キヴォトスでちょっとエッチな精子脳男子をヤってみた話(旧題『カヤ虐曇らせモノ』) 作:ニーガタの英霊
おもしれー男のせいで変な影響を受けるお嬢様
──楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか。
「知らんがな」
「えぇ……」
カチャカチャと雑に音を立てながらイサクさんはたっぷりのミルクと角砂糖を3つほど入れて紅茶をかき混ぜる。
「7つの古則だろ? 言葉遊び以外の何物でもねぇだろ。難しく考えるだけ損じゃねぇか?」
「随分とはっきり申されますね、イサクさんは」
「ナっちゃんは難しく考えすぎだな。俺のミルクでも飲んで落ち着くと良い……!」
「遠慮しておきます」
私がそう答えるとイサクさんはあからさまに寂しそうな表情を浮かべる。しょうがないでしょう、だってなんか言い方に含みがあるんですから!
「先程の話ですが……」
「楽園の証明だろ。万人にとっての楽園って意味なら無理だろ」
あっけらかんにイサクさんは答える。
「そう、例えばだ。俺にとっての楽園はタイプの違う5人ぐらいの美少女に『キャーイサクさんカッコいい!!』と言われてモテモテエロエロハーレムを作ることだとして。ナッギにとってこれ楽園だって言えるか?」
「例えが下世話ですが、まあ違うでしょうね……」
「馬鹿な、俺に愛されることが幸せじゃないなんて、こんなの俺のデータにないぞ……っ!!」
「私をハーレムメンバーに加えるのやめていただけませんか?」
泣けてきたぜ、とイサクさんは片手を額に軽く叩きつけながら呟くとその状態のまま言葉を続ける。
「つまり、だ。人の数だけ自分の理想とする楽園があって他者にとってはそれが楽園とはかけ離れているものってのがいくらでもある。法の下で縛られたトリニティやD.U.が楽園というやつもいれば、ブラックマーケットみたいな法に規制されない場所を楽園と評するやつもいるだろうさ」
だからまぁ、万人が理想とする楽園なんてもんは無理だろ。というのがイサクさんの答えだった。
「それに、人によっては楽園への扉よりも進んで地獄に進むやつだっている」
「……それは」
「理解しがたいってか? まぁそうだろうな。──アビドス高等学校を聞いたことはあるか?」
私は肯定の意として首肯した。
「……とっくの昔に学園としては破綻してる自治区だ。生徒数も3人ほどの学園だ」
茶化す雰囲気はなく、何時になく真面目にイサクさんは言葉を続ける。
「見切りを付けて、他の自治区に編入すべきだろう。そも新入生を迎えるべきではない。緩やかに廃校になるのが、判断としては正しい。そっちのほうが楽で正しくて真っ当だからだ」
「……そう、でしょうね」
「アビドスの復興は難しい。一度荒廃した環境を取り戻すのに長い年月がかかるだろう。たった3年ぽっちじゃあやれることも限られている。それでも彼女たちは喜んでその地獄へ進んでいく」
報われないかもしれない。その先に楽園への扉が続いているとも限らない。
それでも彼女らはアビドスの復興という目的のために先もわからない不透明な地獄を進んでいく。
「すべての人間が楽園を目指すとは限らない。正しいレールを歩めるとも限らない。レールからこぼれ落ちたり、落ちた先にまた新しいレールを見つけるやつもいる。それが他人にとって楽園から程遠い道だとしても彼女らが留まる理由にはならねぇ」
煉獄の淵や地獄の底でしか見れない景色だってある。
「自分の喜びのためじゃなく、誰かの喜びのために地獄へ進める人間は居るんだ。楽園への扉を叩いて、道に惑う無辜を導く灯火のような存在だって居るだろうさ」
イサクさんは一通り話したのか、カップを傾けると一気に紅茶を嚥下する。
「イサクさんは誰かのために地獄を進むことができるのですか?」
私は問う。『連邦生徒会防衛室長』、『鋼の英雄』、『鉄人』。そう呼ばれた前原イサクに、問いを投げかける。
イサクさんはふっ、と笑みを浮かべ。優しげな面持ちで答えた。
「いや、全然。俺は其処までお人好しじゃねぇ」
「えぇー!?」
そこは肯定するところではないのですか!?
