キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』)   作:ニーガタの英霊

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 キヴォトスでは下心なしに発言をするのは女の子の情緒を破壊することなんだよ!!
 全部あなたのせいだよ〜!!


イサクもうやめなって!

「やはりここは、あんこう鍋でしょう」

「うわ出たよ、高いものが良いものだと思い込んでいる安い女の思考だ」

 

 サンクトゥムタワーにあるフロアの一室。そこは連邦生徒会の行政委員会の一つである防衛室の管轄であるフロアだった。

 

「喧嘩売ってます?」

 

 カヤは薄い目を少し開けながらイサクに対して睨みつける。

 

「なぁカヤぴぃ……味もわかんねぇのに高いものを求めるって馬鹿みたいとは思わねぇか?」

「遠回しに私のことを味音痴だとおっしゃってるのですか?」

「お前はあんこうを食べているんじゃない、情報を食ってるんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ。明確な事実なんだ」

 

 怒りの右手が出たのをイサクが腕を掴むようにして捕らえる。

 心なしか息が荒かった。

 

「だったらイサクさんは何が良いとおっしゃるんですか?」

「牡蠣のミルク鍋」

「貴方のもそこそこ値張るじゃないですか!!」

「知らないのか、俺のミルクは極上だぞ? それに合わせる食材限られるんだぜ?」

「やれやれわかって居ませんねぇ……」

 

 深くため息をつきながら、横に首を振るう防衛室職員楯無ヨシノは前髪を掻きながら口を開く。

 

「ここはモツ鍋でしょう。新鮮なモツに唐辛子やにんにくのスパイス。仕上げにこれでもかとニラを乗せる。スタミナを蓄え力を得るならこれでしょう」

「私内臓系嫌いなんですよね」

 

 カヤは空気が読めない。

 そういうところがあるから人望がないんだよなぁとイサクは怪訝な目をカヤに向けた。

 

「あ、じゃあこうしましょう。私とイサクさんのいいとこ取りで痛風鍋ってのにしましょうか?」

「お前……死ぬのか?」

「死にませんよ」

 

 プリン体の摂取は用法と容量を守らなければならない。

 

「前原先輩、タジン鍋がいいです!」

「あれ鍋は鍋だが……どっちかというと蒸し料理なんだよなぁ」

「おでんはどうっスか?」

「絶妙なところを突いてくるな……」

 

 一度会話の窓口が開くと、各々それぞれ好みの鍋を提示してくる。

 

「しゃぶしゃぶが無難です。自分の好きな量、好きなタイミングで好きな具材を楽しむ!!」

「おでんがいいです。具材の種類の多さからバリエーションも豊富です」

「お肉なんて美容の大敵ですよ!! 肌にもいい健康的でなおかつ魚のうま味を楽しめるちり鍋が至高です!!」

「美容云々なら湯豆腐でも食ってればいいんですよ。せっかくの鍋なんです!! いいものを食いましょう、ズバリ……すき焼きです」

「先輩権限でミルク鍋に──」

「「「「黙ってください!!」」」」

 

 イサクはしょぼんとした。

 カヤはその様子をあざ笑うが、彼女のあんこう鍋も周囲から総スカンを食らっている。

 似た者同士であった。彼らは負け犬だった。

 

「あのぅ、お話中失礼します……」

「おん? どうしたつっちー」

 

 イサクは傷心を押し殺して、ヒヨリに顔を向ける。

 

「鍋って、なんですか?」

「えっ……」

 

 ……。

 ………。

 

 カタコンベ。

 日差しの通らない、薄暗く湿気のあるその場所まで私たちアリウススクワッドは追い詰められていた。

 

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

 全ては虚しい、ただ虚しいだけである。

 

 わかっていた。わかっていたはずだ。

 

 人生は苦しい事ばかりで、辛いのが当たり前で。

 だからこそ生きることは虚しいことなんだと。そう教わった。

 

 でも──

 

「楽しかったんです……本当に楽しかったんです」

 

