転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3667話

 里中が一度現実世界に戻る事を了承したので、俺達は早速行動に移る。

 五飛は事情を知って納得していたものの、ムラタは完全に納得をした様子はなかったが。

 ムラタにしてみれば、出来れば自分だけでも先に進みたいと思ったのだろう。

 とはいえ、それでも最終的には大人しくこちらの指示に従ったが。

 

「えっとその……恥ずかしいんですけど……」

 

 俺の腕の中で里中がそんな風に言う。

 顔が赤く染まっているのは、本人の言葉通り恥ずかしいからだろう。

 その理由は、里中の状況にあった。

 現在の里中は俺の腕の中にいるのだ。

 俗に言う、お姫様抱っこだな。

 里中が元気な状態なら、お姫様抱っこではなくお米様抱っこ……肩に担いだり、あるいはおんぶといった手段もあった。

 だが、今の里中は極端に体力を消耗しているし、ペルソナ使いになったばかりで精神的にも決して万全の状態ではない。

 そうである以上、横抱き……今のお姫様抱っこが最善の状況なのは間違いなかった。

 

「恥ずかしいかもしれないが、今の里中を運ぶのは俺が一番いい」

 

 里中は小柄ではあるものの、それでも人である以上相応の重量はある。

 例えば鳴上や花村が里中を連れていく場合、肩を貸して移動するといった手段になるだろう。

 それでも移動は出来るが、結局消耗している里中を歩かせる事になるのは間違いないし、何よりそのような状況ではどうしても移動するのに時間が掛かる。

 かといって、鳴上と花村もここまでの戦いで相応に体力を消費しており、小柄な里中であっても運ぶのは大変だ。

 なら、ムラタと五飛はどうかとなると、ムラタは当然のように却下だろう。

 五飛もまた、里中とはこれが初めて会う以上、頼みにくいのも事実。……それ以前に、五飛の性格を考えると引き受けるとは思えないが。

 ムラタとは違い、本当にどうしようもない手段となった場合は里中を運ぶかもしれないが、鳴上と花村、そして俺がいる時点で五飛が運ぶ様子はない。

 残るはクマだが……こっちに追いつくのが精一杯なので、こっちも無理だ。

 

「それはそうだけど……ほら、ちょ、ちょっとその……汗が……」

 

 自分の汗臭さについて気にする里中だが、こういうのを見ると里中も女なんだなと納得出来る。

 とはいえ、里中本人が気にする程に臭いという訳ではない。

 鳴上達から聞いた話によると、TVの中の世界に入ってから里中は雪子を求めて半ば暴走していたらしいし。

 具体的に俺達が鳴上達からどのくらい遅れてTVの中の世界に入ったのかは分からないが、その間ずっと里中が暴走していたと考えると、多少は汗臭くなってもおかしくはない。

 とはいえ、実際にはそんなに汗臭いという訳でもないのだが。

 勿論、全く何の臭いもしない訳ではない。

 それなりに汗の臭いがするのは事実なのだから。

 こうして戦っている以上、そのような状況になるのは当然であり、そういう意味では特に気にする事もないと思う。

 もっとも、世の中には色々な性癖の持ち主がいる。

 女子高生の汗の臭いに興奮するといったような奴にしてみれば、今の俺の状況はご褒美と言ってもいいのかもしれないが、俺にとっては特にそこまでご褒美という訳でもない。

 ……まぁ、汗の臭いはともかく、里中は小柄で運動によってそれなりに引き締まった身体をしているものの、女らしい柔らかさは十分にあるので、そっちの方はご褒美かもしれないが。

 

「汗については気にするな。ここから出たら天城屋旅館に向かうから、温泉にでも入ればいい」

「え? 何で?」

 

 素の様子でそう尋ねる里中。

 自分がこの状況で何故天城屋旅館に行くのか、本当に理解していないのだろう。

 

「ペルソナ使いとして覚醒した以上、話は聞いておいた方がいい。それに雪子を助ける為にも、こっちと連絡はしておけ。……ちなみに、今更言っても仕方がないが、俺達もきちんと雪子を助ける為にTVの中の世界の探索をしていたんだぞ?」

「……え?」

 

 予想外といった様子の里中。

 まさか俺達が動くとは思っていなかったのか?