さすがの梯子外しの言葉に私は言葉を失う。
「『疲れた人、重荷を背負う人は私のところに来なさい。私の軛は負いやすく、私の荷は軽いからだ』」
その言葉は礼拝堂で行われるミサで使われる書の一節であった。
イサクさんは馬鹿っぽいくせに妙なところで教養があったりする。
「余裕があるうちは人を助ける。別に自分が破綻してまで人を助けようとまでは思わん。あたり前のことだろ?」
「それは、そうなのでしょうが……」
それを当たり前と言える人間がどれほどいるか。
「人生なんざ苦しんで生きるより楽しんで生きたもんの勝ちだ。死んだら無に帰すとか死んだら終わりだとか、そんなことを考えるだけで気が滅入ってたまんねぇよ」
イサクさんはそういうところがある。あっけらかんで、大雑把で。でも何処か繊細に相手のことを見ている。
そういうところが、きっと彼の周りに人が集まる理由なのだろう。陽だまりのような、太陽のように暖かい人。それが前原イサクだった。
「男の子だしな。見栄っ張りなんだ。みみっちいプライドっていえばそうなんだがよ。女の子の前ではカッコよくありてぇんだよ」
気恥ずかしそうに微笑む彼とともに過ごす時間は新鮮で、知らない知識や価値観を知れて。楽しかったのだ。
だから、信じられなかった。
──彼が、味方に裏切られて死んでしまうなんて。
現場には夥しいほどの血痕。打ち捨てられた前原イサク本人と思われる左腕。
負傷から意識を取り戻した連邦生徒会防衛職員楯無ヨシノ2年生からの証言と現場にて発見された頭骨の一部と脳漿。
総括して前原イサク本人の生存は絶望的である。
そう時間を置かずに同日の深夜にティーパーティーホストであるセイアさんが襲撃を受けヘイローを破壊されたことを鑑みて、同時多発的かつ計画的に行われた暗殺事件と断定。
ティーパーティーはこのことを極秘事項として箝口令を敷くこととなった。
対外的にはセイアさんは病弱を理由として療養、イサクさんは遭難事件として扱われることになる。
トリニティで真相を知っているのは私とミカさん、正義実現委員会の委員長剣先ツルギさんと副委員長羽川ハスミさん、救護騎士団団長蒼森ミネさん。トリニティにおいては上層部と呼ばれる数人だ。
彼との関係はなんとも難しい。友人というほどプライベートで付き合うことはなかったし彼もそんな言葉を出さなかったから確かめようもなく、好意は持っていたものの恋愛感情かといえばそれはなんとなく違う気がする。
強いて言うなら同志といったところかもしれない。
同じ目的のために進み、戦い、協力する。エデン条約の締結のために共に戦う同志と言えるだろう。
それを不意に奪われた。志半ばで彼は二度と私の手の届かない場所へ逝ってしまった。
叫びたいほどの喪失感と泣きたいほどの恐怖が私を襲う。
彼ほどの存在が死んだ。
仲間に、信頼していた部下に、私よりも近くにいた人に裏切られて死んだのだ。
じゃあ、私は?
私は彼ほど仲間に信頼されているだろうか?
彼ほど他人に対して気配りをしていただろうか?
彼ほど周囲の存在に頼りにされているのだろうか?
桐藤ナギサは前原イサクより誰からも信頼されるに足る人間だろうか?
違う、私はイサクさんほど優れたリーダーじゃない。学園全員から尊敬や好意を持たれるほどの人間でもない。
そもそも、心から誰かを信頼できるほど強くもない。
私は、──私は。
私はイサクさんを殺した人に勝てるだろうか。
未だ犯人もわからない、その組織もどのぐらいの大きさかもわからない相手に。
相手はヴァルキューレ警察学校と防衛室に潜ませていた裏切り者を効率的に使いイサクさんを何重もの罠を張って狡猾に殺害し得た。
セイアさんはトリニティ内部でヘイローを破壊された。
実行の成功の鍵は裏切り者の存在で、セイアさんの暗殺に限ってはその存在すら明るみに出ていないとしたら。
間違いなく潜ませているだろう。トリニティ内部に裏切り者を。
背筋が凍る、体が寒いくらいに震えて、私は暖かい紅茶を傾ける。
怖い、怖い……。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……。
「助けて、助けて……誰か……」
怖い、死ぬのが怖い。
ティーパーティーの本来のホストであるセイアさんと連邦生徒会における条約推進派であるイサクさんが殺されたのだ。
次に狙われるのなんて赤子でも判る。
「イサクさん……っ!」
滑稽な話だ。
死んだ者に助けを求めてどうするというのだ。
だって彼は死んだじゃないか。殺されてしまったじゃないか。
顔もわからない誰かに、正体不明のナニカに……。
見つけることも、仇を打つこともできない。全てが後手に回って、何時命を奪われると限らない身で。
私は弱い。ヘイローがあったって、ティーパーティーのホストになったって、こんなにも弱い。
死にたくなくて、考えて、考えて、考えて……。
──やがて私は諦めた。
私は──私は死ぬ。
きっとどう足掻いたって、死ぬ。
