『では、俺は出撃する。アクセルは敵を陽動するようにして動いて欲しい。その後にバッタを使う。向こうもこちらが3重に陽動をしてくるとは思わない筈だ』
「そうか? ありふれてる……って訳じゃないかもしれないけど、それなりによく見る手だと思うけどな」
アルストロメリアのコックピットで、俺はアキトにそう返す。
だが、映像モニタの中でアキトは首を横に振る。
『アマテラスの警備責任者のアズマ准将は凡人だ。それでいて手柄を欲している。この程度の陽動にも十分に引っ掛かるだろう』
「そういう奴にアマテラスのような重要拠点を守らせていいのか?」
アマテラスはヒサゴプランにおいて非常に重要な拠点だ。
最重要という訳ではないが、それでも5本の指に入るくらいには。
だというのに、そんな重要拠点に無能……とまでは言えないのだろうが、とにかく有能ではない軍人を設置してもいいのか?
『その辺りは、アカツキ曰く人間関係の問題だそうだ』
「あー……うん。なるほど」
シャドウミラーにおいては、そういうのはない。
いや、それなりにあるのかもしれないが、それでも適性の向いている場所にきちんと配置されている。
とはいえ、もしアマテラスにいるアズマというのがシャドウミラーにいたら……うーん、実働班はとてもではないが無理だろうし、技術班も無理だ。そうなると明日菜やステラのいる生活班か?
もしくは、政治班で重要な交渉はしないで雑用とか。
いっそエルフ達が住んでいる公園の清掃係とかでも……どれも、まず納得はしそうにないな。
メギロートの製造プラントで何かトラブルがないか見守るというのでもいいな。
『じゃあ、行くぞ。繰り返すようだが、可能な限り人は殺さないようにしろ』
「分かってる。それよりアキトが先に出撃するんだろ。さっさと行ってくれ」
その言葉にアキトは無言でこちらを一瞥すると、やがて通信が切れる。
うーん、アキトが俺の知ってるアキトと完全に違うから、ちょっと慣れないな。
とはいえ、ある程度一緒に行動すればそれなりに慣れるだろうけど。
ブラックサレナが出撃していくのを眺めつつ、そんな風に思う。
するとブラックサレナの行動についての映像がアルストロメリアの映像モニタに表示され始めた。
どうやらラピスが気を利かせたのか、もしくはアキトからの指示なのか、ともあれ映像をこっちに流してくれたらしい。
アマテラスに突っ込んでいくブラックサレナ。
防衛戦力がそれに対処しているものの、ブラックサレナの速度は十分に速くてそれに追いつけない。
そうして当初の予定通りの場所まで行ったところで……
「アクセル・アルマー、アルストロメリア、出るぞ」
その言葉と共に、アルストロメリアが出撃する。
とはいえ、ブラックサレナと同じく増加装甲や追加のスラスターユニットとかがあるブラックサレナ仕様だが。
いや、正確には色はアルストロメリアに合わせて白なので、ホワイトサレナか?
俺のイメージカラーとしては赤なのだが、エリナ……というか、ネルガルのメカニック達が用意したのがこの白い増加装甲とかだったんだよな。
とはいえ、ブラックサレナは実は明確に計算されて開発された訳ではなく、現地改修機だったりするのだが。
そういう意味では、ネルガルのメカニックの実力が最大限に発揮された感じか。
ともあれ、そんな訳でアルストロメリアが……いや、やっぱりこの状況ならホワイトサレナと呼称した方がいいか。
次からはそうしよう。
そんな訳で、ブラックサレナに続いてホワイトサレナがアマテラスに向かって進む。
ただし第2の陽動という事で、ホワイトサレナが突入した場所はブラックサレナとは反対方向だ。
陽動だけに、特に隠したりもしてない事もあってアマテラスに念の為残っていた防衛戦力がこっちに来るが……
「遅い」
ブラックサレナはかなりの機動力だが、このホワイトサレナはその上を行く。
これは別にホワイトサレナの方が性能が高いという訳ではない。
いや、ホワイトサレナのコアとなっているアルストロメリアはブラックサレナのデータをベースに開発された以上、ブラックサレナよりも性能が高くてもおかしくはないからなのだが。
とはいえ、実際には調整の結果というのが正しい。
ともあれそんなホワイトサレナだが、ブラックサレナと同様の弱点もある。
