キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』)   作:ニーガタの英霊

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 ホシノおじさんをこれ以上曇らせるのはかわいそうだよぉ~と思う貴方。
 オリキャラを一から作って暗い過去を生み出し曇らせて動かすことで代用しましょう。
 これをジェネリック小鳥遊と言います。

 こうすることで原作キャラの過去を捏造することもなく安易なキャラヘイトも回避できますのでいいことづくめです。


ジェネリック小鳥遊

 ──この世界を壊してやりたかった。

 

「──年貢の納め時だ、鉄兜(ヴィルヘルム)

 

 涼し気な顔で、そう宣った男。

 

「ふざ、けんな……テメェ、顔……覚えた、からな……!」

「顔だけじゃ、わからんだろう」

 

 鳩尾の痛みで酸欠になり、今にも意識が落ちる寸前。

 男の言葉がやけに耳に残っている。

 

「──前原イサクだ。覚えておきな」

 

 

 ……。

 ………。

 

 

 次に目を覚ました時、そこは無機質な見慣れない白い天井だった。

 備え付けのトイレと洗面台が一つ、薄い綿毛布が被ったシングルベッド。

 通路側には合金使用の鉄格子に窓もない部屋。

 

 所謂、留置所という場所なのだろう。

 

「クソがッ……」

 

 吐き捨てるように、イラつき交じりに舌打ちする。

 空きっ腹を抱えながら、ただひたすらに時間が過ぎるのをベッドの上で待つといつの間にかまた意識を失い、けたたましいベルの音によってまた意識を覚醒させられる。

 

「離せよッ!! アタシに触れるんじゃねぇっ!!」

 

 気に入らなかった。目に映るすべてが気に入らなかった。

 傲慢で鼻につく態度。

 

 いかにも自分は正しいですと、憮然としたヴァルキューレの学生を絞め殺したくてたまらなかった。

 

 一人をぶん殴れば、十倍の人数でタコ殴りにされる。

 なにもかもが気に入らなかった。

 

 お前らが正しいなんていう秩序だとか、社会とか、無辜の民だとか、そんなものに本当に価値を置いているやつが存在すると思っているのか?

 

 薄っぺらい仮面をかぶっていても、結局お前らが大事にしてるのなんて自分の財産や権利なんだろ。自分さえよければいいんだろ?

 

 クソだよ。

 お前らなんて総じてクソだ。

 

 秩序も、大人も、社会も。クソの掃きだめじゃないか。

 

「──よっ!」

 

 ヴァルキューレの留置所で殴り、殴られ、取り調べを受けて、ようやく矯正局に護送されるんだろうなと思った矢先、その男は私の目の前に現れた。

 

「テメェ……」

「ククク、どうした? 俺に惚れたか?」

 

 拳を握り、殴りかかろうとするアタシを背後の生徒が押し倒して止める。

 

「お前ッ!! 何しようとしたッ!!」

「そうカリカリすんなよ、カンナちゃん」

「イサク、やはりこの女は危険だ。お前の身に何かあれば私は……」

「何ごちゃごちゃ人の頭の上で言ってんだよっ!! アァッ!! テメェ、忘れてねぇからな!? 離せよッ!! ぶっ殺してやるッ!!!!」

「お前ッ!! いったい誰の温情で出られたと思ってるんだッ!!」

「アァッ!? 知らねェよ!! アンタらが勝手にやったんだろうが!! 誰が頼んだってんだッ!! エェッ!?」

 

 人の知らない間に勝手に決められたことに従う理由なんてない。

 だってそうだろう。このキヴォトスで信じられるものなんて結局のところ自分の力でしかない。

 

 どれだけお行儀よく生きていても。

 どれだけ社会のために働いていても。

 どれだけ人に尽くしたとしても。

 

『──あなたのせいじゃない』

 

 それが報われることなんてちっともない。

 

「よォ、鉄兜(ヴィルヘルム)。確か名前は──」

「気安く呼ぶんじゃねぇよ。ソレは捨てたんだ」

 

 その名前で呼んだ人は、もういなくて。

 そんな弱虫の無能の名前なんて、あってはならないんだから。

 

「ただの鉄兜だよ。それ以上はいらねェ」

「親御さんから貰ったいい名前があるじゃねぇか?」

「いい名前? プッ、アハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 男の言葉に、私は笑う。

 

 嗚呼、やめてよ。ママ。

 

