黒塗りの高級車で俺が案内されたのは、ベルファスト基地の中でも特に重要な施設が集まっている一画。
そういう場所に、VIPとはいえ俺を連れてきてもいいのか?
そう案内役の軍人に尋ねると……
「ゴップ大将がいますので」
そう言われる。
なるほど、俺を歓迎しているというのを見せたいという思いがあるのも事実だが、ゴップがいるのが最大の理由か。
ゴップは大将という地位にいるものの、その昇進はいわゆる武勲によるものではない。
補給とかそっち関係での出世だ。
その辺の理由もあって、ゴップは軍人だが身体を動かすのは得意でもない。
それこそ前線で戦ったりとかは、とてもではないが出来ないだろう。
そんなゴップが襲撃があったばかりのベルファスト基地に来るのだから、警備が厳重な場所にいるのは当然だろう。
「ゴップがいるのなら、それを守るのは仕方がないか。けど、ゴップを守れる程の戦力を用意するのは大変じゃないか?」
ヤザン辺りなら問題ないかもしれないが、ヤザンはルナツーにいたしな。
しかもそれはゴップからの指示だという話だし、ゴップにしてみれば目算が狂った感じか。
ゴップにしてみれば、まさかこの状況で俺と会うベルファストが襲撃されるとは思っていなかったのだろうし。
「ファントムスイープ隊がいますから」
自信を持って軍人の男がそう言う。
どうやらそれだけ信頼している部隊らしい。
「ファントムスイープ隊? 聞いた事がない部隊だが、どういう部隊だ? ああ、勿論話せる事だけでいい」
俺には色々な情報が集まってくるが、それでも全ての情報を知っている訳ではない。
……そもそもシャドウミラーが関わっている全ての世界の情報を詳細に理解しろと言われれば、それこそ俺には到底無理だ。
いや、魔法球を使えばあるいはどうにかなるかもしれないが、それでもかなり厳しいのは事実。
そんな訳でファントムスイープ隊についての情報は持っていなかった。
「ジオン軍残党を倒す為にゴドウィン・ダレル准将が作った遊撃特務部隊です」
特務部隊という言葉を聞くと、キシリアを……正確にはキシリアの率いた突撃機動軍を思い浮かべる。
突撃機動軍の特徴の1つとして、特殊部隊が多いというのがある。
ルナ・ジオンに所属している者達だけでも、黒い三連星、闇夜のフェンリル隊、サイクロプス隊が有名どころだろう。
ケンの所属していた外人部隊は……これは突撃機動軍の所属ではなかったと思う。
ルナ・ジオンに所属してない者達としては、それこそ1年戦争の最後に戦ったキマイラ隊がそれだ。
実際に特殊部隊として腕利きが揃っているのは明らかだ。
いやまぁ、腕の悪い特殊部隊って存在意味があるのかと言われればその通りなんだが。
ともあれ、ファントムスイープ隊も遊撃特務部隊なら腕利きが揃ってるのは間違いないんだろう。
「どうやら腕利きのようだな」
「はい。ベルファストの襲撃の際にも大きな活躍をしていましたし、何よりファントムスイープ隊を率いるのは北米解放の英雄、ユーグ大尉ですから」
聞いた名前だな。
確か腕利きのパイロットとして何かで聞いた覚えがある。
正確には腕利きではあるが、仲間との連携が上手いバニングタイプのエースパイロットだったか。
そんな人物であれば、ジオン軍残党狩りを行う遊撃特務部隊としても十分にやっていけるだろう。
「なるほど。連邦軍は人材豊富だな」
そう口にしてから、もしかして嫌味と取られたか? と思ってしまう。
話題に出たユーグという人物もそうだが、アムロであったりブライトであったり、ヤザンであったりバニングであったり、ユウであったり……他にも色々と連邦軍の人材が豊富なのは間違いない。
前線で戦う者だけではなく、後方で補給をする人物としても、今日会うゴップやガンダム開発計画とやらを画策しているコーウェンがいる。
だが……そういう有能な人物がいると同時に、今回ジーラインを譲渡する理由を作った強硬派のような者達もいる。
というか、今回の件に限らず強硬派は今まで何度も騒動を起こしてるしな。
今はゴップが対応に当たっているが、1年戦争時代はレビルが強硬派の後始末をしていた。
いやまぁ、その理由は分からないではないが。
連邦軍はUC世界における最大の組織……というか、国家だ。
実態はどうあれ、ルナ・ジオンとジオン共和国、それと木星やアクシズのような例外を除き、全てが連邦の人員だ。
そこに所属する者の数は膨大であるが故に、有能な人物も多いが、問題のある人物もそれだけ多くなってしまう。
その辺を当て擦ったと思われてもおかしくはないのだが……
「光栄です」
幸いな事に、軍人は俺の言葉を嫌味とは受け取らなかったらしい。
嬉しそうな様子でそう返事をしてくる。
