シーマとの情報交換は進む。
「それで、連邦軍再編計画が基本的に大艦巨砲主義って話だったが、それはつまりMSを運用出来ない軍艦を作るという事になるのか?」
「そうらしいね。もっとも、何度も言うようだけど、これはまだ正式に決まった情報じゃない。計画の為に色々と根回しをしている者達がいるといったところらしいさね」
「MSがどれだけの戦力なのかは、分かってると思うけどな」
「勿論、連邦軍の全員がそうだという訳じゃない。さっきアクセルとの話にも出て来たコーウェン中将だけど、MSの運用はこれからの連邦軍に必須だという事で、さっき少し口に出したガンダム開発計画について計画しているらしい」
「それはまた……一種の皮肉と言うべきか。それとも自然な流れと言うべきか」
コーウェンがレビルの派閥の後継者なのは先程聞いた。
そしてレビルはザクを使うジオン軍には勝てないと判断してV作戦によってガンダムを始めとしたMSを開発し、それによって連邦軍は1年戦争で勝利した。
そんなレビルの後継者のコーウェンが、連邦軍再編計画で大艦巨砲主義に対抗する為にガンダム開発計画を起ち上げた、か。
いや、けど……
「今の連邦軍にそんな余裕はあるのか? それに連邦軍がV作戦で使った兵器メーカーのうち、有力な場所はかなりの数がアナハイムに吸収や買収、もしくは傘下企業になったりしたって聞いたが」
アナハイムにしてみれば、自分達の生き残りに必死だったのは間違いないだろう。
だが、それでもアナハイムが当初予想していたよりも多くの技術力を手に入れたのかと言えば、そうでもない。
何しろジオニック、ツィマット、MIPといった兵器メーカーの優秀な人材を多くルナ・ジオンが引き抜いていたし、それ以外にも連邦でもルナ・ジオンに引き抜かれなかった面々を引き抜き、それで残った者達の中からアナハイムに行ってもいいと思う者だけがアナハイムに来たのだ。
ジオニックのように会社諸共に吸収されたというのもあったが。
……もっとも、ルナ・ジオンが引き抜いたのは基本的にジオンの兵器メーカーからだけだ。
連邦の兵器メーカー……具体的にはタキム重工やブラッシュはアナハイムに買収なり吸収なりされているし、そっちにはルナ・ジオンも特に手を出していないので、そっち系の技術力はあるだろうが。
とはいえ、それはあくまでもルナ・ジオン側から手を出していないという事であって、向こうから来た場合は普通に雇われている筈だ。
何しろルナ・ジオンにはクレイドルがある。
異世界の技術や植物、生物……それ以外にも色々と興味を持つ学者や技術者はかなりの数、月に移住している。
勿論全員が月に移住している訳ではなく、中には月である程度研究をしたら地球なり、自分の住んでいたコロニーに戻るなりしている者もいるが。
「多分、そのアナハイムにガンダムの開発を依頼するんじゃないかい?」
「いや、それは……こっちにとっては助かるが、本当にそうなるのか?」
アナハイムはルナ・ジオンと契約を結んでいる。
それはアナハイムで新技術なり、MSを開発したりといった場合、それをルナ・ジオンに……より正確にはルナ・ジオンとシャドウミラーに公開して少数だが譲渡する事という契約を。
そのような契約を結んでいる状態で、アナハイムが連邦軍からガンダム開発計画を依頼された場合、当然だがその新しく開発されたガンダムは俺達に譲渡される事になる。
それはこちらとしては悪くない話だが……
「ここでフィフス・ルナに繋がって来るんじゃないかと思うんだけど、アクセルはどう思う?」
「……なるほど、そういう事か」
フィフス・ルナを整備しているのは、そういう理由もあるのかもしれない。
アナハイムにしてみれば、現状だとルナ・ジオンに自分達の頭を押さえつけられている状況で、それは決して面白くないのだろう。
だからこそ、ルナ・ジオンだけではなく連邦軍ともしっかりと繋がっておきたいと考えてもおかしな話ではない。
あくまでもそれはアナハイムの理屈で、それを受けたルナ・ジオンがどう思うのかはまた別の話だが。
アナハイムはルナ・ジオンからの恩恵をかなり受けている。
具体的には、MSや戦闘機、武器……それ以外にも家電を始めとして、アナハイムが売っている商品を作る為の原材料を安めの値段でルナ・ジオンから購入してるのだ。