「どこがだ? 何もできなかった女が持ってても、滑稽なだけじゃないか?」

 

 きぃきぃ、と耳障りな電灯が揺れる音がしたような気がした。

 

 

 ……。

 ………。

 

 

『どうして……、どうしてこんなことになったんですかっ!?』

 

 半狂乱になって叫ぶママ。

 

『申し訳、御座いません……』

『主人を……! 主人を返して下さいっ!!』

 

 嫌な記憶だ。

 十年以上前、パパが居なくなった。

 

 アビドス自治区の大企業セイント・ネフティスの社員だったパパはネフティスの起死回生の事業案件に失敗し、失踪した。

 

 その日から、私の家は少しずつおかしくなっていった。

 

『ごめんね、ごめんねぇ……頼りないママでごめんねぇ……』

 

 一家の大黒柱だったパパを失って、明らかに生活レベルが下がった。

 専業主婦だったママはコンビニでパートを始めて、夜には繁華街で働きづめになり、私も小遣い稼ぎを始めた。

 

『大丈夫だよ、ママ。私も働いてママを助けるから!』

 

 小学校に通わなくなって、働き始めた。

 必死に仕事を覚えて、アングラな傭兵としてそれなりに使えるようになったと自負している。

 

『私がママを守るんだ』

 

 パパがいたころによく見た。騎士様が出てくるアニメのように。

 パパの代わりに私がママを守るんだと。

 

 紳士的で、真面目なパパ。

 いつも明るくて、綺麗なママ。

 

 まるで騎士様とお姫様のような関係で、私がパパの変わりに騎士様になるんだと。

 いったいそれがどれだけママの自尊心を傷つけたなんてことを知らずに……。

 

 冷たい空気が肺を突き刺すような早朝。

 自転車の荷台に新聞紙を載せて住宅地のポストに投函する。

 

 小さなワンルームの賃貸がママと私が住む場所。

 

『ほら……ママ。こんなところで寝てると風邪ひくよ』

『うぇぇ……うるさいなぁ……』

 

 むせかえるぐらいに強い酒の匂い。悪い酔い方だ。

 

 ぐつぐつと石油ストーブの上で温められる鍋。

 中身はいつもの安いもつを使った鍋。

 

 パパが生きていた頃とは雲泥の差の生活。

 自由な時間はないし、生活はいつもギリギリ。

 

 料理に洗濯に仕事とせわしなく働く日々。

 

 それでも、よかったのだ。

 ママがいてくれるだけで、よかったのだ。

 

『ねぇ、どうしたのこれ?』

『え……えぇっと……それは』

『いつも言ってるよね、ウチに余裕はないって。ママ何してるの?』

『……』

 

 責めるつもりはなかったのだ。

 ただ、ママが心配だったから。

 

 世間知らずだったママはパパがいなくなって初めて社会の荒波に飲まれた。

 そのせいで、詐欺に巻き込まれてパパの遺産を多く失うことになった。

 

 生活レベルを下げることが苦痛で、私の養育費を稼ぐのにも精一杯で。

 少しでも子供を楽させようと欲をかいた結果、致命傷と言えるほどの財産を失った。

 

 また、おんなじことに巻き込まれてるのかもしれない。

 

『ねぇ、ママ。答えてよ』

『……』

『何も言わなきゃわからないよ』

 

 後ろめたいことがあるのか、ママは何も言わなかった。

 その態度がどうにも不安で、でもどうにかしたくて。

 

 そして私は致命的に失敗してしまった。

 

『ねぇ! 答えてよ。何も言わなきゃわかんないんだよ!! 私が居なきゃ何もできないんだからさ!!』

 

 縊り殺したくなる。

 いったい何様のつもりなのかと。

 

『そ、そんなことないよぉ……マ、ママだって……』

『朝働いて、家のことやって、傭兵の仕事だってやってる! 私の方がお金入れてるんだよ!! そんな私に黙って家のお金に手を付けるってどういうこと!?』

 

 未熟で傲慢な考えだった。

 身体をぼろぼろにして、雀の涙程度のお金しか稼げないママになんてひどいことを言ってしまったのだろう。

 

『そ、そんなこと頼んでない……』

『頼んでない!? ママが心配だから私だって働いてるんだよ!?』

 

 やめろ。

 

『ママはなにもできないんだから、私が働かなきゃいけないんだよ!!』

 

 やめてくれ。

 

『……あなたには関係ないじゃない』

『ハァ?』

 

