういう意味では、本当に偶然が偶然が重なって俺はこの場にいる。

 もし天城屋旅館に来なければ、当然マヨナカテレビについては知らなかっただろう。

 あるいはシャドウワーカーの方で何らかの情報を掴んでいた可能性もあるが、それでも事件の最初から関わる事は不可能だった筈。

 つまり、俺達が現在稲羽市にいるのは、あくまでもこの事件が解決するまでだ。

 ……事件が解決しない限り、ずっと稲羽市にいるという事でもある。

 具体的にいつくらいになったら事件が解決するのかは、今のところまだ分かっていない。

 そういう意味では、今は天城屋旅館にとって俺達が上客であっても、いつ俺達がチェックアウトするのか分からないのも、また事実。

 天城屋旅館にしてみれば、そういう……いついなくなるのかも分からない俺達は、結局のところ客として不安に思ってもおかしくはない。

 出来ればきちんとした客の方が喜ばしいだろう。

 

「そうなると、やっぱり旅館の経営が厳しくなるのは間違いないですし……」

「何だかんだと、旅館のことは心配なんだな」

「それはそうですよ。生まれた時からあったんですから。それが急になくなると言われたら……ちょっと困ります」

「でも、今のまま高校を卒業して、旅館で働くのには思うところがあるんだよな?」

「そうなります」

 

 複雑だな。

 雪子本人は、天城屋旅館を決して嫌っている様子ではない。

 だが同時に、自分が嫌っている訳ではないとはいえ、親の敷いたレールに乗ってそのまま仕事をするのはどうかと、そのようにも思うのだろう。

 これが例えば、雪子の母親が自分の後を継いで天城屋旅館の女将になるように強制をしていなかったら……それこそ、雪子が好きな進路に進んでもいい。その進路に天城屋旅館の女将という道があるのなら、嬉しい。

 そんな風に言っていれば、あるいは雪子はあっさりと女将への道を歩んでいた可能性は十分にある。

 言ってみれば、これは雪子の両親……母親が教育を失敗した結果なのだろう。

 もっとも、人によってはそうして最短距離で自分が幸福になるだろう道を用意したということで、喜ぶ者もいるだろう。

 そういう意味では、雪子と母親の相性が悪かったというのが、今の雪子が悩んでいる一番の理由といったところか。

 

「部外者で、雪子の進路には全く関係のない俺が言うのもなんだが、進路というのは非常に重要だ。……普通なら、高校を卒業した時点で自分のやりたい事が決まってるというのが、希少な例なんだけどな」

 

 実際には希少と表現したものの、そこまで少ない訳でもない。

 高校生のうちに本当に自分のやりたいことを見つけるという可能性は、決して否定出来ないのだから。

 ……もっとも、中にはその時点でやりたい事があると思って高校を卒業してその道に進んでも、結局中途半端に終わるという可能性もある。

 

「そうですよね。今の私のような状況でしっかりと進路を決めろという方が無理ですよね」

 

 うお、予想していた以上の勢い。

 これ、恐らくだけど本人も自覚がないうちに、色々と溜め込んでいるんだろうな。

 

「例えば……そうだな。俺はそういうのは詳しくないけど、女将になる為の大学とかはないのか? そういう学科が」

 

 もしそういう学科があるのなら、取りあえずそういう大学に行って勉強し、それで他にやりたい事が見つかったらそっちの道に行くし、見つからなかったら若女将として働くという道もある。

 とはいえ、もし雪子が別の道を見つけた場合、大学の費用が無駄になるんじゃないかという心配もあるが。

 大学の費用……それも女将になる為の学科があったとして、それに掛かる学費とかそういうのが幾らくらいになるのか、俺には分からない。

 ただ、それでも結構な金額……数百万くらいは掛かる筈で、その値段は老舗旅館としてもそう気軽に出せるものではない。

 しかも、ただでさえ最近は客が減ってるという話だし。

 そうなると、やはり雪子の母親としては高校を卒業しても大学には行かず、そのまま若女将として宿で働いて欲しいと思うのは当然か。

 あるいは、奨学金を受けて大学に行くというのもある。

 雪子の成績が具体的にどのくらいなのかは、生憎と俺にも分からない。

 ただ、優等生なのは多分間違いないと思うんだよな。

 それこそテストの成績で1位は取れなくても、上位10人くらいには入っていてもおかしくはいと思う。

 それでいて品行方正といった感じだから、奨学金も返済が必要ではなく給付型の奨学金を貰えそうな気がする。

 この辺はあくまでも俺の予想でしかないが。

 もしかしたら、雪子はその外見とか性格には似合わず赤点を取って補習の常連といった可能性もない訳ではないのだから。

 

「少し……考えてみます」

「そうか。雪子が自分で決めたのなら、それで問題はないと思う。じゃあ、そろそろ帰るか。送っていくよ」

「え? その……いいんですか?」

「またさっきみたいな連中が来たら嫌だろう? それに俺もそろそろ旅館に戻ろうかと思っていたしな」

 

 これは事実だ。

 雪子をあの男達から助けて、話を聞いて……としている間に、それなりに時間が経過している。

 そうである以上、そろそろ鳴上に対する美鶴の授業……授業? 授業かどうかは分からないが、とにかく終わったと思ってもいい筈だ。

 なら、俺も戻ってもいいだろう。

 そう思っての言葉で、雪子も俺の表情から嘘を言ってる訳ではないと判断したのか、頷くのだった。

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