キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』) 作:ニーガタの英霊
「ふむ……」
鏡の前で鏡に写るの姿を確認する。
鍛え上げられた腕、すね毛の生えた足、青空のような澄んだ瞳、野武士のようなゴツゴツとした輪郭にそれを支える大樹のような首。
「さながら美少女セーラー戦士イサ美ちゃん、といったところか」
「目でも腐ってんのか?」
どこをどう見れば美少女だというのか。
自分の作画が原哲夫寄りなのを自覚してほしい。
そんな指摘を楽屋の入り口で指摘すると、イサクはゆっくりとこちらを振り返り、右手にピースサインを作りそれを横にして右目を指の間にすっぽりと収める。
「キラッ☆」
「ぶっ殺すぞお前」
小器用にウインクをした姿が妙に腹立たしい。
同じく楽屋内で待機していた調月リオに至ってはすっと顔を背け、体育すわりで小さくうずくまる。
妙に身体を震わせて、声を押し殺している姿で何をしているかは一目瞭然だった。
「どうした? このキヴォトス1女装が似合う男子学生である俺に何か用か?」
「2位以下が居ない順位でなにイキってんだ?」
イサクの女装はクソほども似合っていなかった。
ゴリラが女装したところでメスゴリラになるだけでゴリラであることには変わりないのだ。
「なんだぁ……? なんか言いたそうな顔してるじゃねぇか」
「……なんでもない」
なんとなく、口を噤む。
何を話せばいいのか、イサクの顔をみたらわからなくなってしまった。
特に、腰に隠した拳銃。これの所在をどうすればいいのか。それすら明確な答えも出ずに、つい足が動いた。
「お前さんが何も言いたくねぇなら、俺は何も言わん。けどよ、お前が何か言いたいことがあるなら聞いてやる」
「……それは保護観察官として、か?」
「はぁ? ちげぇよ。人として当たり前のことだ」
イサクはこいつ何言ってんだ、というように訝しむ。
「悩みがあるなら聞いてやって、答えが出ねぇなら一緒に考えてやる。家族ってのはそういうもんだろ」
私の家族はもういない。
だというのに、イサクは私に対し家族という言葉を使った。
「アタシがいつお前の家族になった?」
「同じ釜の飯を食って、おんなじ家で暮らしてんだ。こりゃもう家族だろ」
「……言い方に語弊を招きそうだ」
こいつと話していると頭が痛くなってくる。
大概、私とて常識から外れている自覚はある。だがそれ以上にイサクのほうがキヴォトスの常識からも外れているようでならない。
「ちなみに今の俺は超美少女戦士イサ美ちゃんだ。異性に話しづらいことでも、同性のイサ美お姉ちゃんが聞いてあげるわ」
「気持ち悪いよ、お前」
「なっ……貴様ーっ!
どう見てもイサクは男だった。そも普通の人間はその場所や状況において性別なんて変わったりはしないのだ。
「そもそもなんでSRTの制服着てるんだよ……連邦生徒会みたいに男子学生服ってわけじゃねェだろ?」
「かわいいから」
んなタマかお前が。
「なぁ、かわいいよな。リオっぺ」
「……」
調月リオは目を逸らし、逡巡し、そして満を持して口を開いた。
「えぇ、かわいいわ」
「やったぜ」
「嘘だろ──?」
こいつら感性がおかしくなってるのか?
