「…………はっ! ここはどこ!? 私はだれ!?」
どうも、意識を取り戻したものはいいけど、辺りを見渡しても状況が何一つ理解出来なかったから、お決まりのセリフを言ってみたお茶目な女の子こと、赦宥エルだよ。
それにしても私、どうして気絶してたんだろ。昔、大型戦車にぶつかった時と同じような感覚が身体に走った所までは覚えているんだけど…………う〜ん、分かんないな。トリニティの校舎内で戦車を操縦する生徒なんて居るわけないし…………なんだったんだろ、あれ。
私が気絶する直前のことを思い出していると、背後から声が聞こえてきた。
「何馬鹿なこと言ってるんですか、エル先輩」
「あれ? コハル? どうしてここにいるの? 」
私が身体を起こして振り返ってみれば、そこには同じ委員会であり私の後輩でもある、下江コハルがいた。
「! え、えっと……それは……その…………」
私の質問がよほど答えづらい物だったのか、コハルは言葉が中々顔を見せずに、視線だけがさまよっていた。
「言いづらいことなら、無理して言わなくてもいいよ?」
「あ、いや、それは違くて…………その、安心してください、エル先輩。私、こんな部活すぐ抜けて、さっさと委員会に復帰しますから!」
コハルは胸を前に突き出し、自信満々にそう答えた。
しかし、それは私が予測していた解答とは見当違いなものだった。
「あれ? コハルって補習授業部だったの? 私てっきりここに委員会の用事でもあると思って聞いたんだけど……」
「え……?」
「…………!!!」
私がそう言うと、コハルは一度困惑した表情を見せたあとに、思わず感嘆してしまうほどに綺麗な赤のグラデーションを顔で表現してくれた。
おぉ……すごいね、人ってこんなにも美しくあれるんだね。動画、撮ってれば良かったな。イチカとか委員会のみんなに見せてあげたかったよ……。
そんなことを思っていると、真っ赤な状態で固まっていたコハルから、微かに言葉が発せられた。
「……う」
「う?」
「うわああああん!」
「あ、危な! ……ってコハル!? ちょっとどこ行くの……って速!?」
「"い、行っちゃったね……"」
よほど補習授業部であることが受け入れられなかったのか、コハルは叫びながら私の横を走り過ぎ、教室から出ていってしまった。
というか、もしかしなくてもこれ、私がとどめ刺しちゃった感じなのかな? うぅ……故意ではないとはいえ、ごめんねコハル。今度、コハルが行きつけのコンビニに来る度にチラチラ見てるえっちな本買ってあげるからね……。委員会のみんなでサプライズプレゼントしてあげるから許して……。
「"そういえば、エルはどうしてここに来たの? "」
私が部室の扉を開けたらえっちな本が大量に降ってくるサプライズを考えていると、先生がそんなことを聞いてきた。
そういえば、部室に入ろうとした瞬間に気絶しちゃったから、なんにも説明していなかったな。ちょうどいいや、私まだコハルとアズ…………コハル以外の三人のこと全然知らないし、自己紹介も兼ねちゃおう。
「あぁ、それはですね! これから私が補習授業部のお手伝いをしてあげようと思いまして。先生一人じゃ大変でしょうから」
「"それは嬉しいけど……部活の方は大丈夫なの? "」
「……あっ。…………まぁ、大丈夫です! 遅れることはあるかもしれませんが、気合いで何とかしますよ!」
「"そ、そっか。無理はしないでね"」
「もちろんです! 」
……完全にアズサに思い出してもらうことしか頭になかったな。部活動のこと忘れちゃってたよ……。まぁ、最悪イチカに任せればいいよね。そうだなぁ、代わりに私が何でも言う事聞く券でもあげれば…………ごめん、流石のイチカでもそれは厳しいか。この案は捨てだね。
「あと私、コハル以外のみんなとは…………ほぼ初対面だからさ、簡単に自己紹介の時間作ってもいいかな? 」
「は、はい。大丈夫ですよ!」
私がみんなにそう聞くと、いち早くベージュのツインテちゃんが反応をくれた。
間違いない、この子いいこだ! そんなことを思いながら私は黒板の前まで歩き、教卓に手を付け口を開いた。
「トリニティ総合学園高等部二年、赦宥エル! 部活は正義実現委員会に所属してるよ! これからみんなのサポートに来るからよろしくね!」
「で、では次は私が…………高等部二年の阿慈谷ヒフミです。補習授業部では部長を任されてます……」
明らかに荷が重いと感じていそうな表情をしながら話すヒフミをあとに、他の二人も続いて口を開いた。
「高等部二年、白洲アズサ。少しの間だけど、よろしく頼む」
「トリニティ総合学園高等部二年、浦和ハナコです♡」
