『さて、じゃあそろそろシャトルも降下する頃合いだろ。俺達はルナツーに戻る』
「ああ、護衛助かった」
個人的には、強硬派が襲ってきてくれた方が嬉しかったんだが。
ヤザンが言っていた、アムロの回避データを使ったジム・コマンド。
出来ればこれを入手したかったし。
とはいえ、このシャトルにはMSを搭載していない。
空間倉庫にニーズヘッグとかがあるから、どうしても戦えない訳ではないんだが……それでも今の状況を考えると、多分俺が出るよりもヤザンが素早く行動するだろう。
ヤザンと話してみた感じ、アムロの回避データが使われているジム・コマンドを好んでないようだし。
まぁ、分からないではない。
UC世界はそれなりに高い技術を持っているものの、それでもまだ発展途上の技術も多い。
アムロのデータを使っているという話だったが、そのデータを完全に使いこなす事が出来ていないと見るべきだ。
だとすれば、一定以下の実力を持つ相手の攻撃は回避出来るものの、一定以上の実力を持つ者を相手にした場合は回避が出来ないとう可能性は十分にあった。
実際に見てみないと何とも言えないが。
つまり、雑魚を相手にした場合は大きな力を持つものの、エースとかを相手にした場合は逆にカモになる可能性が高い。
とはいえ、アムロの回避データを持つジム・コマンドが珍しいのは事実である以上、出来れば入手したい。
ゴップに頼めば、ジーライン以外にその機体も追加してくれたりしないか?
『じゃあな。またいつか会える時を楽しみにしてるぜ』
そう言うとヤザンとの通信は切れる。
この後、ヤザンがどうするのかは分からない。
ルナツーに戻るのか、それとも最近急速に整備されているというフィフス・ルナに向かうのか。あるいは地球に戻るのかもしれない。
……いや、最後のはないか?
地球に戻るのなら、最初から護衛としてこのシャトルと一緒に行っていただろうし。
ともあれ、この様子だといずれまたどこかで会う事もあるだろう。
そう言えば1年戦争で一緒に行動した連中、今はどうしてるんだろうな。
特に裸踊りの異名を持つモンシアとか。
もっとも、最終的には不死身の第4小隊と呼ばれるようになったらしいが。
裸踊りについては、知る人ぞ知るってところらしい。
モンシア達はヤザンと同じくまだ連邦軍にいそうだよな。
というか、モンシアの場合は軍人以外に食っていく事は出来ないだろうし。
それにモンシアは何だかんだとMSの操縦技術は高い。
エース級には及ばないが、ベテラン……もしくはベテラン以上準エース級未満といったところか。
不死身の第4小隊においては、精々バニングが準エース級といったところだろう。
ちなみにこの場合のエースとか準エースというのは、ジオン軍換算……例えば敵MSを5機倒してエースとか、軍艦を5隻倒してシップエースだとか、そういうのではなく、純粋に技量の問題だ。
いやまぁ、ジオン軍換算の方が色々と分かりやすいんだろうが、5機倒すのはそこまで難しくはないし。
ともあれそんな第4小隊だが、個人としての能力はそこまで高くなくても、それを補う形で連携が上手い。
モンシアは連携とか苦手そうに見えるものの、バニングが指揮をすれば大人しくそれに従うんだよな。
何だかんだとモンシアがバニングを慕ってる証なんだろう。
また、モンシアと性格的にもよく似ているベイトはともかく、それなりに真面目な性格をしているアデルはモンシアやベイトとあまり友好的にやれそうにないんだが……その辺は一緒に1年戦争を潜り抜けた戦友という事なのだろう。
『アクセル代表、そろそろ地球に降下します。揺れますのでご注意下さい』
そう通信が入り、やがてシャトルは地球に向かって降下を始める。
周囲が真っ赤になっていくこの光景は、見る者によっては地獄の光景といったようにも思えるらしい。
ただ、俺にしてみれば命の心配はないので、普通に綺麗だと思う。
……何しろシャトルが爆発しても、普通に生身で地上に降下出来るし。
そんな風に思ったのがフラグとなって、この状況で強硬派が襲ってくる……などというような事もなく、シャトルは無事に大気圏を突破してルナ・ジオンが地球に唯一所有する領土のハワイに到着する。
ヤザンと接触した以外は特に問題らしい問題もなく。