勝ち誇るイサクに対し不満と怒気を込めながらイサクを睨むと彼も降参したかのように本音を口に出す。
「まぁあれだ。これでも防衛室周りの広報活動を取り仕切ってるからな。彼女たちはプロの戦闘集団だし、作戦上、顔が割れてない方が良い。俺が表だって動いた方がやりやすいところもあるからな」
「いや、だからってその服を着る必要ないだろ」
「おいおい、恰好は重要だぜ? 連邦生徒会の服で部外者感だして広報するより、こうしてSRTの制服を着ていた方がSRTとの一体感を感じられるだろ? 組織ってのは持ちつ持たれずだし、いざという時は俺ら防衛室がケツをもって支えてやらねぇとな」
「……本音は?」
「こっちのほうが面白れぇ!」
お前はそういうやつだよ。
短い付き合いであるにも関わらず、この男がどういう男であるかはよくわかってきた。
服装が大事だったらノリノリで化粧をする必要もないからだ。絶対にウケ狙いであることはわかる。
「ああ、そうだ。そういやお前に渡すもんがあった」
「ハァ? 渡すもの?」
なんだ、銃の一つでもくれるというのだろうか。
そんなことを思いながらドア付近の壁を背にもたれかかりながら思考すること数秒。
イサクは下手で放り投げるように、無地の体操袋が私の胸元に向かって放物線を描く。
ずっしりとした重みに驚き、体操袋を開くとそこには実に懐かしいものが入っていた。
「返すぞ、お前のものらしいからな」
「……余計な世話だよ」
たぶんきっと、二度と使うことがないと思っていたもの。
思い入れなんてちっともないが、イサクはこれが私にとっての大事な象徴か何かだとでも思っているのだろう。
今なら、こう思う。
これは私の罪で、伝説で、そして間違いなく青春の一つだった。
「はぁ……」
なんと言うか。呆れてきた。
同時に今悩んでいることをバカバカしく感じる。
この男を撃ったところで、意味なんてない。
銃は適当なところで捨てようと思う。
保護観察制度は確かに窮屈だと思うし、不便だと思う。
自由意志なんてものはないし、何をするにも制限がかかるだろう。
けれど、不思議と悪いものだとは思わなかった。
たぶん、おそらく。私はこのイサクという男に
そう、私は少しだけこの男との生活を続けてみようとそんな気がしていた。
この生活の先に何かがあるんじゃないかと思って。私が足掻いて見つけられなかった答えがあるんじゃないかって。
「あら、出るのかしら」
出入り口のドアノブに手をかけた私に気づいたリオは不意にそんな言葉を口にする。
「……まぁな、色々と見て回ろうって思っただけだ。ここにいてもしょうがねェしな」
「ほほう、そいつぁお前もこの学園に通うつもりができたってことだな」
「は? ちげーし」
なんて口では否定する。この男のいかにもわかってるぞーという表情にイラついたのもあるが、今更そんな殊勝な態度を表すのが気恥ずかしかったからだ。
そのまま、少し強めにドアを開閉し学園内部の本部庁舎の廊下を歩く。
人気のほとんどない、SRT関係者である生徒か学外から呼んだゲストだったり、イサクのような運営者がいるのがこの本部庁舎だ。
静まり返った廊下を堅いブーツの音が反響する。
ふと廊下の先を見ると、一人の女生徒が黒いトレンチコートを靡かせ、こちらに向かって歩みを進める。
学外から呼んだゲストだろうか。目深く帽子を被りサングラスを付け、頬にはおそらくタトゥーのような跡がある。
少しの違和感を感じながら、私は彼女の傍を通り過ぎ──濃い煙の臭いと甘いバニラの香りが鼻をついた。
「キャスター?」
ブラックマーケットで密売されている違法嗜好品であるタバコ。
多くは強い煙の臭いをさせるマルボロやセブンスターが多いが、ウィンストンのキャスターのような軽い種類はかなり珍しい。
そういえば、このタバコをよく好んでいた裏社会の人物と言えば──
「──『二丁拳銃』?」
その瞬間、女生徒は身体を反転させ、トレンチコートの前を大きく開く。
レッグホルダーに収められた二丁の銀色に輝く銃身が見えたと思いきや、一瞬でその姿を消す。
