アマテラスは結局自爆した。
そしてアキトの正体は、スバルと……何よりナデシコBの艦長をしていたルリに知られたらしい。
そしてアマテラスにいたユリカ……ボソンジャンプのコアユニットと融合させられていた以上、いたのではなくあったという表現の方が正しいのかもしれないが、とにかくそのユリカも火星の後継者に持っていかれたらしい。
「もしかして、俺も最初からアマテラスの中に入って戦っていれば、北辰達を倒せたんじゃないか?」
北辰……これもまた懐かしい名前だ。
俺が介入した世界においては、木連の敵として出て来た。
まぁ、火星の後継者の性質を考えて、そして俺達が介入してない事を考えると、ここで北辰が出て来てもおかしくはないのかもしれないが。
ともあれ、アキトはユリカを助けようとしたものの、結果的に北辰達に邪魔をされてしまった。
もしその場に俺がいればどうなったか。
アルストロメリア……もしくはホワイトサレナは、どちらも急造品だ。
何しろ本来ならIFSを使う必要のある機体を、通常の操縦システムで動くようにしたのだから。
とはいえ、それでも俺の操縦するホワイトサレナはかなりの力を持っており、純粋に戦力という意味ではアキトを上回っている。
……もっとも、アキトのブラックサレナはボゾンジャンプが可能なので、その点ではアキトの方が勝ってるが。
ともあれ、俺がいない事で戦力が足りず、今回のような結果になったのは間違いない。
「お前を信じろと?」
短くそう言ってくるアキト。
アキトの経験を考えれば、そういう風に言うのはおかしくないのかもしれない。
あるいは、いざとなったら俺がアキト達を裏切るかもしれないと、そんな風に思ったのかもしれない。
とはいえ……
「俺を完全に信じろとは言わない。けど、結局俺を信じられなかったせいで、北辰にやられ、ユリカを取り戻せなかったのは事実だろう?」
「……」
俺の指摘に無言を貫くアキト。
図星を突かれて何も言えなくなったのか、あるいは話す価値もないと判断したのか。
その辺りは生憎と俺には分からなかったものの、今の状況を考えると前者のような気がするな。
「まぁ、いい。それでこれからどうするんだ? アカツキから何か連絡は来ているのか?」
「これから地球に向かう。今回の件で罠を仕掛けるつもりだ」
「罠?」
「そうだ。もし上手くいけば、生身で北辰達が現れる可能性がある」
「……本当なのか?」
「エリナから聞いた話が本当であれば、間違いない」
こうして、俺達は地球に向かうのだった。
墓の前で、アキトがミナトとルリと共にいる。
なるほど。罠というのはアキトが自分自身を餌にして罠にするつもりだった訳か。
火星の後継者にしてみれば、アキトは極上の餌だろう。
というか、ルリにビンタされるアキトってのはちょっと珍しい光景だな。
そんな風に思っていると……予想通り、北辰やその部下達が姿を現す。
だが同時に、月臣やゴート、そしてネルガルの警備部の面々に……
「残念だったな」
「何奴!?」
すぐ後ろから聞こえた声に、北辰が即座に反応する。
手に持つ日本刀を振るうが……その一撃は素人――魔力や気も使えないという意味で――にしてはかなりのものだったが、俺にしてみれば止まって見えるに等しい。
また、動揺したというのもあるのだろう。
北辰やその部下の言動から考えると、自分の腕によっぽどの自信があったようだし。
だが……だからこそ気配遮断のスキルを使った俺が、いつの間にか北辰のすぐ後ろにいるのに気が付かなかったのだろう。
声を掛けた事によって気配遮断の効果が解除された。
それはつまり、俺がいきなり後ろに姿を現れたという風に北辰には感じられたのだから。
そっと手を伸ばし、首目掛けて振るわれた日本刀の刃を掴む。
もし普通の……あるいは北辰の基準での達人であっても、日本刀の刃を手で掴むといった事をすれば、最悪掌が切断、幸運であっても皮膚が斬れ、肉が裂け、骨が切断されるだろう。
だが、俺の場合は違う。
そもそも、白炎や魔力によって構成されている俺の身体を、魔力や気で強化されてる訳でもない武器でどうにか出来る筈もない。
「な……」
自分の一撃を素手で止められるという、あまりの光景。
北辰にとっても、この光景は明らかに理解出来ないものだったのだろう。
