TVの中の世界から戻ると、取りあえず堂島は休む事になった。
稲羽署への報告については、起きてから美鶴と色々と相談してからやるらしい。
これが例えば、国に対して狂信的な忠誠心を抱いているとかそういうタイプなら、あるいは堂島も稲羽署に全て正直に話したかもしれない。
しかし、堂島は真面目な性格ではあるものの、あくまでもそれだけだ。
娘の菜々子や甥の鳴上の件もあるので、それを捨ててまで国の為に尽くしたいとは思わないだろう。
「さて、じゃあ今日は後は暇だな。……まぁ、またTVの中の世界に行ってもいいんだが」
今回の探索で堂島がペルソナ使いとして覚醒したのは収穫だったが、結局雪子はまだ見つかっていない。
堂島も疲れていたので、召喚したペルソナがどういう奴なのかは今のところ分からないしな。
その辺は堂島が回復してから、改めて確認する必要があるだろう。
そして雪子に関してだが、見えないところまで本気仕様の雪子がどうなってるのか。
それを思えば、出来るだけ早く雪子を確保した方がいいのは間違いない。
そう思ったのだが……
「すまないが、こちらでも色々と報告や指示を出す必要があるから、少し待って欲しい」
美鶴にそう言われる。
「美鶴が無理に来なくても、俺と……」
「俺は行くぞ」
「俺もだ」
俺に最後まで言わせないように……というか、絶対に自分達も行くといった意思が込められ、ムラタと五飛が言う。
TVの中の世界の稲羽署では、強い敵と戦えなかったしな。
「……分かった。だが、向こうでは何があるのか分からない。気を付けてくれ」
これが俺を含めて普通の面々なら、美鶴もこう素直に認めるようなことはなかっただろう。
だが俺を含めて、ムラタも五飛もその力は強い。
そうである以上、ここで俺達が再びTVの中の世界に行っても問題ないと判断したのだろう。
……そもそも現在のところ俺達がTVの中の世界に入るのに使っているのは、俺の通信機の映像スクリーンだ。
もしここで行かないようにと美鶴が止めても、この大広間以外の場所で映像スクリーンを展開し、その中に入るといった事をすれば、美鶴には止めようがないのだから。
それならせめて、自分の目の届く範囲で……そう美鶴が考えても、おかしくはないだろう。
「ちょっと待ってくれ。もしまたTVの中の世界に行くのなら……」
「言っておくが、堂島を連れていく事は出来ないぞ」
堂島の言葉を遮るように、そう告げる。
そもそも稲羽署の攻略が終わって現実世界に戻ってきたのは、あくまでも堂島の体力が限界だったからだ。
正直なところ、堂島以外の面々はまだ十分に余裕があった……というか、体力の消耗は全くなかった。
そんな状況でも堂島の為に戻ってきたのに、ここでまた堂島を連れてTVの中の世界に戻るのは許可出来ない。
「違う。俺も自分の状態は理解している。一緒に行ったところで、足手纏いになるのは間違いないとな。ただ、TVの中の世界に行くのならジュネスから行ったらどうかと思っただけだ」
「クマか」
堂島が何を言いたいのかはすぐに理解出来た。
TVの中の世界で生まれたクマだけに、向こうの状況には詳しいだろう。
ましてや、クマは俺を大センセーと呼んで慕っている。……慕っている?
いやまぁ、今はそんなに怯えられてないので、取りあえず慕っているという認識でいいだろうと思っておく。
ともあれ、クマに頼めば恐らく素直にこっちの要望は聞いてくれる筈だ。
唯一の難点としては、足立がクマに妙なちょっかいを出していない事を祈るだけだ。
何しろ足立はジュネスで頻繁に盗みを働いている。
つまり、ジュネスによく来ている訳だ。
勿論、鳴上達が入ったスタジオに続くTVやその周辺には夜にも人を配置しているらしいが、それでも捕まらない。
つまり家電売り場のTVではない別の場所からTVの中の世界とジュネスを行き来してる訳だ。
だとすれば安全なのかもしれないが……
「あの……ちょっといいですか? 丁度そのジュネスで、鳴上君達がTVの中の世界に入って行ったんですけど」
「……は?」
シャドウワーカーの1人が、ちょうどそのタイミングで声を掛けてくる。
だが、最初その言ってる意味が理解出来なかった。
いや、よく考えれば、その言葉の意味は理解出来る。
出来るんだが……一体何をしに?