まるでそれは武術家のごとき神速の居合に相当するような早抜きであり、気づいたときにはけたたましい銃声が聴覚に木霊する。
「──悪ぃ教授……バレたわ」
そんな謝罪の言葉をかき消すように、飛来する十数の弾丸。
布を裂く衝撃と銃弾による鋭い痛み。一発や二発ではない。十数発という弾丸が的確に私の身体の急所を狙い放たれる。
「ぐっ──
「へぇ……!」
感嘆したかのように二丁拳銃は両手に持つ
「意識あるんだねぇ、大したもんだ。それともなにかい? 跳弾した三発はその体操袋に弾かれてたねぇ……そのお陰かい?」
ふざけるなよ、なんだこの女は。
意識はなんとか保ちながら、痛む四肢を引きずって二丁拳銃をにらみつける。
「さて、おめぇさんは誰かねぇ? 一応敵対した奴は覚えておく主義なんだけど……あいにくとおれの射撃を受けて立ってたのは片手を数える程度なんだ。……その中でもおめぇさんみたいなのは記憶にないねぇ」
腰に銃を収め、二丁拳銃は余裕そうにタバコを咥える。愛用なのだろう年季の入ったジッポーで火を点け、紫煙を煙らせる。
「いいねぇ、連邦生徒会の男とミレニアムの次期会長を人質にするだけだと思ってたのに中々楽しめそうじゃないかね」
被っていた帽子とウィッグを取り外して、二丁拳銃は楽し気に嗤った。
「さあ、
獰猛な笑みを浮かべる二丁拳銃──その顔は轟音とともにドアによって壁に押しつぶされる。
「は?」
何が起きた。一瞬の出来事で思考に空白が生まれる。
気づけばそこにいたのは、部屋外に向かって背中を向けるような独特なタックルでドアを吹き飛ばしその間に二丁拳銃を挟み込んだ。
「リオッ!!」
「ええっ!」
その後背から調月リオはすり抜けて私に向かって駆け出す。
「掴まりなさいっ!」
「なっ、いや待っ──」
そんな言葉を口に出そうとしたが、腕を掴まれ身体が引っ張り上げられるとともに、私の頬を弾丸が掠む。
「へっへっへっ……おめぇさんいいねぇ……バカええて」
真っ二つに割れたドアの残骸から首をポキポキと鳴らして二丁拳銃は銃口を向ける。
「おれぁワクワクしてきたて、教授もたまにゃいい仕事くれたもんらて」
癖のある口調だが、そんなことを気にしている場合ではない。
気づけば二丁拳銃は左右にいるリオと私、反対側のイサクに挟まれた形で囲まれていた。
今なら、やれる。そう思考し、背中に差した拳銃に手を掛けようとして、リオに阻まれる。
「逃げるわよ」
「馬鹿いってんじゃねェよ、お前、アイツを誰だと……」
「時間がないわ。貴女、彼女が単独犯とでも思ってるのかしら」
場所は連邦生徒会の新しい暴力機関であるSRTである。
そんな場所に単独犯でこのような真似ができるだろうか?
「……」
「そう、理解したのね。助かるわ。なら、ここはイサクに任せて私たちは離れましょう」
「正気か? アイツは」
前原イサクはヘイローを持たない貧弱な只人でしかない。
弾丸一発が致命傷にあたり、持っている武器も小口径のハンドガンしかない。
対して、二丁拳銃が持つのは大口径の回転式拳銃。込められる弾丸は二つ合わせて12発という弾数が把握しやすいのが欠点だがそれを握る二丁拳銃本人は凄腕の達人だ。
「問題ないわ、彼は前原イサクよ。彼に彼女を倒してもらう、それが何より合理的だわ」
答えになっていない。
だが、リオの瞳に映るのは紛れもない信頼があった。
「イサクッ!! いいのか!?」
耐えきれず、私はそんな言葉を声に出す。
イサクは確かに困った男だが、見殺しにされるほど悪い奴じゃない。
何かの事故があれば、本当に死んでしまうかもしれないのだ。
そんなイサクは安全装置を外し、いつでも発砲できるように整えたハンドガンの銃口を下に向けて股下で抱えながら、応える。
「問題はない、俺は俺の仕事をする。お前はリオを連れてここを離れろ」
感情の籠らない、怜悧な響きの声。
それはまるでイサクの声でないような、そんな機械的なセリフは初めて見た。
