ペズンにある格納庫にやって来ると、そこには数機のアクト・ザクの姿があった。
ザクと言えばザクだが、それでも普通のザク……F型とかに比べるとやっぱり違うな。
実際アクト・ザクは名前こそザクだが実質的に違うMSとして開発されており、だからこそ形式番号もMS-06ではなくMS-11なんだよな。
「こうして見ると、やっぱり普通のザクとは違うわね」
クリスの言葉に素直に頷く。
「そうだな。ザクの進化系MSといった感じか。……その場合、アクト・ザクじゃなくてザクⅢとかでもいいと思うけど」
そうしてアクト・ザクを見ながら話していると、シュナイダーがこっちにやって来る。
「アクセル代表、格納庫に来たのですから、どうせならもっと別の物も見ませんか?」
「別の物?」
何だか俺達を格納庫から……いや、違うな。俺じゃなくてクリスか? とにかくこの場所から動かしたがってるように思える。
これがさっき俺達にアクト・ザクを見せるのにあまり気が進まなかった理由なのか?
そう思ったが、特に反対をするつもりもないので頷いておく。
「俺はそれで構わないけど、何がある?」
「このペズンでは、ディアナの指示を受けて新型MS……というか、次世代のMSの開発をしています。勿論ディアナの方でも新型MSの開発はしてるのでしょうが」
まぁ、MSを開発出来る環境にあって、実際にペズンではガルバルディβのベースとなるガルバルディαやこのアクトザク、他にも何機種か開発していたのだから、そういう事になってもおかしくはないのか。
「ちなみにここで開発してるのはどういうMSだ? ああ、勿論部外秘で話せないのなら無理に話す必要はないけど」
「いえ、アクセル代表になら問題ないと思いますが……一応上に確認してきます」
そう言い、シュナイダーは俺の前から走り去る。
その言葉通り、上司に話を通しにいったのだろう。
サイクロプス隊がこのペズンを守る上での切り札的な存在であるのは間違いないが、だからといって機密を勝手に話す許可を持っている訳でもない。
であれば、その件について許可を貰う必要はあのだろう。
「ちなみにディアナの方で開発している新型機ってのは、どういうのだ?」
「幾らアクセルが相手でも、私が教えることは出来ないわよ。……シーマやモニクなら、教えてもいいかどうかの判断は出来たんでしょうけど。とはいえ、アクセルがその気になれば、すぐにでも知る事が出来ると思うわよ?」
「まぁ、そうだろうけどな」
ルナ・ジオンはシャドウミラーの下部組織的な存在だ。
そうである以上、シャドウミラーからの命令があれば、情報の開示をしない訳にはいかない。
それが具体的にどのような機密であっても。
勿論、その機密を公開するように要望してきた相手がシャドウミラーの中でもそこまで地位の高い者ではなかったりしたら、少しは話が変わってくるかもしれないが。
そんな風に考えていると、すぐにシュナイダーが戻ってくる。
開発中の新型MSについての情報を話してもいいかどうかを聞きに行った割には、戻ってくるのが随分と早いな。
「許可が下りました」
「随分と早いな」
「いえまぁ、現在開発が始まってからまだそんなに経ってないので、説明しても問題はないと判断したのでしょうね。それに上にしてみればアクセル代表に対しては隠さない方がいいと判断したんだと思います」
そういうものかと少し疑問に思ったのだが、シュタイナーの言葉にクリスが頷いているのをみれば、どうやらそういうものらしい。
あるいは、他の理由としてシュタイナーが口にしたように、まだ開発が始まったばかりで特に隠すような物はないというのも大きいのかもしれないが。
「ここでは何ですし、向こうに行きましょうか。一応休憩室がありますから」
シュタイナーに促され、休憩室に向かう。
別に格納庫の中で色々と話を聞いてもいいんだが、シュタイナーが気を遣ってそういう風に言うんだから、それを断る訳にもいかないしな。
そうして休憩室に入る。
「綺麗ね」
休憩室を見て呟くクリス。
格納庫にある休憩室なんだから、かなり散らかっていると思っていたのだろう。
実際、その判断はそう間違っていないように思えるし、俺もそう予想していた。
シュタイナーが急いで片付けさせたのか、それとも誰か綺麗好きがいてそれなりに整理整頓してるのか。
その辺は俺にもちょっと分からなかったが。
「座って下さい。それで、新型MSの開発についてですが……名称としてはゼクシリーズと呼称されています」
「ゼクか」
少し変な名前だが、そもそもザクとかグフとかドムとかジムとか、2文字のMSはそれなりに多いと考えれば、実際にはそこまでおかしい訳でもないのか?
