「やあ、アクセル代表。ようこそおいで下さいました」
笑みを浮かべ、そう言うギニアス。
その姿は健康そのもので、俺達と最初に会った時の病弱さは全く想像出来ない。
レモンの治療がそれだけ的確だったという事だろう。
実際、レモンとホワイトスターにある設備を使った治療は、これまで何人もの命を救ってきた。
そんなレモンにしてみれば、ギニアスの治療はそう難しい事でもなかったのだろう。
「元気そうで何よりだ。夕食には期待してる」
「ええ、期待して下さい。ただ、ハワイはシーフードは新鮮で美味いのですが、肉はシーフード程ではありません。それが唯一の難点ですな」
「島だしな」
それなりに面積のある島もあるが、それでも島は島だ。
牧畜をやるのはそう簡単な話ではない。
それこそどこかから肉を輸入するのが一番いいんだろうが……そこでルナ・ジオンと連邦の微妙な関係が影響してくる。
一応友好関係にあるのは間違いないが、それはゴップを始めとした者達だけだ。
強硬派のような一部の連中はルナ・ジオンを憎んでいる。
スペースノイドというだけで強硬派にとっては許せないのに、ジオン・ズム・ダイクンの娘のセイラが国を興した。
しかも連邦にとっては非常に重要な資金源の月を奪って。
その上、様々なコロニーから移住の希望者を募集していたりもする。
そして地上ではハワイを領土として我が物顔でいる。
連邦軍の強硬派にとって、そんなルナ・ジオンを面白いとは到底思えないだろう。
結果として、肉だけではなく何らかの物資を輸入しようとすれば、妙なちょっかいが出される事も珍しくはない……と思う。
俺の予想もここには結構入ってるけど、多分そんなに間違ってはいない筈だ。
「そうですね。ただ、最近は使っていない無人島……かなり小さな島ですが、それを使って放牧をするという計画をアイナがやってましてね」
ギニアスがそう言い、アイナに視線を向ける。
その言葉にアイナは少し照れた様子を見せた。
俺はそこまでアイナとの付き合いが長かったり深かったりする訳ではないが、それでもアイナの性格はそれなりに理解している。
MA……というかアプサラスのパイロットをやっているアイナだが、その本質はあまり戦いに向いていないのも事実。
そうである以上、アイナにしてみればギニアスが言うような放牧とかそういうのの方が向いていてもおかしくはないのだろう。
何となくだが、ホワイトスターの牧場を思い出す。
もっとも、ホワイトスターの牧場にはワイバーンとかがいたりするが。
ちなみにホワイトスターの牧場にいるワイバーン以外の動物は、基本的にSEED世界のオーブで仕入れたものだったが。
「牧畜をやる為に動物が必要なら、異世界間貿易で他の世界から入手してもいいんじゃないか? マブラヴ世界はちょっと厳しいだろうけど」
BETAの被害から大分復興してきたマブラヴ世界だが、それでも被害は大きい。
他にもX世界も戦後復興期にも関わらず戦争を起こしたので、色々と厳しかったりするが。
だが、それ以外の世界でなら値段は多少上下するだろうが、家畜を購入するのは難しくないだろう。
マクロス世界のように、地球以外の生き物を家畜として購入した場合、生態系に妙な影響が出るかもしれないが。
「それは……いいのでしょうか?」
「ハワイはサハリン家が治めているんだから、問題ないと思う。とはいえ、あくまでもこれは俺の意見だ。もし本当にそれを実行するのなら、月の許可が必要になると思う」
「お兄様」
期待の視線をギニアスに向けるアイナ。
ギニアスはそんなアイナの視線に仕方がないといったように息を吐く。
この状態のアイナに何を言っても、恐らく無駄だというのは予想出来ているのだろう。
「分かった。後で月に連絡をしておこう。ただ、私が出来るのはあくまでも可能かどうかを聞くだけだ。それで無理だと言われたのなら、諦めるように」
