転生とらぶる2   作:青竹(移住)

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3670話

 神社での暇潰しは結局夕方近くまで行われた。

 とはいえ、神社にいた野生動物と思しき存在は見ることが出来なかったが。

 それでも空間倉庫から取り出した雑誌を読んだりしていると、時間はあっというまに流れた。

 春だけに、神社の中が快適な状況であったことも、時間を潰すのに有用だったのだろう。

 夕方になった今なら、既に堂島の説教も終わっている筈だし。

 説教は聞いていて面白いものでもないしな。

 そういえばどこで読んだ漫画だったか忘れたが、小学生が親戚の家に遊びに行った時に酢豚を出されたものの、そこにパイナップルが入っていて食べたくないと言ったら帰りに車の中で説教されたというのがあったな。

 酢豚にパイナップルというのは、それなりに評価が分かれるところだ。

 唐揚げにレモンを掛けるかどうか、焼き鳥を串から抜いて食べるか、キノコとタケノコのどっち派か……それらの騒動と同じような規模の話だろう。

 ちなみに俺にしてみれば、酢豚にパイナップはあり派だ。

 ただ、今だからこそ……味覚が成長して、それこそ生ハムメロンとかでも美味いと思えるようになったからこそ、酢豚にパイナップルはありだと思うが、子供に……味覚がまだ発達していない子供にしてみれば、酢豚にパイナップルは嫌だと騒いでもおかしくはないと思うが。

 ともあれ、説教をするのなら人に見えない場所でやるというのは、悪くないと思う。

 そういう意味では、堂島が大広間で説教をしていたのは色々と問題があるな。

 あるいは堂島にとっても人に見られないとか、そういう事を考えている余裕はなかったのかもしれないが。

 そんな風に考えつつ、俺は影のゲートで天城屋旅館に戻る。

 大広間に向かう途中で何人かの従業員に会ったが、表情に出さないようにはしているものの、そこには心配そうな色がある。

 雪子が行方不明になったのが心配なのだろう。

 雪子の性格から考えて、従業員に可愛がられていたのは間違いないし。

 明日には雪子をTVの中から助け出したいところだな。

 

「アクセルさん……見捨てたわね」

 

 大広間に向かう途中、自販機のある休憩所の前を通るとソファに座っていた里中が恨めしげに視線を向けてくる。

 里中がここにいるという事は、説教はもう終わったのだろう。

 

「見捨てたも何も、堂島に怒られるような事をしたのはお前だろう?」

 

 というか、ぶっちゃけ里中が主犯で鳴上と花村は巻き込まれた形だ。

 話を聞いた限りだと、鳴上や花村は俺達に任せた方がいいと言ったのに、里中が自分で助けると半ば暴走し、鳴上達はそれに引っ張られた形だったのだから。

 鳴上達にとっても、ペルソナ能力に覚醒してる訳でもない里中をTVの中の世界に1人で行かせるのは不味いと思い、一緒に行く事にしたのだろう。

 つまり、里中が暴走してなければ鳴上達が堂島に怒られる事はなかった訳だ。

 もっとも、里中にとって小さい頃からの親友である雪子が足立に捕らえられたのだ。

 暴走するなという方が無理だし、そうして暴走したからペルソナ使いとして覚醒した一面もあるのだろう。

 そう考えると、里中を一概に責める訳にもいかないんだよな。

 ……何より、俺から見れば恐らくこれが原作通りの展開だろうというのもある。

 恐らくこの事件の原作でも雪子は見えないトコまで勝負仕様のまま、逆ナン雪子としてマヨナカテレビに映っていたのだろう。

 そして親友の里中はそれを助ける為にTVの中の世界に行き、ペルソナ使いとして覚醒していた。

 絶対にそうだとは断言出来ないものの、それでも恐らくその流れは間違いないと思う。

 

「むぅ……それはそうですけど」

「それで里中は今日はここに泊まる事にしたのか?」

 

 里中の不満そうな様子を見て、話を逸らす。

 すると里中はそんな俺の狙いに気が付いた様子もなく、素直に頷く。

 

「そのつもりです。家族が狙われるかもしれないと聞かされると、さすがにちょっと」

「賢明な判断だと思うぞ」

 

 取りあえずそう言っておく。

 実際には、家族が稲羽市にいる以上はどうしても足立に狙われる可能性は否定出来ない。

 否定出来ないが、それでも里中の家族の仕事を考えると早紀の家族のように出来ないのも事実なんだよな。

 

