キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』)   作:ニーガタの英霊

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( ゚д゚ )



( ゚д゚)

「──俺と結婚してくれ」

 

 時が止まった。

 一瞬のことのはずなのに長時間止まっていたかのような衝撃だった。

 

「あ、あう…あうあうあう……」

 

 告白(プロポーズ)

 それは女性なら一度は夢に見るだろう光景。

 ロマンチックな場所で互いに想いを寄せ合い、結ばれる。そういうものだ。

 

 阿慈谷ヒフミにとって初めてのプロポーズは、よくわからないゴリラから急に求婚されるという衝撃度でいえば満点だが、肝心の恋愛においては皆無な出来事だった。

 

「子供は二人はほしい。男の子でも女の子でも構わん。いずれ家も買いたい。庭のあるマイホームで犬を飼うのもいいだろう」

 

 言葉の洪水をワッと浴びせてくるのをやめてほしい。

 

「ちょっ……何言ってるのよ! エッチなのは駄目っ、死刑!」

 

 コハルちゃんっ! とヒフミは縋るような視線をコハルに向ける。

 

「だが俺は真剣だぞ」

「し、真剣でも時と場合があるでしょ!」

「だからだ」

 

 コハルの言葉に男はコハルと目を合わせながら真剣そうに見詰め返す。

 

「あの言葉を聞いて、惚れない男はいない。むしろ口説かないほうが失礼!! 現に俺は阿慈谷ヒフミのことが大好きになったぞ!!」

「"強い……"」

「先生!? なんで納得しかけてるんですか!?」

 

 これ、私何か答えないといけないんですか!?

 ヒフミはやや引き気味に……相手を刺激しないように言葉を選びながら口を開く。

 まるで危険人物を対応するかのようであった。

 

「……あ、あのぅ。私、あなたのことよく知らないので……」

「俺は知っているぞ。阿慈谷ヒフミ。トリニティ総合学園の二年生。誕生日は11月27日。身長は、……158センチといったところだな。趣味はモモフレンズのグッズ集め、特にペロロというキャラクターを好む」

「ひぃ……!?」

「なんで知ってるのよ!? 気持ち悪っ!!」

 

 鳥肌が立った。関心よりも恐怖と気持ち悪さを感じる。

 そばで見ていたハナコは絶句して、コハルもドン引きしている。

 

「せ、先生! 助けてください!! 無理です、この人怖いです!!」

「なん…だと……」

 

 前原イサクは振られた。

 

「ふざけるなッ!!!!」

 

 流れを断つかのようにサオリの怒声が耳を(つんざ)く。

 

「ハッピーエンドだと!? ふざけるなっ! そんな言葉で、世界が変わるとでも!?」

 

 世界は虚しいもので、苦しいことばかりで、だから最初から希望なんてものを持っちゃいけないんだと、サオリは叫ぶ。

 

「それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも言うつもりか!? 何を夢のような話を……!」

 

 それが正しいんだと、それが世界の真実だからと。

 そうじゃなかったら、これまでやってきたことは本当に無意味なことに成り果ててしまうから。その重さにサオリは耐えられないから。

 

「"生徒たちの夢を……その実現を助けるのは、大人の義務だから"」

「……っ!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔のサオリとは対照的にイサクは感心したかのように口笛を吹く。

 

「"私は生徒たちが願う夢を信じて、それを支える。生徒たち自身が心から願う夢を"」

 

 綺麗事だ、と否定することは簡単だ。

 でも眼の前の大人はそんな綺麗事の題目を本気で信じている。

 

 そうあるべき、とそうでなくてはならないと。

 本気でそう思っているから、この場所にいることが嫌でもわかってしまうから。

 

「かっこいいねぇ、先生……」

「"……イサク、だよね?"」

「おう、キヴォトスのアイドル、もしくは超銀河美少年と呼ばれた前原イサクお兄さんとは俺のことだ……!」

 

 美少年の面構えか……これが?

