そして、ヒロインの現れる時期が今更ですが、遅いような気がします。
───では、スタート!!
シャルルとラウラが転校して無事に午後の授業も終わり、放課後になった。
「一夏、今日も訓練か?」
「いや、今日はシャルルの引っ越しの手伝いをするつもりだ」
「そういやー、そうだったな」
「蒼星は一人部屋になったんだってな」
一夏のいうとおり俺はクラス代表戦が終わって数日過ぎた頃に山田先生から璃里亜の引っ越しが言い渡されて一人部屋になったのだ。
それはある日のこと……………。
「波大君、遠堂さん。居ますか?」
「はい。居ますよー」
「失礼しますねー」
そう言いながら扉を開けて山田先生が部屋に入ってきた。俺は机で勉強しており、璃里亜はベッドの上で本を読んでいる。
「どうしたんですか?山田先生?」
「はい。引っ越しです」
いきなり言われても分かりません。
「山田先生がですか?」
璃里亜も同じ疑問を持ったのか山田先生に聞いていた。
「え!私じゃないです!遠堂さんですよ」
「え…………ええー!!」
───というやり取りがあって璃里亜はどこか別の部屋へと移動していった。何故かとても名残惜しそうに出ていくから俺にも罪悪感が芽生えてきたのは余談だ。山田先生も何を言えばいいか困っていた。
「じゃあ、なにしようかなー」
特にやることもなくなった俺は何をしようかを考える。
「射撃場にでも行きますか」
ふと頭に浮かんだのはあまり人がいたことが見たことない射撃場。それなりに練習になるので使わしてもらっている。
《パパー、私の整備はー?》
ユカに言われて思い出した。麒麟の調整をしないといけなかったのだ。俺が………一度整備科志望ののほほんさんに麒麟の整備を頼んだのだが問題が発生したのだ。
「なみむー、はい、これー」
とある日、のほほんさんに麒麟の待機状態であるペンダントを貰う。
「どうだった?」
俺は軽い気分で聞いてみるとのほほんさんは少し表情を変えて────
「んーそれが出来なかったのー」
「え!?なんで!?」
「麒麟ちゃんがデータをなかなか開かせてくれないの」
のほほんさんが言うには何度も色んな方法で試したらしいがデータをウィンドゥに表示せずに最終的には俺じゃないと解除出来ない所までいったらしい。まるで機嫌が悪くなったかのように…………。
「でもなみむーの名前を出したらいけそうだったんだよー」
なんだよ、それ!と突っ込みそうになった俺だが心当たりがあるので喉の奥で飲み込む。
「分かった。ありがとのほほんさん。こっちで調べてみるよ」
「なみむー、またね~」
のほほんさんは手を振りながらどこかへと行ってしまった。周りに誰もいないことを確認した俺はチャンネルを早速開く。
《ユカ~、聞こえるかー》
《…………何、パパ》
あー…予想通りにユカの機嫌は不機嫌である。
《なんで、整備してもらわなかったんだ?》
《だって…嫌だったんだもん》
《どうして?》
《どうしても!》
やはり麒麟のAIであるユカは他の機体と違って麒麟の中身を見られることは自分の体を弄られると感じるのだろう。さらに前にもそんな経験があったので余計に無意識に拒んだと思われる。
《じゃあ、どうすんだよ》
整備をしないといつか麒麟が壊れてしまうので出来れば毎日したいのだが………。
《パパがして》
《…え……》
《パパじゃないと、いやーーー!!》
《しょうがない……………》
困った子だと思いながら渋々了承するしかなかった………。
《やったーーー!!》
声でもユカの機嫌が良くなっていることが分かる。それほど嬉しいみたいだ。
《でも、俺、何も出来ないぞ》
俺は一応ISの構造は勉強しているが本物をいじったことはまだないので初心者と言ってもいいほどのレベルなのが現状だ。
《大丈夫!私が教えるから!》
結局俺が麒麟の整備と調整などをするはめになってしまった。
そして、整備室に俺は来ていた。璃里亜にも手伝ってもらおうとしたが、まだ専用機の書類の手続きがあるみたいで無理そうだったので一人で来た。言っておくがユカも璃里亜には麒麟を触られても大丈夫だと言っていた。
ユカが麒麟の整備をしても良いと許可を出しているのは俺こと蒼星。璃里亜。璃里亜の両親(ユカはじぃじとばぁばと呼んでいる)。そして何故か俺と璃里亜の親友でもあるカップル。その二人もユカと同じISのではないけどAIを娘として面倒を見ているが色々と問題があって現実では話が出来ないので苦労している。
「さあーて、始めますか……」
俺は麒麟を展開して早速調整に入る。もう既に何回かしているのである程度のことは分かる。もともと機械いじりが趣味だったのですぐに出来たのも理由の一つだ。
《パパ、もう少し出力弱くして》
《こうか?》
《うん。ばっちし》