「行くわよ。私たちは、彼の邪魔をしてはいけないわ」
その言葉を最後に、私たちは本部庁舎を離れた。
……。
………。
『──悪ぃ教授……バレたわ』
同刻、無線情報をキャッチした教授たち犯行グループは『二丁拳銃』による、連邦生徒会防衛室職員である前原イサクとミレニアムサイエンススクールのセミナー会計である調月リオの拘束に失敗したことを理解する。
『ほむ、珍しいですね……彼女が仕損じるとは』
二丁拳銃は教授が知っている駒の中でも癖のなくて使いやすい人員である。
多少戦闘狂の気があるが、その程度の癖はキヴォトスの不良学生の中においては想定内レベルでしかない。
タイマン勝負や強者との戦闘に注力しがちになるのは翻して特機戦力との時間稼ぎや陽動にも使えるし、二丁拳銃という軽量な武装も隠密や刺客として運用するには最適な特性といえる。
なにより、個人的な腕。それが二丁拳銃の最大の武器であり商品である。
罷免され、学籍が無くなったと言え山海経高級中学校の生徒会組織である玄龍門の元執行部長という肩書を持つ山海経最強の二つ名をほしいままにした女傑は決して安くはない。
だからこそ、ミレニアムサイエンススクールにおいて次期会長と名高い天才調月リオと悪名高い暴走族たちのカリスマと呼ばれた『
その状況で真っ先に動いたのは『災厄の狐』と呼ばれる狐面の少女だった。
『どこにいくのですか、ワカモ』
「作戦変更ですわ。二丁拳銃の拘束が失敗した以上、ここからは現場判断で動かせていただきますわ」
「うむ、実に道理だ。ここ至って既存の作戦に固執することは、ボクらの敗北になりかねないからね。古書曰く兵は拙速を尊ぶという言葉もあるだろう。ここからは時間勝負だ」
当初の作戦打ち切りを宣言するワカモとそれに同意する『
「兵器庫を押さえたい。ワカモくんには予定通り学園正門付近で陽動を任せるよ。教授、残念だが弾薬庫は諦めてもらう」
『ほむ……仕方ないですね』
本来の作戦であればイサクとリオを封殺したうえで学園全体に妨害電波を流して通信関係を遮断。本部庁舎と学園正門前にてワカモと二丁拳銃による二重の陽動の最中に『蒐集家』によるSRTの弾薬と兵器をそのまま拿捕する計画であった。
「二丁拳銃が失敗した以上本部庁舎の混乱は最低限に終わる可能性がある。SRT部隊の目を別に向けさせる必要があるだろう。弾薬庫に火を点けてそっちに目が向いている間に兵器庫の兵装を鹵獲する。これが基本方針だ。添削はいるかな、教授」
瓶底メガネの奥にある知性に富んだ瞳が作戦の修正案を提示し、教授の再認を問う。
『ほむ……大まかにはそれでいいでしょう。但し一点付け加えたいところがあります』
……。
………。
全速力で学園内を駆ける影。
それは私と、私の背中に抱えられている本部庁舎を出たタイミングで体力不足でダウンした『
「助かるわ」
「助かるわ……じゃねェんだよ!! ミレニアムってのは碌に体調管理も出来ねェのか!!?」
「失礼ね、必須栄養素はサプリメントで摂取しているわ」
「飯を食えよ!! お前のそれはただの餌だ!!」
頭が痛くなってくる。少なくとも三食きっちり食うイサクの偉大さを痛感しているところだった。
「外部から応援を呼べねェのかよ!!」
「無理ね、SRT特殊学園全体に妨害電波が撒かれているわ。行動のイニシアチブを取られているわね」
「……それって、冷静に考えてヤバくねェか?」
「ヤバいわ」
通信機器が碌に使えない状況。実際、リオの持っているタブレット端末もネットや電話回線は機能不全と化して使い物にならない状況。
その最中、盛大な爆発音が私たちの耳に響き渡り、衝撃によって巻き起こされた突風と土煙を諸に浴びる。
「……嘘だろ?」
爆風と硝煙の中、大型トラックを改造した装甲車の荷台に立つ狐面の少女。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!」
狂気に、鮮烈に、妖艶に、嗤う少女。
「ハッハーーーッ!! 御者役は任せてもらおうかッ!!