『働いてくれなんてママは頼んでない! ただ、普通に学校に行って……』

『それができないんだから仕方ないじゃん』

 

 死ねよ、死んでくれよ。

 

 呆然と、愕然としたその顔を、如何してもっとよく見なかったのだろう。

 

『な、なんで……そんな……』

『なんでって事実じゃん。あーもう、私そろそろ行かないといけないんだけど……?』

 

 携帯の時刻をちらりと見ながら舌打ちする。

 そんな姿にママは肩を驚かせる。そんな姿に私の中にある不満が再燃する。

 

『ま、ママだって……ちゃんと、頑張って……』

『あーもう、いいよもう──』

 

 言うな、言っちゃいけない。

 それを言ってはいけない。

 

『──私が全部やるから、ママは何もしないでね』

 

 吐き気がする。

 なんだこの気持ちの悪い女は。

 死ねよ、死んでしまえよ。

 

 何考えてんだよ、クソだよ。テメェが一番クソだよ。

 

『──なんでそんなこと言うの……』

 

 幽鬼のように立ち上がるママ。

 

『ま、ママだって頑張ってるのに、働いてなんて一度も言ってないっ!! あなたに苦労してほしくなんてなくて……それで……どうしちゃったのよっ!! パパがいたときはこんなことなかった!! そんなこと言わなかったのにっ!! どうして……どうしてっ……!』

『……ママ?』

 

 半狂乱になって髪を振り回すママ。言っていることも支離滅裂で、何度も、何度もどうしてと叫ぶ。

 

『こんな……こんなはずじゃなかったのにっ!!』

『ママ、いい加減に──』

 

 ママを落ち着かせようと、ただ手を差し伸べようとしただけだったのだ。

 その手を、ママは振り払い、涙目になりながら、暗い瞳でにらみつける。

 

『──貴方なんて、産むんじゃなかった……っ!!』

『──』

 

 言葉は取り消せない。

 

『あ──いや、違…違うの……』

 

 言ってはならないことを言ってしまったと、ママは怯えるような目をしていた。

 

 ──なんだ、その目は?

 ──なんだ、その態度は?

 ──なんだ、その言葉は?

 

『──そう』

 

 私は、燃え盛る感情をできるだけ表に出さないように、ただ一言呟いた。

 

 どうして私は、ママに背を向けてしまったのだろう。

 どうして私は、ママに向き合おうとしなかったのだろう。

 どうして私は、本当に助けなきゃいけないときにママを見捨ててしまったのだろう。

 

『い、いや……違うの。……違うのよ、そうじゃないの……そうじゃ……』

 

 これ以上、話せばママにひどいことを言ってしまうと思ってしまった。

 時間が必要だと思ったのだ。私も、ママも。

 

『──まって』

 

 その声を振り払ってしまった。

 

 ……。

 ………。

 

『■■■には出来るという意味があるんだ』

『出来る?』

 

 幼いころ、パパは私を膝の上にのせて私の名前の由来を教えてくれた。

 

『うん、いいかい■■■。出来るって言うのは可能性の言葉なんだ。難しいこと、大変なこと、辛いこと、苦しいこと。いろんなことがある。そんなときに出来ないじゃなくて、出来ると思ってやってほしいんだ。自分から自分の未来を小さくしてしまって、最初からあきらめてしまわない様に。いろんなことにチャレンジして、いろんなことができるようになってほしいから。僕は■■■って名づけたんだよ』

『……よくわかんない』

『あはは、そっか。難しい話だったね』

 

 パパの温かい手が好きだった。

 ポンポンって、私の頭をなでてくれる節くれだった堅い手が大好きだった。

 

『でもね、■■■はいろんなことが出来るようになって、そうなったらその力を使っていろんなできない人を助けてほしいんだ』

『手助け?』

『そう、何でもいいんだ。迷子の子供が居たら手を引いてあげる。いじめられている子が居たら守ってあげられる。喧嘩する子が居たら仲直りさせられる。そういう子になってほしい』

『……そうなったら、パパはうれしい?』

 

 パパは目を細めて柔らかなほほえみを浮かべる。

 

『そりゃ、もちろん。アニメの騎士様みたいにいい子になるんだよ』

『うん、わかった! 私、騎士様みたいな出来る子になる!』

 

 幼いころのパパとの約束。

 大切な大切な、私のオリジン。

 

 パパが居なくなって、ママが大変になって。

 だから私は、ママを助けなきゃと思ったんだ。

 