「開発目的としては、特に新しい機能を持たせるという訳ではなく、信頼度の高い既存の完成された技術を使ったMSとなる予定です。また、ザク……正確にはザクⅡのように汎用性を重視したものですね。名称はゼクシリーズの1番目という事で。ゼク・アインとなります」
ゼク・アイン。
つまりドイツ語か。
いやまぁ、ジオンはドイツに影響を受けている印象がそれなりにあるから、そういう意味ではそんなに間違ってない……のか?
そして1番目がアインなら2番目はツヴァイ、3番目がドライか。
もっとも、まだアインをどのようなMSにするのかといったコンセプトが決まったといった感じらしいが。
「汎用性が高いというのはいいな」
「そうね。宇宙と地上で使えるのは便利だわ」
「……ん? そう言えば現在のハワイのMSはどうなっている? 一応ガルバルディβもギャン・クリーガーも宇宙と地球の双方で使えるんだろう?」
地上、そして重力が多少の問題はあるが月でも使えなければ、大々的に主力MSとしては使えないだろう。
もっとも、ガルバルディβもギャン・クリーガーもどちらかといえば宇宙での方が本領発揮出来そうだが。
「一応地上にも配備はされてるわよ。ただ、場所がハワイでしょう? 普通に地面を歩いて移動する機体よりは、海上も移動出来るホバー移動が可能なドム系列の方が好まれるらしいわ。後は水中用MSとかグラブロも使ってるらしいわね」
「……ああ、そう言えば」
自分で手配しておいてすっかり忘れていたが、W世界のキャンサーやパイシーズであったり、SEED世界のグーン、ゾノ、アッシュといった水中用MSをハワイで使わせていたな。
具体的にどの水中用MSが人気があるのかは分からないが……ちょうど今日にはもうハワイに行く事だし、ハワイに行ったらその辺を聞いてみてもいいかもしれない。
にしても、グラブロもまだ使っていたのか。
水中用MAのグラブロは、潜水艦とかを相手にするにはかなり便利だが、MSを相手にするにはちょっと力不足だ。
何しろ武器が魚雷と対空ミサイルランチャー、それと格闘用の腕しかない。
水中用MAだからと言われれば仕方がないが。
それだけしか武器がないのに、巨体。
MSにしてみれば、いい的でしかない。
とはいえ、他の水中用MSを牽引して運んだり、かなり深海でも行動出来たりと、メリットがない訳でもない。
それにハワイを治めているのはギニアスだ。
アプサラスを開発したのを見れば分かるように、ギニアスはMAの開発を得意としている技術者だ。
そう考えれば、グラブロを運用していてもおかしくはないか。
「グラブロの件はともかくとして、ドム……ドムか。いやまぁ、決して悪い機体じゃないんだけどな」
実際、ドムは1年戦争の時も地上で活躍しているし、ゲルググまでの繋ぎではあるが宇宙用の主力MSとしても採用された。
森や林、山といった木々が生えている場所ではホバー移動の難易度も上がるので、そのような場所でドムを運用するには相応の技量が必要になるが、海上をホバー移動するのならその辺の心配はない。
また、実弾兵器を相手にしても重MSとして厚い装甲を持っており、相応に防御力は高いし、武器のバズーカも高い威力を持っている。
そういう意味では、非常に強力なMSに思える――というか、それは事実――のだが、問題はビーム兵器だ。
ハワイにいるルナ・ジオンが戦う可能性がある相手としては、まずシオン軍の残党がいる。
現在のジオン軍残党は、基本的にギレン派とキシリア派の2つだ。
実際にはその2つに所属していない残党もいるかもしれないが、その数は決して多くはない。
特に地球の攻略はキシリアの突撃機動軍が行っていた。
実際にはガルマ率いる地球方面軍もいたのだが、その構成は基本的に突撃機動軍の者達で、下部組織的な存在だったし。
そんな訳で、キシリア派にしてみればルナ・ジオンの領土のハワイというのは、自分達を今の境遇に追いやった連邦軍に協力した者達で、しかもジオンの名を使っているという点でも不愉快だというのがあるだろう。
ましてや、ハワイは繁栄してるので残党の自分達と比べると余計に面白くない。