ギニアスのそんな言葉に、アイナは嬉しそうに頷く。
「さて、アクセル代表。そろそろ夕食にしたいと思いますが、構いませんか?」
家畜の話が一段落したところでギニアスが言ってくる。
特に断るような事でもないので、俺はそれに素直に頷く。
「分かった。じゃあ、そうしてくれ」
そうして夕食となるのだが……幸いな事に、特にスーツでとか、ドレスコードがある訳でもないので、俺としては助かった。
いやまぁ、空間倉庫の中にはそういうのも入ってるけど、あまり堅苦しいのは好きじゃないんだよな。
出された料理は、ギニアスが言っていたようにシーフードがメインだった。
どれも新鮮で、非常に美味い。
個人的に気に入ったのは、ロブスターだ。
ハワイでロブスターが獲れるのかどうかはちょっと分からないが、こうしてギニアスが出してきた以上、自信の品なのだろう。
そして事実、美味い。
カルパッチョやフライ、シンプルに焼いた魚とかでも焼き加減や下味、ソースとかに手間が掛かっている。
貝の料理も美味く、ギニアスがどれだけ俺を歓迎してくれているのかを表していた。
そして最後に出されたデザートは、ココナッツとベリー系を多用したケーキ。
もしかしたらギニアスは、俺がベリー系を好むというのを知っていたからこのデザートにしたのか。
そう考えると、シーフードでもエビや貝が多用されていたのも俺の好みを狙っての事なのだろう。
そうして夕食が終わると、リビングで俺とギニアス、それとノリスの3人での会話となる。
本来ならアイナとガトーもここにいてもいいのだが、一応これはサハリン家当主との会談という事になってるので、このような形となった。
そこにノリスがいるのは、ギニアスは技術者としては高い能力を持っているものの、純粋に軍事的な判断となるとノリスの知識と経験が必要だという事だろう。
そういう意味ではガトーがここにいてもおかしくはないのだが……ガトーがいればアイナもいないとおかしいという事になるし、そうなると当主との会談ではなく、サハリン家との会談となる。
俺としてはそれはそれで別に構わないんだが。
ただ、ギニアスの要望としてこういう形になった。
「それで、アクセル代表。SEED世界にあるアドゥカーフ・メカノインダストリー社との提携の方ですが……」
会談が始まり、10分程はお互いに適当な世間話をしていたものの、やがてギニアスが本題に入る。
「その件については、それなりに進んでいるらしい。ただ、条件的な面で色々と難しい点があるのも事実だ」
アドゥカーフ・メカノインダストリー社というのは、SEED世界にある兵器メーカーだ。
SEED世界で俺が関与した戦いの時はそこまで突出した存在ではなかったのだが、SEED世界をオーブが治める事になった結果……あるいは他の世界についての情報を入手したというのもあるかもしれないが、何故かMAの開発に力を入れ始める。
MAという点では1年戦争でジオン軍がかなり大々的に作っている。
そしてジオン軍のMAとなると、基本的にはMIP社が関わっており、シャドウミラーが最初に接触した兵器メーカーもMIP社だ。
……とはいえ、その後にはツィマッド社がヅダの件とかで猛烈にこっちに近付いて来たりしたので、MIP社の影響力はかなり落ちたが。
ただ、それでもシャドウミラー……そしてルナ・ジオンにおいてMAがかなり使われているのは間違いない。
それは宇宙にはケリィ率いるMA隊がいるのを見れば明らかだし、地上に唯一存在するルナ・ジオンの領土であるハワイをサハリン家が任されているのを見れば明らかだ。
そんな訳で、ルナ・ジオンとアドゥカーフ・メカノインダストリー社が近付くのはそんなにおかしな事ではない。
いや、同じ世界であればともかく、異世界であると考えればおかしいのか?
