TVの中の世界にあった、稲羽署。
堂島はその中に入る事を決めた。
本来なら、恐らく足立によってTVの中の世界に入れられた雪子を捜すのを優先する必要があるのだが、生憎と何の手掛かりもない状態で見つける事は出来ない。
……ああ、なるほど。堂島が何故稲羽署に入るという選択をしたのか少し疑問だったが、もしかしたら雪子のいる場所に対する手掛かりがここにあるかもしれないと思ったのかもしれないな。
普通に考えれば、稲羽署に雪子の手掛かりがあるとは思えない。
そもそも、雪子と稲羽署に一体どんな繋がりがあるのか不明だし。
これが例えば車やバイクの免許を取っていれば、免許の更新で稲羽署に来るといった経験もあったかもしれないが。
あ、でもそうだな。雪子は天城越えと呼ばれる程に男に人気があり、更には本人は気が付いていなかったが、ストーカーもいた。
それを思えば、その辺の理由で警察に来ていてもおかしくはない……のか?
ともあれ、俺達は稲羽署に入ったのだが……
「神鳴流、斬岩剣!」
ムラタの鋭い声と共に、サイコロのような形をしたシャドウがあっさりと切断される。
また、少し離れた場所では気で身体強化をした五飛が頭に花が生えた赤ん坊のような形をしたシャドウを切断していた。
これは……うん。
堂島はジュネスで遭遇したゼブラ模様のシャドウを相手に戦っている。
俺と美鶴は、特に何もしていない。
堂島が危険になったら即座にフォロー出来るようにはしているが。
「警察署の中だから戦いにくいと思ったけど、そうでもないみたいだな」
警察署の中なのは間違いないが、他に人がいる訳でもないので、それなりに戦える空間はある。
もっとも、だからといって完全に安心出来る場所ではないのだが。
廊下とかはそれなりに狭いし。
ムラタや五飛は日本刀や青竜刀を使ってもそこまで苦労した様子を見せてはいないものの、堂島はそれなりに苦戦している。
というか、日本刀を壁にぶつけたりしてるな。
素人じゃないんだから……という思いがない訳でもないが、半ば素人なのは事実。
あるいはシャドウと戦っていなければ、特に問題はないのかもしれないが、シャドウも生き物……生き物? いや、生き物かどうかはともかくとして、取りあえず動き回るのは間違いない。
そうである以上、堂島にしてみれば止まっている相手でもない以上、戦いの中で壁に日本刀をぶつけるとかしてもおかしくはない。
この辺は慣れもあるが。
ただし、あの日本刀の整備はどうするんだろうな。
堂島が自分で出来るとは思えないし、かといってあの日本刀を買った場所で整備出来るとかは……微妙だ。
いやまぁ、最悪美鶴が桐条グループから人を呼ぶなりなんなりして解決するだろうけど。
そんな事を考えている間に、ムラタが最初にシャドウを倒し、続いて五飛が。そして……それから少し時間が経過し、堂島がシャドウを倒す。
「堂島、それなりにやれるようになったな。ジュネスで戦ってた時に比べれば、大分動きはそれらしくなってたぞ」
堂島を褒める。
実際、ジュネスで戦った時と比べると、かなり余裕のある勝利だ。
空間的な制限のある稲羽署の中での戦いなのに、ダメージも受けていない。
この辺を考えると、ジュネスでの戦いが無駄ではなかったという事を意味していた。
「ふんっ、この程度の敵にあそこまで苦戦しているようでは、まだまだ」
そう言う五飛だったが、師匠目線で見た場合は今の戦いでも完全に納得する事は出来なかったのだろう。
ムラタの方は、特に気にした様子もなく周囲を警戒している。
……もっとも、周囲を警戒してるのは敵の襲撃を警戒しての事ではなく、新たなシャドウが出て来たら俺達に戦わせず、自分で戦う為だろうが。
ムラタにしてみれば、ようやく……本当にようやく、シャドウとの本格的な戦いを楽しめるのだ。
一応ジュネスでもシャドウと戦ったものの、そこで遭遇したのはゼブラ模様の決して強くないシャドウだった。
そういう意味では、この稲羽署ではそれ以外のシャドウも出てくるので、ムラタとしては満足……は出来ないまでも、期待は出来るのだろう。
出てくるシャドウはゼブラ模様以外にも色々と種類がいるのは間違いないものの、決して強くないのも事実。
それこそムラタにしてみれば、さっきみたいな神鳴流を使わなくても一刀両断に出来てもおかしくはない。