「アクセル代表、到着しました」
わざわざ船長……いや、艦長? ともあれ、このシャトルの中で一番偉い人物が俺の前にやって来てそう言う。
ちなみに船長と艦長の違いというのは、簡単に言えば乗ってる船が軍かそれ以外――具体的には民間――かの違いだ。
そういう意味では、このシャトルの場合は船長になるかもしれないが、このシャトルの所属はルナ・ジオンで民間の船ではない以上、どっちなのか分からない。
まぁ、取りあえず船長という事にしておけばいいか。
「そうか、今回は助かった」
「いえ、ペズンからの護衛もいましたので、特に襲撃されるといった心配はありませんでしたから」
そう言えばペズンからの護衛もいたんだよな。
結局俺はヤザンとばかり喋っていて、特にそっちとの会話はなかったな。
特に知り合いとかでもなかったし、それは別におかしな話ではないんだが。
「ペズンにも……いや、シュタイナーにも礼を言っておいてくれ」
「私は数日ハワイに滞在してからペズンに戻る事になりますので、その時になりますが」
それでいいと頷くと、俺はシャトルから出る。
すると……
「お待ちしておりました、アクセル代表」
シャトルを下りた場所には、強面の人物……ノリスの姿があった。
ちなみにこのノリス……俺にとってはちょっと……いや、かなり意外だったものの、時の指輪の受信機を身に付けている。
ノリスの性格を思えば、不老には興味がないと思っていたんだが。
実際、普通に考えればノリスが不老になることを望むとは思えない。
それを変えたのは、アイナ。
正確にはアイナとガトーの結婚がある。
その2人にはまだ子供がいないが、将来的に子供が生まれるのは間違いない。
ノリスはそんな2人の子供を……そしてこちらはまだ相手が決まっていないが、ギニアスの子供を見届けることを決意したらしい。
正確には子供ではなくサハリン家をと表現すべきか。
ギニアスやアイナに頼まれ、それを引き受けたらしい。
つまり、ノリスはサハリン家の守護神とでも呼ぶべき地位に就いたのだ。
実際、ノリスはMSパイロットだけではなく、軍人としても非常に優秀だ。
サハリン家がハワイを纏めているが、ギニアスは基本的に技術者だし、アイナはMAのパイロットだ。
結果として、ハワイを治めているのにはノリスの力が大きかったりする。
勿論ノリスだけでそういう事が出来る訳でもなく、ヴィッシュ達オーストラリア組であったり、闇夜のフェンリル隊であったりも上手い具合に協力しているのだが。
「まさかノリスが迎えに来てくれるとは思わなかったな」
「アクセル代表が来るのですから、このくらいは当然かと」
「そうか? なら、安心して世話にならせて貰おう」
「は。ギニアス様から、ハワイの中でも最高級のホテルを用意するように言われております」
「別にそこまでする必要はなかったんだけどな。……まぁ、ギニアスの心遣いだ。ありがたく使わせて貰う」
「は。ギニアス様からも、くれぐれもと伝言を承っております。それでまずはギニアス様とアイナ様のいる場所にお連れしたいのですが、構わないでしょうか? 夕食に招待したいとの事ですが」
「そうしてくれ。明日にはハワイを出るけど、今日は暇だしな」
今日は特にやるべき事がある訳でもない。
……いや、既に夕方近いので、夕日が海に沈む光景を見ていたりとか、そういうのはしてもいいかもしれないが。
とはいえ、恋人もいない中、1人でそういう光景を見てもちょっとな。
そんな訳で、俺はノリスと共に移動するのだった。
「以前来た時と少し変わったな」
ハワイの中でも、サハリン家が住んでいるのはかなり辺鄙な場所だ。
アプサラス計画を進めるとか、連邦軍に襲撃された時に一般人を巻き込みたくないとか、それ以外にも色々と理由があっての事なのだろう。
そんな場所……いわゆる基地だったが、以前来た時と比べると結構変わっているように思えた。
具体的にどこがどうと言われてもすぐには分からないのだが。
「この基地も日々変化してますから」
車……それも明らかにVIP用の高級車の窓から見える景色に呟くと、ノリスがそう返してくる。
少しだけ嬉しそうなのは、この基地が自慢だからだろう。
あるいは自分の家を褒められた事が嬉しかったという感じか?
