キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』)   作:ニーガタの英霊

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 適当に名付けたのにエデン条約編でめちゃくちゃそれっぽい名前になったんだよね。すごくない?
 死ぬにはいい名前だよね。


イサクの燔祭

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

「おはようございます! マエストロさん!!」

 

 槌永ヒヨリの朝は早い。毎日六時には起床し、地下墓地(カタコンベ)を抜けた先にあるマダム(ベアトリーチェ)の仲間であるマエストロのアトリエに顔を出すことが日課になっている。

 

「おはよう槌永ヒヨリ」

 

 その姿はまさに異形のそれ。例えるならばマネキンに燕尾服を着せた奇妙な出で立ちに加え頭部が2つに別れたいかにも前衛芸術なそれ。

 

「えへへ……それでなのですが」

「ええ、理解しています。いつもの部屋に居ますよ」

「! ありがとうございます」

 

 パタパタと足早にヒヨリはマエストロに挨拶をして、いつもの部屋に向かう。

 ヒヨリは扉の前で深呼吸をして頬を軽く叩いて小さく「よしっ」と自分に言い聞かせるように気合をいれた。

 

 扉を開けると、そこは清潔感佇む真っ白な部屋であった。窓が一つあり、その窓際にはベッドが敷かれ、その上で眠る一人の男性にはいくつもの管が繋がれていた。

 

「おはようございます、イサクさん!!」

「……」

「えっと、今日も起きてないんですね……えへへ、そうですもんね、いつも大変だから疲れちゃってますもんね……じゃあ、いつも通りマッサージしてあげますから!!」

 

 そういってヒヨリは数ヶ月前に比べていくらか細くなった手足に触れ丁寧に関節を動かしたり優しく揉み解す。

 まずは両足、次に右手、最後に首や背中。もちろん濡れたタオルで身体を拭くのも忘れない。

 

 やがてヒヨリの額にジワリと汗が滲み出たところで一通りの作業が終わる。

 

「ふぅ……うん、きれいになりましたねイサクさん。えへへ、かっこいいですよ……なんて……」

 

 そういってヒヨリはイサクの顔をそっと撫でる。

 男の顔にはケロイド状に溶けた火傷傷があり、左眼は熱で炙られたために青い輝く瞳から白く濁った蕩けた眼に変わっていた。

 次に左手は肘から上のところまで欠損し、欠損部位の先端も顔と同じく火傷が残る。

 

 痛ましい傷である。ヘイローを持たないただの人間であるイサクにとっては生命に関わる致命傷だ。

 

「そうです、イサクさん。酷いんですよ! 今日なんて──」

 

 無くなった左腕を摩るように声を掛ける。

 中途半端に迷った挙げ句につけたヒヨリが撃ち抜いた傷。

 

 私がイサクさんを殺してしまった傷。

 

 前原イサクは答えない。

 だって私達が殺してしまったから……。

 

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

「え、えへへ……と、トリニティ総合学園出身で……防衛室に所属することになりました槌永ヒヨリです……えへへ、よろしくおねがいしますぅ」

「なるほど、槌永ヒヨリ……なるほど……」

 

 一年前、連邦生徒会防衛室に名を馳せる俊才がいると聞いたマダムの命令によって身分を偽装し、連邦生徒会防衛室職員として潜り込むこととなった槌永ヒヨリが出会ったのは筋骨隆々で逞しい姿をしている男子生徒である前原イサクだった。

 

「つっちー……だな」

「はい…?」

 

 イサクさんは愉快な人だった。

 

「コイツはカヤぴぃ。巨乳にコンプレックスを持つ心の狭い女だ」

「張り倒しますよ?」

 

 桃色の髪をシニヨンに束ねた糸目の女性が、半ばキレ気味に返すが当の男はまるで意に介さない。

 

「あはは……」

 

 マダムに与えられた命令はひとつ、前原イサクという男の調査と排除である。

 つまりは暗殺。かわいそうだな、と。虚しいことだと思っていた。頃合いを見て殺せばそれで終わりだと、そう思っていた。

 

「どうだつっちー、俺のミルクは極上だろ?」

「うわぁん、こんなに美味しいもの始めて食べましたぁ!!」

「ウチさぁ、焼肉やるんだけど……焼いてかない?」

「わあっ……焼肉!!」

「えっつっちートリニティ出身なのにミラクル5000食ったことねぇの!? そりゃいかん、今度買ってくるわ!」

 