とはいえ、シャドウの中には物理攻撃や魔法攻撃を反射する魔法を持ってる奴もいるので、油断は出来ないが。
……まぁ、そういうシャドウは例外なく強力なシャドウで、こういう弱いシャドウと一緒に出て来たりはしないけど。
「そうだな。まだまだだ」
五飛の言葉に堂島も素直に自分がまだ未熟だと認める。
実際に未熟なのは間違いないものの、それでもそれなりに頑張ってるとは思うんだが。
五飛は褒めて伸ばすのではなく、叱って伸ばすタイプなんだろう。
俺も多少は模擬戦を行っているものの、基本的に堂島の師匠は五飛だ。
そうである以上、堂島をどうするのかは五飛に任せておいた方がいい。
なので、それ以上は特に突っ込んだりせず、別の事を堂島に尋ねる。
「それで、堂島。これからどこに行けばいい?」
「いや、どこって言われても……」
まさか自分が聞かれるとは思ってなかったのか、戸惑う様子の堂島。
だが、この稲羽署に一番詳しいのは間違いなく堂島である以上、この稲羽署にもしボス的な存在がいるとすれば、それがどこにいるのかは堂島しか分からない。
いやまぁ、もし本当にボスがいたらの話なのだが。
ボスの類はいると思うけど、それはあくまでも予想でしかない。
もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、実は稲羽署という建物だけがTVの中の世界に存在し、ボスも何もいない場所という可能性もある。
けど、そうだな。なら少しだけだが堂島のやる気を刺激させて貰うか。
「堂島、ここは稲羽署だ」
「は? 何だいきなり」
「稲羽署だろう?」
「それはそうだが……それがどうした?」
俺が一体何を言いたいのか分からないといった様子の堂島。
だが、それはそんな堂島に向けて言葉を続ける。
「すっかりと忘れてるか、あるいは気が付かないようにしてるみたいだが、現在TVの中の世界にいるだろう者の中で、堂島以外に刑事はもう1人いるだろ? いやまぁ、もしかしたら既に懲戒免職になってるかもしれないけど」
その言葉に、堂島の表情が厳しく引き締まる。
ちなみに一般の……普通の会社なら懲戒解雇なのだが、公務員の場合は懲戒免職なんだよな。
つまり足立の場合は懲戒免職な訳だ。
「足立がここにいるのか?」
「さぁ? 正直なところ分からない。ただ、足立が刑事だったのは間違いない事実だ。なら、足立が稲羽署にいてもおかしくはないとは思わないか?」
「それは……」
俺の言葉にも一理あるとは思ったのか、堂島はそれ以上何も言わない。
実際問題、今回の件で本当に足立がいるのかどうかは分からない。
……いや、可能性としてはまずないと思ってもいいだろう。
それでも可能性が皆無ではない以上、もしかしたら……本当にもしかしたら、そこにいる可能性はあるのだ。
「そんな訳で、足立がどこにいるのか予想してみてくれ」
「取りあえず仕事場に行くか」
この場合の仕事場というのは、刑事科とかそういう場所の事だろう。
そこで足立も仕事をしていた以上、もし足立がいるのならそこにいてもおかしくはない。
そうして俺達は堂島に案内されて刑事科に行ったのだが……
「いないな」
当然のように、そこに足立の姿はない。
代わりにいたのは、シャドウ達だ。
俺の言葉を合図にするかのように、ムラタと五飛が飛び出していく。
それから数秒後、堂島も飛び出す。
数秒……言葉で表現すれば非常に短いが、実戦における数秒というのは致命的なまでの隙になる。
堂島の反応が遅いのは、ここに足立がいるかもしれないと思ったのにシャドウだったので意表を突かれたのか、あるいはもっと単純に本人の反射神経の問題なのか。
その理由はともあれ、堂島がTVの中の世界でシャドウと戦っていくつもりならもっと鍛える必要があるな。
……鳴上や花村がペルソナを使えるようになったのだから、鳴上の叔父の堂島も恐らくこの事件の原作の主要キャラである以上、ペルソナを使えるようになってもおかしくはないと思うんだが。
そしてジュネスにいたのは、花村のシャドウ。だとすれば、もしかしたら……
「アクセル、少し私も出てくる。数が多くなってきた」
美鶴がそう言い、レイピアを手に前に出る。