そうして軍人と話をしていると、やがて車が停まる。
すぐに案内役の軍人が扉を開き、俺も外に出る。
「こちらです」
この辺りは基地の中でも重要な建物が集まっている場所なのは間違いない。
そんな場所に俺が入るのはどうかと思わないでもなかったが、ゴップの安全を考えればそれも悪くないのだろう。
とはいえ、そういう場所だからこそ再度ジオン軍が襲ってきた場合には集中的に狙われる可能性があるのかもしれないが。
ゴップも当然その危険については気が付いてるだろう。
それでもここを選んだのは、それだけこの場所の防衛に自信があるのか。
もっとも、分からないではない。
このベルファストがジオン軍残党に襲われたのは間違いないだろう。
だがそれは、あくまでもジオン軍残党が奇襲という形で攻撃したからというのが大きい。
最初の襲撃は奇襲によってベルファストにいる連邦軍の不意を突けたのだろうが、その奇襲を行った以上、ゴップの件も合わさってベルファスト基地の防衛はかなり大々的に行われている筈だ。
そのような状況だけに、ジオン軍が再度襲撃をするのは難しいと思う。
もっとも、もし俺がジオン軍残党であった場合、そのような状況でこそ、再度襲撃をするという選択をする可能性は十分にあったが。
一度奇襲をしたからこそ、まさか2度目の奇襲があるとは思わないだろう。
とはいえ、それでも敵が待ち受けている場所に攻め込む以上、反撃は厳しい。
奇襲をする者達が相応の戦力で、しかも一定以上の技量を持つパイロットでもなければ、2度目の奇襲が成功するのは難しいだろう。
「アクセル代表をお連れした」
「は!」
立派な建物の中に入り、通路を進んだ先にある部屋。
その部屋の前に護衛だろう、見るから強そうな軍人が立っていた。
……いや、強そうなのではなく、実際に強いのだろう。
少なくてもこのUC世界においては。
だが、ネギま世界やペルソナ世界、鬼滅世界を知ってる身としては、素人よりはマシといった程度にしか思えないが。
とはいえ、魔力とか気が存在しない……いや、存在しない訳ではないが、そういうのは架空のものだと考え、それを使おうという考えのないUC世界においては、身体を鍛える事だけが強くなる術なのだろう。
勿論、魔力や気があっても身体を全く鍛えないというのは……いや、魔法使いで護衛や従者といった仲間に前衛を任せて、後方からの大砲役に徹すれば、あるいは?
そうも思ったが、体力がなければ普通に移動するだけでも足手纏いになったりするだろうし、やっぱり相応に鍛える必要はあるな。
そんな風に考えている間に、軍人同士でのやり取りや中にいるゴップに対する話は終わったのか、扉が開かれる。
「どうぞ」
案内役の軍人に頷き、俺は部屋の中に入るのだが……少しだけ驚く。
部屋の前にいる時から、部屋の中に気配が2つある事には気が付いていた。
だが、ゴップの秘書か何かだと思っていたのだが……応接室にあるソファに座っていたのは、ゴップ以外にもう1人。コーウェンの姿があったのだ。
「よく来てくれた、アクセル代表。いや、まさかアクセル代表と会う約束をしていたこのベルファストがジオン軍残党に襲撃されるとは思わなかったが……それでも、こうして無事にアクセル代表を迎えられたのは嬉しい事だ」
そう言い、弛んでいる頬を揺らしながら笑う。
ゴップは太り気味で、軍人らしくは見えない。
とはいえ、それでも軍政家としては高い実力を持っているのだが。
いわば前線で戦うのではなく、事務方を率いるといった感じか。
そんなゴップと比較して、コーウェンの方はいかにも叩き上げの軍人といった様子だ。
実際にはきちんと士官学校とかを出てエリートコースを進んできた人物なんだろうが。
「ハワイの方でもジオン軍残党の襲撃があったのを考えると、もしかしたら連動した作戦だった可能性もあるが……ともあれ、ベルファストが無事なようで何よりだ」
そう言い、こっちに手を出してきたゴップと握手をする。
ゴップはそんな俺の言葉にも特に驚いた様子はない。
ハワイの襲撃については、既に情報を入手していたのだろう。
それなりに大規模な襲撃だったのだから、それを隠せる筈もない。
「それで、何でコーウェンがここに?」
「少し、アクセル代表と話したくてな」
ゴップの手を離し、そう尋ねる。
すると俺の問いに答えたのは、ゴップではなくコーウェンだった。
「俺とか? 珍しいな」
「……そう苛めないでくれないか。1年戦争の時の事は、悪かったと思っている。あの時は私も若かった」
1年戦争が終わったのは、ついこの前……とはいかないが、それでもまだ1年ちょっとしか経っていない。
これは突っ込むべきか?