 いや、考えてみればそうおかしな話でもないか。

 里中にしてみれば、俺達……正確にはシャドウワーカーというのは理解出来ない集団だろう。

 それこそ山野真由美の殺人事件に協力している外部組織といった認識であってもおかしくはない。

 そして鳴上達の様子を見る限り、里中はTVの中の世界とかその辺についてはそこまで詳しくないように思えた。

 だからこそ、俺の話を聞いて困惑してるのだろう。

 鳴上や花村がこっちの事情の諸々について話してるかと思ったんだが、どうやらそうでもないらしい。

 あるいは雪子の件でそんな話に耳を傾けている余裕がなかったのかもしれないが。

 

「現在稲羽市で起こっている事件については、事情がかなり複雑になる。けど、里中も巻き込まれた以上はしっかりと話を聞いておいた方がいい。それが雪子を助ける事に繋がるかもしれないしな」

 

 そう言うと、里中は真剣な表情で俺を見てくる。

 自分の現在の状況がどうとかよりも、今はまず雪子を助けるのが最優先だという事なのだろう。

 俺は別にそこまで里中と親しい訳じゃない。

 雪子と一緒にいる時に少し話をした程度だ。

 それでも里中と雪子の間に強い結びつきがあるのは理解出来た。

 だからこそ、こうして里中は絶対に雪子を助けると決断してるのだろう。

 ……もっとも、それだけに堂島は色々とやりにくいだろうな。

 何しろ今回の一件を行っているのは、堂島の元相棒の足立だ。

 雪子をTVの中の世界に引きずり込んだのも、足立でほぼ間違いないだろう。

 疑問なのは、どうやってそれをやったかだ。

 普通に考えれば、天城屋旅館のTVから出て来て雪子をTVの中の世界に連れ込んだという事だろうが……ぶっちゃけ、俺、ムラタ、五飛、美鶴といった面々がいる中でそんな事が出来るかどうか。

 勿論、天城屋旅館の気配を完全に察知してる訳ではないので、そういう事が出来る可能性が全くないのかと言われれば、それは否なのだが。

 しかしそれでも、個人的な意見としては難しいと思わざるを得ない。

 これが日中なら、どこかに出掛けた時に連れ去られたのかと思うが……あ、いや。雪子がいなくなったと判明したのがマヨナカテレビに映った時で、実際にいついなくなったのかは分からないのか。

 とはいえ、夕方くらいには雪子が働いてるのを旅館の従業員達も見掛けているという話だし。

 雪子の性格を考えると、夜遊びをするようには思えない。

 何だかんだと真面目な性格をしているので、旅館の仕事をサボっていなくなるという事はないだろう。

 旅館の仕事は1日中忙しいらしいが、それでもやはり夜……というか、夕方から夜に掛けてが食事の用意とかそういうので忙しいのだから。

 それでもまだゴールデンウィーク前なので、そこまで忙しくはないだろうし、大広間をシャドウワーカーが借りてるので、大規模な宴会で忙しいとか、そういう事にはならない。

 そういう意味では、忙しいのは間違いないが、本当の意味で忙しい時よりは大分マシだろう。

 ……山野真由美の件があった以上、今年のゴールデンウィークもそこまで忙しくなるかどうかは微妙なところだが。

 

「それで、雪子は……私達と会わなかったって事は、助けられなかったのよね」

「そうなるな。そもそも、お前達はどうやって雪子の場所を見つけたんだ? 俺達はTVの中の世界で雪子を捜していたけど、全く見つからず……代わりに稲羽署を見つけたが」

「え?」

 

 俺の言葉にそう声を上げたのは、鳴上だ。

 稲羽署は自分の叔父が働いている場所だし、気になって当然だよな。

 

「そうだな、後で驚かないように今のうちに言っておくか。……堂島もペルソナ使いとして覚醒したぞ」

「ええっ!?」

 

 何故か鳴上ではなく花村が驚きの声を上げる。

 ペルソナ使いとして覚醒するのは自分達だけだと思っていたのか、それとも鳴上の叔父という立場にある者がペルソナ使いとして覚醒したのに驚いたのか。

 その辺りは生憎と俺にも分からない。

 分からないが、それでも今の状況を思えば花村が驚きを露わにするのも分からないではない。

 

「多分だが、このTVの中の世界で自分のシャドウを倒して、それで受け入れれば、素質も何も関係なく、誰でもペルソナ使いとして覚醒するんだろうな」

「いや、シャドウを倒して受け入れるって時点で難易度が高いんですけど」

 

 花村のその言葉に、鳴上と俺の腕の中にいる里中も頷く。

 普通はそうか。

 堂島の場合は、短いとはいえ五飛との戦闘訓練を行っており、シャドウとも何度も戦い、そして美鶴のペルソナ、アルテミシアの回復魔法があったからこそ自分のシャドウ……水のゴーレムに勝利出来たんだ。