美鶴の事だから特に心配はないと思うが……けど、そうだな。敵は雑魚ばかりとはいえ、広い場所だからか敵の数がかなり多い。
文字通りの意味で質より量といった感じか。
物量で押してくる相手だし、俺も少し……
「邪魔だ」
軽く手を振り、こちらに向かって来ようとしていた、手の形をした身体を持ち、手首に頭部があるシャドウ数匹を纏めて白炎で焼き殺す。
……一応確認してみたが、やはり撃墜数は上がってないな。
タルタロスでもそうだったが、TVの中の世界でもシャドウの撃破によって撃墜数は上がらないらしい。
改めて周囲の様子を確認すると、既に大半の戦いが終わっている。
唯一、堂島が新たに姿を現したサイコロ……ムラタが倒したのを同じシャドウを相手に苦戦していた。
しかし、それを見ても特に誰も手助けをする様子はない。
五飛も青竜刀を手にしているものの、実際に攻撃をする様子はない。
あのサイコロはそれなりに……あくまでもこの中で出てくるシャドウとしては強力なシャドウだ。
堂島以外の者なら容易に倒せるだろうが、日本刀を持ってはいるものの、ペルソナは使えず、魔力や気も使えない堂島にしてみれば強敵だろう。
「ふん」
そんな中、戦いを黙って見ていた五飛が青竜刀を手に、とある方向に向かう。
そこにいたのは、シャドウとは思えないような、コミカルな外見……それこそ王をデフォルメしたかのような、そんな存在だった。
その存在は近付いてくる五飛に気が付いたのか、何かをしようとしたが……五飛を相手に、そんな悠長な事が出来る筈もない。
次の瞬間にはシャドウの首が切断され、文字通りの意味で一刀両断されてしまう。
「五飛もなかなかやるようになってきたな。……神鳴流を教えてもいいんじゃないか?」
「俺がか? 俺は使えるが、教えるのは得意じゃない。それなら、あの女にでも教わるんだな」
俺の近くまでやって来たムラタの言うあの女というのは、シャドウミラーに所属する者の中で唯一正式に神鳴流を習得した者……桜咲刹那だ。
ムラタも神鳴流については桜咲から習ったのだから、もし五飛も同じく神鳴流を習った場合、弟弟子という形になる。
……もっとも、基本的に神鳴流というのは大太刀で行うものだ。
日本刀で使っているムラタは正当な使い手ではないが、青竜刀を持つ五飛は余計に邪道だろう。
もっとも、神鳴流は武器を選ばずともあるので、そう考えると青竜刀とかを使っても不思議ではないのか?
実際、俺がネギま世界にいた時は、小太刀二刀流で神鳴流を使っていた女もいたし。
「五飛がその気になったら、紹介してみるよ」
とはいえ、五飛の性格を考えると神鳴流を習得するかどうか微妙なところだろう。
ムラタですら頭を下げて神鳴流を習得したのを考えれば、五飛も普通に習得しそうな気がするけど。
「うおおおおおっ!」
サイコロ型の敵に向かい、突きを放つ堂島。
斬るのではどうにもならないと判断したのだろう。
その突きはサイコロの面の一つにある顔を貫き、シャドウを倒す。
「……倒したな」
「もっと早く倒せた筈だ」
不満そうに言う五飛だったが、微かに笑みが浮かんでいるのを見れば、今のはそれなりに合格だったのだろう。
荒く息を吐く堂島はそれに全く気が付いた様子もなかったが。
「ほら、取りあえずこれでも飲んで息を整えろ」
何だかんだと、堂島は数匹のシャドウを倒している。
その健闘を称える為もあり、空間倉庫から取り出したスポーツドリンクのペットボトルを渡す。
ちなみにスポーツドリンクと一口に言っても、色々な種類がある。
そんな中で俺が渡したのは、かなり薄い感じの……それこそ濃いスポーツドリンクとは違い、普通に水代わりに飲んでも違和感がなく、ほんのりと甘みがあるスポーツドリンクだ。
疲れている時だけに、あまりに濃いスポーツドリンクはあまり好まれない。
いや、人によってはそれでも問題ないという者もいるかもしれないが。
堂島がどういうタイプか分からなかったので、取りあえず薄めの、ガブガブ飲める種類を渡したのだ。
「悪いな。……ふぅ」
スポーツドリンクを飛んで一息吐いた堂島に、俺は尋ねる。
「それで結局ここには誰もボスらしき存在がいなかったが、そうなると次はどこに行く?」
「そうだな。ボスというか、地位の高い人物がいるとなると、署長室だろうな」
堂島のその言葉に、なるほどと納得するのだった。