いやまぁ、この態度を見る限りでは俺との関係を修復したいと思っているのは間違いないだろう。
実際には俺もそうだが、ルナ・ジオンとの関係か。
UC世界の中で、ルナ・ジオンは非常に大きな影響力を持っている。
ジオン共和国のように実質的な連邦の属国という訳ではなく、明確に連邦に所属していない独立国なのだから。
実際にはアクシズであったり、木星のコロニー群であったりがいるのだが、それは連邦から遠く離れた場所に存在しているし、公的に連邦がそう認めている訳でもない。
それに対して、ルナ・ジオンは地球のすぐ側の月を領土としており、地球においてもハワイを領土としている。
そして何より大きいのは、異世界の存在であるシャドウミラーの実質的な下部組織……国だし下部国と呼ぶべきか? ともあれ、そんな下部組織であるという事だろう。
1年戦争において、連邦軍だけでも恐らくジオン軍には勝てただろう。
だが、ルナ・ジオンの協力がなければ、より連邦軍の被害が大きくなったのは間違いない。
ゴップもそれを知ってるからこそ、こうして何かあれば接触してきて、少しでも繋がりを強めようとしているし、レビルの派閥を引き継いだコーウェンもまた同様なのだろう。
というか、そう考えると以前のゴップはレビルの派閥だったと思うが、今はその派閥から抜けてるんだな。
ともあれ、その辺の繋がりもあって今回コーウェンはここにいる訳だ。
レビルが派閥を率いていた時は、俺と敵対的な態度を取っても問題はなかったが、今は違う。
コーウェンが派閥を率いている以上、俺を相手に敵対的な事は出来ないし、友好的になっておきたいと思ってもおかしくはない。
派閥を率いる身になって成長したという事か。
「まぁ、いいけどな」
そう言う。
別に俺はそこまでコーウェンを嫌っている訳でもないし。
1年戦争の時にちょっと会ったくらいで、その時に敵視された感じでしかないのだから。
……寧ろ俺にしてみれば、コーウェンよりも連邦軍の強硬派の方が始末に負えないし。
いや、強硬派は強硬派で、今回のように謝罪の気持ちとして連邦軍の新型MSを貰えるという意味では悪くないのかもしれないが。
「そうか!」
俺の言葉に嬉しそうな様子を見せるコーウェン。
どうやら俺が思っていた以上に、俺との……ルナ・ジオンやシャドウミラーとの関係を気にしていたらしい。
別にそこまで気にする必要はないんだけどな。
「詳しい話については、座って進めたらどうかね。いつまでも立ったままというのもどうかと思うし」
ゴップの言葉に頷き、俺達はソファに座る。
「それにしても、基地の中にこういう応接室があるというのは少し驚きだな」
そう言いつつ、俺は部屋の中を見回す。
見るからに高価な家具が置かれており、壁の絵も……うん。まぁ、俺にはちょっと分からないが、多分いい絵なんだろうとは思う。
さすがに俺がW世界で確保したデルマイユの家具とか芸術品とか、そういうのよりはランクが下なんだろうが。
それでも基地の中にこういうのがあるというのは珍しい。
「ベルファスト基地はこの辺り一帯の中でも大きな基地なのでね。アクセル代表のような地位のある相手を招く事もある。そのような相手と会談するのに、まさか会議室のような場所を使う訳にはいかないだろう?」
ゴップの言葉には納得出来るものがある。
とはいえ、そういう場合はそれこそ基地ではなくホテルとか、そういう場所を改めて借りればいいような気もするのだが。
ああ、ジオン軍残党の襲撃があってホテルとかも被害を受けているのかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺はゴップやコーウェンとの会談を始めるのだった。