刈り取る者に案内されたのは……
「マジか」
その場所を見て、思わずそんな声を出す。
ムラタと五飛も俺と同じく驚きの表情を浮かべていた。
何故なら、俺の目の前にあるのはマヨナカテレビで見えないトコまで勝負仕様の雪子が白馬の王子様を見つける為に中に入っていった場所だったのだから。
それはつまり、ここがTVの中の世界に入れられた……そして鳴上達がいる場所で間違いないだろう。
というか、ムラタと五飛が驚いているという事は、この2人も雪子が出て来たマヨナカテレビを見てたんだな。
一体この2人がどういう顔をしてあのマヨナカテレビを見ていたのか、正直なところちょっと気になる。
気になるが、だからといってここで突っ込んだりしたら面倒な事になりそうな気がする。
「いつまでもここで見ていても仕方がないし、とっとと中に入るぞ。今ここで俺達がこうしてる間にも、鳴上達はシャドウと戦ってるかもしれないし」
俺の言葉に2人も頷き、建物の中に入る。
稲羽署の時よりも明らかに大きな……それこそ、タルタロスに近い感じの雰囲気がここにはある。
だとすれば、もしかしたら宝箱もあるかもしれないな。
タルタロスとかではそれなりに貴重なマジックアイテムとか、色々と入手出来たんだが、ニュクスの一件が解決したらタルタロスがなくなってしまい、もうマジックアイテムとか入手出来なくなってしまったんだよな。
とはいえ、雪子の事を考えるとここでもあまり時間を掛けられないのは事実。
時間を掛けすぎると雪子の命に関わる可能性が高いし。
建物の中は……雪子が言ってたように、ホストクラブっぽいのか?
俺は実際にホストクラブに入った事はないので何とも言えないが。
ただ、何となく見ているTVとかでやってるドラマとかそういうのはこういう感じか?
ちなみにだが、俺はホストだけではなくホステスとかにも詳しくない。
……当然だろう。
ホストはともかく、ホステスと遊ぶには酒を飲むのが前提となる。
そして俺は極端に酒に弱く、もし俺が酒を飲んだりしようものなら、一体どうなるのか自分でも分からない。
最悪、その店が消えてしまう可能性もあるし、あるいは気が付いたらホステス全員をお持ち帰りしており、ベッドで起きる可能性も十分にあった。
世の中にはホストやホステスを題材にした漫画とかも多い訳で、俺がそういう世界に行ったらどうなるんだろうな。
いやまぁ、水商売の原作の場合は店の中だけ、一部地域の話だけの原作となるので、そういう意味では世界が崩壊するとか、宇宙人が攻めてくるとか、邪神が復活するとか、世界規模の戦争が起きるとか、そういうのを気にしなくてもいい点はこっちにとっても悪くない話なんだが。
もしそういう世界に行っても、俺は恐らく水商売と関わったりはしない……というか多分、いわゆる日常系の漫画やアニメの原作の世界に行ったと判断して、主人公とかとは関わらないで普通にホワイトスターに戻ってきそうな気がする。
その辺については考える必要はないか。
今はとにかく、雪子を……そして鳴上達を見つけるのが最優先なのだから。
そんな訳で、建物の中を進む。
途中で何度かシャドウが襲ってきたが、その大半は稲羽署で遭遇した奴と同種だった。
……これ、一体どういう事なんだろうな。
稲羽署と雪子のいるこの城……うん、まぁ、城に見えるので取りあえず城と認識しておくが、そんな場所の出てくるシャドウが殆ど同じ奴というのは一体どうなってるんだ?
そんな疑問を抱きつつ、俺はムラタと五飛が無双する光景を眺める。
ちなみに刈り取る者は既に影に戻してる。
戦力として有能なのは間違いないが、現在俺の眼前で繰り広げられているように、ムラタと五飛がいれば戦力的な問題は全くない。
であれば、刈り取る者がいても……鳴上達に追いついた時、下手をしたら敵と認識されて攻撃されかねなかったし。
もしくは、雪子や里中が刈り取る者を見たら、それこそ即座に気絶をしてもおかしくはない。
だからこそ、刈り取る者を戻したのだ。
「アクセル、階段だ」
五飛が冷静に呟く言葉を聞くと、すぐに階段のある方に向かう。
そうして進んでいくと……
「いた……けど、あれは……」
幸いなことに、2階で鳴上達に追いつく事が出来た。
出来たのだが、そこではちょうど里中が自分の手の中に光るカードが降りてきているところだった。
少し前に見た事があるその光景に、素直に驚く。
何故ならそれは、TVの中の世界にあった稲羽署で堂島が自分のシャドウと戦い、最終的にそんな自分のシャドウを受け入れた結果、ペルソナ使いとして覚醒した光景そのままだったのだから。
つまりこれは、里中が自分のシャドウを倒し、ペルソナ使いとして覚醒したという事を意味してる……のか?