ノリスが……そしてギニアスやアイナ、ガトーといった面々がハワイに愛着を持つのは、ルナ・ジオンとしても悪い事ではないし。
ルナ・ジオンの基地だけあって、兵士達がそれなりにいる。
連邦軍の基地と違うのは、兵士達の他に量産型Wやコバッタが基地の中にいる事だろう。
「量産型Wやコバッタにはもう慣れたのか?」
「そうですな。ハワイに拠点を構えてそれなりに経ちますから、もう自然と量産型Wやコバッタには慣れましたな。幸い、今のところこの基地ではテロ行為の類や……ましてや、攻撃をされるといったことはないので、そこまで活躍する機会はないのですが」
「それは幸運なことだと思うけどな」
「私もそう思います」
車が停まり、俺とノリスは車から降りる。
すると基地の入り口に立っていた歩哨が、こっちを見て素早く敬礼してきた。
向こうにしてみれば、ノリスと俺がいるのだから敬礼しないという選択肢はないだろう。
ノリスやガトー、ヴィッシュといった面々がしっかりと兵士達を統制している証だ。
これで俺達がいるのに何をするでもなく、ただ見ているだけであったりすれば、今はいいが後でノリスの雷が落ちても不思議ではなかった。
そうして基地の中に入ると……
「お久しぶりです、アクセル代表」
ガトーの姿がそこにはあった。
隣にはアイナもいる。
どうやらここで俺達を待っていたのだろう。
「久しぶりだな、ガトー、アイナ。2人共元気そうで何よりだ」
「ハワイの気候は自分にも合ったようで。それにアイナがいるのも大きいでしょう」
「そんな……すみません、アクセル代表。この人はこういう人ですから」
俺が知ってるガトーらしくない性格だな。
とはいえ、明るくなったその様子は、ルナ・ジオンが1年戦争で勝利したからというのもあるだろう。
もしルナ・ジオンがジオン公国に味方した結果、1年戦争に負けていたらガトーは今のような性格にはなっていなかった筈だ。
また、ハワイの気候が身体に合っているというのも、間違ってはいないのだろう。
その為に、こうして少し明るくなったのだろう。
アイナもそんなガトーの変化は嬉しく思っているらしく、こういう人だからと口にしつつも、喜んでいるように思えた。
この2人は上手くやっていけるだろう。
「ハワイは問題なく治められているようで何よりだ。MSの方は問題ないか? 何でもドム系をメインで使うという話を聞いてるが」
「は。やはり周りが海に囲まれているハワイでは、宇宙で使われているようなガルバルディβよりも、ホバー移動が可能なドム系の方がいいという結論になりました」
「具体的にはどのMSにするか決まってるのか? ドム系とはいえ、それなりに種類はあるけど」
ドム系のMSは結構な種類がある。
とはいえ、きちんと量産されて使えるドム系となれば……ドワッジとドム・トローペンくらいだろう。
どっちもドムの上位機種だが、基本的にはアフリカとかの熱帯とかで使うように開発された機体だ。
ハワイのような海に囲まれたところで使うとなると、それなりの改修をする必要があるのは間違いない。
いやまぁ、ギニアスがいればその辺はどうとでもなりそうな気がするが。
「その辺はまだ正式には決まってません」
ガトーが少し残念そうな様子を見せる。
以前はガトーもグフ・カスタムを使っていたと思うんだが、ドムにも興味はあるらしい。
もしくは単純にハワイではグフ・カスタムよりもドムの方がいいと思ったのかもしれないが。
空を飛ぶという意味では、一応グフ・フライトタイプもあるが……あの機体は空を飛べるのは間違いないが、一定の時間だけなんだよな。
「なら、SFSとかも検討してみたらどうだ? ハワイに降りる前にクリスと一緒だったんだが、SFSのアイディアを出しておいた。月に戻ったら、ディアナの上層部に提出するらしい。それが本当に開発されるかどうかは分からないが」
ガトーは……いや、ノリスもその辺については興味があるのか、こちらに視線を向けていた。
「それはどのようなSFSなのか、聞いてもいいでしょうか?」
「簡単に言えば、ジオン軍のスキウレ、連邦軍のバストライナーに似た感じのSFSだな」
その言葉に、恐らくは予想したSFSと違ったのか、ノリスもガトーも微妙な表情を浮かべるのだった。