高めのテンションで高笑いしているゴテゴテとした装飾のついた大礼服とマスクを被った──まるで
グレネード、ロケットランチャー、巨大な車体による質量攻撃と高い火力から繰り出される破壊行為に現場の民衆は混乱を引き起こす。
頼みの航空兵器すら、端末の制御が聞かずに盛大に地面に激突したり、空中で別の戦闘機と正面衝突を起こし盛大に爆散する。
「おい、あれヤバくねェか……!! 止め──」
「陽動ね、無視しましょう」
「はァッ!!?」
正気かと、振り向く私にリオは表情を全く変えず冷徹に答える。
「SRT正面で暴れまわっているのは輸送装甲車よ。ある程度武器を積んではいるでしょうけど、周囲一帯を覆う妨害電波を垂れ流しているのは別の原因と考えられるわ。私たちがまず抑えるべきなのは通信の復旧と対電子戦に対応することよ」
「……お前、そいつは」
それは今、目の前にいる人間を見捨てるということと同義だということを気づいているのだろうか。
「ここはSRTよ。最新の兵器や機器が集中している。当然、AIによる自動操縦機能や強力な衛星通信車なんてものもある。……わかるかしら、それらがハッキングされて相手の手中に収まれば、被害はここだけではすまないわっ!」
リオが懸念するのは最悪に最悪を重ねた推論であった。
「私たちが目指すべきなのは、SRTのネットワークの中枢。情報図書館よ」
そういってリオが指さしたのはSRT内にある施設の一つである学園の情報図書館だった。
SRT情報図書館は紙の蔵書はもちろん、数百冊に上る書籍のデータ化が行われている場所である。
そのため情報の保全や対処に関する能力が一通りそろった場所であり、対電子戦の装備も潤沢な場所である。
連邦生徒会やヴァルキューレに応援を頼むためにも必須であり、SRT隊員の持つ通信装置の復旧にも役立つ。
だからこそ、あそこを真っ先に確保しなければ戦闘という形にすらならない。
「さあ、早くあそこに──」
その瞬間。情報図書館は轟音を立て爆散し崩れ落ちる。
「「──は?」」
一瞬の隙に施設そのものが瓦礫の山と化したのだ。あまりの衝撃にリオと私はキャパオーバーしてしまい、真顔になる。
「……どうしましょう、詰んでしまったわ」
リオは白旗を挙げた。
……。
………。
「ふふ、ふふふふふふふふっ、良し、良しっ、良しッ! 良ォしッ!! 間に合ったぞォ!!!!」
息を荒げ、肩で息をしながら、全身を汗だくにして歓喜に身体を震わす少女──『武器屋』は勝利を確信した。
「間に合った……兵器庫はこちらのものだぞッ!! SRTッ!!!!」
兵器庫のシャッターを開閉するとそこにはサブマシンガンからミサイル。自動操縦のドローンや無人攻撃機など出るわ出るわ高性能兵器の数々があった。
「──
その中でひと際大きい大口径の兵装を見たときに『武器屋』は歓喜に震える。
「すごいじゃないか、ウタハくん。キミはやっぱりボクの見込んだ通りの天才だよ」
ミレニアムサイエンススクール、並びにエンジニア部の刻印が印字された、それを『武器屋』は愛おし気に眺める。
追放されたと言え、すでに学籍すらないとは言え、『武器屋』の中にはかつての青春の一ページと言っていいなつかしさがこみあげる。
後に光の剣:スーパーノヴァの設計の骨子になったプロトタイプの兵器となる電磁投射砲。それの基盤をいじり、『武器屋』は懐から幾何学的な模様がついた直径10㎝ほどの車輪のようなものが中に見える円形の物質を取り出す。
「拘束解除、『
『──声紋認証、クリア。『
合成音声によって車輪を貫くように十字に固定していた突起が離れ、車輪が高速回転し始める。
早く、速く、もはや目で追えないほどに回転するそれは車輪そのものに多大な回転エネルギーと熱エネルギーを伴い、その姿を輝く光輪へと姿を変える。
「ああ、まったく。最悪だ。なんでこうなってるのか……意味が分からない」
原理は不明。作った本人である『武器屋』本人ですらどうしてこんな無法の産物を作り出せたのかすらわからないのだ。