多分、お互いにホワイトスターで接触したのが最初だと思うが。
アドゥカーフ・メカノインダストリー社は、当然ながら所属的にはオーブではない。
ユーラシア連邦に所属する兵器メーカーだった筈だが、今のSEED世界では別にオーブの人間ではなくてもホワイトスターに来る事は出来る。
勿論気軽にという訳ではないだろうし、色々と制約も厳しいだろうが。
それでもホワイトスターに来て、恐らくはルナ・ジオンに所属する相手と接触したのだろう。
ある意味で運命の接触と言ってもいい。
そんな訳で、MAに注視する2つの勢力がある以上、手を組みたいと考えるのは当然だった。
あるいはこれが、同じ世界の勢力同士であれば競合する相手である以上、協力ではなくライバル、もしくは倒すべき相手という流れになったのかもしれない。
だが別の世界の勢力である以上、協力するべきところは協力をするという流れになったのだろう。
だがそんなルナ・ジオンとアドゥカーフ・メカノインダストリー社だったが、そう簡単に狙い通りに出来ない理由もある。
それが異世界間貿易における禁止事項……その世界の兵器を他の世界に持ち込まない事だ。
実際にはマブラヴ世界であったり、今はもう行けなくなったが門世界であったりと、例外もあるのだが。
ともあれ、それは色々と緊急の事態だったからこそ出来た事でもある。
それに対して、UC世界とSEED世界は違う。
いやまぁ、どちらの世界も最悪世界が滅びかねない戦争が起きたのは間違いないが。
SEED世界ではジェネシスを俺が奪わなければ、最悪地球に撃ち込まれて人類が滅亡していたかもしれない。
UC世界ではコロニー落としが続けばどうなっていたのか分からない。
……X世界での事を考えると、コロニーの10や20落ちても地球に被害を与えるのは間違いないが、結局人間は全滅しないような気もするが。
ともあれ、そういう危機にあったが、シャドウミラーの介入だったり現地勢力の必死の活動もあったりで、結局人類の破滅とかそういうのはないまま、戦争は終わった。
そうして平和になったからこそ、異世界の兵器はそう簡単に持ち込めない。
ハワイで使っている水中用MSとかについて責められるとちょっと困るが。
ともあれ、そんな訳で世界が違う兵器メーカーが提携を結ぶというのは色々と複雑だ。
とはいえ、複雑ではあってもその手の作業が全く出来ない訳ではない。
今回の件で考えれば、ルナ・ジオンはUC世界の国ではあるが、他の世界と違うのは実質的にシャドウミラーの下部組織という点だろう。
その為、どうにかして今回の件も何とか提携するという感じになるらしい。
「もしかして、アドゥカーフ・メカノインダストリー社の技術を次のアプサラスに活かすつもりか?」
「いえ、アプサラスⅣの開発については既に始まっています。……とはいえ、完成には暫く掛かりそうですが」
「技術的な問題か?」
「それもありますが、予算的な問題も少し」
「あー……それはまぁ、そうか」
1年戦争中は、それこそ戦争である以上勝利を最優先にする必要があった。
ましてや、ルナ・ジオンは建国したばかりで、ここで力を見せないと戦後に侮られるという事もあり、兵器開発にはかなりの資金が投入されていた。
それはアプサラス計画を持ち込んだギニアスも同じだったが、今はその戦争も終わっている。
勿論戦争が終わったからといって、すぐに兵器開発を疎かにしてもいい訳ではない。
それこそジオン軍の残党であったり、場合によっては連邦軍の強硬派もいたりするのだから。
ましてや、MAは基本的にMSよりも強力なのがメリットだが、デメリットとしてコストの高さがある。
連邦、ジオン共和国、ルナ・ジオンという現在UC世界に存在する3つの勢力の中で、ルナ・ジオンだけがMA隊を持っているのは、それだけMAの運用にはコストが必要となるからだ。
ルナ・ジオンがそのような事を出来ているのは、シャドウミラーが後ろ盾になってるからというのが大きい。
そういう意味では、サハリン家の後ろ盾もシャドウミラーなんだが……その辺は国として色々と無茶は出来ないという事なのだろう。
「なので、もう少ししっかりと開発を進めたいと思います。特に、出来ればコスト面的な意味でも」
ギニアスの言葉にノリスが頷く。
ノリスもギニアスのMAについては思うところがあるのだろう。
戦時中ならともかく、戦後での話となるとコストが高くて量産には不向きなMAというのは作りにくい。
これが、例えばコストが高くても何か他の機体――当然MSも含めて――に技術をフィードバック出来るとかなら、いいと思うけど。
それこそ1年戦争中のガンダムとジムとかのように。
もしくは、コストを下げて量産出来るようにするとか。
……ただ、前者はともかく後者は難しいだろうな。
MAはどうしてもコストが高くなる。
ルナ・ジオン軍ではヴァル・ヴァロやビグロでMA部隊があるものの、こうしてある程度量産出来ていてもコスト的にはかなり高いのだ。
それがアプサラスと来ると……うん、かなり難しい。
「新技術の実験という意味でもいいかもしれないな。アイナだとちょっと難しいかもしれないが、アルテミスで研究しているニュータイプ用の武装とか」
そう言う俺の言葉に、ギニアスは一体何を言ってるんだといった表情を浮かべるのだった。