「あ、大センセークマ!」
目の前の光景に驚いている俺を見つけたクマが、そう声を上げる。
そんなクマの言葉に、鳴上と花村もこっちに視線を向け……微妙な表情を浮かべた。
それもそうか。
雪子の件は俺達に任せておけと言っていたのに、こうしてTVの中の世界にやって来たのだから。
そして何がどうなったのか分からなかったが、里中は堂島と同じくペルソナ使いとして覚醒したらしい。
堂島の時と同じだとすれば、里中のシャドウを倒して、里中が自分の中にある醜い心、あるいは自分でも自覚していない本心を受け入れたといったところか。
「色々と言いたい事はあるが、取りあえず無事でよかったな。雪子を助けに来て、何で里中がペルソナ使いに覚醒してるのかは分からないが」
そう言いつつも、恐らくという予想は出来る。
一般人……この場合はペルソナ使いではない者がこのTVの中の世界に入ると、恐らくは半ば強制的にその人物のシャドウが現れるのだろう。
そのシャドウを倒して、自分のシャドウを受け入れるとペルソナ使いとして覚醒する。
シャドウに負ければ恐らく死んで、自分のシャドウを受け入れなければペルソナ使いになれないといったところか。
とはいえ、その理屈で考えると俺やムラタ、五飛といった面々のシャドウが現れてもいいと思うんだが。
いや、俺の場合は人間じゃないから、シャドウが出て来なくてもおかしくはないけど。
……そもそも俺のシャドウが現れたら、一体どうなるんだろうな。
それこそラスボスどころか、裏ボス、隠しボスといったような強さを持っている可能性がある。
ニーズヘッグとか使われたら、最悪このTVの中の世界だけではなく、地球そのものが滅びてもおかしくはないと思う。
うん、そう考えると俺のシャドウが出て来ないのは助かったといったところか。
そしてムラタや五飛の場合、考えられるとすれば気を使えるようになっているからとか?
もしくは、ペルソナ世界の住人ではないからという可能性もあるか。
今のところペルソナ使いとして覚醒した人数は少ないので何とも言えないが、何となくそんな感じだと思う。
とはいえ、もし俺の予想が当たっていた場合、それはつまり誰でもペルソナ使いになれるという事を意味している。
花村の時は、花村だけが何か特別な存在なのかもしれないと思っていたが、堂島と里中といったように続けて二人が同じくペルソナ使いとして覚醒したのだから。
ある意味、このTVの中の世界はかなり便利な場所でもある。
もっとも、それはあくまでも自分のシャドウに勝ったり、それを受け入れたりしなければならないので、命懸けの行為なのは間違いない。
それでも美鶴達のペルソナのように、素質がなければ駄目というのではないのは大きい。
もっとも、今のところTVの中の世界でペルソナ使いとして覚醒しても、現実世界でペルソナを召喚出来ないという枷があるが。
それでも今回の件に限ってはペルソナ使いを量産出来るというのは大きな意味を持つ。
問題なのは、本当にペルソナ使いを量産出来るかどうかだが。
ペルソナ使いになろうとする者のシャドウを倒すのは、そんなに難しくはない。
それこそムラタや五飛は喜んで強敵と戦うだろうし、刈り取る者や狛治のように召喚してもいいし、何よりシャドウミラーの面々はそのような相手を敵にしても十分に倒せるだけの実力を持つ。
だが……この場合、問題なのは自分のシャドウを受け入れられるかどうかだろう。
普通に考えれば、自分の本音、もしくは自分でも思っていなかったような、心の奥底にある醜い部分を受け入れるのは簡単ではない。
今のところ全員が成功してるのは、一種の偶然に等しいのだから。
「えっと、その……助けに来てくれたんですよね? ありがとうございます」
花村が俺達に向かって頭を下げる。
それに続いて、鳴上も頭を下げた。
里中は……疲れからか、ぼうっとしてるな。
この辺りは堂島と違う。
堂島はペルソナ使いとして覚醒をした後、疲れてはいたが、それでもまだ普通に行動出来た。
だが、里中はとてもではないが普通に行動出来るようには思えない。
この辺は元々持っていた体力の差か?