「それに、家の方には一応護衛を付けてくれるらしいから、安心だし」

「不審者は近付く事も出来ないだろうな」

 

 そう返しつつも、色々と不安はある。

 そもそも護衛は一応と里中が言ってるように、決して厳重な護衛ではない。

 まだ話を聞いてないので分からないが、多分家の中で里中の家族を護衛する訳ではなく、家の外にある車か何かに乗って待機しており、それで何かあったら家の中に突入するといったような感じの可能性の方が高いと思う。

 そうなると、里中の家に大型TV……それこそ人が出入り出来るような大きさのTVがあった場合、そこから足立が出て来た時に外の護衛が対処をするのは非常に難しいという問題がある。

 また、それを抜きにしても……稲羽署というのは結局のところ地方にある警察署だ。

 東京のような人の多い場所にある警察署ではない以上、どうしても稲羽署にいる刑事や警察官の数は少なくなってしまう。

 そんな稲羽署では、現在通常の業務を行いつつ足立が頻繁に出入りしているジュネスに多数の刑事や警察官を私服で派遣しており、花村の両親の護衛も行っている。

 その上で、街中に足立が現れないかと捜索したり、あるいは足立の目撃情報を集めたりしている訳で……うん、稲羽署って現在どうなってるんだろうな?

 あるいは警視庁や県警辺りから人が派遣されてるのかもしれない。

 もしくは近隣の警察署から応援を求めてるとか?

 とはいえ、どこから応援を求めるにしても警視庁以外ではシャドウ関係についての情報とかTVの中の世界とか、シャドウワーカーとか……普通ならとてもではないが信じられない事を信じる必要があり、それによって県警や近隣の警察署にも情報が流れる可能性が高い。

 そうして一旦情報が流れてしまえば、それに対処するのは非常に難しいだろう。

 警察官や刑事達も一応分類的には公務員という事になり、その辺を突けば情報の漏洩は防げるか?

 いや、けど足立の例を見れば分かるように、公務員の中にも犯罪者となるべき者は多い。

 それは日々のニュースを見ていれば明らかだろう。

 他にも『ここだけの話だが』といったように言って、自分だけが知ってる情報を知らない相手に話すといった優越感に抗えない者は多い。

 その辺を考えると、地方で起きた今回の事件は色々と……本当に色々と面倒が多くなりそうだ。

 もっとも、その面倒を引き受けるのは別に俺じゃないんだが。

 それこそ警視庁であったり……後はそうだな。桐条グループの方でも手を回す必要が出てくるかもしれない。

 その辺はこのペルソナ世界の者達に頑張って貰うとしよう。

 

「ともあれ、里中は今日ペルソナ使いとして覚醒したばかりなんだ。温泉に入ってある程度疲れも癒えたかもしれないが、自分でも気が付かない場所が疲労している可能性はある。それに明日は雪子を助けに行くんだし、とにかく今日はゆっくりと休め」

「分かってるけど……でも、この時間から寝たりは出来ないわよ?」

 

 そう言い、里中は窓に視線を向ける。

 そこでは夕焼けでオレンジ色に染まっている空があった。

 時間的にはもう夕方だ。

 それだけに、今からすぐに寝ろと言われても、里中も数時間程度で起きてしまうだろう。

 ……あるいはペルソナ使いとして覚醒した疲れで、自分でも気が付かないうちに明日までぐっすりと眠るという可能性も十分にあったが。

 こうして里中の様子を見ていると、そんな事になるようには見えなかったが。

 

「今はそうかもしれないけど、寝ようと思えばすぐに眠れるかもしれない。ともあれ、夕食を食べたらもう一度温泉に入って、そのまま眠った方がいい。自分なら大丈夫だと考えて、その結果として実際に雪子を助けに行った時、万全の体調ではないせいで雪子を助けられなかった……なんて事になったら、後悔するだろう?」

「それは……」

 

 俺が口にしたのは、実際には起こらないだろう可能性だ。

 もし里中が駄目でも、俺達がいる。

 美鶴やムラタ、五飛といった面々がいて、鳴上や花村、堂島もいる。

 そう考えれば雪子を助けられないという選択肢はまずないだろう。

 勿論、それも絶対という訳ではない。

 場合によっては、足立が先手を打つ可能性も否定は出来ないのだから。

 俺達が今日雪子のいる場所に行った以上、そう簡単に足立がちょっかいを出すとは思えない。

 思えないが、それもまた絶対ではない。

 

「分かったわ。今日は無理にでもゆっくり休むとするから」

 