敵は狡猾で、イサクさんの死の真相には程遠くて。
なにより受け身にならざるを得ない。
私は考える、今、私に出来る最大の手段は何かを。
今、私の手札にあるものを。
「ヒフミさんが、私に?」
ある日、ティーパーティー所属の生徒から面会の希望があった。それは私のよく知る生徒の一人でお気に入りといっても過言ではないヒフミさんからの申し出であった。
「あのぅナギサ様……お願いがあるんです」
その言葉は、私にとって天啓だった。
……。
………。
やるべきことはやったと思う。
利用できるものは利用して、罠を張り、盤面を整えた。
『楽園への扉よりも進んで地獄に進むやつだっている』
イサクさんの言葉が私の脳裏に浮かぶ。
イサクさん、貴方は誰よりも優しかった。
誰よりも弱くて、誰よりも情が厚くて、誰よりも人の理性を信じていた。
誰よりも争いを嫌い、平和を愛し、平凡を理想として、安寧に沈むことがなによりの幸福だと言った貴方を私は知っている。
そのために、エデン条約は必要だと貴方は私に言ったから。
きっと貴方は天国に行けるのだろうと思う。
けれど私は違う。
私はきっと楽園にはたどり着けない。
貴方が駄目だったから、私には到底無理だろう。
それでも、それでもなのだ。
私ができる精一杯を成し遂げたい。
『自分の喜びのためじゃなく、誰かの喜びのために地獄へ進める人間は居るんだ。楽園への扉を叩いて、道に惑う無辜を導く灯火のような存在だって居るだろうさ』
私はそうなろう。楽園への道半ばで去るとしても。
それでも私が楽園を目指し、その扉を叩かない理由はないのだから。
──ごめんなさい、先生。
私は貴方を利用します。罵られても構わない。貴方は優しい人で立派なあなたを巻き込んだことは謝っても謝りきれないでしょう。
──ごめんなさい、ヒフミさん。
貴方のことが好きでした。天真爛漫で好きなことには一直線でまるで朗らかな太陽を一身に受ける一輪の華のような貴方が私は好きでした。
でも私は貴方を信じれなかった。イサクさんのように最期まで信じられなかった。
私の弱さが原因で、貴方の手助けを策謀に利用してしまった。
──ごめんなさい、ミカさん。
私の大切な幼馴染。今にも逃げ出したいのにティーパーティーのホストの座にしがみついているのは偏に貴方を守りたいから。
私が死んだら、きっと貴方が狙われる。
それは許容できない、それだけは認められない。
私が死ぬこと以上に、もうこれ以上誰かに犠牲になってほしくないから。
『ナッギは信用できる。理由は明白だ……あんたは多分、俺と考えが一番近ぇ』
私はふと思い出し笑いをしてしまう。まったく、イサクさんは本当に鋭いと。
無辜のために、トリニティのために、貴方たちのためなら、私は──喜んで地獄への道を突き進もう。
最大多数の幸福のために私は、私自身だろうと切り捨てる。それが私が切り捨てた人に対する責任といえるだろう。
「ねぇ、ナギちゃん……」
ふわりと桃色の髪が揺れ、金色の瞳が私を心配そうに見つめる。
「大丈夫? なんだか、疲れてたりしない?」
「大丈夫ですよ、ミカさん。ええ。私はまだ、大丈夫です」
「……そう」
心配そうな、訝しげな目をしたミカさんが私を捉えて離さない。
私はまだ大丈夫。ここからが私のやるべきこと。
トリニティの裏切り者を見つけ出す。
そのために私はこれまで準備を整えてきたのだから。
カツン、カツンと甲高い革靴の音がゆっくりとこちらに近づく。
細身の体にスーツを纏い、その上に連邦生徒会所属を示す腕章と白い上着を羽織る。
サラサラの髪に顔は穏やかでおっとりとした雰囲気を持つその男性はイサクさんと同じくヘイローのない人だった。
連邦捜査部シャーレの先生。
一見して頼りなさげな20代半ばの青年ではあるが、このキヴォトスにおいてアビドス高等学校でのカイザーグループとの対立を制した実績を持ち、その後シャーレ顧問として様々な自治区の生徒とコネクションを持ち指名手配犯の検挙やキヴォトスで起きている大小さまざまなトラブルを収めている。
ヒフミさんからの話では優しくて頼りがいのある大人。
責任感の強い、子供に寄り添って親身になってくれる男性ということらしい。
事実そうなのだろう。そんな人をこれから罠にかけようとしているのだ。我ながら自分自身に反吐が出るのを堪えて笑みを浮かべる。
失敗はできない。
全てはエデン条約を完遂させるため。そのために私は泥を被り、策謀を重ねて、艱難辛苦の道をゆくのだ。
報われなくても、楽園に辿り着かなくても。
それでも私は……私の手に残った僅かな大切なものの為にこの地獄の道を突き進むのだ。
「こんにちわ、先生。こうしてお会いするのは初めまして、ですね。ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します」
私の骸の先に楽園があることを信じて──。
許せなかった…!
美しく気高いナギサ様がポッと出のオリ主に強火で炙られてたなんて…!!