そんな訳でハワイを狙って攻撃をしてもおかしくない訳だ。
もっとも、ハワイは戦力が充実しており、何よりアプサラスという凶悪なMAも存在する。
少し考える頭があれば、そんなハワイを攻撃しても撃退されるだけだと分かっているだろう。
……ただし、考える頭があるのなら残党という立場にはなっていない。
そう考えると、実際にはいつハワイを襲ってきてもおかしくはない。
そして次に、連邦軍。
ゴップは俺達と友好的な関係だし、コーウェンも個人的な感情はともかく、俺達と友好関係にあったレビルの派閥の後継者だから、直接攻めてくるといった事は考えなくてもいい。
だが、強硬派は違う。
ルナ・ジオンという存在そのものが面白くなく、どうにか排除しようとしている者達。
その上で、自分達が勝ってると無条件に考え、だからこそ自分達でハワイを攻め落とせると考えてもおかしくはなかった。
実際に攻めてくれば、戦力差でどうとでもなるだろうが、そうなったらそうなったで面倒臭い事になるのも事実。
「勿論、ソロモンの悪夢、荒野の迅雷といった異名持ちを始めとしたエースはドムではなくてギャン・クリーガーに乗ってると思うけど」
「なら、その能力は存分に発揮出来そうだな」
ガトー、ヴィッシュ……そして異名はないが、この2人に決して負けない実力を持つノリス。
地上にあるルナ・ジオンの領土のハワイを守る中でもこの3人は突出した存在だ。
そしてアイナの操縦するアプサラスⅢは、圧倒的な殲滅力を抱く。
そう言えば未だにアプサラスはⅢのままなのか?
ギニアスの性格を考えれば、アプサラスⅣ辺りを作っていてもおかしくはないと思うんだが。
もし作っていた場合、どういう性能になるのやら。
「SFSの方も開発を進めた方がいんじゃないか?」
今のところ、ハワイで使われているSFSはジオン軍が使っていたド・ダイとシャドウミラーが開発したダラニが使われている。
だが、ド・ダイは1年戦争中に臨時で作り出した機体だし、ダラニは基本的に戦場まで移動した後は敵にぶつけて自爆させて相手にダメージを与えるという使い捨てが前提とされている。
そうである以上、普通にSFSとして使うには双方共に微妙に問題があった。
なら、ド・ダイの後継機を作ってしまえばいいというのが俺の考えだった。
幸い、ディアナには多くの技術者が集まっているし、ハワイにもアプサラスを開発したギニアスがいる。
SFSを開発するのは、そんなに難しくはないと思う。
「うーん、適当に作るのならともかく、しっかりとした設計でとなると、それはそれで問題があるのよね。コストと性能とか、整備性とかも問題になってくるし」
クリスが難しそうな表情で言う。
特殊部隊のシュタイナーと違い、クリスは開発畑の出身でもある。
だからこそSFSを開発するというのは、少し難しいと思ったのだろう。
「そう言えば、連邦軍のバストライナーとかは一応SFS的な性格を持っていなかったか?」
「バストライナーとド・ダイだと、随分と違うと思うんだけど」
「そうだな。けど、どうせなら高性能なSFSの方がよくないか? ルナ・ジオンの持ってる技術力は高いんだし」
連邦とジオンでは、ジオンの方が技術的に進んでいた。
勿論ビームライフルを始めとして幾つかは連邦の方が優れた技術を持っていたものの、総合的に見るとジオンは連邦の10年先の技術を持っていたというのはそんなに間違っていないらしい。
とはいえ、それが本当に10年なのか、実は15年とかなのを10年としているのか、あるいは5年程度の違いしかないのか……そこまでは分からないが。
ともあれ、ジオンが連邦を上回っていたのは間違いないらしい。
そしてルナ・ジオンは、ジオニック、ツィマッド、MIPを始めとして、多くの優秀な技術者を引き抜いている。
なら、バストライナー……それとペズンで開発された奴にはスキウレというのもあったが、それを使ったSFSを開発しても問題はないと思う。
そう言うと、クリスは難しい表情を浮かべつつも、一応ディアナで上層に進言してみると言うのだった。