キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』)   作:ニーガタの英霊

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はい、この男を殺すのに17000字かかりました。
ゴキブリのようにしぶとい男でしたね。


そうだ英雄(ヒヨリ)。お前が、殺した。

 錠前サオリの視界が赤く染まる。

 

 ビシャリと煉瓦敷きの地面を赤い血液が染める。

 

「──そうか」

 

 口を開いたのは男だった。

 左腕が吹き飛び、腹部からは赤く血が滲む。

 

「俺もとんだ間抜けだったってことか」

 

 左腕の欠損と腹部貫通。前原イサクはここにおいて自身の敗北と死を悟る。

 

「──ハアッ! ハァッ! ハッ!」

 

 錠前サオリは息を荒く吐き出しながら、背中に冷や汗を流しながら今にも抜けそうな腰を気合で支える。

 サオリにあったのは任務の成功ではなく、安堵だった。

 

「よくやった、ヒヨリ!!」

 

 歓喜とともに、サオリはその言葉を紡ぐ。

 

「お前、やったな……」

 

 戦場を俯瞰するビルの屋上で、感情と抑揚のない冷たい声がヒヨリの耳に響く。

 

「あ…あ……、わ、わた、わたし」

 

 その言葉を紡ごうとする暇もなく、ヒヨリは腹部に大きな衝撃を受けて転がる。

 

「お前、ふざけるな!! 信じてたのに!! それを、お前──ッ!!」

 

 憤怒の形相に顔を歪ませ、息を荒くしてヨシノさんは私に飛びかかる。

 

「ずっと、ずっと……! 騙してたのかっ!! 私を!! 室長を!! 皆を!!」

 

 頬に温かな液体が降り落ちる。楯無ヨシノの目には涙があった。

 

「どうして室長なんだ!! あの人を、あんな良い人を!! どうして、なんで!! なんでお前なんだ!! あんなに良くしてもらったのに、なんでッ!!」

 

 そんなのは私が聞きたい。

 私だってなんで撃ったのか解らないのに。

 

 大切な人達が殺し合ってて、両方を守りたくて、助けたくて。

 でもどうしようもなくて。このままじゃリーダーが死んでしまうと思って……そう思ってたら引鉄を引いていた。

 

「──うっ……」

「殺してやる!! 殺してやる!! この裏切り者が!! 嘘つきがっ!! お前なんて、お前なんて……!!」

 

 首が締まる。息ができなくなって、でも不思議と抵抗する気も起きなくて。

 痛くないのに痛くて、息ができない以上なんだかとても苦しくて、辛くて。涙が止まらなくて。

 このまま楽になるのも悪くないんじゃないかとヒヨリは思い始めていた。

 

「──友達だと、思ってたのにッ!!」

 

 すごく、苦しい。ヨシノさんの声が、とても痛くて堪らなかった。

 不意に数発の発砲音が響き、首にかかる力が弱まる。

 

「ヒヨリ! 無事っ!!」

「ミサキさん……」

 

 フラフラになりながら、屋上の出入り口付近に居たのは拳銃で武装したミサキだった。

 

『お前さん、名前はなんて言うんだい?』

 

 無線から聞こえてきたのは、何時もよりも覇気のないイサクさんの声だった。

 

『……アリウススクワッドの錠前サオリだ』

『そうか……大したもんだ、やるじゃねぇか』

 

 あっ、とヒヨリは飛び起きてスコープからイサクとサオリの姿を覗き込む。

 

 そこには左腕が有ったところから夥しいほどの血液を出血させ、膝立ちになり右手で腹部を抑える前原イサクと彼の右こめかみに銃口を向けるサオリの姿があった。

 

「リ、リーダー!! ちょっとまってくださいっ!!」

『ヒヨリ?』

「お、お願いしますっ。イサクさんを、殺さないでくださいっ!!」

「ちょっと、ヒヨリ……何言って」

「お願いします! 命だけは──」

『──無理だ』

 

 ヒヨリの懇願に対して返ってきたのは冷たい拒絶だった。

 

「な、んで……」

『前原イサクを生かしては今後の活動に影響が出る。間違いなく、前原イサクをここで殺さなければ、次は必ず負ける』

 

 それほどまでの相手である、とサオリは断言する。

 戦闘能力、戦術理解度、指揮能力にカリスマ性。生かしておけばアリウスの害になる存在になることは想像に難くない。

 

 圧倒的な有利を積み重ねたうえでここまでやられたのだ。これが暗殺でなければ、おそらく勝てない。

 

