シーマの口から出た、連邦軍再編計画とガンダム開発計画。
それはどちらも俺にはまだ届いていない情報だった。
さっきもシーマに言ったように、俺のところには重要な情報が届くようになっている。
そして連邦軍再編計画とガンダム開発計画というのがその名の通りの事なら、当然ながらその情報が俺に届いていてもおかしくはなかった。
「それは……」
シーマに詳しい事を聞こうとした瞬間、個室の扉がノックされる。
シーマが中に入るように言うと中に入ってきたのは、さっきのウェイトレス。
何と言えばいいのか、車輪がついていてケーキとかそういうのを乗せて運ぶ奴と一緒に部屋に入ると、俺の前に紅茶とナポリタンを、シーマの前には紅茶とケーキを置く。
また、サービスだとクッキーが数枚入った皿もそれぞれ置いて、部屋を出ていく。
「取りあえず私のケーキはともかく、アクセルのナポリタンは温かいうちに食べた方がいいだろう? 詳しい話は、それを食べ終わってからにするよ」
「そうだな。そうした方がいいか」
ナポリタンは具材がウィンナーとピーマン、タマネギ、マッシュルームという一般的なものだ。
それをケチャップで炒めた……ナポリタンという名前だが、実はこれって日本で作られた料理なんだよな。
ナポリの住人がナポリタンというのがどういう料理なのかを聞けば、呆れたり、笑ったり、怒ったり……ともかく、なんでそんな料理がナポリタン!? と驚くらしい。
もっとも、俺にとってはそれなりに食べ慣れた味だ。
実際、この店のマスターも白人で日本人ではなかったが、こうしてナポリタンを出している。
もしかしたら、UC世界においてナポリタンは世界的に広がっていたりするのかもしれないな。
ただ、ウィンナーはペルソナ世界のジュネスの屋上にあったホットドッグに使ってる奴の方が美味いと思う。
……まぁ、あのホットドッグは明らかに高級品だったしな。
だからこそホットドッグという手軽な料理でもあの強気の値段だったんだろうが。
けど、俺の場合は桐条グループのブラックカードがあるから大量に購入出来たりもしたけど、田舎の稲羽市であの値段だと……あの屋台の店主は生活出来るだけ稼いでいるのか?
いや、俺がいつ購入しようとしても普通に在庫があった事を考えれば、やっぱりそれなりに売れてはいるんだろうが。
そんな風に思いながら、ナポリタンを食べ終わる。
「どうだった?」
「そうだな。70点といったところか」
「結構厳しい点だね」
ケーキを食べていたシーマは、少し意外そうに言う。
実際、ナポリタンがそれなりに美味いのは間違いなかったが、それでも絶賛する程かと言われれば首を傾げたくなる。
「この辺は好みもあるしな。例えば麺のゆで加減とかは特にその辺が大きい」
このナポリタンは意図的なものだろうが、かなり柔らかめだ。
ただ、俺にとっては噛み応えがあまりないという点でちょっと不満だった。
もっとも、パスタといえばアルデンテが至高だという奴もいるが、その辺は実際はソースであったり、パスタの種類による違いもあったりするらしい。
ともあれ、そんな風に会話を終え、ナポリタンの皿をウェイトレスが回収していくと、少し空気が緩んでしまったが、早速話題に移る。
「えっと、それで何だっけ? 連邦軍再編計画とガンダム開発計画だったよな? それについての情報はシャドウミラーにもないようだが、本当にあるのか? それとも、ルナ・ジオンの方で情報を止めてるのか?」
そんな俺の問いに、ケーキの最後の一口を味わっていたシーマが紅茶を飲んでから首を横に振る。
「どっちも違うね。正確には、まだどっちの計画も実際に発動した訳ではなく、そういう計画を発動させるべく活動している……いわば、まだ計画の前段階といったところだね。だから、まだシャドウミラーにも報告してないんだよ」
「なるほど」
シーマの言葉に頷く。
本来なら、もう少しシーマの言葉は疑った方がいいのかもしれない。
だが、この状況でシーマが俺に嘘を言うとはさすがに思えなかった。
「ああ、でもちょっと訂正するけど、フィフス・ルナにマスドライバーが設置されてるのは間違いないよ」
「……必要か?」
「アクセルが言ってるのは、ジオン軍がやったように武器として使うという意味でだろう? 連邦軍の拠点の1つとなる以上、物資を運ぶという意味でも必要なんだろうさ」
「そういうものか。……で、その連邦軍再編計画とガンダム開発計画が行われるのがフィフス・ルナな訳か?」
「そうらしいね。ただ……連邦軍の中には1年戦争を経験しても自分の考えを曲げない者もいるらしいよ。そのお陰で、連邦軍再編計画の方はちょっと面白い事になっている」
「具体的には?」
シーマの言う面白い事というのが気になり、尋ねる。
そんな俺の問いに、シーマは待ってましたといわんばかりの笑みを浮かべて口を開く。
「どうも連邦軍の中には未だに大艦巨砲主義とでも呼ぶべき、MSよりも戦艦を重視すべきだという者がいてね。それもちょっとやそっとではなく、結構な数……そう、連邦軍再編計画に自分達の意思を反映させられるくらいの人数は」
「……マジか」
予想していたよりもかなり大事というか、呆れるというか……うん。一体何がどうなってそうなった? というのが俺の正直な気持ちだ。
そもそも、1年戦争の序盤で連邦軍が不利な状況になったのは、ジオン軍がMSを所持していたからというのが大きい。
なのに、MSをいらないって……何をどう考えればそうなる?