 百歩譲って顔立ちは悪くはないだろうが、顔の半分は火傷に覆われもう片方は彫りが深いものの線の細さはなく筋肉質な体型に合う強面気味の顔である。

 濃いめのキャラクターである。

 先生が間に合わなかった生徒、伝聞でしか知らなかった生徒。その彼が目の前にいる。

 

 彼に何が有ったのか、何をされたのか、それはわからない。

 ただ、それでもわかることが一つある。

 

 前原イサクは今、ここに生きている。

 

「"──イサク、状況はわかるかな"」

「はっ! 俺を誰だと思ってんだ? IQ129の灰色の脳細胞を持つイケメン貴公子のイサクさんだぜ?」

 

 イサクは歯を大きく見せるような獰猛な笑みを大仰に浮かべる

 

「指揮下に入れってことだろ? いいぜ、一つ条件があるがな」

「"条件……?"」

「俺に権限をよこせ、部活動の形を取るなら俺を部長にしろ」

 

 イサクの突然の物言いに先生は困惑するが、すぐにその狙いを理解する。

 

「"現場判断の自主裁量のためかな?"」

「それだけじゃねぇ、俺はアンタと関係性が薄い。他の奴らと同じ立場で新参にあれこれ言われたら角が立つだろ?」

 

 だから、いざというときに単純な命令を出せるだけの権限がいるというのがイサクの提言だった。

 

「"──分かった、了承しよう"」

 

 先生は胸に手を当て、高らかに宣言する。

 

「"大人として、連邦捜査部シャーレの先生として、全ての責任は私が負う"」

「そいつぁ違ぇな」

 

 その言葉にイサクは少しだけ怪訝な表情を見せた。

 

「部活動ってのは、生徒が主体でやるもんだろ? アンタは後ろでどっしり構えといてくれりゃいい」

 

 前原イサクは背を向ける。

 見据えるのはユスティナ聖徒会とアリウス分校の生徒たち。

 

「──大丈夫だ先生、俺たちを信じてくれ。これは男と男の約束だ」

 

 背中で語るように、イサクはそう言った。

 同性の年下の生徒にも関わらず、その背中は頼もしく見えた。

 

「い、良いんですか。先生」

 

 やや困惑と不安の表情を浮かべるのはヒフミであり、言葉には出さなくても不審げにコハルはイサクを睨む。

 

「問題ないだろう、あの前原イサクだ」

 

 ハナコは何も言わず、アズサはイサクに指揮を取らせるのに賛成の意を示した。

 

「──26人」

「あ、アズサちゃん?」

「ヒフミ、あの男はろくに装備もない状態でアリウススクワッド含むアリウス分校生26人を無力化した男だ」

 

 その言葉にヒフミは息を呑む。

 えっ、あの変態トンチキってもしかして凄腕だったりするんですか? と疑問が浮かぶ。

 

「ヒフミちゃん。連邦生徒会の防衛室長……『鋼の英雄』といえば聞き覚えはありますか?」

「えっ、はい……確か現在連邦生徒会長と同じく行方不明になった人って……」

「──彼がその前防衛室長、前原イサクさんです」

 

 ハナコの言葉にヒフミの顔は驚きに染まる。口をパクパクと開いては閉じて、何か言おうにも困惑と衝撃で上手く言葉が出ない。

 

「"大丈夫だよ、ヒフミ"」

「せ、先生……」

「"イサクが大丈夫だって言ったんだ。だから私はそれを信じるよ"」

 

 

 キヴォトスの防衛室長といえば伝説的人物として語られる。

 アビドスの蛇龍殺しから始まり、災厄の狐、慈愛の怪盗、連続少女監禁犯といったキヴォトスの大物犯罪者の逮捕、収監。

 企業相手にも果敢に立ち向かい、汚職やキヴォトス内部の綱紀粛正を成し遂げた鉄人。

 一時期は連邦生徒会における12の行政委員会において13番目の新たなポストに補弼させられると噂された人物でも有った連邦生徒会における軍事の象徴とも言える存在だったという。

 

「これが、天下りの力ァ!!」

 

 なんでそんな雲の上の存在が急に告白してきたのか理解に苦しむ。頭の良い人というのはどこかおかしいのではないのだろうかとヒフミはどこか遠い目をしていた。

 

 ……。

 ………。

 

 ──疲れた。

 

 トリニティ総合学園の一室。壊滅した正義実現委員会と救護騎士団によって身柄を保護されたナギサはベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめる。

 

 なにもやる気が起きないのだ。

 

 寝すぎたのか、目をつぶったところで睡魔は来ずぼんやりと虚空を見つめるばかりのその瞳は暗く淀み、渇いていた。

 

 無駄だった。

 そう、結局は無駄だったのだ。

 

