目の前にある扉を開ける。
すると……
「いたな」
部屋の中には、馬に乗った騎士とでも呼ぶべきシャドウの姿があった。
実際には馬ではなく、馬の形をした鎧? か何かの上にこちらも人の形をした鎧だけが浮いているといったような感じだった。
リビングメイルとかそんな感じか?
幸いというか、扉を開けただけでまだ中に入っていないからから、部屋の中にいるシャドウがこっちに攻撃をしてくる様子はない。
恐らくだが、この部屋に入る事によって、初めてシャドウが攻撃してくるのだろう。
「あ、あれは……」
堂島が日本刀を手に、声を震わせて言う。
俺達……より正確にはシャドウミラー組や美鶴にしてみれば、あのシャドウは決して強敵ではない。
それこそ、この階層で出て来た他のシャドウの強さと対して違わない程度の強さしかないだろう。
だが、それはあくまでも俺達……強敵との戦いに慣れている者にしてみればの話だ。
鳴上を始めとした他の面々にしてみれば、明らかに今まで戦ってきたシャドウの中でも最強の存在だろう。
「堂島、お前達で倒せ。今は少しでも強くなる必要がある」
「……は? あれを、俺達だけで倒せだって? 本気か?」
「本気だ。これから先の事を考えると、ああいう強敵にも勝てるだけの力を身に付ける必要がある。それとも……足立を捕らえるのを諦めるか?」
そう言うと、堂島は真剣な表情を浮かべる。
ある意味で分かりやすいというか、何というか。
ただ、個人的にはあの騎士のシャドウは強そうではあるが、堂島が自分のシャドウと戦った時と比べれば大分マシなような気がするんだが。
具体的には、堂島がペルソナを使えるようになっている点や、鳴上達がいるのが大きい。
また、堂島のシャドウと戦った時と同じく、回復役を美鶴に任せられるというのも大きいだろう。
そう考えれば、このシャドウと戦う事は間違いなく以前よりも楽な筈だ。
「それに……」
そこで俺は、堂島から里中に視線を向ける。
え? ここで私? といった驚きの表情を浮かべる里中。
そんな里中に、空いた扉の先に存在するシャドウを見ながら口を開く。
「あのシャドウは、見るからにその辺の雑魚じゃない。ここで戦ってきた他のシャドウと比べると、明らかに格上だ。つまり、それは言い換えると……ボスの可能性がある」
「っ!?」
ボスという言葉で里中は俺が何を言いたいのか理解したのだろう。
数秒前の戸惑ったものではなく、真剣な表情を浮かべる。
「じゃあ、あのシャドウを倒せば、雪子は助かるの!?」
「分からない。まだここがこの建物の最後の場所と決まった訳じゃないしな。ただし、俺の経験から考えると、あのシャドウは倒した方がいいと思う」
この世界の原作……それこそ、ニュクスの一件も含めてペルソナ世界の原作がゲームであったら、途中に存在する小ボスを倒していくのは必須になっていてもおかしくはない。
もっとも、ゲームの中にはボスを倒さずスルーして先に進めたりもするが……そのようなゲームはそう多くはない。
明らかにこっちを待ち受けている敵である以上、ここで倒さないという選択肢はない。
「分かった……やるぞ」
堂島が最初にやる気を見せる。
年長者というのも、この場合は影響してるのだろう。
警察というのも影響してるのかもしれない。
とにかく堂島がそう言うと、鳴上達も覚悟を決めたのか頷く。
……里中の場合、覚悟を決めたどころか、今すぐにでもシャドウに向かって突っ込みそうになっていたが。
雪子を助ける為にこのシャドウを倒さないといけないというのが、里中にやる気を与えるには十分な言葉だったのだろう。
もっとも、それで暴走されても困るのも事実だが……その辺は鳴上達に頑張って貰うとしよう。
「ふん」
「落ち着け」
不機嫌そうなムラタにそう声を掛ける。
ムラタにしてみれば、自分が戦ってもいいと思えるような、今までの雑魚のシャドウとは違う敵が出て来たのに、それを自分が戦うのではなく鳴上達に譲れと言われたのだ。
強敵との戦いを求めてペルソナ世界にやってきたムラタにしてみれば、面白くないのは分かる。分かるが……ここで鳴上達を鍛える必要があるのも事実。
ボスをムラタが倒して、その結果として鳴上達が力不足で雪子を助けられないという事になるのは避けたい。