そうして、補習授業部とエルは毎日放課後に集まって、特別な補習授業を受けることになった。
◇
「エル、この問題はどう解けばいい?」
「これはね…………ハナコ、これってどう解けばいいのかな?」
「どれですか? ああ、なるほど。こういう時はですね、倍数判定法を用いてこのように……」
「なるほど……うん、理解した」
「へ〜、こうやって解くんだね〜」
「……」
──────────────────────
「エル、この文章は何? 」
「えっと、確か…………ハナコ、この文章って何なのかな? 」
「古い叙事詩の冒頭部分ですね。『怒りを歌え、神性よ──』という……」
「ああ、あれか。理解した」
「へ〜、そうなんだね〜」
「…………」
──────────────────────
「エル、これは? 」
「どれどれ…………なるほど。ハナコ、これって「あの、先輩」
私が今日も今日とて先生のサポートと補習授業部の手伝いをしていると、コハルが少し控えめに話しかけてきた。
「ん? どうしたの、コハル。何か分からないとこでもあった?」
「あっ、それならここが…………じゃなくて。その、エル先輩って確か、補習授業部のお手伝いでここに来てるんですよね? 」
「うん、そうだよ。それがどうしたの?」
何を今更なことを聞くんだろうね、コハルは。
そんなことを私が思っていると、コハルはやっぱり控えめに、少し口ごもりながらもその言葉を発した。
「……その、なんというか、ここに来る意味あります?」
「ここに来る意味あります!?」(大きく)
コハルからのその鋭すぎる言葉の刃に、私の心は動揺を隠せなくなるくらいダメージ負っていた。
え、私後輩からそんなこと言われるなんて思ってなかったんだけど!? なんだか最近の私ダメージ受けすぎじゃないかな!? え、ここに来る意味あるって……え? わ、私が? え?
「ぐす……酷いよ、コハル。いくら私が馬鹿だからって……」
「コ、コハルちゃん……」
「え、これ私がおかしいの!?」
私は全身がボロボロになりながらも、コハルから言われた言葉を頭の中で反芻し、今までのことを振り返ることにした。
た、確かにアズサに聞かれた問題は全部分かんなくてハナコに頼りっきりだったし、なんなら私がアズサに聞いてた時もあったけど…………いや、でも確か先生に部員のみんなに出す練習問題を考えてくれないって言われて…………あれ? 私、どうしたんだっけ?
…………あぁ、思い出した! そもそも問題の作り方が分かんないですって先生に言ったんだった! ……あれ?
そうして、私はあることに気づいてしまった。
もしかして私って…………本当にいる意味ない?
「……ごめん、コハル。コハルの言う通りだよ……私、本当にいる意味無かったみたい……」
「あ、いや! その、そういう意味じゃなくて……委員会の仕事を無理して終わらせてまで来る意味はあるのかなって……」
「あ、あぁ! そういうことね! 確かに私は無能だったけど、流石にだよね! えへへ……へへっ…………」
どうしてだろうね、それでも心の涙は溢れてくるみたい。
私はしょぼくれながらみんなの後ろに行き勉強を見守ることにした。だってわかんないだもん。ちゃんとした教育を受けてきたかといえばあれだし。私悪い人ぶっ倒すことしか頭にないし。
「エル、これ……」
「どこかな! アズサ!」
「(エル先輩、さっきまで一番後ろにいなかった……?)」
それはそれとしてアズサの頼み事は別だよ! エルちゃんはアズサの頼みだったらなんでも応えちゃうんだからね。
さぁ〜て! どうしてそんなに申し訳なさそうな表情をしてるのか私に教えてみんしゃいな!
「……ごめん。さっきと同じ感じで呼んでしまった。エルが分からないことを聞いても困っちゃう…………? ど、どうかした? エル?」
「アズサ……私今日は帰るね……」
「そして明日には絶対、絶対勉強教えれるようにするからー!!!!」
「"エ、エル!? ちょっと待……って速!? "」
こ、こんなんじゃまたアズサに頼られなくなっちゃう!
それはやだ! 絶対嫌だ!!!
今からでも間に合う……アズサのことを想った私なら不可能はない……!!
燃えに燃えた私の熱量は留まることを知らない。辺りの酸素が私に当てられ別の物質に変化していくようだ。
「うおおおお! 今日は寝ない!! 絶対寝なーい!!!! 」
「そして明日の部活動でみんなに頼れる子って証明してやるんだー!!!! 」
◇
「"……エル、来ないね"」
「イチカ先輩に聞いたら、多分寝坊してるって……」
「"……勉強、始めよっか"」