フィフス・ルナという単語を口にした俺に、コーウェンは驚きの表情を浮かべる。
だが普通に考えて、連邦軍再編計画やガンダム開発計画についての情報を知っている俺達だ。
既に色々な改修が始まっているフィフス・ルナについて知らないという方がおかしいだろう。
もっともコーウェンが具体的に驚いたのは、フィフス・ルナの開発とかではなく、フィフス・ルナがガンダム開発計画について関わっているのを知っているからだと思うが。
「ガンダム開発計画については、アナハイムに頼むんだろう? ……連邦軍の方でMSを開発したりはしないのか?」
この場合の問題は、ガンダム開発計画をアナハイムに任せるという事だ。
アナハイムとルナ・ジオン、そしてシャドウミラーの関係は深い。
それもルナ・ジオンやシャドウミラーの方が上という形でだ。
それを示すように、アナハイムでは新技術や新型MSを開発した場合、それをルナ・ジオンとシャドウミラーに譲渡しなければならないという契約が結ばれている。
もっとも、それだけではアナハイムにとってはデメリットしかないので、アナハイムが欲する資源をかなり安値で売るという見返りもあるが。
とにかくそんな訳でアナハイムは実質的にルナ・ジオンに首根っこを押さえられている感じだ。
不正とかがないかと、量産型Wやコバッタも送り込まれているし。
それだけに、連邦軍にしてみればアナハイムにMSの開発を要請するよりも、連邦軍内部でMSを開発した方がいいだろう。
ガンダムについても、アムロの乗っていたガンダムを始めとして、陸戦型ガンダム、ピクシー、アレックス、俺の乗っていた7号機……それ以外にも多種多様のガンダムを1年戦争中に開発したのだから。
そもそも今回俺が貰うジーラインというのは、ジムと違ってガンダムの簡易量産型ではなく、本来の意味でガンダムの性能を持ったまま量産機として開発された機体らしいし。
そういう意味では、連邦軍にはMS開発のノウハウはある。
……ジムの粗製濫造ぶりを見ると、ノウハウがありすぎるという風にも思ってしまうが。
とにかく、わざわざアナハイムに要請しなくても連邦軍内部で十分どうにかなるというのが、俺の予想だったのだが……
「予算の問題だ」
あっさりとそう言うコーウェン。
「予算? 確かレビル派の影響力を行使して、予算はたっぷりと確保したとか言ってなかったか?」
「そうだな。それは間違いない。だが、連邦軍内部で全てのMS開発をするとなると、手にした予算程度ではどうにもならん。……今の連邦は戦後復興に幾ら金があっても足りないからな」
「まぁ……うん。それは分からないでもない」
X世界に起きた無数のコロニー落とし程ではないにしろ、1年戦争で起きたコロニー落とし、そして世界各地で行われた戦い。
そうして戦争で受けた痛手から回復するのに、金は幾らあっても足りないだろう。
ましてや、連邦軍は勝者だがジオン共和国に対して賠償金の請求とかはしていない。
代わりにコロニーの移動や補修とかそういうのをジオン共和国がやる事になったのだが。
そういう意味では、ジオン共和国の負担もかなり大きい。
……実際にはルナ・ジオンがそれなりに協力していたりもするのだが。
ともあれ、ジオン共和国から賠償金を確保出来なかったことは連邦にとって痛い。
また、痛いのは賠償金だけではない。
1年戦争によって地球やコロニーを含めた人口は大きく減った。
それはつまり、連邦の税収も少なくなった事を意味してる。
ただでさえ、連邦はコロニーから半ば搾取していたのだが、そのコロニーの多くが失われてしまったのだ。
また、これは俺が言うのも何だが地球圏において大きな税収をもたらす存在だった月がルナ・ジオンとして独立したのも大きい。
これらを考えると、コーウェンの言うようにガンダム開発計画を連邦軍で行うのが無理というのも理解出来た。
とはいえ、もしレビルがいればガンダム開発計画も連邦軍で出来たのかもしれないが。
実際にジーラインという新型MSを開発するだけの余裕はあったのだから。
とはいえ、MSの開発や製造となると多くの利権に関わってくる。
また、ジーラインは完成したが、そのジーラインを1年戦争中から開発していた場合はそちらの開発を途中で止めるといったことをすれば、それはそれで問題となるだろう。
