ジオン軍残党による、ハワイへの襲撃があった翌日……当然の話だが、あの戦いの後は特に何かがある訳でもなく、俺は普通に起きて基地にいた。
「別に送ってくれなくても、俺1人でゴップとの約束の場所には行けるんだけどな」
そう言うも、ノリスは俺の言葉に首を横に振る。
「少し前までであればそれもよかったでしょう。ですが、現在どうやらアクセル代表がゴップ大将と約束をしていたベルファスト基地は、ジオン軍残党の襲撃に遭ってるようです。その為、ギニアス様からしっかりと送るように言われてますので」
「……ジオン軍残党の? 昨夜の一件と何か関係あると思うか?」
ベルファストは、何気に俺も少し縁のある場所だ。
1年戦争中にホワイトベースに乗っていた時、オデッサ作戦終了後にベルファスト基地で補給をした。
その時もジオン軍に襲撃されたのを考えると、ベルファスト基地はほとほと運のない場所らしい。
カイにとっては、恋人と出会った場所という意味で決して不運な訳ではないのかもしれないが。
「どうでしょう。タイミングを考えると何かありそうな気はしますが、イギリスとハワイでは距離がありすぎます。例えば陽動として考えても、ハワイとイギリスでは陽動になりません」
「だろうな。そもそもハワイは連邦じゃなくてルナ・ジオンの領土だ。そういう意味でも陽動にはならないし」
これが例えば、同じ連邦の領土の中でなら、あるいは……本当にもしかしたらの話だが、陽動という事もありえるかもしれない。
例えば、オーストラリア辺りとか?
ハワイとイギリスの距離よりもかなり遠いが、連邦として成立する前、オーストラリアは英連邦の一員だった。
つまり、イギリスとオーストラリアの関係は深い。
……あ、でもベルファストはイギリスじゃなくてアイルランドだったか?
とにかくイギリスとオーストラリアの関係が深い以上、オーストラリアに対する攻撃があった場合、それを陽動だと考えたりは出来ない訳でもない……か?
ともあれ、ルナ・ジオンがハワイを領土としたのは1年戦争中だ。
ジオン軍残党もその辺については十分に理解している筈だ。
まさかその辺の情報を何も入手していないとか、そういう奴はいない、よな?
あるいは残党軍の中に1人や2人はそういう奴がいてもおかしくはないものの、それでもさすがに全員がその件について知らないという事はないだろう。
だとすれば、やっぱりハワイを襲ってきた連中はベルファストとは別物になるか。
「そうなると、向こうでジオン軍残党と戦いになるかもしれないな」
「そうなる可能性もあるでしょうね。ただ、ファット・アンクルで移動するので、私のグフ・カスタムも持っていく予定です」
ノリスのようなベテランは護衛として、それもグフ・カスタムのような高性能機に乗ってきてくれるのなら、こっちとしては決して悪くはないか。
ガトーもそうだが、オールドタイプでも凄腕のパイロットは多い。
もしジオン軍残党が襲ってきても、対抗出来る手段は多ければ多い程にいい。
「それは助かるが、ギニアスの方はいいのか?」
「問題ありません」
本当に問題がないのか?
そう突っ込みたくなったが、ノリスがこう言っているのだから、その言葉通り本当に問題はないのだろう。
あるいはもし問題があったとしても、それを隠し通せると思っているのか。
とはいえ、ノリスの性格を考えると後者はないか?
そんな風に思いつつ、俺はそれ以上突っ込む事なくファット・アンクルに乗り込むのだった。
「……ちょっと予想外だったな」
ベルファスト基地にファット・アンクルが着陸したところで、俺は思わずといった様子でそう呟く。
トラブル誘引体質とでも呼ぶべき俺の特性や、何よりベルファスト基地が襲撃されたというのを考えると、ハワイからベルファストにやって来るまでの途中で、絶対に何らかのトラブルに見舞われると思ったんだが。
具体的には、ジオン軍残党や連邦軍の強硬派に襲撃されるとか。
そういう可能性があるのではなく、ほぼ間違いなく襲われると確信していたのだが、珍しく……本当に珍しく、その予想が外れた形だ。
もしかしたら俺のトラブル誘引体質が治ったのか?