 夢に見るほどに暖かかった。

 

「お鍋、美味しかったなぁ……えへへ」

 

 暖かくて、美味しくて、涙が出るほど嬉しかった。

 騒がしい毎日で、喧嘩も絶えなくて、でもみんな何処かで互いを信頼していた。

 

 ──それを壊したのは私だ。

 

 私が壊したのだ。私が奪ったのだ。私が殺したのだ。

 

「イサクさん……」

 

 私の残心。

 いろんなことを教えてもらった。

 美味しいもの、楽しいこと、嬉しいこと、可笑しいこと、大変なこと。

 人生は、生きることは苦しいことと辛いことだけではないと、あなたが私にくれたもの。

 

 それに対する私の返答は一発の弾丸だった。

 

 

 

 ……。

「──『恥の多い生涯を送って来ました。』」

 

 自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。

 人間は、お互いの不信の中で、エホバも何も念頭に置かず、平気で生きているではありませんか。

 互いにあざむき合って、しかもいずれも不思議に何の傷もつかず、あざむき合っている事にさえ気がついていないみたいな、実にあざやかな、それこそ清く明るくほがらかな不信の例が、人間の生活に充満しているように思われます。

 自分には、あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きている、或いは生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです。

 

「『神に問う。信頼は罪なりや。』」

「『無垢の信頼心は、罪なりや。』」

 

 不幸。

 この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうが、しかし、その人たちの不幸は、所謂世間に対して堂々と抗議が出来、また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。

 しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、世間の人たち全部、よくもまあそんな口がきけたものだと呆れかえるに違いないし、自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、自分でもわけがわからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、どこまでも自ずからどんどん不幸になるばかりで、防ぎ止める具体策など無いのです。

 

 死にたい、いっそ、死にたい、もう取返しがつかないんだ、どんな事をしても、何をしても、駄目になるだけなんだ、恥の上塗りをするだけなんだ。

 ただけがらわしい罪にあさましい罪が重なり、苦悩が増大し強烈になるだけなんだ、死にたい、死ななければならぬ、生きているのが罪の種なのだ。

 

 地獄。

 自分は意志も判断も何も無い者の如く、ただメソメソ泣きながら唯々諾々と二人の言いつけに従うのでした。

 いまはもう自分は、罪人どころではなく、狂人でした。

 

「「──『人間、失格。』」」

 

 私の言葉に合わせるように、聞きなれた暖かな男性の声が被さる。

 カタコンベの岩肌を背に、座り込む私の目の前に彼は居た。

 

 私の死神(イサクさん)が其処にいた。

 

 安堵があった。ああ良かったと、私は安心した。

 

「よぉ覚えてたもんだな……」

「えへへ、忘れませんよ……あなたから教えてもらったことは絶対に忘れませんから」

 

 イサクさんは眉をひそめながら怪訝そうに呆れ返っていた。

 何一つとして忘れず、何一つとして欠けず、何一つとして美化もなく、何一つとして風化せず。

 一言として完璧に、一句として正しく私はあなたを想う。

 

 あなたを取り戻すために必要だったから、そうした。

 

 イサクさんは深く、大きくため息をつくと私の隣に腰かけた。

 

「スクワッドのメンバーは?」

「逃がしました。リーダーはアズサちゃんと決着がありますから」

 

 趨勢は決した。

 ここに至って、アリウスの作戦は失敗したのだ。トリニティを支配し、ゲヘナに進軍することも叶わない。

 サオリ姉さんはそれでも諦めないけど、でもいずれ理解するだろう。

 

「えへへ、イサクさんは優しいですね……本当に……神様みたいです」

「俺ぁ、人間だよ。どこにでもいる人間だ」

 

 そんなことはないのだ。

 あなたは私にとってどれほど救いになったか、気づいていない。

 あなたを失って、初めて気づいたのだ。どれほどあなたからもらったのかを。どれほど私を支えてくれたかを。

 

「……イサクさん、お願いがあるんです」

「聞かねぇぞ」

 