「アクセルが言いたい事は分かっている。だが、アクセルの理屈で考えると、強敵は全て堂島達が倒す事になり、俺は強敵と戦えないんじゃないか?」
「今のところはそんな感じになりそうだな。もっとも、事件が進めば……足立を捕らえる事が出来ないままなら、事態はもっと混乱する。そうなれば、出てくるシャドウも強い個体が増えると思う」
これはあくまでも俺の予想なのだが、タルタロスの件や、何よりこのペルソナ世界に原作……それも恐らくゲームが原作となってる世界だけに、そんなに間違いではないと思う。
ただ、早い段階で足立を捕らえると……いや、足立は小ボスが中ボスといった存在なのだろうから、もし捕らえても本当のラスボスがいる以上はまだマヨナカテレビの一件は終わらないかもしれないな。
「……そうか」
俺の言葉に納得したのか、もしくはこれ以上ここで不満を口にしても仕方がないと判断したのか、とにかくムラタはある程度不満そうな様子を抑える。
「えっと……その、もう戦いを挑んでいいんですかね?」
俺とムラタの会話を聞いていたのか、恐る恐るといった様子で花村が尋ねてくる。
花村にしてみれば、俺とムラタの会話には色々と思うところがあったらしい。
もしくは、ムラタの戦闘狂ぶりが怖かったのか。
「ああ、構わない。ダメージについては……美鶴」
「うむ。私も一応戦いに参加するので、回復については任せて欲しい。だが、あくまでも私が行うのは回復のみだ。あのシャドウについては、君達に自力で戦って貰う」
美鶴の言葉に、里中が真っ先に頷く。
雪子を助ける為である以上、とにかく部屋の中にいるシャドウを倒さないといけないので、張り切って……いや、半ば暴走に近い? とにかくやる気満々なのは間違いない。
「話は決まったようだな。じゃあ、行くぞ」
日本刀を手に堂島が言う。
そんな堂島の言葉に戦いに参加する者が全員頷き……完全に扉を開けて、部屋の中に入る。
それを見たシャドウは、すぐに襲い掛かってきた。
にしても、あの面子の中では完全に堂島が仕切ってるな。
年齢とかを考えると、堂島が仕切るのはそうおかしな話ではない。
話ではないが、それでも鳴上が主人公なのに、このままの流れで進んで大丈夫か? と思わないでもなかった。
ただ、ニュクスの件でも主人公の有里は特別課外活動部のリーダーだった訳ではない。
リーダーは美鶴だった事を考えると、鳴上が仕切っていなくても別におかしな事ではないのか。
「勝てると思うか?」
「勝つクマよ!」
五飛の言葉に俺よりも先に反応したのは、クマだ。
クマにしてみれば、鳴上達は信頼すべき仲間なのだろう。
だからこそ、あの騎士のシャドウを見て少し振るえつつも、そう断言する。
五飛はそんなクマの様子を一瞥すると、小さく頷く。
「そうか」
クマの様子に、五飛も何か思うところがあったのだろう。
それ以上は何も言わず、戦闘を見守る。
戦闘については、最初こそ騎士の……というか、馬――鎧だけだが――の走る速度に戸惑っていたものの、堂島のワダツミが速度を活かした騎士の攻撃を防ぐと同時に、他の面々がシャドウで攻撃する。
堂島のワダツミは、水で出来たゴーレムが鎧を身に纏っているような存在だ。
それだけに速度は決して速くはないが、防御力はかなり高い。
ゲーム風に言えば、完全にタンクの役割だな。
「ペルソナ!」
鳴上がペルソナを召喚する。
現れたのは……
「スライム?」
それをスライムと表現してもいいのかどうか、微妙なところだ。
ただ、粘液のような身体をしてるのを思えば、恐らくスライムで間違いない。
そのスライムは身体を伸ばし、ワダツミを攻撃した影響で動きが止まっている騎士の……より正確には馬に粘液となって絡みつく。
「スライムだな。……アクセルのスライムとは大分違うが」
先程までの不機嫌はどこにいったのか、ムラタは興味深そうに鳴滝が召喚したペルソナを見ていた。
俺のスライムは銀色だが、鳴上のスライムは緑だ。
明らかに違う種類のスライムだった。
いやまぁ、そもそも世界が……世界観が違うし、何より俺のスライムは転生特典の1つだ。
普通のスライムと同じという事は、とてもではないが有り得ない。
実際、俺のスライムの有用性はちょっと信じられない程だし。
対象を吸収したりして、その能力を俺が習得出来たりもする。
……いやまぁ、今はスキル欄が一杯で新たなスキルを習得出来ないが。