ベルファスト基地に到着した時にそうも思ったが、これだけでそう思うのは色々と問題だよな。
「アクセル代表、到着しましたので下りても構わないかと。外では連邦軍の軍人が待っているようです」
ノリスの言葉に頷く。
「分かった。じゃあ、下りるか。……ちなみにだが、一応、本当に一応の話だが、MSはすぐに動かせるようにしておいた方がいい」
「そうですな」
ノリスは何故かといったようなことを聞いたりはせず、即座に頷く。
これはノリスが歴戦のパイロットとして危険を感じた……というのもあるが、それ以前の問題だ。
何しろファット・アンクルでベルファスト基地に向かう途中、かなり襲撃された痕跡を見る事が出来たのだから。
事前情報ではベルファスト基地だけが襲撃されたというものだったが、ここまで来る途中に見た感じでは、基地以外にも複数の場所が襲撃された様子があった。
しかも恐らくはMSで
ジオン軍残党と考えれば、MSを使って襲撃するのもおかしな話ではないが。
ハワイに来た情報が基地だけ襲撃されたというものだったのは、単純に情報が遅れたのか、それとも下手な誤魔化しだったのか。
その辺は俺にも判断出来ないが、何となく後者だった気がする。
その理由としては、こうして俺達がやって来たのを確認すると、すぐに連邦軍の軍人がやって来ている事だろう。
もしその辺を誤魔化そうとしているのなら……しかもそれが強硬派のやっている事なら、即座に出迎えに来たりはしないだろうし。
いや、あるいは余計な場所を俺達に見られたくないから、余計にこうして人を派遣して、基地の他の様子を見られたくないと思っているのか。
どっちもその可能性がある以上、ここでは何とも言えないな。
座っていた席から立ち上がると、俺はノリスを伴ってファット・アンクルから下りる。
するとそこでは、ノリスが言っていたように連邦軍の軍人の姿があった。
「ようこそおいで下さいました、アクセル代表!」
そう言い、綺麗な敬礼をする軍人。
「本来であれば、大々的な歓迎式典を行うべきなのでしょうが、つい先日ジオン軍残党の襲撃がありまして……」
「ああ、気にするな。俺もそういう式典とかはあまり好みじゃないしな」
やらなければならないのなら、参加をするくらいはする。
だが、個人的には決してそのような式典は好んでいない。
長く意味のない……あるいはおべんちゃらの話を聞き続けないといけないのは、どう考えても好みではない。
それなら、こうして式典のない方がいい。
……とはいえ、連邦軍の立場としてはそういう訳にもいかないのだろうが。
今回はジオン軍残党の襲撃があったから、特別という事なのだろう。
そういう意味では、俺にとっては悪くない流れなのか。
「その、ゴップ大将がお待ちですので、ご案内します」
式典が好みじゃないという俺の言葉に、軍人は困った様子を見せる。
だが、すぐにそれはスルーした方がいいと判断したのか、その件には特に突っ込まず、そう言ってくる。
軍人はそう言うと、失礼しますと敬礼をしてから一度立ち去る。
「まさか、ゴップ大将が来ているとは思いませんでしたな」
軍人がいなくなったところで、ノリスが若干の驚きと共に言う。
ノリスには珍しく、その言葉通り表情には驚きの色があった。
「ジャブローのモグラと言われていたゴップだしな。……とはいえ、ゴップにしてみれば仕方がないという一面もあると思うぞ」
元々今回の一件の発端は、連邦軍の強硬派の暴走だ。
強引に月に近付いて来て、そこで作業を行っていた俺に対して攻撃を仕掛けてきたのだから。
それどころか、撃破されるのではなく捕虜になってしまっている。
もっとも、その時は俺も偽名を使っていたので、強硬派も俺をアクセル・アルマーだとは思わなかったのだろうが。
これがもし撃破されていれば、ある程度の誤魔化しは出来ただろう。
いや、ゴップの性格を考えると、本当にそれが出来たかとうかは分からないが。
下手に誤魔化した結果、より大きな災難となるという可能性もあるのだから。
とにかく捕虜になった以上、それが連邦軍の強硬派の仕業であるというのを誤魔化す事は出来ず、謝罪の品とし連邦軍の新型MSを譲渡する結果になったのだ。
そのような状況の中で、ゴップが直接俺に謝罪に来ないという選択肢はなかったのだろう。