いやまぁ、戦艦……連邦軍だとマゼラン級か。マゼラン級が、その外見から相手に与える心理的効果が強力なのは間違いないし、純粋な攻撃力という点でも、マゼラン級のメガ粒子砲は命中すればMSを1撃で撃破出来るのは間違いない。
だが……それはあくまでも命中すればだ。
MSというのは、戦闘機並、あるいはAMBACのお陰で戦闘機以上の運動性を持つ。
純粋な機動力では戦闘機の方が勝るものの、MSを相手に戦艦とかで攻撃を命中させられるかと言えば……微妙だろう。
勿論、まぐれ当たりであったり、砲手が凄腕であったりすれば、それなりに命中するかもしれないが、それでも回避される可能性の方が高い。
そしてMSは1機で戦艦を沈める事も可能だ。
それは誰にでも出来る訳ではない。
1年戦争中は、それこそ一握りのエースが可能になっていた事だ。
だが……今は違う。
圧倒的な威力を持つビームライフルをMSが使えるようになっている以上、戦艦であっても以前より容易に撃沈出来るようになっている。
戦艦がビグ・ザムのようにIフィールドでビームを無効化出来ればいいんだが、コスト的にそれは微妙だろう。
ましてや、Iフィールドの内側に入り込んでしまえば……
総合的に見て、何故この段階で大艦巨砲主義が出てくるのか分からないというのが俺の正直な感想だ。
無理矢理理由を作るとすれば……ロマンとか? 個人の趣味嗜好とか、そんな感じか?
だが、さすがに1年戦争が終わってからまだ数年なのに、現実が見えていない馬鹿がそこまで多いとは思えない。
あるいは……本当にあるいはの話だが、もしルナ・ジオンという存在がなければ、ジオン共和国になった今のジオンは独自のMSを開発出来なくなっており、いるのは残党だけだからという事で、連邦軍が新たにMSを開発しなくてもいいと考える者もいるかもしれない。……いや、いるのか? 本当にいるのか?