「じゃ、じゃあ捕らえて拘束するとかでも……」

『この傷を治せる余裕はアリウスにはない』

『クククッ、そうだな。俺でもわかる、手遅れだってことぐらいな』

 

 死ぬ。イサクさんが死ぬ。

 途端に顔が真っ青になり、身体が震える。

 居ても立っても居られずに、私の身体は飛び出した。

 

 こんなはずじゃなかった。ただ、イサクさんに止まってほしかっただけなのに。そんなつもりじゃなかったのに。

 

 ただ、二人の争いをどうにか止めたかったのに。

 

『……楽にしてやる』

 

 カチャリと引鉄に指をかける。

 

『震えてるな、殺人は初めてってところか』

『……黙れ』

 

 キヴォトスにおいて殺人は重罪である。それ以上に人の命を奪うという行為そのものに忌避感が強い。

 比較的死というものが身近であったアリウスでもそれは大きかった。

 戦うときは必死で、最初のミサイルを撃った時は姿が見えないときであったのに対し、人体に直接弾丸を撃つという行為にサオリは僅かな迷いがあった。

 

 だが、サオリは一人ではない。サオリには仲間がいる。彼女たちを守るためならいくらだって汚れたって構わない。

 

『虚しい…全てはただ、虚しいだけだ』

 

 希望を持つな、幸福を求めるな。生きるということは苦痛であり全ては無に帰す。

 

 Vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

 それがサオリの生き方で、アリウスの生き方なのだから。

 

 震えは止まっていた。迷いは晴れた。漆黒の意志を纏い、任務を遂行する。

 足りなかったのは覚悟をする時間だけなのだと、それさえあればサオリは人を殺す罪すら乗り越えていける。

 

「ハアッ…ハアッ…ハアッ……!」

 

 ヒヨリは走る。リーダーを止めなくてはならない。

 ヒヨリの中にあるのは単なる個人の我儘に過ぎない。

 裏切り者の自分が言うべきではないのかもしれない。

 

 もう、手遅れかもしれない。

 

『ほらつっちーもっと食え』

『ほら、ヒヨリの分だ。しっかり食べるんだ』

 

 頭によぎる二人の姿がダブる。

 大好きな二人が居なくなるのが嫌だった。

 苦しくて、辛くて、人生になんて意味なんてなくて……。全ては虚しいとそう言われても。

 

 それでもヒヨリは二人に生きていてほしかった。

 

 その想いが虚しいなんてあるはずがない、と。

 

『最期に言い残すことは…あるか』

「──まって、リーダー! 待って!!」

 

 息が上がり、口がガタガタと震える。

 

『そうさな……』

 

 イサクさんの思案の声が、届く。

 言わないでほしい、言ってしまえば。もう会えなくなってしまう。

 美味しいものを教えてくれた。楽しいことを教えてくれた。知らない知識を教えてくれた。なにより褒めてくれた。

 

 まだ、知らないことがある。まだ一緒に色んなことを教えてほしい。なによりまた褒めてほしかった。

 

 この心がなんなのか、ヒヨリにはまだわからない。わからないから足を止めることなく懸命に駆ける。

 

『聞こえるか、つっちー……』

「イサクさん、待って、待ってください……!」

 

 もうすぐだから、あともうすぐで付くから。そしたらきっと何とかなるとありもしない希望に縋ってヒヨリは走る。

 

「──イサクさんっ!!」

 

 ようやくその姿を肉眼で捉える。

 イサクさんは此方を振り向き、少しだけ驚き、そして無線機越しに呟いた。

 

『──よくあるこった、気にすんな』

 

 一発の弾丸が、イサクさんの後頭部を撃ち抜いて、彼は最期に微笑みながらそう言った。

 

 ……。

 ………。

 

「任務完了……」

「……」

「ちょっと、ヒヨリ急に走り出してどうしたの?」

「……」

「アツコ……は暫く起きそうにないな……。正義実現委員会が来る前に撤退する」

「……」

 

 イサクさんがいる。二、三の痙攣のあとに動かなくなったイサクさんがいる。べったりと血の池に浸かり、うつ伏せに倒れ伏している。

 

「ヒヨリ?」

 

 心配そうな顔を浮かべるミサキさんの顔が映って、声を掛ける。けれどそんな声すら今の私にとってあまり重要なものではなかった。

 

「ヒヨリ、何をしてるんだ」

「何って応急処置ですよ?」

 

 左腕の傷が酷い。私は自分のマフラーでイサクさんの腕の根元を強く縛り上げる。

 頭の傷も酷いから、ちゃんと血を止めないといけない。後頭部から額にかけて弾丸が貫通している。

 

「なにいってんの、ヒヨリ……それ死体だよ」

 