そもそもレビルがいなくなってしまった今の連邦軍において、ルナ・ジオンやシャドウミラーと親しく、窓口となれるのはゴップくらいなのも間違いはない。
コーウェンもレビルの派閥を引き継いだという点では悪くないが、本人が俺達を好んでないのが問題なんだよな。
ともあれ、そのような状況である以上はこうしてゴップが直接謝りに来るというのは絶対に必要な条件だったのだろう。
現在のゴップの連邦軍における影響力はかなり高い。
元々がレビルの派閥の中で高い地位にいたし、1年戦争において連邦軍が勝利する最大の切っ掛けとなったV作戦にも賛成している。
……ゴップから少し聞いたところによると、実はゴップ本人はそこまでV作戦に賛成してはいなかったらしいのだが。
レビルに押し切られる形で、渋々賛成したというのが正直なところらしい。
とはいえ、それでもV作戦に賛成したのは間違いない。
また、軍政家として前線に補給を送り続けた事から、前線で戦っていた兵士達の評価も高い。
1年戦争中にはジオン軍においてはジャブローのモグラと嘲笑されていたらしいが、そのジャブローで自分の仕事を十分にこなしていたのだから、特に問題はないだろう。
そしてレビルが死んだ事によって、ルナ・ジオンとシャドウミラーと繋がりを持つ人物。
それ以外にも色々とあるのだろうが、とにかくそんな訳でゴップの影響力は連邦軍において強い。
そして影響力が強いという事は、仕事が忙しいという事にもなる。
元々が大将という高い地位にいるのだから、仕事は忙しいのだろうが。
そんなゴップが……1年戦争中はジャブローのモグラと言われていたゴップがジャブローを出て、ベルファストまでやって来るのだから、ある意味で驚愕の展開なのだろう。
特に普段のベルファストならともかく、ジオン軍残党の襲撃があったばかりとなれば……余計に危険だろう。
「アクセル代表」
ノリスの言葉に我に返ると、その視線を追い……
「凄い車だな」
思わずそう呟く。
軍の基地……それもジオン軍残党に襲撃されたばかりの基地にやってきた以上、ジープのような軍用車で移動するのではないかと思っていた。
俺は別にそれでも構わないし、そういうのに慣れているから気にしない。
だが、やって来た車は黒塗りの前後に長い高級車だ。
明らかにVIPが乗るといったような感じの。
いやまぁ、シャドウミラーを率いる俺がVIPなのは間違いないが。
「そうですね。恐らくですが、襲撃が終わった後で用意したのでしょう」
「元から用意していたのではなくてか?」
「そうかもしれません。ですが襲撃があった事を考えると、そのような車が無事であった可能性は……」
ない。
そう言うノリスだったが、ジオン軍残党がわざわざ高級車を狙うかと言われれば、正直微妙な気がする。
ジオン軍残党がベルファストを襲ったのは、自分達の存在を見せつけるという意味もあるが、物資の強奪という意味もあった筈だ。
いや、寧ろ後者の方が可能性は高いか?
ともあれそんな状況だけに、わざわざ高級車を狙うかと言われると……うーん、どうだろうな。
勿論MSのパイロットによってもその辺の判断は違うだろう。
自分達が物資のやりくりにも苦労しているのに、高級車に乗るような生活をしてるのが気にくわないとか、あるいは単純に襲撃に巻き込まれて破壊されたという可能性もある。
高級車ともなれば、使われている部品も高品質だろうから、それをジオン軍残党の補給物資として……という可能性もない訳ではないが、そっちの可能性は低いと思う。
「この車がどういう経緯でここにあるとしても、とにかくこの車に乗る必要があるのは間違いない。俺はゴップと会ってくるけど、ノリスはどうする?」
「アクセル代表にご一緒したいところなのですが、ファット・アンクルの件もあります。このベルファストが攻撃を受けたとなると、やはりアクセル代表の言うようにMSをすぐにでも出撃出来るようにしておいた方がいいでしょう。それに……ファット・アンクルはあまり連邦軍に好まれませんし」
「だろうな」
ファット・アンクルはジオン軍の輸送機だ。
そしてこのベルファストはジオン軍残党に襲撃を受けたばかりと考えれば、ジオン軍を連想させるファット・アンクルを面白くないと思う者がいてもおかしくはない。
そんな訳で、ノリスは残るという事なのでここに残し、俺は車に乗るのだった。