幸いにも……というか、まだ半信半疑……いや、2信8疑といった感じだが、それでもエリナ、月臣、アキトの3人は俺を信じる事にしたらしい。
正確には信じるのではなく、怪しいところもあるが戦力としては有用そうなので使ってやろうという感じだったが。
やっぱり影槍や炎獣を見せたのが聞いたのだろう。
そんな訳で、アキトの次の行動……アマテラスというヒサゴプランのターミナルコロニーの襲撃に参加する事になった。
ちなみにこのヒサゴプランというのは、ボソンジャンプを利用した移動システムの総称だ。
ターミナルコロニー……つまり非常に重要な拠点だけに、護衛の戦力もかなり揃っているらしい。
そのような場所を攻めるだけに、戦力が増えるのは大歓迎だったのだろう。
だが問題なのは、戦力になるにしても機体がないという事だった。
最初はアキトの使っている機体……エステバリスに増加装甲を装備したブラックサレナと呼称されている機体の予備機か何かを使えばいいかと考えていたのだが。
増加装甲だけに、予備パーツは相応に準備されている。
それをエステバリスに装備すれば、ブラックサレナと同じように使えると思ったんだが……うん、エステバリスって実はイメージ・フィードバック・システム。通称IFSがないと使えないんだよな。
つまりナノマシンを体内に入れる必要があるのだが、俺は人間ではなく混沌精霊だ。
当然ながら、そんなナノマシンを使う訳にはいかない訳で……
「それで用意されたのがこれか」
「そうよ。それなりに大変だったんだから、感謝してちょうだい。もっとも、エステバリス2の開発過程で出来た試験的なコックピットを流用したから、大変だったのはそれをアルストロメリアにセッティングしただけだけど」
「エステバリス2ってのは、統合軍で現在使われてるエステバリスだよな? エステバリスって事は、IFSを使うのを前提にしたシステムじゃないのか?」
「そうだけど、軍人の中にはIFSを好まない人もいるのよ」
そう言われ、俺が関与したナデシコ世界について思い出す。
それっぽい事があったような、なかったような……ただ、アキトは当初IFSがあったせいで、木星トカゲとの戦いから逃げ出した臆病者のパイロットと言われて務めていた食堂を首になったとか何とか聞いた事があったな。
それを考えると、パイロットならIFSを使うのが当然だと思うんだが……まぁ、それでもIFSを生理的に受け付けない者とかいるだろうし、そういう相手の為にIFSを使わずとも操縦出来るエステバリスの研究をしてもおかしくはない。
もっとも、エリナの様子を見る限りだとエステバリス2も結局はIFSを採用されたらしいが。
……まぁ、分からないではない。
IFSはイメージ・フィードバック・システムという名称通り、考えるだけで機体が動くというシステムだ。
もっとも、実際には機体を動かす操縦システムも存在し、その補助的な感じらしいが。
俺にしてみれば、T-LINKシステムと似たような感じという事で分かりやすかったりする。
それを使えないのは正直痛い。
それこそT-LINKシステムをアルストロメリアとやらに搭載出来ればそれもいいんだろうが、現在ゲートは使えないしな。
ニーズヘッグにはT-LINKシステムが搭載されてるが、それを見せても実際に同じような物を搭載出来るかどうかは……うん。正直微妙なところだろう。
あるいはニーズヘッグを見せたら、それが原因で大きな騒動になったりしないとも限らないし。
その辺の諸々を考えると、やはりニーズヘッグは見せない方がいい。
あるいはいっそ、ニーズヘッグ……とまではいかずとも、ミロンガ改やサラマンダーに乗るというのは一応考えたが、そうなるとそれはそれで問題がある。
未知の技術という事でアカツキを含めてそれを欲する者達がいるのではないかというのが1点。
そして何より、この世界……特に俺が今回一緒に行動するアキトの乗っている軍艦は、エステバリスのような小型の人型機動兵器を運用するのを前提としている。
エステバリスはオーラバトラーやKMFとかと同じように、かなり小型の機体なんだよな。
だからこそ一般的な大きさ……18m前後の機体を運用するのは難しい。
サラマンダーならファイターモード……いわゆる戦闘機モードで発進すればどうにかなるかもしれないが。
「アクセル? どうしたの?」