もっとも、その原材料となる各種金属のような資源の類は、ルナ・ジオンで働いている者達がスペースデブリとかを確保してきて、それをシャドウミラーに売って、キブツで元素変換をした物をアナハイムに売るという形なのだが。
そういう意味では、ルナ・ジオンは元手が殆ど掛かっておらず、ほぼ丸儲けに近い。
だが、それでもアナハイムが安く原材料を購入出来ているのは事実。
そんなアナハイムがルナ・ジオンを裏切る……あるいは契約の裏を突くような事をすれば、一体どんなペナルティがあるのか、ちょっと分からない。
「もしそうなったら、ルナ・ジオンとしてはどう動く? まさか、何のペナルティもなしとはならないよな?」
「そうだね。単純に資材を販売する際の値段は上がるだろうな。他にも税金の優遇措置も……最初は多少低下するくらいだけど、それでも懲りないようなら優遇措置から外れるかもしれないね」
「それは、また……」
シーマの口から出たのは、俺が予想していたよりも厳しい内容だった。
資材を販売する際の値段が上がるのは、そんなに驚くような事ではない。
だが、税金の優遇措置の件は、アナハイムにとって非常に大きな痛手だろう。
アナハイムはかなりの大企業だ。
それはつまり、税金……いわゆる法人税をルナ・ジオンに支払っている事を意味している。
それも企業の規模に合わせた金額をだ。
とはいえ、ルナ・ジオンも今はまだ多くの者達をルナ・ジオンに呼び寄せている最中だけに、相応の優遇措置を行っている。
……まぁ、ルナ・ジオンの場合、シャドウミラーとの繋がりがあるのでその辺はどうとでも対処出来るというのが大きい。
その為、税制優遇措置はかなり大きな効果をもたらしていた。
だが、その税制優遇措置が減ったり、あるいは取り消しになれば……もしかしたらアナハイムは地球に戻るとか、そういう牽制をしてくるかもしれないな。
「もしアナハイムが月を出ると言ったらどうするんだ?」
ルナ・ジオンにとって、アナハイムというのはかなり大きな意味を持つ。
自前でディアナという兵器メーカーを持ち、アルテミスというニュータイプ研究所も有しているルナ・ジオンだが、だからといって兵器メーカーというのは多いに越した事はない。
ジオン公国のように3つのメーカーで争わせて……というのはちょっとどうかと思うが、ルナ・ジオンの場合は基本的にディアナをメインにして、アナハイムはちょっとした刺激……スパイス程度といった形を予定していた筈だ。
それくらいなら特に問題はないという判断なのだろう。
実際、その考えはそんなに間違ってるようには思えない。
シャドウミラーの場合は、それこそ技術班に一任する形になっているので、それとは比べられないが。
何しろシャドウミラーの場合、主力は基本的にメギロートやバッタのような無人機であったり、量産型Wが操縦するシャドウであったりするのだから。
実働班や精霊の卵は、精鋭といった扱いになる。
そういう意味では、シャドウミラーは多少……いや、かなり歪な存在なのは間違いなかった。
「そういう事を言ってくるとは思うけど、実際に出るという事はないというのが私の予想だね。多少企業の規模は小さくなるかもしれないけど、うちと連邦のどっちが企業にとって利益になるのかを考えれば、答えは決まってるだろうね」
それはアナハイムが月を捨てる事は決してないと確信している様子だった。
まぁ、その判断は分からないでもない。
今の地球は、1年戦争によって人口が大分減っている。
それはつまり、それだけ連邦の収入も減っているという事を意味してるのだ。
……とはいえ、人口が減った分、支出も多少は減っているが。
だが、支出が減ったよりも出る方が多い。
その最大の理由が、戦後復興だ。
既に1年戦争が終結してからそれなりに時間が経っているものの、1年戦争は全世界……どころか、宇宙まで含めた戦争だった。
1年戦争の終戦において、ジオン共和国となった今のジオン……ガルマが代表をしている今のジオンがコロニーの修理とかを行う事になっているものの、地球については特に何かをする事にはなっていない。
それはつまり、地球の復興は連邦が行う必要があるという事だ。