里中も運動は得意そうだったが、刑事……しかも短期間とはいえ、五飛に鍛えられている堂島とは比べものにならないのだろう。
「まさかジュネスの防犯カメラにお前達が映るとは思わなかったよ。しかも学校をサボって」
「って、え? ちょっ、今何て? 何でジュネスの防犯カメラの映像を!?」
花村にしてみれば、俺の言葉は完全に予想外だったのだろう。
もっとも花村の父親はジュネスの店長だ。
そう考えると、今の件を疑問に思っても仕方がないのかもしれない。
とはいえ、花村の父親は恐らくその件について知っている。
マヨナカテレビとか、TVの中の世界とかについては知らないだろうが、足立という元刑事が逃げたのを見つける為だとか、あるいは警視庁からの特殊な要請だとか、もしくは桐条グループからの要請だとか……理由はちょっと分からないものの、それでも防犯カメラの映像がこっちに流れているのも知ってる筈だ。
「このジュネスは稲羽市の中でも一番大きな商業施設だ。そうなると多くの人が集まる。そう考えれば納得出来ると思うが?」
「う、それは……」
「ああ、ちなみにお前の父親、ジュネスの店長はこの件について知ってる筈だ。ハッキングとかそういうので映像を横から盗み見してる訳じゃないから安心しろ」
「それなら……まぁ」
完全にではないにしろ、花村も納得した様子を見せる。
これで花村が暴れるような事はないので、安心して里中の件について話す。
「里中もこれ以上TVの中の世界で活動するのは無理のようだし、一度TVの中の世界を出るぞ」
「分かりました」
里中の事は心配だったのか、花村も俺のその言葉には反論しない。
ただし……
「ちょ……ちょっと待って……まだ雪子が……」
疲れ切り、身体を動かすのも辛そうな様子の里中だったが、それでもTVの中の世界から出るという言葉には反論する。
「落ち着け。今のお前の状態でどうにか出来ると思ってるのか?」
「それは……でも、雪子が!」
「分かってる。けど、今のお前が行ったところで足手纏いだ。それに……多分だが、まだ大丈夫だとは思う」
これは何の証拠もなく言ってる事ではない。
あくまでも前例としては山野真由美しかいないが、その山野真由美は天城屋旅館で行方不明になってから実際に殺されるまでそれなりに時間差があった。
……勿論、実は殺された後で暫くしてから死体をTVの中の世界から現実世界に移したといった可能性もあるので、絶対ではない。
絶対ではないが、それでもある程度の時間の余裕がある可能性があるのも事実。
その辺まで言うと、里中が現実世界に戻るのを拒否すると思うので言わないが。
「じゃあ……じゃあ、アクセルさんが雪子を助けてよ!」
「俺も最初はそれがいいかと思ったんだが、多分……本当に多分だが、俺が行くと雪子を救うのは難しいと思う」
これもまた、堂島の時の様子を見ての感想だ。
堂島は結局自分のシャドウを自分の判断だけで受け入れた。
だが、雪子はどうか。
これは別に雪子の心が弱いと言ってる訳ではない。
いやまぁ、実際雪子が精神的にタフかと言われれば、素直に頷く事は出来ないが。
とにかく雪子が自分だけでシャドウを受け入れられるかと言われれば、俺は恐らく難しいと答える。
なら、どうするか。
一番簡単で効果も高いのは、やはり自分と親しい相手が一緒にいる事だろう。
つまり、小さい頃からの親友だという里中だ。
しかし今はその里中がとてもではないがまともに動けない。
そして里中以上に雪子と親しい者がいない以上、結果としてもし俺が雪子のいる場所に行っても助けるのは難しいという事になる。
何だかんだと、俺もそれなりに雪子とは親しいとは思う。
思うが、だからといって小さい頃からの親友の里中より親しいかと言われれば、即座に首を横に振るだろう。
恐らくだが、俺は雪子にとって少し親しい相手といったくらいの認識なんだと思う。
そんな思いを隠しつつ、里中の方を見ると……
「分かった」
悔しそうに、本当に悔しそうにしながらも、里中は一度TVの中の世界から出る事に同意するのだった。