 だって私は出来る子だから。

 私はママの騎士様だから。

 

 大好きなパパと大好きなママのためだったら、どんな苦しいことだってやれるんだから。

 

『ちょっと、言い過ぎちゃったなぁ……』

 

 仲直りするつもりだったんだ。

 言いすぎちゃった、ごめんって。言うつもりだったんだ。

 

 古びたアパートの扉のドアノブを回す。

 

 ──駄目だ、開けちゃいけない。開けたら、後悔する。

 

 そう思って私は過去の私に触れようとするのに、夢の映像は鮮明のその続きを進めていく。

 

『ただいまー。ママごめん、さっきは言い過ぎ──』

 

 ──見てはならない。見たら壊れてしまう。

 

 木造の扉を開くと風が部屋の中を通り過ぎる。

 きぃきぃと暗い室内に見慣れない異物が電灯の下でぶら下がって揺れている。

 

 ──理解してはならない。知ってしまったら後戻りはできないから。

 

 横に倒れた椅子。

 足元に置かれた一枚の紙とリボンと包装紙で丁寧に包まれた小包。

 電灯のすぐそばでぶら下がっている異物。

 

 嗚呼、あれは──ママじゃないか。

 

 肩に背負っていた安物のライフルを投げ捨てて私は叫び声をあげながらママに近寄る。

 

 なんで、と。どうして、と。半狂乱になりながら、ママを必死に助けようと必死になる過去の私の姿。

 

 私の誕生日は──ママの命日だった。

 

 

 ……。

 ………。

 

 

 ──ピピピ、ピピピ、ピピピ、と。規則性のある電子音が私の耳を打つ。

 

 畳敷きの和室に布団。部屋の隅には和室の雰囲気には似合わない勉強机とその傍には布団を収納するための押し入れがある。

 

「チっ……」

 

 アラート機能がある、値段もちょっと高い少し良い女性用の腕時計。

 ママがあの日に私のために買ってくれた誕生日プレゼントだった。

 

「……二度寝、するか」

 

 そういって、再び布団に潜り込む私。

 雨風が通らないしっかりした部屋の中で寝るのなんて随分と久しぶりで、いつもは廃墟の出来るだけきれいな床の上に薄汚れたタオルを腹に巻いて寝るような生活を続けてきた手前、知らず知らずのうちにまっとうな布団が恋しくなったのだろう。

 

 あんな悪夢を見た翌日なのだ。

 もう一度寝れば少しはまともな夢を見れるだろうと、瞳を閉じて……。

 

「グゥゥゥゥゥゥットモォォォォォォォニングッ、エブリワーーーーンッッ!!!! 清々しい朝だぞッ!!」

 

 スパァン!! と気持ちのいい音を鳴らしながら襖が勢いよく開かれる。

 

「うるっせェなぁ!! 寝かせろよっ!!」

 

 最悪だ。

 キラリと白い歯をアピールするかのように、お玉を片手にポーズを取る暑苦しい男。

 

 見ているだけで胸やけがすごい。もうなんか、一緒にいるだけで頭が痛くなる奴だった。

 

「どうしたぁ? ご飯にするかぁ? それともシャワーを浴びるかぁ? それとも──オ☆レ!」

「死ね」

 

 もう死んでくれねぇかなぁこの男。

 

「……てか、なんだよその格好」

「ほぅ、気づいたか……流石はガシャガシャヘルメット団の首領鉄兜(ヴィルヘルム)と言ったところか」

「……今、関係なくね」

「気になるなら答えよう、このドスケベ娘めっ!!」

「ハァ!? な、なに人をドスケベ扱いしてんだ!? ぶっ殺すぞ!!」

 

 風評被害も甚だしい。しかも人の話を聞きもしない。

 

「弾ける上腕二頭筋!! 清潔感があり、可愛らしいフリルのついた白いエプロン!! 安心してください、履いてませんよ!! 人はこれを男の浪漫という──裸エプロンだッ!!!!」

「キッショ」

 

 男は気持ち悪かった。

 

「クククッ、好感度ゼロからのスタートか……良いぞ良いぞ、攻略難易度が高いほど燃えるというものだ」

「テメェ本当に話聞かねぇなぁ」

「ウチ、朝はご飯だけど良いよね? もしかしてパン派だった?」

「知らねぇよ、勝手に話進めるんじゃねェ」

 