「いや、何でもない。このアルストロメリアはちょっと懐かしいと思っただけだ」
「……懐かしい? それって……」
驚きの表情で聞いてくるエリナに頷く。
「ああ。俺が関与したナデシコ世界では、既に実用化されている」
「それは……一体どうなっているの? 貴方の知ってる世界では、ブラックサレナはなかったのよね? このアルストロメリアはブラックサレナの運用データをフィードバックして完成した機体なのよ?」
「そうなのか? まぁ、その辺に関しては生憎と俺にも分からない。ただ、そういうのがあるというのを知ってるだけだ」
そう返すが、それでも何となくアルストロメリアが早期に完成した理由については想像出来る。
具体的には、俺達……シャドウミラーが関与したのが大きく影響してるのだろう。
つまり、この世界のアルストロメリアはブラックサレナの運用データを使っているものの、俺が関与したナデシコ世界ではシャドウミラーの機体をフィードバックしてる感じか。
そうなると、同じアルストロメリアという機体であっても、その性能は違うのかもしれないな。
細かい仕様とかは明らかに違うだろうけど。
「そう。……そちらにも少し興味はあるけど、この機体の話に戻るわね。アルストロメリアは本来ならボソンジャンプが可能な機体なんだけど、それはあくまでもIFSを持ってる人に限るわ」
「つまり、俺はアルストロメリアの操縦を出来るけど、ボソンジャンプは出来ない訳だ。もっとも、その件については分かっていたけど」
アマテラスの襲撃については、当然ながら宇宙での戦いとなる。
これが地上なら、影のゲートを使った転移とかもあるんだが、今はそれが出来ないしな。
そんな訳で、俺が乗るアルストロメリアは本当の意味で万全の性能は出来ない。
時間があれば、転移とかはともかくとして反応速度を上げるといった事も出来るが、生憎とその時間もないしな。
つまり、本当にそのままの状態で操縦する必要がある。
とはいえ、改修……という表現は変だが、ノーマルの機体と違うところもあるのは事実。
具体的には、本来のアルストロメリアの武器は両腕に内蔵されているクローだけなのだが、それ以外に普通のエステバリスが使用しているラピッドライフルやミサイルといった物を使えるようになっていた。
普通なら少し物足りないと思うが、今回の一件ではそう悪い話ではない。
何しろ今回は可能な限り相手を殺さないようにとなっているのだから。
アキトを誘拐した敵がアマテラスにいるのは間違いない。
だが、アマテラスにいる者の中にはその辺の事情を全く知らない一般人も多いのだ。
他にもエリナから聞いた情報によると、アマテラスにはスバルがいるらしい。
それもエステバリス隊の隊長として。
俺の関与したナデシコ世界なら、スバルはアキトをまだ諦めておらず、かなり露骨にアタックしてるらしい。
まぁ、実際にスバルは性格そのものは男っぽいが、それは付き合いやすい相手という事を意味してもいる。
その性格とは裏腹に、その身体はかなり女らしい。
実際にミナトから聞いた話によると、ナデシコを下りた後は緑に染めていた髪を元に戻したら、かなり男に言い寄られるようになったとか何とか。
ともあれ、俺にとってもスバルは知らない相手ではないし、戦友でもある。
この世界のスバルが俺の知っているスバルではなくても、やはり殺すというのは躊躇われる。
例えばこれが、明確に俺を敵として認識し殺しに来るのであれば、俺も殺すのに躊躇は……多少はするかもしれないが、それでも殺すだろう。
だが、スバルはアマテラスにいる、裏の事情を何も知らない者の1人だ。
だからこそ、俺としても殺したくない。
とはいえ、スバルは何だかんだと腕利きなのは間違いない。
そもそもナデシコは、性格はともかく腕は一流という者達の集まった戦艦だったのだから。
本来なら性格も腕も一流の人材を集めたかったのだろうが、当然ながらそういう連中はどこからも引っ張りだこだ。
かといって、木星トカゲ……当時は木連とは知られていなかったが、とにかくそんな者達が多数いる火星に行くのに、性格は一流でも技能は三流なんて者は役に立たない。
あるいは木連という存在について知っていれば、交渉を……という事も出来たかもしれないが。
あ、いや。でもネルガルの上層部を含めて限られた者達は木連の存在を知っていたのか?