 また、堂島本人が意識してたのかどうかは分からないが、本当にいざとなれば俺達がすぐ助けに入るというのもあっただろう。

 その辺の状況を考えると、やはり堂島は自分のシャドウと戦う際には恵まれた……それこそこれ以上ないくらいに恵まれていたのは間違いない。

 とはいえ、それはあくまでも自分のシャドウを倒すところまでだ。

 シャドウを受け入れるのは、堂島だけの力でやらなければならなかった。

 

「その辺は仲間の力を借りる必要があるんだろうな。堂島がシャドウを倒した時も、直接手を貸した訳じゃなかったが、それでも美鶴が回復したりしてたし」

 

 そうしているうちに、やがてジュネスの家電売り場と繋がっているスタジオに戻ってくる。

 足立がいないかどうか念入りにチェックをするものの、残念ながら……あるいは幸運な事にか? ともあれ、ここに足立の姿はない。

 

「じゃあ、外に送るクマよ」

 

 クマによって俺達はTVの中の世界から出る。

 ……そう言えば、本当に今更の話だがクマは基本的にあのスタジオにいるんだよな? だとすれば、足立がジュネスに来る時とか、遭遇する可能性もあるのか。

 足立がペルソナ使いとして覚醒してるかどうかは、正直なところ分からない。

 まぁ、小ボスか中ボスといった扱いだろうし、そう考えるとペルソナ使いとして覚醒しているのは間違いないんだろうけど。

 とにかくそんな訳で、足立が来るかもしれないのならクマは危険だな。

 まぁ、足立にとってもクマを見て俺達の仲間だとは気が付かないと思うけど。

 俺達……寄り正確には、鳴上達がTVの中の世界で活動しているのを、何らかの手段で観察していたりすれば話は別だが。

 ただし、取りあえず今この時は足立がこっちを観察したりといった事はしていないと思う。

 俺、ムラタ、五飛の3人がいれば、何らかの手段でこっちを観察していれば分かるだろうし。

 もし万が一……本当に万が一の可能性だが、俺達に何も感じさせずにこっちを観察する方法があったらどうしようもないが。

 普通ならそんな事を心配する必要はないのだが、TVの中の世界についてはまだ分かっていない事も多い。

 タルタロスの時と同じようなところもあるが、違う場所もある。

 それこそ総合的に見た場合、似て非なる存在なのがタルタロスとTVの中の世界だ。

 つまり俺達にとってまだ判断出来ない何かがある可能性は十分にあるのだ。

 その辺をはっきりさせるには、それこそTVの中の世界をもっとしっかりと調べる必要があるのだが……それはそれで難しいのも事実。

 以前みたいにレモンが来てくれれば調査も進むんだろうが。

 

「えっと、その……アクセルさん。そろそろ下ろしてくれると……さすがにこのままだと恥ずかしいんだけど」

 

 TVの中の世界について考えていると、そんな声が聞こえてくる。

 声のした方に視線を向けると、そこにいたのは里中。

 TVの中の世界の時と変わらず、俺にお姫様抱っこをされていた。

 ここが人目のない場所ならともかく、稲羽市の中で一番大きな商業施設のジュネスだ。

 不幸中の幸いと言うべきか、俺達がTVの中の世界から出て来る光景は見られていなかったようだが、今は違う。

 このタイミングでこの近くにやって来た客がいたらしく、目を大きく開けてこっちを見ていた。

 無理もないか。

 まさかジュネスの家電売り場でお姫様抱っこをしているような光景を見るとは、夢にも思っていなかっただろうし。

 あるいはこれで里中が嫌がっていれば、俺が無理矢理そのような行為をしていると思ったかもしれないが、幸か不幸か里中は恥ずかしがってはいても嫌がってはいない。

 

「分かった。悪かったな」

「いえ、そんな。寧ろ私の方がその……アクセルさんに迷惑を掛けてしまって」

「お? 里中が何だかお淑やかだな。これってもしかしてもしかするんじゃないか?」

「ちょやあっ!」

「ぐふぅ!」

 

 からかうように言った花村だったが、次の瞬間には里中の蹴りを食らって床に崩れ落ちる。

 吹き飛ぶような事はなかったが、それが里中の蹴りの威力を表していた。

 とはいえ、今の里中はただでさえ体力を消耗しているのだ。

 蹴りを放った後、かなり疲れた様子を見せる。

 

「ほら、その辺りにして……そろそろ天城屋旅館に行くぞ」

 

 俺の言葉に、里中を含めた他の面々はそれぞれ頷く。

 ……床に倒れ込んでいた花村も、弱々しく返事をするのだった。

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