転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3659話

 雪子との恋人宣言。

 それを聞いた男は、最初何を言っているのか理解出来ないといった様子で周囲を見る。

 あるいは俺の言葉が夢か何かだったのではないか。

 そんな風に思ったのかもしれない。

 しかし、それでも現実は変わらない。

 周囲を見ていた男の視線は、やがて未だに雪子の腰を抱いている俺に向けられる。

 男の顔は白くなり、青くなり、やがて赤くなり……最終的には何も言わず、俺ではなく何故か雪子を睨み付けてから、この場から走り去った。

 

「えっと……今更だけど、取りあえずストーカーってあの男でよかったんだよな?」

 

 実は里中が知っているストーカーがあの男じゃなかったら、少し面倒な事になる。

 そう思いつつ尋ねる俺に、雪子は顔を赤くしながら口を開く。

 

「えっと、その……取りあえず手を……」

「ん? ああ、悪い」

 

 そう言えばまだ雪子の腰を抱いたままだったなと理解し、雪子から離れる。

 自慢ではないが、俺は複数の恋人達を何度も抱いている。

 その為、腰を抱くという行為そのものはそれなりに慣れているのだ。……いや、これは明らかに自慢か。

 そんな風に思いつつ、俺は雪子から離れてから再び口を開く。

 

「それで話を戻すけど、あの男がストーカーだったのか?」

「多分」

 

 男に腰を抱かれるというのは、雪子にとっては恐らく初めての経験だったのだろう。

 俺の問いに、雪子は俯きながら答える。

 それでも髪の間から見える耳が赤く染まっているのは理解出来た。

 うん、これはちょっとやりすぎたか?

 男に興味がなかった雪子だが、だからといって男に腰を抱かれて何も思わない訳ではないらしい。

 

「それで……」

「雪子、大丈夫!?」

 

 俺が何かを言うよりも前に、聞き覚えのある声と共に誰かが走って近付いてくるのを感じだ。

 声のした方に視線を向けると、そこにいたのは当然のように里中。

 どうやら雪子の事が心配でやってきたらしい。

 あるいはさっきの男の件を誰かから聞いたのか。

 さっきの今でもう噂が広まっているのか? と思わないでもないが、ここは通学路で八十神高等学校の生徒がたくさんいる。

 そして里中はその明るさから友人が多いのは間違いないだろうし、雪子の親友だというのもそれなりに知られている。

 また……本人が気が付いているのかどうかは別として、相応に顔立ちは整っており、今はまだ子供っぽい一面が強いが、将来的には美人になるのは間違いないと思う。

 もっとも、普通の高校生にしてみれば今が全てという者が多いので、里中を好きな者は……それでもそれなりにいそうだけどな。

 

「千枝、ありがとう。その……アクセルさんのお陰で無事だったから問題ないわ」

「良かったぁ……まさか、頼んだらと言ったその日のうちに事態が進むとは思ってなかったわよ」

 

 そうして安堵している二人を眺めていると……

 

「なぁ、さっきの男ってもしかして久保じゃないか?」

「え? 誰だよ?」

「知らないのか? 以前はうちの生徒だったけど、モロキンとぶつかって退学になったとか、別の高校に転校したとか……そんな奴だよ。どっちが正解なのかは分からないけど」

「マジか。……ああ、でもそれで天城越えをしようとしたのか」

「けど、天城は何だかんだで有名人だからな。多分、他の高校の連中も知ってると思うぞ? 実際、中学の時の友達に聞かれた事があるし」

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 にしても、なるほど。さっきの男は久保という名前で、元八十神高等学校の生徒な訳か。

 

「アクセルさん、その……雪子を守ってくれて、ありがとうございました。けど、ちょっとやりすぎな面もあると思いますけど」

 

 周囲から聞こえてくる声に聞き耳を立てていると、雪子と話していた里中が俺に向かってそう頭を下げてくる。

 どうやら雪子に問題がないのを十分に確認したのだろう。

 そしてやりすぎというのは、恐らく……いや、間違いなく俺が雪子の腰を抱いた事だろう。

 恐らく雪子からその件を聞いて不満に思ったんだろうが、それについては無視しておく。

 

「気にするな。天城屋旅館には俺も世話になってるしな。その1人娘がストーカーに巻き込まれる事になれば……」

 

 そこまで言ってから、一旦言葉を止める。

 さっき久保を追い払う為に、雪子を俺の女だと態度で示した。

 その光景を見ていた者の何人かは、まだ足を止めてこっちの様子を見ている。

 里中がやって来たので成り行きを見ているのか、あるいは他に何かあるのか。

 ……まさかとは思うが、実はさっきの俺の行動が嘘だと見抜いている者がいたりしないよな?