それは単純に、今の状態……増加装甲の上から高機動ユニットを装備した今の状況では、特に武器らしい武器を使えないという事だ。
もっとも今回の行動は敵を倒すのではなく、陽動だと考えれば、そんなに問題はないのだろうが。
現在統合軍で使われているのは、エステバリス2。
これはナデシコで使われていたエステバリスの性能向上型……上位互換だ。
分かりやすく説明すればジムに対するジム・コマンド、エアマスターに対するエアマスターバースト、レオパルドに対するレオパルドデストロイ……といったところか。
そんな性能向上機だが、ラピッドライフルがこちらに命中することはない。
ホワイトサレナの機動力もあるが、単純にそこまで操縦技術が高くないというのもあるのだろう。
こちらにとっては悪くない話ではあるのだが。
そんな風に思いつつ、攻撃を回避しながらアマテラスに近付いていく。
近付くに従って攻撃の密度は増す。
だが、この程度の攻撃が命中する筈もない。
ホワイトサレナは、機動性に特化した存在だ。
運動性という点では少し……いや、かなり使いにくいものの、それでも操縦技術で補える。
そうして真っ直ぐアマテラスに向かい、ラピッドライフルの弾丸を回避しながら進む。
スバルがアマテラスに配属になってるって話だったが、どうやらアキトの方に向かったらいし。
考えてみれば当然か。
スバルの性格からして、最初に突っ込んで来たブラックサレナを真っ先に迎撃に向かうのは当然だ。
そして今はブラックサレナに集中してるのだろう。
あるいはホワイトサレナの出現にこっちに至急戻ってくるようにとアマテラスから指示が出ている可能性もあったが……こうして戻ってこないとろを見ると、指示を無視してるのか、そもそも聞こえてないのか、あるいは戻ってくる途中なのか。
ともあれ、今この場にいないのは間違いない。
そうして十分にアマテラスに接近したところで、その場で強引に方向転換をする。
一瞬……本当に一瞬だったが、ホワイトサレナに攻撃していたアマテラスのエステバリス隊は、戸惑った様子を見せる。
IFSを使ってるからこその現象でもあるな。
いや、あるいはIFSを使ってるからこそ、戸惑いが一瞬ですんだのかもしれないが。
ともあれ、アマテラスから離れる俺をエステバリス隊が追撃してくる。
ブラックサレナに続いて2度目という事もあってか、追撃してくる数はブラックサレナの時よりも大分少ない。
そしてユーチャリスの方に向かったところで……ユーチャリスから大量のバッタが出撃してきた。
そのバッタは、ブラックサレナとホワイトサレナを追っている追っ手に対し、両方に向かう。
ただ、その数が7:3くらいでブラックサレナの方が多いのは……ブラックサレナの方が追っ手が多いからか、それともこの世界のラピスにとっては俺よりもアキトの方が重要だからなのか。
その辺は生憎と分からなかったが、それでも追加のバッタでアマテラスの部隊が動揺したのは間違いない。
そこに更に追撃が放たれる。
ユーチャリスからのグラビティブラスト。
俺が知っているナデシコのグラビティブラストよりも強力だな。
そう思ったが、考えてみればこの世界は木連との戦い……通称蜥蜴戦争から、既に3年の時間が経っているのだ。
その間に技術が発展していてもおかしくはない。
そうしてグラビティブラストが放たれると、アキトからの通信が入る。
『俺はアマテラスに侵入する。アクセルは引き続き陽動の役割を』
「分かった。こっちは派手にやらせて貰うよ」
数秒の通信が終わると、俺はこれみよがしにホワイトサレナを移動させる。
こういう時、白い機体というのは目立っていい。
……あるいはエレナは、最初からその辺りを承知した上で増加装甲や高機動ユニットを白く塗って、ホワイトサレナにしたのかもしれないな。
そうなったらそうなったで、こっちもそれなりに対処のしようがあるので特に問題なかったりするが。
大きく、派手に……ユーチャリスの邪魔をしないように行動する。
これでユーチャリスを動かしてるのが腕の悪い奴なら、あるいはこうして飛んでいるホワイトサレナに向かってグラビティブラストを命中させるかもしれない。
だが、ラピスならその心配はないだろう。