 イサクさんは良い人だった。

 毎日美味しいものをくれるし、怒ったりはしないで優しくしてくれる。

 時折、馬鹿なことをしてカヤさんに叱られたり仕事と称してクソMADを作成してはモモチューブで投稿するなど奇行が目立つが良くしてくれた。

 

 本当によくしてくれたのだ。

 

「お前の負けだ、怪盗」

 

 そしてその有能さと危険性を。

 キヴォトスを騒がす『慈愛の怪盗』との大捕物。曰く『俺がこの世で一番キライなのは野菜泥棒だ、窃盗犯は殺す』と言うくらい怒りを滲ませていたイサクさんは怪盗の張る罠を技術や力技で突破しその身柄を取り押さえた。

 

「よくやったぞつっちー! お前のおかげだ!! クククッ今度アイスでも奢ってやるよ」

「えへへ、どういたしましてぇ……」

 

 心地よかったのだ、彼と仕事をすることが。

 満たされたのだ、彼に褒められることが。

 

 ──絆されている。間違いなく、私は当初の目的を忘れ去ってしまうぐらいには彼と防衛職員をやることに楽しみを感じていた。

 

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

『前原イサクを暗殺する』

「えっ……」

 

 思考が凍ってしまった。イサクさんを殺す? あの人を、あんな優しい人を殺す?

 

「で、でも……」

『ヒヨリ、これはマダム直々の命令だ。トリニティに大ダメージを与える方法として連邦生徒会の幹部である前原イサクの死は致命傷になりえる』

 

 アリウスとしてリーダー(錠前サオリ)の発言は正しい。イサクさんが邪魔ということも理解してる。

 

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

 悶々と煩悩して、ただ日にちだけが過ぎ去って……。

 

「いくぞ、つっちー、ヨッシー」

 

 イサクさんがトリニティに行く日が来てしまった。

 

「つっちー、どうしたそんなにソワソワして……オシッコ?」

「えっ…!? いや、そそそそそそんなことは…!!」

「室長……セクハラですよ?」

「マ? 俺クビにされる?」

 

 護送車の中で笑うイサクさん、その姿を窘めるヨシノさん。

 いつもと変わらない光景。イサクさんが馬鹿なことを言って全員がそれに対して反撃して、この人はいつも道化ぶってなんだかんだ丸く治める。

 

「ナギえもんもだいぶ参ってるな……」

「本来ティーパーティーのホストはサンクトゥス派の百合園セイア女史ですが病弱ということもあり、表立っての交渉役、擦り合せは桐藤女史が担ってますからね。下手なことをすればサンクトゥス派から突き上げられるでしょうし……」

「そうかね、アレはそういうのじゃねぇと思うが……」

 

 イサクさんは腕を組み、思案する。

 

「そもそも、俺はエデン条約はもともと反対だったんだよなぁ」

「えっ…!?」

「おい、槌永。どうした?」

「えっ…あっ、いや……。室長ってエデン条約反対だったんですか?」

「うん」

 

 前原イサクはエデン条約推進派の筆頭であるという話は連邦生徒会内部では有名な話であった。そんな彼がエデン条約反対派だった…?

 

「一言で言えば内ゲバが酷い。多分トリニティの歴史的な背景もあるんだろうが……トリニティの結束は常に外敵を用意することで団結してきた。そういうところがある」

 

 ハンドルを握る手が重くなる。背筋から冷や汗が止まらない。

 トリニティの歴史はアリウスの凋落の歴史でもあるからだ。

 

「好きなもののために手を取り合うより、嫌いなものを排除するほうが団結する。人間ってのは得てしてそういうもんだ」

 

 イサクさんは政治が苦手とは言うものの政策に関しての理解力は決して低くない。

 裏表ない豪胆な性格と大胆な指揮力。それは一種のカリスマ性であった。有り体に言えば人に好かれる才能ともいう。

 

「うまくいかねぇだろうなぁ……」

 

 そう呟いたイサクさんはティーパーティーとの協議を終えて戻って来た顔は決して晴れやかではなかった。

 

 時間が進む。刻々と進む。

 運転席には私、左後ろには楯無室長補佐官。運転席の真後ろにイサクさん。

 後部座席ではイサクさんと楯無さんが難しい話をしているが、私の耳には届いていなかった。

 

 迷っていた。そう、私は迷っていた。

 イサクさんを殺したくはない、けれどリーダーたち(アリウススクワッド)を裏切ることもしたくない。

 半端だった。全部、何もかも半端だったからあんなことになった。

 

「あれ…?」

 