しかも棄民政策としてコロニーに地球の住人の大半を移住させたという事もあり、地球に住む者達は多くない。
そんな中で戦後復興をするとなると、連邦としては金は幾らあっても足りない。
そのような状況で、アナハイムのような巨大な企業が月から地球に本拠地を移せばどうなるか。
ましてや、連邦にしてみればアナハイムは月に本拠地を置くという意味で、裏切り者と見ている者もいるだろう。
もっとも、全員がそのように思っている訳ではないのは、コーウェンがガンダム開発計画をアナハイムに任せるかもしれないというシーマの情報から明らかだが。
ともあれ、金を持ってるアナハイムが地球に戻ってくれば、これ幸いと連邦がアナハイムに重税を掛けてもおかしくはない。
ゴップがいればあまりそういう事にはならないと思うが、強硬派が多くなってきてるのも事実。
それにゴップはまだ軍人だし。
連邦では軍人が政治に口を挟む事も多いが、それでも限度があるだろう。
「色々と大変な事になりそうだな」
「そうだね。アクセルはそんな時にやってきた訳だ。もしかしたらその辺に巻き込まれるかもしれないよ?」
「そうなったらそうなったで、相応の対応をするだけだ。……とはいえ、俺達の事をよく知っているゴップがそういう事をするかと言えば、微妙なところだろう」
ゴップにしてみれば、ただでさえ俺に強硬派が絡んだ一件で、連邦軍の中でも最新鋭のジーラインを譲渡する事になったのだ。
そんな中で、更に俺を面倒に巻き込むような事をすれば、次は一体何を支払わらなければならなくなるかと、そう考えてもおかしくはなかった。
「連邦の方はそれでいいとして、次はジオンの方だけど……こっちはあまり集まっている情報はないね」
「キシリアがどこにいるのかもか? いやまぁ、火星にいるらしいってのは聞いてるけど」
「そうだね。アクシズからも特に連絡は入っていないよ。ただ、現在火星にはキシリア派とギレン派の2つの残党がいると聞いてる。その2つが上手くやっていけるかと言われれば、正直微妙だと思うけどね」
「だろうな」
その意見には俺も賛成だった。
ギレン派の者達にしてみれば、キシリアはギレンを暗殺した相手だ。
そんな相手に……しかも暗殺した張本人がいるとなると、とてもではないが上手くやっていけるとは思えない。
だが同時に、それはキシリアがいるという点でキシリア派の方が有利であるという事を意味してもいた。
キシリアは色々と問題があるものの、有能なのは間違いないのだから。
こうなるとドズルの後継者的な立場にあるガルマがサイド3を治めているのは大きいな。
白狼の異名をもつシン・マツナガを始めとして、ドズルの部下には純粋に軍人として高い能力を持つ者が多い。
とはいえ、ドズルの配下が全てガルマの下にいる訳ではない。
1年戦争中に起きたソロモン攻略作戦のチェンバロ作戦において、ドズルやその部下の多くが死んでいる。
現在ガルマの下にいるのは、チェンバロ作戦を生き残った、そしてア・バオア・クー攻略作戦の星1号作戦も生き残ったドズルの部下が、今のガルマの下にいる。
そんな2つの大規模な戦いを生き残った者達なので、当然ながらその数は少ない。
勿論、ガルマの下にいるのはドズルの派閥だけではなく、それ以外……ギレン派、キシリア派、デギン派が集まっている。
また中にはダイクン派がいたりもするらしい。
ルナ・ジオンの女王がダイクンの娘のセイラで、ルナ・ジオンに多くのダイクン派が集まっているのは事実だが、ダイクン派であっても何らかの理由で月に移住せず、ジオン共和国に残っている者もいる。
とはいえ、それでもジオン公国時代に比べると、ガルマが率いてる今はダイクン派に対する圧力もないに等しいらしいが。
この辺は月の重要性を分かっているガルマの指示だろう。
……とはいえ、中には長年ダイクン派を差別してきたので、それを止められないような者もいるらしいが。
「火星か。一度人を派遣してみた方がいいのかもしれないな」
普通なら火星まで行くのは結構な時間が掛かるものの、ルナ・ジオンの場合はシステムXNがあるので、行こうと思えば一瞬で行ける。
行けるのだが……その辺の技術を大々的に見せるのも問題なんだよな。
そんな風に思いつつ、俺はシーマと暫くの間、情報交換を……もしくはデートを楽しむのだった。