 ミサキさんが理由のわからないことを言う。

 

「えへへ、駄目ですよミサキさん、そんなこと言っちゃ、だってイサクさんまだこんなにも温かいんですから……」

「……」

「……」

 

 不思議な二人。ミサキさんは絶句して、リーダーは信じられないものを見るような目をしている。

 

「大丈夫ですよ、だってイサクさんですよ。アリウスの救護班に行けばきっと……」

「無理だよ」

「えぇ、なんでそんな意地悪言うんですかぁ? うぅ酷いです。これもイサクさんが勝手にこんな大怪我するのが悪いんですね。うわぁん、元気になったら絶対言うこと聞いてもらいますからぁ!」

「──ヒヨリ」

 

 リーダーがしゃがみ込んで、私の肩に手を置く。

 真剣な面持ちで、視線を逸らすのを許さないかのような目で私を見つめる。

 

「前原イサクは私が殺した」

「嘘です」

「嘘じゃない」

「嘘ですよ、そんなの……だってこんなにも温かくて、心臓だってほら! まだ動いてます!!」

「この出血量だ、それに脳を撃ち抜いている。助かることは……」

「嘘だッ!!」

 

 私はイサクさんを強く抱きしめる。

 

「嘘だ! イサクさんが死ぬなんて嘘ですよ!! だって私、イサクさんを殺すつもりなんてなかったんですよ!! 死ぬわけない、死ぬわけないじゃないですか!! ただ私はサオリ姉さんを守りたくてイサクさんと戦ってほしくなくて……ただそれだけでっ!!」

 

 あんな風にするつもりなんて、なかったのに。

 腕を吹き飛ばすつもりなんて、なかったのに。

 

「誰にも、ただ……死んでほしくなかっただけなのに……」

「ヒヨリ……」

「わたし、まだイサクさんに教えてほしいことあったんです。一緒に食べたいものいっぱいあるんです。来月分の雑誌、まだ買って貰ってないんです」

「……」

「仕事が一段落したら、エデン条約が締結したら、みんなでお鍋を食べるんです。約束したんです。皆と、約束……」

 

『裏切り者──!!』

 

 ヨシノさんの声が耳から離れない。

 

「違う……」

『何が違うんだ』

 

 顔を上げると、そこには憤怒の形相を浮かべたヨシノさんの姿があった。

 

『勝てたはずだった。前原室長は生き延びれたはずだった。それを潰したのは誰ですか? 室長の腕を奪ったのは誰ですか?』

「うっ……うぅぅぅ!! だってああしなかったらサオリ姉さんが……」

『確かにただでは済まないでしょうね』

 

 冷たい怜悧な声。怒りの形相を浮かべたヨシノさんの隣には不知火カヤ防衛次長が冷たい眼差しを浮かべて此方を見る。

 

『でもイサクさんは人を殺してないのですよ? アリウス生の一人でも命を失った人が居たと?』

「あう…あぅあぅうぅ……」

『過剰に反応したのは貴方たち。自分たちが暗殺計画を建てて殺しに来たのだから、相手だって殺す気でくる。そう思って過剰に反応した。そうでしょう』

「だ、だって……イサクさんは」

『そうですね、イサクさんは防衛室長に相応しいだけの卓越した戦闘技術と指揮能力、それにSRT特殊学園を動かせる権力にエデン条約において積極的な支援をしてましたからね。非常に……あなた方にとって邪魔だった。そうでしょう?』

 

 防衛次長の緑色で無機質な瞳が私を捉えて離さない。

 

『人殺し』

 

 ──人殺し。

 

『人殺し』『人殺し!』『人殺し!!』

「ヒヨリ、しっかりしろヒヨリ!! どうしたんだ!!」

「ねぇ、大丈夫? ヒヨリさっきからどこ見てんの? ねぇサオリ姉さん。これヤバいんじゃ……」

 

 うるさい…。声がうるさい。

 

『信じてたのに!』

『裏切り者!』

『殺人鬼!』

『私達は信じてたのに騙したんだな!』

『友達と思ってたのに!!』

 

 白い連邦生徒会の服を纏った人々が──否、防衛室の人達が口々に私を責めたてる。

 

『よくあることだもんな』

 

 ふと、イサクさんの顔を見つめる。額に穴が空いて、脳漿と血液を垂らす姿で……。

 

『──自分が虚しい人生を送ってるから、それを他人に押し付けていい。だから俺を殺したんだろ? 自分じゃ俺たちのようになれないから、足を引っ張って自分たちとおんなじところに堕ちればいい、ってな』

「──」

 

 胃から食道へ吐き気が迫り上がる。

 