ただし、今までの経験からレベルが一定になればスキル欄が1つ増える。
それを考えれば、俺はまだ成長出来るという事を意味していた。
もっとも、レベルが高くなった影響か非常に……本当にとんでもなくレベルが上がりにくくなってるし。
現在の俺のレベルは44だが、いつ45に上がれるかは分からない。
そしてスキル欄が増えるのは10レベルごと。
つまりレベル50にならないと、新たなスキル欄は増えない訳で、レベル50になるまで、俺は新たなスキルは習得出来ない。
ぶっちゃけ、今更……ホントに今更の話だが、PPで格闘や射撃を上げられるのなら、インファイトやガンファイトっていらなかったよなと思う。
インファイトやガンファイトで上がるのは威力だけではなく、移動力や射程も上がるが……それを考慮しても、スキル欄2つの方が明らかにメリットがある。
以前、ギアス世界でスライムを使い、ギアスを習得したものの、ギアスというのはあくまでもその能力を持っていた者の願望が叶えられた形だ。
それをスライムで吸収して習得しても、そのギアスは俺の願望ではない以上、そのギアスを使う事は出来なかった。
結果としてそれなりに長い時間、ギアスは使えないまま俺のスキル欄を占領していたのだが、それもギアスキャンセラーによって消去出来た。
だが、ギアスキャンセラーで消去出来るのは、その名の通りあくまでもギアスだけだ。
それ以外のインファイトやガンファイトといったスキルは消去出来ない。
結果として、スキルをどうにかするのはレベルを上げるしかない訳だ。
そんな風に考えていると、視線の先では騎士がスライムの拘束を解き、馬上槍を手にワダツミに突っ込もうとし……
「ペルソナ!」
里中のトモエが、そんな騎士に向かって横から蹴りを入れる。
その威力は外見の予想以上に高かったらしく、騎士はそのまま真横に吹き飛ぶ。
とはいえ、それでも騎士の力を発揮してか、馬上槍を手放す事はなかったが。
そこに花村のジライヤからガルが放たれ、鳴上のイザナギが手にした長剣で斬りかかり、追撃としてトモエの一撃も更に攻撃する。
その後も、堂島のワダツミが敵の攻撃を防ぎ、その隙を突いて他の3人が攻撃をする。
そうした連続攻撃によって、騎士は最終的に撃破された。
これを全員で協力して倒したと表現するか、たった1匹のシャドウを相手に4人で襲い掛かって倒したと表現するか。
どのように表現するかで、受ける印象が違ってくるな。
ちなみにアルテミシアの回復魔法は堂島に何度か、他の面々にも1回か2回は使われている。
これで回復魔法なしで騎士を倒すことが出来たのなら、それはそれで凄いと思う。
うーん、これはまだレベルが足りないと判断すればいいのか? それとも相手がボスだから、このくらいは当然だと考えた方がいいのか。
この辺の判断がちょっと微妙だな。
「アクセルさん、敵がこういうのを落としたんですけど」
鳴上が俺の方に近付いて来て、掌で持ってる物を見せてくる。
これは……ガラスで出来た鍵か?
普通に考えれば、ボスの騎士から出て来た鍵である以上、先に進むのに必要な重要アイテムなのだろう。
例えば宝箱に重要なアイテムが入っていて、その宝箱を開けるのにこのガラスの鍵が必要だとか。
もしくは、宝箱の鍵とかではなく、もっと直接的に何らかの仕掛けを動かしたり、もしくは止めたりする……仕掛けか。このループになっているのを止めるという意味では、何となく理解出来る、か?
「何らかの重要なアイテムの可能性が高いな。取りあえずこの部屋には他に何もないようだし……あの中心の部屋に行って、他の場所に出てみるか」
そう言うと、他の面々も特に不満はないらしく、俺の言葉に素直に頷く。
話が決まると、早速この階の中央にある部屋に戻り……そうだな、今度は左の壁を破壊してみるか。
真っ直ぐに入ってきて正面にある扉を破壊すると騎士のいた部屋のある廊下に出たので、今度は左側の壁を破壊してみる事にする。
またボスのシャドウがいるかと思ったが……
「宝箱、か」
「あ、もしかしてさっきの鍵を使うんじゃないクマか!?」
クマの言葉に、それもあるかと思って宝箱の様子を見るも……特に鍵が掛かっておらず、そして宝箱の中には何故かガラスの鍵とは別の鍵が入っていたのだった。