 前方の警護車がブレーキランプが光り、止まる。

 当然、追突しないために私もブレーキを踏んで停車する。

 

『此方、ヴァルキューレ警備部。車両前方にて不審物発見、防衛室の意見を聞きたいため随員一名の派遣を求む』

「派遣って言われても……」

「俺が行こうか?」

「やめてください、最重要護衛対象なんですよ貴方は? 槌永職員、頼めますか?」

「は、はい! わかりました!!」

 

 シートベルトを取り外し、運転席のドアを開ける。助手席においてあった武装を忘れずに背負ってそのまま無線指示のもと、歩みを進める。

 

 その時だった。途轍もない轟音とともに、背中に倒れるほどの爆風を受けたのは。

 

「は? えっ……」

 

 急な衝撃に耐えきれず、膝を付く。後ろを振り向くと、其処には横転し、炎上する車両の姿があった。

 理解ができなかった、というより理解することを拒んでいた。

 目の前が真っ白になるというのはこういうことを言うのだろう。それほどまでに私にとっては衝撃的で、得も言われぬ喪失感と虚無感を抱えていた。

 

「よくやった、ヒヨリ」

 

 聞き慣れた声がする。頭を上げるとそこに居たのは私のよく知る人物がいた。

 

「リーダー……?」

 

 目深に被ったキャップに腰まで伸びた黒髪。口元にはマスクを付けたアリウススクワッドのリーダー、錠前サオリの姿が其処にはあった。

 

「任務完了だ。ヒヨリ、一人で大変だったな」

「えっ…えっ?」

 

 リーダーは私の肩に手を置き、姉としての情の籠もった視線を私に向ける。

 

「ミサキの携帯用対空ミサイルを撃ち込んだ。ヘイローを持っているキヴォトスの住人と言えども無傷では済むまい。ヘイローすらない前原イサクにとっては致命傷だろう」

「──」

 

 淡々とした口調のサオリ姉さんの言葉に私は恐怖を感じていた。どうして、とか。なんで、とか。喉元まで迫り上がる言葉が出て来ず、酸欠の魚のように口をパクパクと動かすことしかできない。

 

 横転した車を取り囲むヴァルキューレ警察学校のトリニティ支部に所属する随員たちが一様にそれぞれの護衛車から出てくる。

 けれど、彼女たちは皆一様にイサクさんを助けようとはせず、各々火器を取りながら、同じマスクをかぶる。

 

「……」

「よくやったアツコ。公安局の狂犬と言えども、数には勝てない」

 

 コクリ、と頷くのはヴァルキューレ警察学校の制服に身を包んだ姫ちゃん(秤アツコ)であり、彼女が引きずって来たのは意識を無くしたヴァルキューレ警察学校、公安局の尾刃カンナだった。

 

 瞬間、私は悟る。

 私が何もせずともイサクさんの暗殺は決定事項であり、その準備は用意周到に仕込まれていたことに。

 

「帰ろう、ヒヨリ」

「リーダー、まっ──」

 

 そう、言葉を続けようとした時。リーダーの身体が弾け飛ぶ。

 

「くっ──馬鹿なっ!!」

「ハァ……、随分とご機嫌じゃあねぇか。オイ」

 

 後ろを見ると其処には点滅するヘイローの少女を抱えながら左半身と額から首筋にかけて大きな火傷傷を付けた男がいた。

 

「イサク…さん!」

「──っ!」

 

 銃口を向け、引き金に指を添える姫ちゃん。同時にヴァルキューレ警察学校の生徒に扮したアリウス分校生に銃を向けられるイサクさん。

 

「お前ら、俺のことビビったろ?」

 

 銃弾が放たれる瞬間、身を屈め一瞬の隙にアリウス分校生の足元に身体を潜り込ませる。

 

「腰が引けてるな、そんな奴に負けるほど俺ぁ甘くねぇぞ?」

 

 掌底でアリウス分校生の顎を撃ち抜き、一撃で昏倒させる。すぐさまアリウス分校生の身体をそのまま盾として使い、直近のアリウス生に向かって突貫。

 

 掌底、拳打、目潰し、足払い。

 大凡人間の人体で繰り出せる体術をもって、イサクさんはものの数秒でアリウス分校生を無力化させた。

 

 前原イサクは弱い。キヴォトスにおいて耐久力の低さは致命的である。銃弾の一発が致命傷になりかねない世界で彼が見出したのは対人戦闘力の向上だった。

 目線を合わせただけで、どこに銃弾を飛ばすのか。敵の僅かな癖を読み取る嗅覚とあらゆる体勢から相手の急所を打ち抜く打撃技。それが前原イサクが今日まで生きてきた生存戦略の全てである。