 桐藤ナギサの行動は総て無駄だった。

 

 大切な幼馴染に裏切られ、エデン条約を纏めることも出来ず、友との約束も果たせない。

 

 全部空回りして、想像する以上の地獄と悲劇を引き起こした。

 それもすべて、桐藤ナギサが対応できなかったせいだろう。

 

 無知、蒙昧、愚劣、短慮。あらゆる罵倒の言葉でさえ足らないほどの失政。

 

 ──私はティーパーティーになどなるべきではなかった。

 

 そもそもの話、桐藤ナギサには政治など不向きだったのだとナギサは自身に結論づける。

 

「ナギサ様……」

 

 心配そうな物憂げな声が耳に通るも、それに対して何も心が動かない。感情が死んでしまったかのように、脳が神経の伝達を切除したかのように何も感じないのだ。

 

 わかっている。わかっているのだ。動かなければならない。

 今、トリニティは未曾有の脅威と混乱の中にいて、ティーパーティーのホストとして唯一残ったナギサが動かなければならないことはわかってる。

 

 わかっていても、理性でわかっていても、それでもナギサの指は少しも動かない。動けない。

 

「……ぇ、ぁ」

 

 声もろくに出ない。辛うじて出たのが嗚咽のような鳴き声。とてもじゃないが言語化なんて出来やしない。

 

 その姿を見て、フィリウス派の面々は一層気落ちする。

 

 情けない、自分があまりにも情けなくて……。乾いた瞳からポトリと涙がベッドのシーツを濡らす。

 

 そんな時、不意に甲高い着信音がナギサの端末を震わせる。

 

「ナギサ様、お電話が……失礼します」

 

 着信がすることを取り巻きの一人が伝えるも当のナギサがこの様である。しょうがなく、その端末をチラリと見ると其処にはシャーレの先生からの着信だった。

 

「もしもし、わたくしは──えっ……いえナギサ様は喋れる状態では……ええ、代わりにわたくしが……はい、側にいますが……スピーカー……えぇ、わかりましたわ」

 

 取り巻きは困惑の表情を浮かべ、電話の相手の指示を受けて音声をスピーカーに変える。

 

『よぉ、ナっちゃん。俺だぜ』

 

 思わず顔を向ける。その声をナギサは覚えている。

 低い男性の声。先生のそれとは違う重厚感のあるその声は紛れもなく彼の声だった。

 

「ぃ、サクさ……」

『おう、ハイパーカッコいいイサクさんだぞ』

 

 ナギサは取り巻きの手から端末を奪い取るかのように握りしめ、息を荒げる。

 

「イサク、さん……本当に……! ほん…、とにイサク、さんですか……!?」

『俺の偽者が出るたぁ、俺も人気者になったもんじゃねぇか』

 

 話を煙に巻くような態度と冗談めかした物言いは確かにイサクのそれだった。

 

「ナギサ様っ、大変です!! こ、古聖堂の周辺で……」

 

 そんな中、慌てて入ってきたティーパーティーの少女が叫ぶ。

 

「シャーレの先生、補習授業部……そして……ま、前原防衛室長がアリウススクワッド以下アリウス分校の戦力を押し込めています!!」

 

 それは、その電話に対する答えといってもよかった。

 

「あ……」

 

 生きていた。

 

「ああ……っ」

 

 生きていてくれた。

 

「ああああああっ!!」

 

 あの温かい声が聞けるなんて思いもしなかった。

 視界が滲んで、溢れ出る涙が止まらなくて。

 

「イサクさんっ! イサクさん、イサクさんっ、イサクさんっ!!」

『あっ、はい。どしたん? 情緒不安定なん?』

 

 神様ありがとうございます。

 イサクさんを取り戻してくれてありがとうございます。

 奇跡に感謝する気持ちでナギサはいっぱいだった。

 

「イサクさん、私……もう駄目なんです。私じゃ何も出来なくて……貴方が居ないと、何も……ミカさんも、セイアさんも……エデン条約だって何も出来なくて……」

『……』

「助けてください、イサクさん……。私を助けてください。貴方さえ居れば、貴方が居てくれたら──」

 

 涙を流して桐藤ナギサは懇願する。

 そこには気丈なティーパーティーのホストではなく泣きじゃくる等身大の少女の姿があった。

 だから──。

 