 怪訝な顔をするイサクさん。

 やっぱり、イサクさんはすごいなぁと思う。

 きっとあなたは私が何を言うのかを分かっているのだろう。

 人の好意には鈍感なくせに、人の機微には誰よりも聡かった。そんなのだから頼られてなれない室長になったのだから。数か月、たったそれだけの付き合いだったとしても、私にはよくわかる。

 

「──私のヘイローを破壊してください」

 

 私はやはり、あさましい女なのだろう。

 この期に及んで、あなたに裁かれ(殺され)たがっている。

 

「私は、あなたに裁か(殺さ)れるべきなんです。そうじゃなきゃ、ならないんです」

 

 視界が滲む。嗚咽と雫が垂れるように言葉が零れ落ちる。

 

「この世界には、幸せがあるんです……。それは美味しいものを食べたり、気兼ねなく友人と話すことだったり、家族と肌を寄せ合って過ごすことだったり――誰かを、好きになることだったりするんです」

 

 私は知っている、この世界は決して苦しいだけではないのだと、辛いことだけが人生ではないのだと。

 いずれなくなる空虚なことだとしても、それでもあの日受けた幸福は私の胸に残り続け、希望になってくれているのだと。

 

 それを私は知っているのだ。ほかでもない、そばにいるあなた(イサクさん)が教えてくれたことだから。

 

 そして、それから目を背けていたことが、何よりの私の罪だから。

 

「だから……、だからイサクさん。私は幸せになるべきじゃないんです。誰かの幸せ(それ)を奪った私は、幸せになっちゃ駄目なんです」

 

 誰かの幸福を奪ってはならない。

 誰かの生活を、日常を、幸せを壊してはならない。

 なぜならそれは悪であり罪なのだから。

 

 罪人は許されてはならないから、幸せなど求めてはいけないから……。

 

「──いや無理だろそれ」

「えっ……」

 

 事も無げに、イサクさんはそれを否定する。

 

「無理無理無理無理かたつむり、無理だってそんなもん」

「えぇ……無理って……えぇ……?」

 

 ホントこいつなんもわかっちゃいねぇなぁ……。と言うようにイサクさんはため息をついて、私のこめかみを指先で(つつ)く。

 

「あぅ……、やめてくださいぃ……」

「嫌だね、ったくお前はすぐに結論を急ぎたがる。いいかつっちー。お前に大事なことを教えてやろう」

 

 イサクさんは私の隣にあぐらをかいて座り、口を開く。

 

「人間は幸せを求めて生きるもんだ。だからお前の理論は元から破綻してる」

「そ、そんなことは……」

「あるね。いいか、人間には欲望がある。食欲しかり性欲しかり物欲しかり。人様に迷惑をかけない分にはいいが、場合によっては人様に迷惑をかけるものだったり、求める中で他人との争いになるもんだってある」

 

 例えばオークション。ほしい景品を手に入れるためには大金が必要で、大金を積み上げたとしても誰かがそれ以上の大金を積み上げればその所有権は別の人のものになる。

 食事だって好きな料理と苦手な料理を並べれば大抵の人間は好きな料理を選ぶ。

 

「すべての人間が自分の幸福より誰かの幸福を優先する人間ばかりなら銃なんざいらないし、銀行強盗なんざ発生しない」

 

 人の欲は尽きないし、むしろ人間はああしたいとかこうしたいといった感情を原動力にしてここまで発展してきたとも言える。

 

「そもそもだ、この世界に誰かに迷惑をかけないで生きてる人間なんざいねぇよ」

 

 喧嘩もすれば争いもする。親が子どもの面倒をみるのだってそのうちの一つになるだろう。

 

「じゃあ、どうすれば良いんですか……!!」

 

 私は叫ぶ。

 だって、私は取り返しのつかないことをして、だから裁かれなくちゃ行けなくて。

 

「私は、裏切ったんですよ! あなたの信頼を裏切って、防衛室のみんなを裏切って……! あなたの優しさにつけ込んで……っ!!」

 