 

 キヴォトスに住む住人の身体能力は高い。特に耐久力と体力は飛び抜けていると言えるだろう。

 逆に言えばその2つ以外は優れているがあくまで人間より多少優れている程度である。

 けっして目に追えないスピードではないし人体の造りをしている以上、肉体の動かし方には限度がある。足を伸ばした状態で高く跳躍することはできないし、着地する時は衝撃を吸収するために多少なりとも膝を折り曲げる癖がある。

 

 なれば、対人格闘の技術如何において決して逆立ちしても勝てないわけではないのだ。

 

「『神秘殺し』の前原イサク……っ!」

「それあんまり好きじゃねぇんだ。『カッコいいイケメンお兄さん』の前原イサクさんとでも呼んでくれや」

「吐かせっ!!」

 

 投げつけられた車両のドアを受け吹き飛んだリーダーと姫ちゃんが後退しながらイサクさんに向けて銃口から弾丸を放つ。

 

「槌永っ!! 動けるならこのまま楯無を回収して安全なところまで避難しろ!」

「えっ、あっ…はいっ!!」

 

 その言葉に私は反射的に従う。一年かけて防衛室職員として生活してきた癖とも言えるし、またイサクさん自体に余裕がないせいか、口調のそれに冗談めかした様子はどこにもない。

 

 いつもは怒られたり巫山戯たり、職員に妙なあだ名をつけるちゃらんぽらんなイサクさんだが、それを封じた時。誰よりも頭の切れる冷徹で合理的な軍事参謀へと早変わりする。

 私を槌永と呼ぶのはそのスイッチが入ったという証左他ならない。

 

 前原イサクの名前と当時SRT特殊学園の一年FOX小隊の名を大きく広めたアビドス砂漠の特殊総力戦。キヴォトス七囚人と呼ばれる大規模犯罪者やテロリストを収監した大捕物。

 それを可能とした頭脳と統率力こそ連邦生徒会が彼を防衛室長の職務に輔弼しなおかつ連邦生徒会長以外にSRT特殊学園を独自権限で動かせる参謀としての力を併せ持つ存在なのだ。

 

「あ…で、でも…イサクさんは……!」

「アレの狙いは俺だ。意識のない楯無を庇いながら戦えん、単独での逃走を図る」

 

 それは実質的な囮を買って出ることと同義だった。

 

「逃さんっ!!」

 

 リーダーの持つアサルトライフルと姫ちゃんのスコルピウスが弾幕となってイサクさんを襲うも、車両の影になって回避するイサクさん。

 

「頼んだぞ……」

 

 確かな信頼が其処にはあった。

 其処に、あったのだ。




楯無ヨシノ
 楯無能乃→無能の楯。
 上司を守れず友だちと思ってたヒヨリは薄汚え卑しい裏切り者だった女。イサクさんを守る楯だったのにそんな役目すらできない無能。
 カルバノグの兎編とかあったら連邦生徒会長代理になったカヤの代わりに防衛室長になって恐怖政治を行う武断派を担う存在とかになる。
 エデン条約編の全てがわかるとトリニティとゲヘナとか滅んだほうがいいなと思う程度にはキレてる。
 プロットの段階では存在しなかったが、オリ主のイサクさんを殺すために必要な人材としてネームド化した女。
 月1で防衛室でイサクさん主導でやってる鍋パが好きだった。もう二度と出来ないけどね。

槌永ヒヨリ
 イサクさんを殺すためにアリウスさんに協力して貰うしかないなと思った作者によりイサクさんを確実にぶっ殺すために防衛室に潜り込ませたスパイ。
 アツコはロイヤルブラッドだし、サオリはスクワッドのリーダーとして動かなければならない。アズサはトリニティとの架け橋にならなきゃならないし、ミサキはスパイ向いてない。
 消去法とあれやこれや言う割には絶対アリスクを裏切ることがないヒヨリに白羽の矢が立たれた結果なんかイサクセラピーによって光に焼かれ、ライナーみたいになった女。
 鍋パで「うわぁん、温かいです! 美味しいですっ!」とかいって鍋をバクバク食ってた卑しい女。イサクさんもコイツを肥やすことが好きになって月1で鍋パするようになった。
 もう二度と鍋パできなくなって本当に人生つらそう。
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