順調に麒麟の調整をしていく。他の機体とはエネルギアがあるお陰で色々と項目が多くなってしまっているので自分の部屋でやると少し危険なのでこうしてわざわざ整備室でしている。あまり俺は気にしないけど、他の生徒も何人か見られる。
(あの子……さっきからこっち見てるな…)
先程から俺の方に視線を感じる。ハイパーセンサーで一瞬確認してみると一人の女子生徒がこちらを見ている。というか今この整備室にあの子しかいない。
(なんか……躊躇しているように見える…)
自分に話しかけたいのかどうかは判断出来ないが何かを躊躇っているように感じる。
「あの~………なんか用か?」
「────っ!」
少し離れた所に立っている少女に俺は振り返って一声かけただけなのに凄く驚かれてしまった。こちらも傷付いてしまう……。
「……何してるの?」
よく見ると眼鏡をかけており、水色の髪をしたショートヘアーの女の子だった。その子は声を振り絞る感じで聞いてきた。
「自分の機体の調整だけど」
「…なんで波大君だけで?」
一瞬なんで名前を知っている?と思ったがそういえば男子は俺と一夏、シャルルしかいないのですぐに分かると思い出した。その子が不思議に思うのも普通の人なら誰しも思うことなので簡単に説明する
「この子が俺以外の人だと駄目なんだと」
「……そうなの」
「俺、波大、蒼星。君は?」
「え……更識 簪……」
「更識さんか、よろしくね」
「……簪」
「ん?」
「私のことは…簪でいい………」
「ん、いいのか?」
「……うん」と簪はこくりと頷く
「じゃあ、改めてよろしくね。簪ちゃん」
「ちゃん……………」
ちゃん付けで呼ばれたのが恥ずかしかったのか簪は顔を赤らめていた。
「簪ちゃんって確か四組の代表候補生だったね」
「う、うん」
「すごいなー」
まあ……俺の場合は一夏に譲ってしまったのだが……。
「蒼星君ほどではない………」
「いやいや、そんなことはないよ」
「だって一人でISを整備してるし」
俺は一瞬固まってしまう。簪は俺一人だけでって言ったからだ…………。
(あー…そうか。周りから見ると俺だけでやっているように見えてるのか……)
ユカも他の人にばれないように人前での俺との会話はしないようにしている。ていうかそうするように俺が言い聞かせている。ユカ本人は早く皆と話したいと言っていたが……。
「慣れたら簡単だって、簪ちゃんはここで何をしていたの?」
「…………作ってたの………ISを」
「ISを作ってるのか!?一人で!?」
「うん」
「いやー、俺では出来ないねぇー」
「え!でも一人で整備してる………」
「一人じゃないって、俺だけの力では無理だね」
「………そうなの?」
「一人でするって大変なんだよ、色々と。もし良かったら手伝おうか?」
「いいの?」
「勿論!」
「……………」
簪は少し考え込む。しばらくしてから顔を上げてゆっくりと口を開ける
「……よ、よろしく……」
「おう、よろしく。簪ちゃん」
こうして俺は簪のIS作りを手伝うことになったのだった。
◇
「この回路がずれてるよ」
「あ…ありがと」
そう言うと簪はあっという間に修正していく。とにかく、簪は凄かった。両手を動かしてキーボードを叩いてながらも俺が話しかけるとちゃんと答えるという神業に近いことをしているのだ。
何故一人で作っているのか?と聞いたら原因は一夏のIS『白式』にあった。
白式と簪のIS『打鉄弐式』は同じ企業───確か、『倉持技研』で作られていた。簪のISは順調に進んでいったがそこに一夏が登場して簪のは後回しにされてしまったのだ。それで“自分で作る"と言った簪は一人で作り始めたという。
「このままだと臨海学校には武装は間に合わないな」
「………大丈夫」
お互いに何も言わずに静寂が空間を支配していく。しばらくそんな状態が続いて……。
「簪ちゃん、もうそろそろ食堂行こうか」
「え………あ、ほんとだ」
そろそろお腹が減ってもおかしくない時間帯に差し掛かっていた。
簪は立ち上がり食堂へと歩いていく。俺もその後に付いていき廊下へと出る。
「あ!簪ちゃん。俺、急用思い出したわ。またねー」
「え………蒼星君………」
廊下に出たところで急に俺はわざと簪から離れるようにしむけて食堂とは反対方向へと走る。簪がこちらに手を伸ばすが何も掴めずその場で立ち止まる。
簪に罪悪感を抱きながらも廊下を歩いていく。用事があるといったのは嘘だ。いや、ちょっと違う。気になることを確かめるだけだからだ。
「いい加減、出て来てくれませんか?」
整備室に居たときから気づいていた視線。簪は好奇心の目線だったので気にしていなかったが今度のは全く分からない。故に俺は誘きだして本人に直接聞く方法を選んだ。俺の予想通りに謎の視線は俺を付いてきたので声を大きくして言う。
「あれ?ばれちゃた?」
後ろの角から出てきたのは意外な人物だった。
(あれ!?簪ちゃんに似てる!?)