何をしに? と疑問に思うも、考えるのはそう難しい話ではないか。
雪子がTVの中の世界にいる可能性が非常に高いのだ。
それを助けにいったに決まってるだろう。
この時間……まだ昼くらいで、学校はどうしたんだ? と疑問に思わないでもないが、この前もサボったんだから、そう考えれば納得出来なくもない。
これで、例えば鳴上や花村がペルソナ使いでも何でもない、ただの一般人だったら、TVの中の世界に行くといった選択肢は……ない訳ではなかっただろうが、それでもかなり難易度は高かっただろう。
だが、今の鳴上達はペルソナを使える。
その上で、多少なりとも美鶴がペルソナ使いとしての戦い方を教えていた。
そうなると、今回の件は考えられなくもなかったのか。
「アクセル!」
美鶴の鋭い言葉に頷く。
堂島の方を見ると、こちらはこちらで悔しそうな表情を浮かべていた。
怒りたいものの、友人の事を思っての行動である以上、ある程度は納得も出来る。
そして何より、ペルソナ使いとして覚醒したばかりの堂島は、水のゴーレムとの戦いの影響もあり、甥とその友人を助けに行く事が出来ないのだ。
これが、例えば今日ではなく明日なら、堂島も鳴上達を助けに行けたかもしれないが。
「分かった。どのみちジュネスには行く予定だったんだから、今からすぐに行く。……堂島、鳴上達はこっちで助けるから安心しろ」
もっとも、俺達が追いつくまでにシャドウによって殺されるという可能性も十分にある。
とはいえ、鳴上はこの世界の原作の主人公である以上、ピンチになったりはするかもしれないが、本当の意味で危険な状態になるとは限らないと思う。
あくまでも原作の事情ありきの話で、絶対にそうなるのは断言出来ないが。
何しろ俺が関与した事によって、原作は色々と変わってるところがあるだろうし。
この事件の原作については分からない……いや、ニュクスとの戦闘で失われているので何とも言えないが、それでも原作に介入した事で変わってるのは間違いない。
具体的にどこがどう変わってるのか分からないのは痛いが。
そう……例えば、堂島がペルソナ使いとして覚醒するのは、もっと後の事だったとか?
もしくはいっそ、ペルソナ使いとして覚醒しなかったという可能性もあるだろう。
ともあれ、そうして俺の介入がある以上、恐らくは安心であっても絶対に安心という断言は出来ないので、今は少しでも早く移動するのを優先する必要がある。
それでも俺達が行くのと行かないのとでは、大きく事情が変わってくるのも事実。
足立の襲撃があった場合、それに対処しやすくなるのは間違いないし。
「ムラタ、五飛、お前達はどうする?」
ムラタや五飛は強敵と戦う機会を欲してここにいる。
そうである以上、鳴上達を助けに行く必要はないのだが……
「俺は行く。堂島が戦ったような強敵が出ないとも限らないからな」
「俺も行こう。……弟子の尻拭いをするのも教えを授ける者としての役目だろう」
ムラタと五飛もそれぞれ行くと主張した。
この様子を見る限りだと、別に嫌々って訳じゃないらしい。
特に五飛は堂島をしっかりと弟子と呼んだのを考えると、これも進歩なのかもしれないな。
本人がその辺について全て承知の上で言ってるのかどうかまでは、生憎と分からないが。
とにかく、行くと話が決まった以上はいつまでもここにいる必要はない。
出来るだけ早くジュネスに行った方がいいだろう。
そうなると、普通に車で移動するのでは時間が掛かりすぎる。
「影のゲートで移動するぞ」
そうムラタと五飛に告げるのだった。
「さて、人がいないうちにさっさと中に入るとするか」
ジュネスの家電売り場。
その中でも、俺達が以前出て来た場所……つまり、TVの中の世界のスタジオに繋がっている大型TVの前で俺はそう言う。
幸いな事に、家電売り場の中に客は少ない。
……ジュネス側の立場になれば、客が少ないというのは決して喜ばしい事ではないのだろうが。
「一体次はどのような敵が姿を現すんだろうな」
ムラタが楽しみだといった様子を見せるが……ムラタが期待するような強敵は、まず出て来ないと思う。
この事件の原作の後半……ラスボス付近になったら、もう少し話は違うかもしれないが。
「ほら、行くぞ。五飛も準備はいいな?」
五飛にそう声を掛けると、五飛は素直に頷く。