ともあれ、そういう風になるかもしれないが、この世界においてはルナ・ジオンが存在している。
旧ジオン軍から優秀な技術者を引き抜き、旧ジオン軍では問題のあった複数の兵器メーカーによる開発で部品が共有できなかった、場合によっては違う兵器メーカーの武器が使用出来なかったり、それこそ操縦システムそのものが兵器メーカーで違っていたり……そんな諸々の欠点を解決する為に、セイラ……というかルナ・ジオンの上層部は複数の兵器メーカーを作るのではなく、1つの兵器メーカーに全員を集めた。
とはいえ、それはそれで問題がない訳ではない。
自分達しか兵器メーカーがないからと、革新的な新技術を採用しにくくなる。
言い換えれば、革新よりも安定を望む者が多くなる可能性があった。
それが悪い訳ではないが、安定も行きすぎればそれは停滞となる。
その辺は痛し痒しといったところか。
今は取りあえず問題ないし、この先問題になったら……ルナ・ジオンの上位組織であるシャドウミラーの方からてこ入れをすればいいだろうし。
ともあれ、MSを開発出来るルナ・ジオンがいるのに、MSを開発しなくてもいいという考えになるとは思えない。
「何らかの新技術……それこそミノフスキー粒子に対処出来るような何かがあったのか?」
考えられるとすれば、その可能性だけだ。
UC世界においては、ミノフスキー粒子が電子機器に干渉する為、誘導弾の類は殆ど使われていない。
その結果として、第2次世界大戦のような戦いになっていると表現される事も多い。
だが、SEED世界においてNジャマーに対してNジャマーキャンセラーが作られたように、ミノフスキー粒子をどうにかする何らかの新技術が生み出されたといった可能性もある。
そう思って尋ねたのだが、シーマは首を横に振る。
「私も最初はそれを疑ったよ。けど、幾ら情報を集めても、そんなものはない。……まぁ、私が情報を入手出来ない場所で開発されている可能性もあるんだろうけど」
シーマが、あるいはルナ・ジオンが一体どういう情報網を持ってるのかは分からないが、連邦軍の機密の全てを知るといった事はまず出来ないだろう。
そういう意味では、ミノフスキー粒子を無効化する新技術を連邦軍が開発していてもおかしくはないが……どうだろうな。
Nジャマーとミノフスキー粒子では似たような効果を持っていても、その性質が大きく違うのだ。
「だとすれば、何で今更大艦巨砲主義なんだ?」
「それを私に聞かれても困るね。ただし、連邦軍の全員がそういう連中じゃない。ジョン・コーウェン中将って以前アクセルから聞いた事があったと思うけど、覚えてるかい?」
「コーウェン……ああ、そう言えばレビルの派閥の1人だったな」
1年戦争中に顔を合わせた事があった筈だ。
ただ、あまりこちらに対して友好的といった態度ではなかったような気がする。
何故そのような態度なのかと言われれば、生憎と俺も分からないが。
「そうだね。そして今では、レビルの派閥の中でも次に率いる者として、最有力候補として知られてる人物だね」
「……レビルの派閥か」
1年戦争中、レビルの派閥はかなりの力を持っていた。
だがそのレビルがア・バオア・クーで死んでしまった以上、派閥の力はかなり弱まっただろう。
レビルは連邦軍にとって、英雄と呼ぶに相応しい存在だった。
ジオン軍の捕虜になったが脱出し、南極で停戦条約――実質的には連邦の降伏――を締結しようとしていた中で、ジオンに兵なしの演説を行い、それによって戦争は続き、最終的には連邦軍の勝利に終わったのだ。
ちなみに、そのレビルを捕らえたのが現在ルナ・ジオンの中でも黒い三連星の異名を持つガイア達だったりする。
そんなレビルが率いる派閥だけに、求心力のレビルがいなくなれば勢力が落ちるのは当然の話だった。
それをコーウェンが引き継いだのだろう。
レビルが死んだ以上、派閥を抜けた者もいる筈だ。
特に最近の連邦軍の様子を見ると、強硬派がかなり影響力を増してるようにも思えるし。
そういう意味では、コーウェンは頑張っているのだろう。
だとすれば、コーウェンに力を貸すべきか?
そう思うも、コーウェンの俺に対する悪感情を考えると向こうが素直に受け入れるとは思えない。
あるいは表向きは俺の存在を受け入れるかもしれないが、それは後々もっと大きな問題を起こしてもおかしくはない。
それに……俺達と繋がりがあるのはゴップだ。
「ゴップはどうしてる?」
「特にどこの派閥に入ってるといった様子もないね」
そう断言するシーマ。
それでもゴップが連邦軍の中で強い影響力を持っているのは、1年戦争においてそれなりに活躍したからだ。
V作戦についても、最初は何だかんだと言ってはいたものの、最終的にはレビルの意見に賛成したらしいし。
つまりゴップは、一応連邦軍でMSを使う事に協力した人物なのだ。
勿論、ゴップが反対したからといってレビルがV作戦を発動しなかったかと言えば、そんな訳はない。
レビルの性格を思えば、ゴップが反対をしても無理矢理にでもV作戦を進めただろう。
最終的にゴップがレビルに賛成したのは、その辺についても考えていたからかもしれないな。
ともあれ、そんな訳でゴップは連邦軍においてどこの派閥にも入っておらずとも、相応の影響力を持つ。
ゴップを馬鹿にしてる奴は、ゴップをジャブローのモグラと言ってるらしいが。
軍政家として考えると、間違いなく一流の人材なのは間違いなかった。