 その辺を考えると、もう少ししっかりと態度で示しておいた方がいいか。

 

「恋人を守るのは、彼氏の俺の役目だろ」

 

 ざわり、と。

 そう口にした瞬間、久保の件から俺達の様子を見ていた者や、偶然通り掛かった者達も含めてざわつく。

 

「ちょっ! 一体……」

「人が多いんだから、そうしておいた方がいい」

 

 俺の言葉に不満そうに叫ぼうとした里中だったが、その機先を制するようにそう言う。

 にしても、俺の恋人という事になった雪子ではなく、何で里中が真っ先に反応するんだろうな。

 そして肝心の雪子は、俺の言葉を聞いても全く動じていない……いや、違うな。

 これは動じてないんじゃなくて、予想外の言葉だった事で完全に固まってる状態だ。

 コンピュータなら、フリーズしているといった感じか。

 

「それは……」

 

 里中も俺の言ってる意味を理解したのか、不満そうな様子を見せつつも反論するような事はない。

 俺という存在のお陰でストーカーを追い払ったのに、実は俺と雪子は恋人でも何でもないと宣言してしまえば、また久保がストーカーとして現れるかもしれないと思ったののだろう。

 あるいは花村から少し聞いたように、雪子は天城越えに挑戦しようとする男達から言い寄られる事も多いらしいが、その件をどうにかしたいと思ってもおかしくはない。

 ともあれ、色々と考えた結果として俺が雪子の恋人を詐称した件については何も言わない事にしたらしい。

 俺にとっては、その方が楽なので問題はないんだけどな。

 というか……俺の気のせいかもしれないが、雪子って実は押しに弱かったりしないか?

 久保のような例外はともかく、多少なりとも好意を持つ人物……具体的には、鳴上や花村のような連中に強引に迫って俺と付き合えといった風に言われれば、それを断れないような気がする。

 もっとも、雪子は次期女将として旅館の仕事を手伝っているので、もし強引に付き合うようになっても恋人らしい事は出来ないだろうが。

 

「とにかくストーカーの件は片付けたし、俺はこの辺で帰らせて貰う。このまま八十神高等学校まで送っていってもいいんだが、里中が来たんだから俺が一緒に行く必要はないだろうし」

 

 もっと言えば、花村とかから聞いた……そしてさっき周辺で噂話をしていた連中の会話にも出て来た、モロキン。

 このモロキンという教師はかなり独善的な性格をしており、気に入らない相手には強く当たるらしい。

 久保がモロキンと対立したのも、多分その辺が理由だったりするのかもしれないな。

 ともあれそんな訳で、モロキンという教師と俺の相性は絶対によくない。

 もし俺がモロキンと遭遇したら、いらない騒動が起きるだろう。

 八十神高等学校の校長は、以前俺が美鶴と一緒に見学をしたのを覚えてるだろうから、もし俺とモロキンがぶつかっても、こっちの味方をしてくれるかもしれない。

 とはいえ、モロキンの話を聞く限りでは校長に何か言われてもそれを素直に聞くようには思えないんだよな。

 そんな訳で、面倒な相手とは関わらないに限る。

 

「分かりました。じゃあ、ここから雪子は私が一緒に行動しますね」

「ああ、里中に任せた。……じゃあな、雪子」

「あ、はい。その……ありがとう、アクセルさん」

 

 まださっきの俺の女発言が影響してるのか、雪子の頬は赤いままだ。

 それでもさっきよりは大分マシになってるのは、こうして見ても十分に理解出来た。

 その件について突っ込むと、雪子ではなく里中が思いきり突っ込んで来そうなので、その件については触れないでおくが。

 ともあれ、里中がいれば久保が来ても特に問題はない……と思いたい。

 それでも里中が女なのは間違いない。

 小学生くらいなら女の方が成長が早いので、純粋に身体能力でも女が勝つのは珍しくないものの、それが中学生、高校生となると男女差は顕著になる。

 里中は見るからに運動神経がいいように見えるものの、もし本当に男と喧嘩をした場合、身体能力で勝つのは難しいだろう。

 もっとも、里中が何らかの格闘技を習っていて、相手がそういうのを全くやっていないような奴なら、もしかするかもしれないが。

 そう考えると、さっきの久保は見るからに何も鍛えてるようには見えなかったから……例えば腕力で久保が勝っていても、そもそも里中を捕まえられるのかといった問題がある。

 