五飛もまた、強敵と戦うのを楽しみにしている一面はあるのだろうが、それでもムラタと比べると大分落ち着いているように見えた。
そうして俺達はTVの中の世界に入ったんだが……
「いないな」
出た場所は、当然のようにスタジオ。
だが、現在ここには誰の姿もない。
影のゲートを使って移動したので、鳴上達がこの中に入ってからそんなに時間は経っていない筈なんだが。
鳴上達が予想以上に素早く動いたという事なんだろう。
里中がいるのなら、無理もないが。
そう、今回の鳴上達の行動は鳴上と花村だけではなく、里中も一緒に行動しているのだ。
天城屋旅館の大広間で影のゲートを使おうとした時、鳴上達の件を教えてくれたシャドウワーカーの女が改めて教えてくれた内容だった。
保存された映像を見ると、ジュネスの中に入ったのは鳴上と花村の他に里中もいたのは確認出来ている。
そうしてこのTVの周辺にも里中の姿がないという事は、里中も鳴上達と一緒にTVの中の世界に入ったという事で間違いはないと思う。
雪子との関係を考えれば、それも当然なのかもしれないが。
鳴上と花村はペルソナ使いとして覚醒しており、シャドウと遭遇してもある程度何とかなる。
その為に美鶴が鍛えたんだし。
だが、里中は運動神経はいいらしいが、それでもペルソナを使える訳でも何でもない一般人であるのは間違いない。
もしそんな里中がシャドウと遭遇したらどうなるか。
それこそ、山野真由美のようにシャドウに殺される可能性が高い。
一応鳴上と花村がいるので、守りはするだろうが……それも絶対ではないのは事実。
やはりここは出来るだけ早く移動する必要がある。
「それで、アクセル。クマがいないようだけど、どうやって追う?」
ムラタのその言葉に少し迷い……刈り取る者ならどうだ? と思い、地面を軽く蹴る。
すると俺の影から刈り取る者が召喚される。
「おい、何故そいつを呼ぶ?」
ムラタが不満そうなのは、刈り取る者の存在に恐怖している……といった理由ではなく、単純に刈り取る者がいれば自分がシャドウと戦う機会が減るからだろう。
「安心しろ。別に敵と戦わせる為に刈り取る者を召喚した訳ではない。あくまでも探索役としてだ」
以前、まだマヨナカテレビの件にシャドウが関わってるかどうか分からなかった時、刈り取る者を召喚してシャドウがこの事件に関わってるのかどうか聞いてみた事があった。
その時、刈り取る者はTVの中の世界にいるシャドウの存在を感じたのを思い出したのだ。
TVの中の世界という……一種の別次元とも呼ぶべき場所にいるシャドウの存在を感じ取れた以上、同じ場所にいる今は、シャドウの存在を感じられてもおかしくはない。
……とはいえ、問題なのは刈り取る者が察知出来るのはあくまでもシャドウだけで、鳴上達を見つけるのは難しいという事だったが。
それでもやらないよりはマシだろう。
「そんな訳で、鳴上達のいる場所……いや、そうだな。シャドウとは違う何かがいる場所を見つけられるか?」
そう聞くも、刈り取る者は数秒の間じっとして、やがて首を横に振る。
さすがにシャドウを見つけるのはともかく、それ以外を見つけるのは難しいらしい。
そうなると、一体どうしたものだろう。
「ここから一番近いシャドウのいる場所に案内してくれ。それなら出来るか?」
その言葉には、刈り取る者も素直に頷く。
「よし、じゃあ行くぞ。これから行く場所が鳴上達が向かった場所かどうかはちょっと分からない。分からないが、それでも何も手掛かりがない状況で行動するよりは、まだ何とかなる可能性がある。それでいいか?」
「俺は構わん。……寧ろ、その刈り取る者と戦ってもいいんだがな」
ムラタは即座に了承する。
後半の言葉については、取りあえず流しておく。
今は難しいが、今度暇な時にやらせてみてもいいかもしれないな。
あるいは刈り取る者じゃなくて、狛治辺りに戦わせてみてもいいかもしれない。
もっとも、狛治はネギま世界にいる事が多いが、それなりにホワイトスターにも戻ってきている。
その時にムラタと狛治が会って……いや、この場合は遭っての方が正しいか? とにかくお互いに戦闘を好む性格である以上、戦いになってもおかしくない。
五飛が頷くのを見ながら、ムラタや五飛がいる場所で狛治を召喚すると色々と騒動になりそうだなと、しみじみ思うのだった。