驚きの声を上げるが……
「ほら、そんなに隙を見せていいのか?」
「っ!?」
その言葉で咄嗟に我に返った北辰が距離を取ろうとするものの……遅い。
「ぐおっ!」
『隊長!?』
北辰が胴体に一撃を食らって吹き飛び、それを見ていた北辰の部下達が叫ぶ。
ちなみに胴体を殴った時に何らかの障壁があったが、俺の拳はその障壁をあっさりと貫いた。
一般人の攻撃なら障壁で防げたのだろうが、魔力を纏った一撃を防ぐ事は出来なかったのだろう。
それでも今の一撃は、北辰を生け捕りにするように言われている事もあり、かなり手加減をした一撃だったのだが。
だが、その一撃は北辰の意識を奪うのに十分だった。
……肋骨が何本か折れてはいるが、生きているだけでマシだろう。
「ほら、捕らえなくていいのか?」
「感謝する! 皆、北辰を確保しろ!」
月臣が俺の言葉に咄嗟に部下に命じる。
だが、北辰の部下達はそんな北辰を助けようと動き出すが……
「させると思うか? お前達は別に生け捕りにする必要はないんだ。大人しく死ね」
障壁の事を考え、多分問題はないだろうが精神コマンドの直撃を使い、手を大きく振るって白炎を生み出す。
『ぎゃああああああああ!』
白炎によって、北辰の部下達は一瞬にして焼き殺された。
それこそ次の瞬間には灰すら残らない程に。
「な……」
月臣が驚きの声を上げる。
魔法についてはある程度見せていたものの、それでもこんな事が出来るとは思っていなかったのだろう。
結局生き残ったのは、北辰と最初に月臣によって倒された部下の1人の合計2人だけ。
とはいえ、情報を聞き出すには十分な成果だろう。
「貴方は……誰ですか?」
戦いが終わったと判断したのか、ルリが俺にそう聞いてくる。
無理もないか。
ルリにしてみれば、アキトやゴート、月臣といった面々は知り合いだ。
だが、この世界のルリは俺を初めて見るのだから。
そんなルリの後ろでは、ミナトが警戒の視線を俺に向けている。
エリナの時は、アカツキからある程度の説明があったので、こっちを疑ってはいたものの、それでもここまで警戒したりはしなかった。
それに対して、ミナトは完全に俺を初めて見るだけに、強い警戒の視線を向けている。
分かってはいたが、ミナトからこういう視線を向けられるのは……ちょっと堪えるな。
この世界のミナトにしてみれば、俺は問答無用で北辰の部下達を白炎で焼き殺した相手なのだから、仕方がないのかもしれないが。
「アキトの協力者といったところか」
「……そうですか」
俺の言葉にあっさりと頷くルリだったが、その言葉をどこまで信じたのかは分からない。
そもそもの話、俺が北辰達を攻撃した時点で俺が味方だというのは分かっていただろうし。
それでもこうして改めて聞いてきたのは、やはり俺が初めて見る相手だったからというのもあるが、それ以上にミナトと同様に危険視をしたのだろう。
恋人と娘――養子だが――にこういう視線を向けられるのはちょっとな。
「アキト、月臣。この件については後を任せるけど、それで構わないか?」
「ああ、構わない」
アキトが頷くと、月臣もそれに同意するように頷く。
それを見ると、俺は影のゲートでその場から転移する。
……俺が影に沈む光景を見て、驚きの声が周囲に上がったものの、それについては特に気にしない事にするのだった。
「マジか」
『すまないね。まさかアクセルに倒されて、すぐに動けるとは思ってなかったんだよ』
映像スクリーンに映し出されたアカツキは、そう言って謝ってくる。
……謝りながらも、俺が手加減をしすぎたのが理由なのではないかと、そっと匂わせているが。
俺がアカツキから聞いたのは、北辰がボソンジャンプで逃げたというものだった。
影のゲートで俺が転移した後、北辰は肋骨を数本折っており、俺の一撃でろくに動く事も出来ないにも関わらず、だ。
裏の存在であると考えれば、痛みを無視する程度は出来てもおかしくない。
あるいは奥歯辺りに鎮痛剤を仕込んでおいたのかもしれないが。
「北辰以外にもう1人捕らえた奴がいただろう? そっちは俺じゃなくて月臣が倒した奴だが。そいつも逃げられたのか?」
『いや、幸い距離が離れていたらしいからね。逃げられたのは北辰だけだ。……とはいえ、部下の方はそこまで重要な情報は持っていないようだったが』