「じゃあ、気を付けろよ。さっきの件からすると、あのストーカーがまた出て来ないとも限らない。そうなったら、すぐに周囲に助けを求めるといい」

 

 そう言い、俺はその場を立ち去る。

 ……雪子を俺の女扱いしたのが影響してか、それとも天城越えに挑戦して成し遂げたと思われたのか、多くの者達から視線を向けられながらだったが。

 

 

 

 

 

 雪子との一件を終えると、俺は大人しく天城屋旅館に戻ってきた。

 元々どこかに行く予定があった訳ではなく、天城屋旅館の前で暇をしていたところで雪子に声を掛けられたのだから、特に何か急いでやるべき事がある訳でもない。

 そんな訳で、特に何かをやる事もなく適当に時間を潰していたのだが……

 

「おはようございます」

 

 そうして声を掛けられ、そちらの方に視線を向ける。

 すると60代……70代か? とにかく老夫婦と呼ぶような2人がちょうど旅館から出て来たところだった。

 どうやら、天城屋旅館の客らしい。

 事件のせいで客が少なくなったとはいえ、それでも全国的に有名な老舗旅館だけはあり、俺達以外の客もそれなりにいるのだろう。

 山野真由美の事件を知った後でも、こうして部屋に泊まるのは……そうだな、多分これが初めての客という訳ではなく、今までにも何度も泊まっていて、それで気に入ったのだろう。

 

「おはよう」

 

 そう短く朝の挨拶を返すと、老夫婦は満足そうに空を見て口を開く。

 

「今日は天気がいいですし、気持ちのいい朝ですな」

「そうだな。この調子で天気が崩れないといいんだけど」

 

 実際には天気予報で今日の夜から雨が降るって話だったし……ああ、そうなるとマヨナカテレビを見る事が出来るな。

 とはいえ、ここ最近はマヨナカテレビを見ても何かが映っているものの、それが具体的に何か分からない状態が続いていた。

 そうなると、今日も多分そんな感じなんだろうとは思う。

 

「ははは、そうですな。では、私達はこの辺で。少し散歩をしてきたいと思いますので」

 

 俺と話していた男がそう言うと、妻の方も頭を下げて立ち去る。

 言葉には出さないものの、嬉しそうなその様子を見る限り、天城屋旅館に泊まるのを楽しみにしていたのが分かる。

 殺人事件が起きた程度では、特に何も気にした様子がないというのは、恐らくは常連で天城屋旅館の従業員達を信じているのだろう。

 こういうのを見ると、しっかりとした常連がいると思うんだが……昨日、雪子が無理矢理インタビューをされていた時は、客が減ってるとかどうとか言ってたのはどうなんだろうな。

 いや、天城屋旅館の大きさを考えれば、例え常連がいても少数では意味がないだろう。

 その辺の状況を考えると、やっぱり天城屋旅館がピンチなのは間違いないのかもしれない。

 天城屋旅館は個人的にかなり居心地のいい場所なのは間違いない。

 部屋から見える光景も雄大な自然を感じさせるし、温泉はかなり高評価だ。食事も山の幸は勿論、海の幸も新鮮なものをしっかりと食べさせてくれるのは好感触だ。

 また、泊まっている部屋を快適な状態に保ってくれるのも嬉しい。

 大広間を借り切るという無茶を聞いてくれるのもいいな。

 もっとも最後の奴は、桐条グループと警視庁の力を使ってのものだが。

 とはいえ、無茶を聞いて貰った代わりに宿泊料金にはかなり色を付けてるって話だ。

 そういう意味では、昨日の取材は決して正しい訳ではない。

 収入という意味では、そのお陰でかなり上がっている筈なのだから。

 

「アクセルか」

「ムラタ? どうした?」

「いや、ちょっと出てくる」

 

 旅館から姿を現したムラタの言葉に、俺はそうかと頷く。

 ムラタが旅館を出てどこに行くのかは、考えるまでもなく明らかだからだ。

 稲羽市にムラタが興味を持つような場所は……それこそ、天城屋旅館の中にある温泉くらいだろう。

 何気にムラタ、結構温泉好きらしく、それなりの頻度で温泉に入っているのを見掛ける。

 その温泉以外でとなると、やはり訓練……いや、修行だろう。

 一応日本刀は竹刀とかを入れる袋に入れて誤魔化してるから、問題ないと思う。

 稲羽署の警察に見つかっても、協力関係にある今ならそこまで問題でもないし。

 

「そうか。鳴上達が帰ってきたらまたTVの中の世界に行くから、そのつもりがあるのならそれまでに戻って来いよ」

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