『──お前、なに俺に依存しようとしてんだ?』

 

 イサクはそれを否定する。

 心が折れ、頼れる術を失い。孤独の中で気丈に振る舞いながら、耐えられなかった少女に突きつけるかのように。

 

「えっ……」

『確かにな、誰かに依存すんのは楽だろう。全部放り投げだしたくて堪んねぇ気持ちもあるだろう。ホストなんざ重荷で辛くて苦しくてそりゃあろくなもんじゃねぇだろうさ』

 

 権力者なんてものはろくでもない。責任をおっかぶせられ、ミスしたらお前のせいと糾弾される。

 讃えられるよりも批判されることが多く、全てにおいて満足させられる方法なんてない。そんなクソみたいな役割だ。

 

『だが、俺の知ってる桐藤ナギサは。そいつを飲み込んで戦える女だったはずだ』

 

 そんなことはない。そんなことはないのだ。

 私は無理なのだと、もう立てないのだと。心の底から諦めてしまったのだから。

 

 なぜなら、もうないのだ。

 

 桐藤ナギサが立ち上がる理由が、なにもないのだ。

 

 ただ一つ、あなたの声だけが私に残った全てなのだから、と。

 

『桐藤ナギサ──お前が立つ理由は、本当に俺か?』

 

 それを、前原イサクは真正面から否定する。

 

『思い出せ、何のためにエデン条約を結ぼうとしたんだ? 何のために、お前はここまで行動したんだ? 何のためにティーパーティーなんて七面倒臭いものに就任したんだ?』

 

 何のために、その原初(オリジン)を前原イサクは突きつける。

 

「なんの、ために……」

『そうだ、桐藤ナギサ。お前のまだ、残ってるものはなんだ?』

 

 失った人(前原イサク)捨てた誇り(ティーパーティーの求心力)放り投げた信頼(大切なヒフミさん)

 この数週間においてあまりにも多くを失って、なおかつ残っているもの。

 そんなものがあるのか、と。

 私にはもう何もないと。心が折れてしまったナギサには幻想だとしても眼の前の男にすがるしかないのだと。

 

『お前の、本当に守りたかったものはなんだ。お前の手放したくないものは──なんだ?』

 

 桐藤ナギサは逡巡する。

 

 私の守りたかったものはトリニティで……だから補習授業部なんてものを作って、でもそれは間違いで。

 そもそもなんでトリニティを守ろうとしたのか。

 愛校心? 違う。

 学園に在籍する生徒のため? それは名分であって、本当に守りたいものなのか?

 好きな人(前原イサク)のため? 違う、イサクさんと会う前からエデン条約を推し進めてきた。それは後の要因で最初の思いじゃない。

 

 私が、守りたかったもの。

 私が大切にしていたもの。

 

 ──ナギちゃん!

 

 脳裏に浮かぶのは一人の少女。

 明るく、美しく、お転婆なお姫様。

 桃色の髪の桐藤ナギサの最初のお友達(おさななじみ)

 

「──ミカさん……っ」

 

 そうだ、私にはまだ残っている。

 裏切られて、拒絶されて、遠くへ行ってしまったとしても。

 

 ──私にはまだ、救いたいと願う親友がいる。

 

『……なんだ、ちゃんと言えたじゃねぇか』

 

 その声は優しい声色で男は彼女の言葉を肯定する。

 

『ちゃんと、わかってるな』

「……はい」

『ちゃんと、立てるな?』

「はい」

『ナっちゃん……俺たちを助けてくれ』

「良いでしょう、トリニティの威信をかけて。全力で貴方たちを援護します」

 

 桐藤ナギサは俯かない。

 彼の言葉はいつだって人々の心に火を灯してきた。

 だって彼は、トリニティを助けてくれたから。だからこそ助けてほしいと言われたのならば、それに応える義務がある。

 

 否──義務だけではない。

 

 誰よりも、何よりも桐藤ナギサが彼を助けたいと思っているから。

 

 ──ああ、そうか。

 

 桐藤ナギサは理解する。頭で、心で、魂で、理解する。

 

 桐藤ナギサは前原イサクに恋してる、と。




 恋心を自覚してしまい、なおかつ砕け落ちたメンタルを前原セラピーで補修して再強化したナギサ様が此方です。

 たぶん、うちのナギサ様が一番強いと思います。
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