 朝から嫌なやつに阻まれた、こんなやつに付き合うのは勘弁だと、着の身着のまま部屋を出ようとすると男は制止する。

 

「退けよ……」

「残念だが、それは出来ねぇ。今のお前は保護観察処分だからな」

「保護観察だぁ? なんだそりゃ」

「詳しく説明を聞きたければ、早くこの服に着替えて飯を食うんだ。どっちにしろ、お前は俺から離れられん」

 

 私は男を睨みつけるが、男は何処吹く風のように一方的に話をまくし立て襖を閉める。

 手渡された服は青色を基調とした新品のセーラー服。

 小学校を卒業してからというもののろくに学校に通うことのない私からすれば、学生服というのは仄かな憧れがあった。

 

「うわ、ピッタリ……気持ち悪っ」

 

 サイズも丈もピッタリで、薄ら寒いものを感じる。

 

「……」

 

 留置所から出てあの男──前原イサクに呼び止められた。

 殴りかかろうにも人相の悪い女のヴァルキューレ生徒に無力化され、行く場所もないことからこうしてイサクの部屋に上がり込んだ。

 

「普通におかしいだろ、男女の同棲だぞ……? ありえなくないか?」

 

 疑問も束の間、腹から空腹を知らせる腹の虫がなり思えば昨日から何も食べていないことを思い出す。

 

「おう、出てきたか。改めておはよう、だ」

 

 流石に裸エプロンのままの姿ではなく、白いワイシャツとスラックスを着て椅子に座る。

 よかった、流石にあの姿のままだったら私は無言で逃げ出していただろう。

 

「……なんだよ、これ」

「俺の愛情たっぷりのブレック・ファーストだ。喜んでいいぞぉ?」

 

 タッパーの中に入った漬物に形の整った卵焼きと味噌汁。主菜(メイン)は鍋敷きの上にフライパンごと置かれた豚の生姜焼き。ボウルの中には葉野菜を適当にぶち込んだサラダ、と。

 久々に見る整った朝食だった。

 

 ごくり、と。無意識に喉が鳴る。

 

「ほれ、さっさと席に座って茶碗を出せ。ご飯盛ってやるからよ」

 

 イサクはしゃもじを片手に持ちながら、左手をこちらに向ける。

 何を盛ってるかわからん。と断ることもできただろう。

 だが、2日ぶりの食事に耐えることも辛く、私は黙って猫のイラストが描かれた茶碗を差し出した。

 

 イサクは慣れたように茶碗を受け取ると炊飯器の蓋を開けて茶碗一杯にご飯を盛り付けた。

 

「……結構いい米だろ、これ」

「おっ、わかるか。食いもんだけは元の学校から余るぐれぇ送られてくんだ。俺だけじゃ消費できねぇからよぉ好きなだけ食え」

「……学校ねぇ」

 

 私にはまるで関係のない話だ。

 学校に通っていたのなんて随分と昔の話になる。

 

 小学校すらまともに通わず仕事に明け暮れ、中学なんて只管暴力と争いに明け暮れた。学籍データなんてものもなく、銀行の口座ももとから持ってすら居ない。

 

 着の身着のまま。宵越しの銭は持たず。必要に駆られれば奪って手に入れた。

 

「ほら、手を合わせるぞ。いただきます、だ」

「ハァ…?」

 

 なんでそんな面倒くさいことを……。

 そう思った感情をイサクは読み取ったのか、イサクは諭すように語りだす。

 

「俺が嫌いなタイプは三つある。一つは食材を盗むやつ。一つは飯に敬意を払わず無駄にするやつ。そして最後の一つが黒舘ハルナだ」

「最後個人じゃねェか」

「俺あいつ嫌いなんだよなぁ、だって話通じねぇもん……」

 

 そう言ってイサクは『いただきます』と唱えるとフライパンから生姜焼きを一枚、小皿に移す。

 

「お前だって、飯を作ってくれる奴にはいただきますぐらい言っただろ?」

「──」

 

 その言葉が、無性に腹がたった。

 

「やっぱ、いらねェ」

「食っとけ、食わなきゃ持たねぇぞ」

「いらねェっつってんだろ!!」

 

 飯台を強く叩く。衝撃で味噌汁が溢れ、飯台を濡らす。

 

 腹が立つ。腹が立つ。腹が立つ。

 ムカついてたまらない。

 

 何も知らないくせに、何もわからないくせに、知ったかったような態度が気に食わない。

 