本来であれば発射の際に必要な長い充電を必要とする電磁投射砲のエネルギーが高速で溜まり、発射可能にまで到達する。
科学技術の到達点。あらゆるエネルギーを無限に生み出し、永久に回る光の車輪──『永久機関』であった。
「残念だよ、教授……キミの仕事は嫌いじゃなかったんだけどね」
偶然が生み出した、奇跡の産物。
本来はエネルギーの効率化を目指して生み出した超小型の増幅機関として設計された試作品『仮称、小
分解しようが装置自体に異常がなく、複製品を生み出してもこの試作品のようなジョグレス進化とでも言っていいような装置は二つとして出来ず。何度も解析を進めようがまったくもってどうしてこのような無法がまかり通るのかの原因が究明できない物体Xと化してしまったのがこの『
どのくらいの無法装置なのかと言えば、これ一つあるだけでキヴォトスの都市全体のエネルギー問題が解消し、電力会社はその意味をなくして倒産し、火器弾薬の値段が暴落して安価さと利便性含めてキヴォトスの兵器がすべて光学兵器と化してしまうレベルの存在であった。
「これに頼ったら、人間は駄目になる。だから教授、キミがこれの使用をお願いした時点でボクとキミの関係は終わりなのさ」
『武器屋』はこれを科学だとは認めていない。
なぜなら科学とは再現性のある事象であり、凡人が理解し、どのような人間であっても扱うことが出来る汎用性を伴っていなければならない。
原理そのものが解明できず、複製による再現性が保つことが出来す、限られた人間でしか扱うことが出来ないモノ。──それは科学ではなく、『神秘』や『奇跡』といった区分にあるからだ。
奇跡に縋り、神秘を崇め、それに心酔し寄りかかり、思考を放棄する。──それは科学の敗北でしかない。
なぜならそれは、人間の素晴らしさではないからだ。
だからこそ、『武器屋』は『
これを自らの意思で使うことを縛りとして禁ずることを約束したのだ。
誰かがこの『奇跡』に縋るというのであれば一度の使用は認めよう。しかし、『奇跡』が一度限りの特別ではなくなり、常に使い続けるような当たり前になってしまえば、『
人は道具の奴隷であってはならない。
音すら置いていく電磁投射砲の一撃はSRTの情報処理の中枢である情報図書館を一撃で粉砕し、『武器屋』は機能を停止させた永久機関をそっと懐にしまった。
「だからこそ、ボクは信じよう。──人はいずれ、奇跡を解明し、神秘を否定する。未来にはこの現象すら科学をもって理解できる日が必ずあるんだ」
たとえ、『武器屋』自身がたどり着けずとも。
失敗ばかりの人生だと蔑まれ1の回答のために99の間違いを犯そうとも。
間違ったという意味がある限り、その足跡は決して無駄じゃないのだから。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!! 未来最高ッ!! 未来最高ッ!!! 未来ッ最ッ高──ッ!!!! 輝けェェェェッ人類ィィィイイイイッ!!!! この苦難とッ!! 苦しみの先にッ!! 痛みを超えッ、それでもと足掻き続ける魂ッ!! 人間の創意工夫と飽くなき探求ッ!!!! そしてその理性を以てッ!! 光り輝く明日があるんだァァァァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」
お前、頭おかしいよ。
『
武器屋が生み出してしまった偶然の産物。今回は電磁投射砲の即席エネルギーとして利用され、一撃でSRTの施設である情報図書館を瓦礫の山に変えた原因。
作中通り、キヴォトスのエネルギー関係をこれ一つあれば全部賄える代物であり、どれぐらい危険なものかと言えば列車砲シェマタくん1000台を用意し一秒間におき一発砲撃を何万発と打てるだけのエネルギーを用意できるレベル。
なんでこんなものが出来たのか『武器屋』本人にもわかっておらず、シュタインズ・ゲートのオカリンたちが電話レンジ(仮)を作ったらなぜかタイムリープマシンになったレベルで原因が不明。その原因の究明と解析を己の命題として定義するレベル。