 縋るように、私はイサクさんの肩に飛びつく。

 

「許される理由(わけ)……ないじゃないですかっ!!」

 

 取り返し等、つかない間違いを犯したのだ。

 今、此処に居るイサクさんだってそれは奇跡のようで、謝ったところでどうしようもなくて、これからの未来なんてそんなのもなくて、やりたい事や、して欲しいことが有ったとして……。

 

「──どうしようも、ないじゃないですか……っ!」

 

 だから、あなたに裁いて欲しかったのに。

 許されなくてもいいから、あなたが私をどんなふうに扱っても良いと、私は本当にそう思ってたから。

 

「──俺はお前を恨んじゃいねぇよ」

「──そんなはず、そんな……うぅぅぅぅっ」

 

 声に嗚咽が混じり、言葉がうまく喋れない。瞳からなんども雫が零れ落ちて、手でなんども拭っても止まらなくて。身体中の水分が全部涙になってるようなそんな様で。

 

「ほら、そんな眼を掻くな。べっぴんさんが台無しだろ?」

 

 イサクさんは、そっと私の両手を握る。覆うように、ゴツゴツと節榑(ふしくれ)だった手で私の手を撫でるように握りしめる。

 

「ヒヨリ、俺は槌永ヒヨリを赦す」

 

 酷い人だ。

 本当に酷い人だ。

 悪魔だ、鬼だ。

 どうしてイサクさんは、私がかけてほしい言葉をくれるのだろう。

 どうして、彼の言葉はこんなにも私の胸を暖かくしてくれるのだろう。

 

 そんな価値はないのに、そんなことを求めてはいけないのに。

 嬉しくて、幸せで胸がいっぱいになって。

 たまらなく愛おしくなる。

 

「取り返しのつかない罪はあるだろう、すべての人が遍く罪を赦すことはないかもしれない──だから、ヒヨリ。赦されるように生きろ」

 

 罪を背負い、忘れず、生涯抱えて生きろと。彼は言った。

 

「──『主よ、私を平和の道具にしてください。

 憎しみあるところに愛を、(いさか)いがあるところに赦しを、分裂があるところに一致を、疑いのあるところに信仰を、誤りがあるところに真理を、絶望があるところに希望を、闇あるところに光を、悲しみあるところに喜びを置かせてください。

 主よ、私は慰められるより、慰めることを、理解されるより理解することを、愛されることより愛することを求めます。

 それは私たちが、自ら与えることによって受け、赦すことによって赦し、そうして自らの命をささげたとして、永久の命を得ることができるからです。』」

 

 それは、優しい祈りだった。

 聖句とは別にある(いにしえ)の、古い古い聖者の残した言葉。

 

「──お前の為に、祈らせてくれ。いつかきっと、ヒヨリ自身が自分の罪を赦せるように」

 

 卑怯だ。なんて卑怯な人なんだろう。

 そんなことを言われたら、何も言えなくなってしまうだろう。

 

「あ……ぅ、あぁ……」

 

 口から漏れ出るのは嗚咽で私はもう感情の昂りを抑えることも出来なくて。

 いままで被っていた気丈という仮面すら、剥がれ落ちていた。

 

「うわあぁぁぁぁん!!」

 

 綺麗という言葉がある。

 それは美しいものを表す言葉で。もし、この世界に美しいと、綺麗という言葉に相応しい物があるとしたら。

 

「笑ってくれヒヨリ。神様は笑ってるやつが好きなんだ。辛いことがあったら前を向け。苦しいときほど笑っちまえ」

 

 それはきっと、(イサクさん)のことを言うのだろう。

 

「──『斯くあれかし(Amen)』」




 ギャグ……僕が入れようとしたギャグ描写はどこ……?
 ヒフミにプロポーズしたことを突っつかれるイサクさんは何処?
 こんなのただのラブコメぢゃん……。
 太宰と聖フランシスコが悪いよ。
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