 気まずくなった私はイサクに背を向けて寝室へ戻る。

 

「クソ、クソっ、クソっ! クソっ!!」

 

 制服がシワになろうとも構わない。

 まだ敷いてあった布団に仰向けになって寝転がる。

 

 分かってたことじゃないか。

 世界はクソで、社会もクソで、大人はクソだ。

 

 あの男だって裏で何考えてるかわからない。

 信用なんざはなっからするべきじゃない。

 

 信じられるのは自分の力だけで、使えるのは自分の力だけだ。

 単純な力が、暴力こそがこの都市では肯定される。

 

 強くなければ何も得ることが出来ない。なにも為すことが出来ない。

 

 ──逃げるか。

 

 そもそも、アイツに付き合う必要なんて何処にもない。

 むしろチャンスじゃないか。こうしてシャバに出れたんだ。逃げ出してまた暴れ回って……今度こそイサクに復讐してやればいい。

 

 そうと決まればこの窓から外に……。

 

「おらっ朝活嫌いガール!! さっさと準備していくゾっ!!」

 

 こいつタイミングくっそ悪いな。

 

「アタシが付いて行く理由なんてねぇだろ」

「強くなりたきゃ来い」

 

 ヘイローもなく、碌な装備のない男。

 貧弱な、弾丸一発で死んでしまうそんな男だったはずだ。

 

 その男に、私はたった一撃(ワンパン)で負けた。

 何をしたのか、今でもわからない。

 だが、負けたことは事実だ。

 

「……なれんのかよ」

「知らねぇよ、けどここで寝そべってるよりかマシな筈だ」

 

 何らかのトリックかもしれない。卑怯な手を使ったのかもしれない。あるいは私の知らない技術を使われたのかもしれない。

 だとしても、それに私は反論はしない。

 

 負けは負けだからだ。

 強いものがすべてを奪っていくのがこのキヴォトスのあり方で、強いものが正しいのがキヴォトスだからだ。

 

 奪われたくなければ強くなればいい。

 奪いたければ負けなければいい。

 勝利を積み重ね、相手から奪って奪って奪い続けて。

 

 そうすればすべてが肯定される。

 

「頼むぜ? お前が来てくれねぇと、俺…お前を監禁せざるを得ねぇんだよ」

「ハァ!? なんだそれ?」

「そういうもんなの、保護観察ってのは!」

「っかしいだろ!!」

 

 ……。

 ………。

 

 サンクトゥムタワー。

 それは学園都市キヴォトスの行政の中核を担う摩天楼。

 

 私のようなアンダーグラウンドに住むような……不法行為に身を染めていた者にとって敵の総本山であり、まず近づくこともない場所であった。

 

「初めまして、どうぞお掛けになってください」

 

 青空のような透き通った髪に一部を三つ編み状に纏めたヘアスタイル。

 

ウチのNo.2(首席行政官)だ。まぁ適当に座れよ」

「首席行政官って、あの首席行政官か? ……この女が?」

 

 キヴォトスの首席行政官といえば連邦生徒会に入って数ヶ月で今最も連邦生徒会長に近いと言われている傑物だ。

 

 まるで未来が見えてるかのような指示に辣腕と呼ばれる行政処理能力。

 彼女によって不良生徒の検挙率もあがり、ついた二つ名が超人。色んな意味で伝説的な人物だ。

 

「そんなに怖がらないでください。取って食おうってわけじゃありませんから」

「しのびねぇな……」

「構わんよ、です……貴方には期待してますから」

 

 あの首席行政官(超人)と親しげに話している。

 ひょっとしてこいつ凄いやつなんじゃないだろうか……。

 

 そう考えるも普段の態度を思い出し首を横に振るう。

 

「それでは、改めて……保護観察制度。そちらの説明をしましょうか」

「……」

 

 一瞬にして穏やかそうな姿から一転、怜悧な雰囲気を漂わせる超人。

 

 ──保護観察制度とは本来であれば矯正局へ入れられる不良生徒に対する更生プログラムである。

 保護観察を受ける不良生徒に対し、その行動や記録を取るために保護観察官が生徒の行動を監視、あるいは管理する。

 

 更生プログラムは保護観察官に一任され、日々の記録を連邦生徒会に提出。

 その記録と面接を経て、更生していると見なされれば晴れて自由の身となる。

 