目の前の人物が簪に酷似していたのだ。眼鏡はかけていなかったが同じ水色の髪をした女子。口元は手に持っている扇子で隠している。
「私のことは分かるかしら?」
「分かるわけないでしょ。何ですか、新手のナンパですか?」
「そう………ならいいわ」
バサッと扇子を広げて目の前の人物はうふふと笑う。扇子には“残念"と書かれていた。
「私は学園の長。生徒会長の更識 楯無よ。以後、よろしくね」
更識ってことはやはり………。
「更識ってことは簪の姉さんですか?」
「そうよ。かんちゃんのお姉ちゃんよ。今はあれだけどね………」
最後の方が聞き取れなかったが気を取り直して会長を見る。
「で、会長が何のようですか?整備室も監視していたでしょ」
「あら、気づいてたの。かんちゃんには気づかれないのにね」
「いいから、早く本題に入ってください、会長」
「楯無って呼んでくれたら言ってあげてもいいわよ」
「なんでそうなるんですか………」
「た~て~な~し~!」
目の前まで迫られて思わず心臓が跳ね上がりそうになる。なんたって簪も会長も美人だからだ。
「楯無先輩………」
「よろしい!」
また扇子を広げる会長。そこには“満足"の文字が書いてある。一体どんな仕組みになっているのやら………。
「蒼星君、かんちゃんのことどう思う?」
「え…簪ちゃんは…真面目ですね」
唐突な質問だったので取り敢えず今日で分かったことを言ってみる。
「そう…………聞きたいことはそれだけよ」
「それだけって………」
会長の一体何が目的なのか検討がつかない。
「また後でね……“空剣士"君」
「え……なんでそれを────」
あの世界での俺の二つ名を言われてしまって思わず動揺してしまうが会長はあっという間に何処かに行ってしまった。
どこでそれを知ったのかも気になるし、それを知っている会長は底が計り知れない人物かもしれない。
しかも“また後でね"って言ってたし。そのままの意味だとなんかあるのかな…………憂鬱だな………。
少し気が重くなりながらも俺は食堂へと歩いていった。
◇
「……遅い」
俺はその場に立ち、そのまま脳も停止する。目の前には食堂の入り口。そこに立っている一人の少女。簪が俺のことを待っていたのか少し不機嫌になっている。
「待ってたの」
とぶっきらぼうに答える簪。俺は待っているように言ったかなぁー?と頭で記憶を探りながらも一緒に食堂へと入る。
「簪ちゃん、何がいい?」
券売機の前に俺は後ろにいる簪に聞く。
「波大君と一緒でいい」
俺と一緒なのがいいとのことなので“醤油ラーメン"と書かれた券を二枚購入した。
というより、整備室では名前で呼んでいたのに、ここでは名字で簪は俺のことを呼んだ。
俺としては特に気にしないのだから、別に良いのだが。
食堂のおばちゃんたちから醤油ラーメンを貰い、空いている席を見回す。と、四人まで座れる丸テーブルが空いていたのでそこまで移動する
「「いただきます」」
二人が席についたことを確認してから醤油ラーメンを食べる。
「簪ちゃん。いつぐらいまでに仕上げるつもりなんだ?」
「………二学期が始まるまでには完成するつもり」
「トーナメントはどうするつもり?」
「このままのペースだと武装は軽いものだけになるけど“打鉄弐式"でいくつもり」
「起動テストも兼ねてか?」
「……うん」
「分かった。あともう一つだけ聞いてもいいかな?」
「何?」
「簪ちゃんってお姉さんがいるよな?」
俺がそう言った瞬間簪の手が止まった。こちらを驚きの表情で見つめてくる。
「どこで…知ったの?」
「さっき会ってきたよ」
「っ!!」
「といってもそんなに会話らしい会話はしてないけどね」
「あの人は越えるべき存在………」
何かあるのだろうか?簪は自分の拳を見つめている。
「うん、それはいいことだ。でも。なんでそんなに仲が悪いんだ?」
「……………」