『よくわかってんじゃねぇか、そうだ英雄(ヒヨリ)。お前が、殺した』

 

 イサクさんを殺したのは、私だ。

 

 

 

 

 

「罪には罰があり、罰には罪がある。罪を自覚したものには贖罪があり、贖罪者は自身に罰則を望む自罰的な感情が生まれる」

 

 聞き覚えのない第三者の声。

 サオリ姉さんはその第三者に銃を向け、ミサキさんは私を庇うように前に出る。

 

「そう怯えなくていい。私は『マエストロ』、君たちがよく知るマダム──『ベアトリーチェ』の同輩にあたる」

「──何の用だ」

 

 鋭い切っ先のような視線をマエストロに向けるサオリ姉さんにマエストロと呼ばれた異形のそれは嬉々とした声をあげる。

 

「美しいモノを見た」

「はぁ?」

 

 マエストロという男の言葉にミサキさんは素っ頓狂な声をあげる。

 

「前原イサクはこれといって特徴の無い凡人だ。神秘を持たず、さりとて恐怖も持たない。どちらにも属さない無色と言える存在だ。崇高には決して届かない、かけ離れた存在だった──筈だった」

 

 マエストロは饒舌に語り出す。

 

「私は『神秘』と『恐怖』はコインの表と裏、表裏一体でありながら決して交わることのない存在であると定義していた。そう、実に浅はかな論であるといえよう。だが、前原イサクは神秘に程遠い存在でありながら『神秘殺し』という異名を得るに至った。神秘を封殺し、乗り越える神殺しと言うべき存在だ」

 

 マエストロはゆっくりと歩みを進める。丁寧に自身に害は無いとでも言うように両手を大きく広げながら、ゆっくりと私に近づく。

 

「そう、それは例えるならばかつて神と畏敬されていた自然現象を科学の進歩により説明付け、論理を紐解き神威を単なる現象へと貶めるが如きものだ。天の恵みたる雨は蒸発現象の一つとなり、天の裁きと呼ばれた轟く雷鳴は人の手によって便利なエネルギーと代えられた。キヴォトスの神秘に抗い、人間が実現可能な努力を以てそなたらと互角に戦える程に……」

 

 イサクさんを強く抱きしめる。

 怖い、そう怖いのだ。なんだか、彼の言葉を聞くととても恐ろしくて堪らない。なんだかイサクさんを遠くへ連れ去ってしまう。そう、思えてならなかった。

 

「前原イサクを救いたいかね?」

 

 その言葉に心が揺れた。

 

「神秘なき『恐怖』それは前原イサクの特異点と言えるものだ。我々が崇高に近づくための一歩になり得るかもしれない」

「イサクさんを助けられる…?」

「機能美の局地とも言え、神秘の介在しない『恐怖』にもし何らかの形で『神秘』を付与できるとしたら、それは崇高の器に最も近いとも言える」

「教えてください、イサクさんを! イサクさんをもとに戻せるんですか!?」

 

 きっとこのときの私は正気ではなかった。でも構わなかった、狂ってたとしてもイサクさんが救えるなら私はなんだってするつもりだった。

 

「肉体は修復可能だ。左腕は『複製』し足りない欠損した脳を『神秘』で埋める」

「お願いします、イサクさんを助けてください……!」

「槌永ヒヨリ、そなたが知る限りの前原イサクの記憶で前原イサクを呼び覚ます。そなたの神秘の一部を前原イサクへと転写、複製する。記憶が完璧であればあるほど、生前と変わらぬ彼が戻ってくるだろう」

 

 私は頷いた。可能性が其処にあるなら。縋るのがそれしかないのなら、そうするべきだと思ったからだ。

 私が奪ったモノ、私が裏切ったモノ、私が傷つけたモノ。それに対する贖罪は其処にしかないから。

 

「私の全部をあげます。だからイサクさんをもとに戻してください」

「ヒヨリ!!」

「契約成立である」

 

 姉さんの悲痛な声が私を引き戻そうとする。

 

 それでも私は止まれないのだ。たとえそれが悪魔の契約だとしても。




死んでも芸術にされる男、前原イサク。まだ使える。エデン条約編のときとかにまだ遊べるドン。
原作開始時というよりカルバノグの兎編で「でも先生はイサクさんを救えなかったじゃないですか」のセリフで先生を曇らせるためにオリ主を既に脳死状態で取り返しのつかない状態にしながら戦闘用の複製(ミメシス)として敵対させちゃうよーん!
カヤぴぃ、矯正局行く前に自身の敗北悟ったら自殺しそうっスね。忌憚ない意見ってやつっス。
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