人間らしさというか、感情の発達具合という点では、俺の養子のラピスの方が上だろう。
しかし、純粋に戦闘技術……この場合はユーチャリスの操縦とかそういう点では、アキトと一緒に行動してきたラピスの方が優れていると思う。
この辺は、ラピスがどのような経験をしてきたのかというのが大きな違いとなっていた。
自由に動くホワイトサレナは、アマテラスの守備隊にとって非常に目障りな存在なのか、バッタを無視してまでも追ってくる者がいる。
この連中にしてみれば、既にアマテラス云々よりも自分達をおちょくった俺の存在が面白くないのだろう。
とはいえ、出来るだけ殺すなと言われて……いや、そうだな。殺さずに攻撃すればいいだけか。
そう判断し、俺は機体を強引に反転させ、こちらを追ってきていたエステバリス隊に突撃する。
まさかいきなり俺がそんな行動に出るとは思っていなかったのか、エステバリス隊は焦った様子を見せて隊列を崩す。
この辺、まだ未熟だよな。
スバルと一緒にアキトを追っていたエステバリス隊は、連携もしっかりしていたし。
多分2線級の部隊といったところか。
その為に手柄を欲してこうして執拗に俺を狙ってきていると考えれば辻褄が合う。
陽動をするというこちらの状況を考えると、こういう連中を相手にするのは決して悪くはない。
いや、寧ろ最適な存在ですらあった。
ホワイトサレナが突っ込んでくるのを見て、必死に回避しようとするエステバリス隊。
元々エステバリスは小型の人型機動兵器で、防御力も強い訳ではない。
そんな中に増加装甲と高機動ユニットを装備した塊が突っ込むのだから、エステバリス隊にしてみれば必死に避けようとするだろう。
だが……向こうが回避しようとしてるのは理解しているものの、だからといってそれで回避させてやる訳にはいかない。
高機動ユニットを使い、敵の回避した方向に機体を向ける。
それでいて、正面からぶつかってコックピット諸共破壊しないように注意しながら、エステバリスの手足のぶつかるように当てる角度を調整し……次の瞬間、衝突した。
いや、これは正確には衝突したという程の衝撃はないな。
当て逃げって感じか?
ちょっと表現は悪いが、状況としてはそんなに間違っていないと思う。
その当て逃げも、先頭を進んでいる……俺を追ってきているエステバリス隊の隊長、あるいはエースと一度ぶつかっただけではない。
先頭のエステバリスにぶつかり、その背後にいる敵にも次々とぶつかっていく。
増加装甲があってもそれなりに衝撃はあるものの、それでもホワイトサレナに被害らしい被害はない。
増加装甲には多少の傷がついている程度だ。
高機動ユニットの方には特に何も被害がないようにぶつけているので、機動力にも影響はない。
エステバリス隊に突撃し、2機目、3機目、4機目といったようにぶつかり、手足を破壊していく。
追加装甲と高機動ユニットを装備している為に、ホワイトサレナは普通のエステバリスよりもかなりの重量がある。
その上で俺が操縦し、ぶつかる場所を上手い具合にコントロールすれば……エステバリスはまるでピンボールのように弾け飛ぶ。
それでいながら、コックピットはそのままだ。
……いやまぁ、ぶつかった衝撃で怪我をしたとか、そういう奴はいるかもしれないが。
それくらいは仕方がないとアキトにとっても許容範囲だろう。
そんな中、不意にラピスから通信が入る。
「火星の後継者か」
それは正確にはラピスからの通信という訳ではなく、アマテラスにいた連中……アキトやユリカを誘拐した連中の名前だった。
ここにいたってようやくその名前ははっきりとした訳だ。
あるいはアカツキ辺りなら実はその名前を知っていた可能性もあるが。
「俺も助けに向かった方がいいか?」
『問題ない』
ラピスがそう言うという事は、客観的に見て問題がないと判断してるのだろう。
とはいえ、ブラックサレナが現地改修機とでも呼ぶべき機体なのは、火星の後継者を相手に戦って勝てなかったから、それに対抗する為に行ったのだろう。
あるいは勝利をしたがダメージを受けたのが原因か。
そんな訳で、アキトも無事だといいんだが。
そんな風に思いつつ、俺は火星の後継者の宣言によって動揺したエステバリス隊の残りに襲い掛かり、エステバリスの手足を破壊していくのだった。