何しろこれまでの積み重ねてきた努力が無に帰すのだから。
そう考えると、コーウェンがアナハイムに頼むというのは悪くない。
アナハイムは何だかんだとジオン公国の兵器メーカーから人を引き抜いているし、会社も吸収してる。
そんなアナハイムにしてみれば、吸収した人材の能力を確認するという意味でも、そして連邦軍に恩を売るという意味でも、ここでガンダム開発計画に乗らないという手はない。
つまり、余裕のない連邦軍と実力を示したいアナハイム。両者の思惑が一致した訳だ。
「にしても、金がない割にはフィフス・ルナの開発を進めてるのは……」
「当然アナハイムの支社を作る為だ」
「やっぱりそれが理由か」
アナハイムが新型MSや新技術を開発したらルナ・ジオンとシャドウミラーに譲渡するという契約。これは今のところフォンブラウン工場やグラナダ工場といった、月にあるアナハイムでの話だ。
アナハイムはディアナと同じく、アナハイムという会社の下にフォンブラウン工場やグラナダ工場といったように複数の部署がある。
もっとも、ディアナよりもっと大規模な感じだが。
規模として、アナハイムとディアナではどうしてもアナハイムの方が大きいのがその理由だ。
ディアナは国営企業で、アナハイムは民間企業。そういう点では、本来ならディアナの方が大きくてもおかしくはない。
だが、それでもアナハイムの方の規模が大きいのは、1年戦争時代から……いや、その前からアナハイムという会社があった。
それに対して、ディアナは国営企業だが、その国自体が1年戦争中に出来た国だ。
どうしてもアナハイムの方が規模では大きくなってもおかしくはない。
もっとも、それに対抗するようにディアナはジオニック社、ツィマット社、MIP社から優秀な人材を引き抜いているので、質の面ではこっちが上だろう。
「そうだ。……それでアクセルに頼みたいのは、もしフィフス・ルナに建設中のアナハイムの支社でガンダム開発計画が行われる場合、協力して欲しい」
つまり、一種の根回しか。
コーウェンにしてみれば、それだけガンダム開発計画に賭けているのだろう。
その気持ちは分かる。分かるが……
「見返りもなしにか?」
「……勿論何も見返りもなしでとは言わん。まだ具体的にどのような見返りがあるのかというのは考えていないが、それでも何らかの見返りは考えている」
「例えば、ガンダム開発計画で開発されたガンダムの設計データとか? 何も実物を寄越せとは言わない。だが、設計データを流すくらいは出来るんじゃないか?」
「馬鹿な! それでは、フィフス・ルナにアナハイムの支社を作る意味がない!」
納得出来ないとして叫ぶコーウェン。
コーウェンにとってガンダム開発計画というのはそれだけ大事なのだろうが……ぶっちゃけ、そういう風に大事だからこそこっちとしても設計データが欲しいという思いがある。
「各種資源の格安での譲渡。それに資金についても考えてもいい」
「それはつまり、シャドウミラーもガンダム開発計画に協力するという事か?」
「ある意味ではそうだな。直接人材を派遣したりとかはしないと思うが、資金や資源でなら協力してもいい」
そんな俺の言葉に、コーウェンは悩む。
共同開発となると、連邦軍としての立場からもすぐにどうこうといったことは口に出せないのだろう。
「難しいだろうな」
たっぷりと数分考えた上で、コーウェンはそう言う。
「難しいか?」
「そうだ。ガンダム開発計画は連邦軍再編計画の一環だ。そうなると、ルナ・ジオンが連邦軍再編計画に関与する事になる。これがアナハイムのような民間企業であれば特に問題はないが、ルナ・ジオンは連邦とは違う独立国家だ。そして私が言うのもなんだが、連邦軍の一部の強硬派の件もあって、決して友好的な関係ではない」
「それは……まぁ、否定出来ないな」
ゴップを始めとする少数はルナ・ジオンと友好的な関係を保っている。
コーウェン本人も、今後はその一員になる可能性が高い。
だが、強硬派がやはり問題なのだ。
強硬派は声が大きく、それ故に実際よりも大きな勢力に思える。
その辺を理解していない者は、容易に強硬派に流れる。