それはそうだろうな。
北辰の部下である以上、北辰よりも詳しい情報を持っているとは思えない。
それでも北辰程ではないにしろ、ある程度の情報を持ってるのは間違いないだろう。
「その部下からの情報が頼りか」
『そうだね。尋問はこっちでやっておくよ。ただ……まぁ、そこまで重要な情報を持ってるとは思えないし、既に火星の後継者もそれなりに追い詰められつつある。今度こちらに向かって大攻勢を仕掛けるらしいから、その時、アクセルには火星に行って貰うよ』
国ではなく、1つの組織……それも木連から離脱した、限られた者達だ。
国と国の戦争という程に、大きな戦いを起こす事は出来ない。
それこそ数回の大規模な作戦を行う事で精一杯なのだろう。
アカツキはその隙を突こうとしてるのだ。
「分かった。戦力はユーチャリスだけか?」
『いや、ナデシコBとCを向かわせるよ』
「上手い具合に協力出来るかどうかは分からないぞ?」
墓での様子を見る限り、ルリは決して俺に好意的ではなかった。
そうなると、上手い具合に連携出来るかどうかは微妙なところだろう。
『その辺は大丈夫だと思うよ。あの子もきちんとしているし』
アカツキのその言葉は、正直なところ少し意外だった。
どうやらルリを結構認めているらしい。
……いや、そもそも認めてなければ、ナデシコの艦長を任せたりはしないか。
一応軍人なので、全てをアカツキの判断でどうこうは出来ないと思うが、それでもナデシコを提供してるだけに、相応の発言力はあるだろうし。
「そうか。なら、俺は火星の攻略に専念しよう。……一応聞いておくが、火星の後継者が行う作戦については対処出来るんだな?」
火星にあるという敵の本拠地を攻略して、地球に戻ってきたら実は地球が火星の後継者の残党に占領されてましたとか、そんな結果になったら洒落にならないし。
そもそも火星の後継者……正確にはそれを率いる草壁が捕らえられるなり死んだりした場合、地球に派遣された戦力は自分達を統率する者を失い、暴走しかねない。
そうなった時、地球の受ける被害は壊滅的なものになってもおかしくはなかった。
だからこそ、そのような事にならないように地球の防衛について聞いておく必要がある。
もっとも、アカツキの性格を考えれば他人の命よりも自分の命を重要視する。
そんな自分を囮……というか、餌にするのだ。
そうである以上、地球に残る者達が致命的なダメージを負うという可能性は、まずないだろうが。
『勿論だよ。こちらについては心配しないでくれたまえ。もっとも、あまり火星の攻略に時間が掛かるとなると少し心配だが。……そんな訳で、現在地球ではかつてのナデシコクルーの同窓会の準備をしてるところか』
同窓会というその言葉で、アカツキが何を考えているのかは理解出来た。
それはつまり、かつてのナデシコに乗っていた面々を再招集するという事なのだろう。
その選択はそんなに間違ってはいない。
今はどこも人手不足である以上、軍から火星を攻める戦力を引き出すのは難しいだろう。
また、アカツキが自分を餌とする以上、軍の方でも地球に残って火星の後継者に対抗する必要がある。
そう考えると、やはり戦力はどこかもっと別の場所で用意する必要が出てくる訳で、そういう意味でも旧ナデシコクルーを招集するのは悪い話じゃない。
旧ナデシコクルーという事は、俺にとっても知り合いが多いし。
……もっとも、このナデシコ世界は俺が介入していないナデシコ世界だ。
エリナやミナト、ルリ……それ以外にも他の面々と同じように、俺と会っても俺の事は知らないのだが。
「その同窓会に俺が出られないのは残念だな」
『はっはっは。それは仕方がないさ。この世界にいる者達にとって、アクセルは初めて会う相手なんだ。そういう相手が同窓会にいたら、皆が楽しめないだろう?』
「なら、アキトはどうなんだ?」
『そうだね。彼の場合は本人が同窓会に出たくないんだろうし』
「あの様子を見る限り、それは間違ってないっぽいな」
『だろう? そんな訳で君はこのままユーチャリスに乗って火星に向かって欲しい』
「分かった。ホワイトサレナはそれなりに悪くない機体だし、火星の後継者相手なら何とか出来るだろう」
そう言う俺の言葉に、アカツキは明らかに何かを企んでいるような笑みを浮かべるのだった。