 そう言う里中に頷き、俺は休憩所を後にする。

 続いて向かったのは、大広間。

 何だかんだとこの大広間が拠点というか集まる場所になってるので、そういう意味ではここに集まるのはおかしな話ではない。

 

「アクセル、戻ってきたか。どこに行っていた?」

「ちょっと商店街の方にな。辰姫神社って神社があったから、そこに行ってきた」

「ああ、あの……」

 

 俺の言葉に納得した様子を見せる美鶴。

 どうやら辰姫神社については知っていたらしい。

 いやまぁ、俺も商店街にはそれなりに行くので、神社があるというのは知っていたが。

 ただ、それがどういう神社なのかというのは知らなかったし、今まで行ってみた事もなかったのは事実だ。

 

「静かな場所だっただろう?」

「ああ。野生動物とかがいたみたいだったな。どういう動物かは確認しなかったが。東京の神社とかとは違うな」

「いや、東京の神社にも野生動物はそれなりにいるぞ? TV番組では、ハクビシンや狸がいるのを紹介していたし」

「……狸ときたら、普通は狐じゃないのか? 何でハクビシン?」

「それを私に言われてもな。ちなみに狸は狸だが、アクセルが想像しているような狸ではないな。かなり毛が少なく、一見すると犬のようにも見えた」

「狸か、それ?」

「野生動物の専門家が狸と言っていたのだから、狸なのだろう。それはともかくとして、アクセルも今日はゆっくりと休んでくれ。明日にはTVの中の世界に行くからな」

 

 まさか俺が里中に言った事を美鶴に言われるとは思っていなかった。

 とはいえ、ゆっくりと休むのは俺にとっても悪い話じゃない。

 正直なところを言わせて貰えば、それこそ休むのではなく美鶴との熱い夜を楽しみたいところだが、そうなると美鶴が明日戦力にならないだろうし、何よりこの事件の最中はそういう行為をしないと美鶴も言ってたしな。

 もっとも、本気で迫れば美鶴も素直に抱かれるとは思うが。

 何気に美鶴はそういうのが好きだし。

 とはいえ、明日の戦力にならないのは困る。

 今のところ回復魔法を使えるのは美鶴のアルテミシアだけだし。

 あるいは鳴上なら複数のペルソナを使えるので、回復魔法を使えるかもしれないが。

 ただ、どのみちアルテミシアのように強力な回復魔法を習得してる訳じゃないしな。

 

「分かってる、俺も明日に備えてゆっくりと寝るよ。……その前に、夕食を楽しみたいところだが、どうだろうな」

「天城屋旅館も客商売だ。色々と不安はあるだろうが、それでも料理はしっかりと用意するだろう」

 

 雪子は天城屋旅館の従業員に可愛がられていた。

 そうして可愛がっていた中には、厨房の料理人達も含まれていただろう。

 雪子が行方不明になっている今の状況で、いつも通りの美味い料理を作れるか。

 実際、今日の朝食は美味いのは間違いなかったが、それでも雪子が行方不明になる前と比べると、明らかに味が落ちていた。

 朝から夕方までの時間である程度落ち着いてくれていたら、楽なんだけどな。

 もっとも、一般人にそういうのを期待する方が間違ってるかもしれないが。

 

「だといいけどな。とにかく、俺は夕方までゆっくりしてるよ。……温泉にでも入ってくる」

「そうするといい。今はまだシーズン前で客もそう多くないから、温泉をゆっくりと堪能出来るだろう」

「この時間なら、それなりに温泉に入ってる奴も多そうだけどな」

 

 基本的に、温泉に入りに来た客というのは1日に何度も温泉に入る。

 であれば、夕方の今……ちょうど夕食前というのは、風呂に入ろうと思う者がいてもおかしくはない。

 とはいえ、天城屋旅館の温泉はそれなりの広さがある。

 数十人も入っていればまだしも、数人程度なら普通に温泉を楽しむ事は出来る。

 とはいえ、それでもやっぱりどうせなら自分だけで温泉に入って借し切り状態を楽しみたいとは思うけど。

 美鶴との話を終えてから、大広間を出て部屋に戻って着替えとかを持って温泉に向かう。

 途中で自販機のある休憩所に寄ってみたが、そこにはもう里中の姿はなかった。

 俺のアドバイスに従い、食事を終えたらゆっくり休もうと思ってその準備をしてるのだろう。……休む為の準備というのがどういうのかは分からないが。

 里中を探しても特に何か話さないといけない事がある訳でもなし……俺はそのまま温泉に向かうのだった。

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