ともあれ、ネルガルとしては強引に火星に行くつもりだった以上、性格よりも能力を重視するのは当然で、スバルはそんな中で選ばれたエステバリスのパイロットだった訳だ。
「ともあれ、俺はこのアルストロメリアで出る」
「そうしてちょうだい。このアルストロメリアは見つかっても問題ないように手は打ってあるから」
エリナの言葉に頷き、俺はアキトと合流する為の準備を始めるのだった。
「アクセル・アルマーか」
「ああ。テンカワ・アキト」
ユーチャリスという、アキトが拠点としている戦艦に俺はいた。
ちなみにこのユーチャリスも一応種別上ではナデシコ級らしい。
外見はナデシコ級とは思えないのだが。
とはいえ、俺が関与した戦争においてもナデシコ級の2番艦や3番艦はナデシコとかなり違う外見だったのを考えれば、それはおかしな話ではないのだろう。
そして何より俺にとってこのユーチャリスはかなり興味深い戦艦でもあった。
何故なら……
「アキト」
そう言い、アキトの着ているマントを掴む小さな手。
その手の持ち主を俺は知っていたのだから。
「ラピス」
そう名前を呼ぶと、ラピスはこちらに視線を向ける。
名前も外見も同じラピスだったが、目の前にいるラピスは俺の知っているラピスと大きく違う。
「ラピスも知ってるのか?」
ラピスを庇うようにしながら、アキトが尋ねてくる。
その鋭い視線は、俺が何か妙な行動をしたら即座に対処すると、そう態度で示していた。
アキトは月臣に木連式柔を習ったらしく、以前の……俺が知っているアキトよりは大分強い。
強いのだが、だからといってそれで俺に勝てる訳もない。
そもそもアキトの師匠の月臣ですら、俺に手も足も出ずに負けたのだから。
その弟子のアキトが俺に勝てる筈もなかった。
とはいえ、アキトもその辺については十分承知の上でこのような態度を取っているのだろうが。
「ああ。ラピスは俺の養子だ。ルリと一緒にな」
「……ルリちゃんも……?」
バイザーがあるのでアキトの表情は完全には分からないものの、それでも明らかに驚いた様子を見せていた。
「ああ。……こっちの世界ではどうやらお前がルリを引き取ったみたいだけどな」
「……」
見るからに苦々しげな雰囲気を見せるアキト。
どうやらこの件については触れられたくなかったらしい。
無理もないか。
ユリカとの新婚旅行で誘拐されたのだ。
それからいつ助けられたのかは分からないし、助けられてからも表に出る事は出来なかった筈だ。
つまり、ルリとは会えなかったのだ。
引き取っておきながらそうなったのだから、アキトが苦い思い出と判断するのはおかしな話ではない。
「ちなみに俺の世界のラピスはルリと姉妹のように育っていたぞ」
「……姉妹?」
そう呟くラピスだったが、そこに感情の色はない。
正確には薄らと感情の色はあるのだが、それがかなり薄いのだ。
そう言えば俺が初めて会ったラピスもこんな感じだったな。
俺達と一緒に生活しているうちに……特にマリューや千鶴といった母性本能の高い面々から可愛がられ、そしてルリと姉妹のように育ち、SEED世界のオーブにある学校に通って同年代の相手と接し……そういうのによって、ようやくラピスは感情を取り戻したのだ。
ルリもラピスと同じ環境だったらしいが、ルリの場合は良くも悪くもナデシコが影響したんだろう。
「ああ、姉妹だ。諸々が片付いて俺の世界に戻れるようになったら、ラピスも来てみるといい。もう1人の自分に会ってみるのも悪くないだろうし」
そう言うも、ラピスに反応はない。
多分だが、この状況でどう反応したらいいのか迷ってるんだろうな。
「考えておこう」
ラピスの代わりにアキトがそう言う。
このラピスはアキトに懐いている……というか、アキトしか頼る相手がいない為か、半ば依存してるようにも思える。
もっともラピスの境遇を考えれば、それはそれで仕方がないのかもしれないが。
ともあれ、アキトがそう言うのならラピスも来るだろうし……そんな訳で、一応お互いの自己紹介は終わり、アマテラスに向かうのだった。