「ただ──この更生プログラムはそちらの前原イサク職員によって提出されたばかり……貴方はその更生プログラムの最初の一人、いわば試金石となっています」

「……つまりなんだ? アタシ次第でこの制度の有無が決まるってことか?」

「──その通りです、鉄兜(ヴィルヘルム)

「アタシに関係あるか、それ?」

 

 つまらないことを言うなよ。

 保護観察制度の存続なんて私には関係のない話でしかない。

 取引にすらなっていない。

 

「貴方の部下だって──」

「アタシに部下なんて居ねェよ」

 

 そんなもの作ったつもりもない。

 

「居たのは敵と『敵の敵』だけだ……アタシに部下も仲間も居ない」

「ガシャガシャヘルメット団は貴方の作った組織では?」

「知らねぇな、周りに集る蝿を一々気にしちゃキリがねェだろ? ただ利用できたから利用しただけだ」

 

 アタシはソファーの背もたれに身体を預け、顔色一つ変えない超人に向かって吐き捨てる。

 

「悪いことをして悪いやつらがしょっ引かれた。自業自得じゃねェか。社会に反旗を翻したから、社会から排除された。アンタこれ普通のことと思わねェのか?」

 

 自分のケツを自分で拭けねぇ奴らをどうして気にしなきゃならない?

 

「アンタら傲慢だよ。人が人を救えるなんてあるわけねェだろ?」

 

 私がやりたくて仕方なかったことが、出来るだなんて。

 そんなことは死んでも認めたくなかった。

 やはり世界はどうしようもなくクソだった。




鉄兜(ヴィルヘルム)
 ガシャガシャヘルメット団の総長。
 名称は特徴的な板金鎧(フルプレートアーマー)の兜を好んでかぶっていたことにより名づけられた二つ名である。
 父はネフティスグループの幹部社員であり、部長職と務めるエリートであり、母親はいいところのお嬢様。
 ネフティスグループの起死回生の策である鉄道計画のプロジェクトリーダーとして計画の推進と遂行を行っていたが、業務中にプロジェクトリーダー以下数名が行方不明になるという事件が発生。計画は頓挫し、ネフティスは多額の負債を背負いながらアビドスから撤退することとなった。
 何事もなければそのままネフティス運営の私立中学、並びにアビドス高等学校まで進学出来ていたはずだが、小学校を実質退学しレベルの下がった生活に順応できない母の代わりに早朝のバイトや傭兵業の従事することとなる。
 十代前半に母親が自殺したことによりやり場のない怒りをキヴォトスという社会に向け非行に走り、銀行強盗、破壊行為、暴走運転などに走る。
 特に銀行強盗においては辻風強盗と呼ばれる巧みな強盗技術によって一回の強盗行為で数百万円ほどしか取らなかったが、あまりの逃げ足の速さによりヴァルキューレの手が回らず50回以上の強盗行為を成功。合計被害総額は十数億以上と呼ばれている。

  犯行はあらかじめ学籍を所持しているグループの幹部に口座から数百万円の引き落としを命じ、受付が金を持ってきたタイミングで強盗として登場。その金を回収することで迅速な強盗行為を行う。銀行の入ってから出るまで3分以内に犯行を終わらせることを徹底させ、金を渡さない状況に対しては三分間の拷問行為を銀行員に行い、痛めつけた上で逃げるという行為を繰り返し特徴的な鉄兜に対する畏怖を染み込ませていた。

 このような実績もあり、ヘルメット団の黄金時代を担った一翼とされているが『鉄兜(ヴィルヘルム)』自身はそのようなことに価値を見出さず、母や自分を救ってくれなかった社会や企業や大人に対する反感とキヴォトスという学園都市の社会構造そのものを憎んでいたテロリストでしかない。

 不良生徒にとっては紛れもないカリスマであり、ヘルメット団の源流である暴走族的な側面や社会に対して暴力をもって反抗する生き方は多くのヘルメット団の生徒たちの心に灯をともした。
 取り締まる側からすれば特徴的な鉄兜しか特徴がなく。複数人説が出たほどだが、検挙後はじめて個人名が特定された稀有な例である。

 犯行期間は一年以上~二年未満という短期にも関わらず、連邦生徒会、ゲヘナ学園、アビドス高等学校と特に犯行現場であったアビドス~ゲヘナ間において高額賞金首をかけられるも、前原イサクとヴァルキューレ公安局の尾刃カンナの到来以前まで誰も手を付けられることがなかった存在である。

 収監時の年代は中学三年相当である。
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