あるいは強硬派に流れなくても、ルナ・ジオンと友好関係にあると強硬派に知られれば面倒な事になると、ルナ・ジオンと関わり合うのを避ける者もいるだろう。
「また、ガンダム開発計画……そう、ガンダムというのも大きい。ガンダムは1年戦争において連邦を勝利に導いた象徴になっているからな。プロパガンダのせいもあるが、そういうものがある以上は、そのガンダムを開発する計画に他国が関与するのを面白く思わない者は多い」
「……共同開発は無理か」
コーウェンの言葉に、残念な思いを抱きつつもそう言う。
苦々しげな表情を浮かべているコーウェンにしてみれば、恐らくコーウェン本人はルナ・ジオンとの共同開発にメリットがあると思ってはいるのだろう。
だが、そのメリットと強硬派や……場合によっては大艦巨砲主義の者達が余計なちょっかいを出してくる時の事を考えれば、総合的に見てルナ・ジオンとの共同開発ではない方がスムーズに計画が進むと認識した感じか。
「すまんが、そうなる」
「そうなると……まぁ、そうだな。資源とかそういうのに関しては、俺じゃなくてルナ・ジオンと交渉してくれ」
これが共同開発という事であれば、ルナ・ジオンにも……そして上位組織であるシャドウミラーにとってもメリットが大きいので、俺が口添えしてもいい。
しかし協力関係となると、俺が口添えはしない方がいいだろう。
そもそもシャドウミラーがルナ・ジオンの上位組織とはいえ、それでも別の組織なのは間違いないのだ。
そうである以上、シャドウミラーにとって非常に大きな利益があるのならともかく、そこまでではない以上、俺から口添えはしたくない。
セイラとかはともかく、政治家の中には自分達がルナ・ジオンを運営しているという思いがある。
そんな中で俺が口添えをしてルナ・ジオンの行動が決まるというのは、面白くないだろう。
ましてや、その内容が連邦軍再編計画のガンダム開発計画だ。
これがもう少し小さな事案であればともかく、今回の件は状況が事態が大きすぎる。
ましてや、ルナ・ジオンにとって連邦というのは仮想敵国でもある。
これについては、ルナ・ジオンがスペースノイドの独立の為に行動してジオン・ズム・ダイクンの娘であるセイラが率いているのを見れば明らかだろう。
まぁ、ジオン・ズム・ダイクンの娘というのであれば、ジオン共和国のガルマもセイラにとっては父親を暗殺したザビ家の一員である以上、仇ではあるのだろうが。
ただ、そのガルマの率いるジオン共和国も一応独立国という扱いだが、実質的には連邦の従属国に近い扱いだ。
そう考えると、やはりルナ・ジオンの仮想敵国が連邦になるのは自然な流れなのだろう。
「むぅ……分かった。その辺についてはこちらでルナ・ジオンと交渉しよう」
コーウェンがそう言い、引き下がる。
これは俺にとってもちょっと驚きだった。
正直なところ、もっとしつこく言い縋ってくるのかと思っていたのだ。
これ以上しつこくして、俺が不愉快に感じるのを避ける為か?
コーウェンにとって今回のこの会談は、俺と友好的な関係を築くのが目的でもある。
そうである以上、俺が不愉快な思いを抱くという事態は避けたいのだろう。
「そうしてくれ。ルナ・ジオンの方で問題ないと判断したのなら、俺の方でも不満を口にしたりはしないから」
とはいえ、ガンダム開発計画はかなり興味深い。
どうにかして、実物……あるいはそれが無理でも設計データくらいは欲しいな。
大艦巨砲主義の連中が作る戦艦は……うーん、こっちはどうするべきか。
勿論、単純に戦艦としてというのであれば、あまり好ましくはない。
だが、それをベースにMS運用艦として再設計するのはありだろう。
ルナ・ジオンの兵器メーカーであるディアナは、基本的にジオニック社、ツィマット社、MIP社の面々が多い。
そのどれもがMSやMAの開発を行っていた兵器メーカーだ。
そうなると、MSの運用艦の問題が出て来る。
現在のルナ・ジオンで運用されているのは、グワダン級とドロス級がそれぞれ1隻ずつ。そしてルナ・ジオンに亡命してきた者達……特に軍人が持ってきたムサイ級、ザンジバル級が使われている。
他にもチベ級やパプワ級があるが……うん。旧式だけにそっちはあまり使われていない。
後はカトンボがメインだな。
そんな訳で、軍艦についても考える必要があるのは間違いなかった。