簪は黙りこんでしまった。さすがに他人の事情には突っ込むわけにはいかないだろう。
二人の仲が悪いと分かったのは姉があんなことをしていたからだ。普通、仲の良い姉妹だとあんなことはしない。
「ごめん、言い過ぎた。誰かに相談するってのも一つの手段だと俺は思うぞ。まぁ、こんな俺でも何か協力できることがあったら全力でするから」
「………ありがと」
照れてしまったのか簪は俯いてしまった。
「あー!なみむー。かんちゃんに何したの~?」
と、言いながら来たのは本音だった。
「のほほんさんはこの子を知ってるのか?」
「うん。私、かんちゃんのメイドなの~」
メイドって………大丈夫なのか?そもそも本音がメイドということすら信じがたい事実なのだ。
「本音も来たの?」
「なみむーに届け物があるの~」
「届け物?」
「うん。ほら、あそこ~」
本音が指差した先には一人の生徒が辺りを見回している所だった。と、こちらに気づいたのかこっちにお盆を持って歩いてきた。
「ふぅー、やっと見つけた。ソウ君、どこいってたの!」
届け物って璃里亜のことかよ!
「麒麟の調整をするために整備室にと」
「なんで私を誘わなかったの!」
璃里亜は自分が見放されたと思って少し不機嫌になっている。
《パパー、ママが怖いねー》
「璃里亜は専用機の書類の手続きがあったんだろ?」
「すぐに終わるって言ったでしょ!もぅー、ソウ君のバカ!」
ふんっと顔を横に向けて怒ってますアピールをする璃里亜。
「ほら、簪ちゃん。俺の言った通り一人でしてないだろ。誰だって一人でやるには限界があるんだって」
「…………うん」
「ソウ君、その子は誰なの?」
俺と簪が一緒にいるのに気づいた璃里亜が聞いてくる。
「更識 簪さん。整備室で知り合ったの」
「へぇー────私は遠堂 璃里亜です。簪さん、よろしくね」
「……よろしく」
二人が目の前で握手をしているけど、鈴と箒が握手したときのように後ろにオーラが漂っている。なんか怖い………。
「あなたは確か……日本の代表候補生」
へぇーよく知ってるな~……あ!だからあんなにオーラが出ていたのか!と感心していると璃里亜は───
「あなたもでしょ?」
笑いながらそう返した。───って璃里亜は今なんて言ったんだ!?
「え!?簪ちゃんも代表候補生なのか?」
つまり、この二人は日本代表を争うライバル同士になるってことだ。
「んー、そうだよ~。ていうかなみむーはかんちゃんのことちゃん付けで呼んでる~」
「ホントだ。ソウ君はいつもさん付けなのに」
「さあ?なんでだろう……なんかそんな感じがしたからそう呼んでる。許可も出てるんだからいいだろ」
「出した覚えがない………」
「ん……そうだっけ?だとするとなんて呼べばいい?」
「やっぱりそのままでいい。でも………」
言うのが恥ずかしいんだろうか……簪は躊躇うようにしてモジモジしている。
「なんでもない………」
本人がそう言っているので俺は諦めることにした。
というか、また二人でバチバチしないで欲しい。
「じゃあ俺はもう部屋に行くわ。バイバイ~」
俺はお盆を返却してから逃げるように寮へと歩いていった。
「なみむー行ってしまったねー」
本音がソウ君の後ろ姿を見つめながら呟く。
私にとってソウ君がいなくなったのはこれからすることに都合が良かった。
本音と色々話している少女。眼鏡をかけており大人しい雰囲気を放っている。スタイルもよく少し羨ましいと私は思う。
「簪さん。聞きたいことはあるのだけれど良い?」
「何?」
「ソウ君とは今日、初めて知り合ったの?」
簪さんは首を縦に振った。
「蒼星君とは今日話しただけ」
「そうなの………」
「私、もう行くから」
簪さんはテーブルを離れて食堂の入り口へと歩いていった。
私から見る限り簪さんのソウ君に対する態度が女の子らしくなっているように見えた。ついに私にも箒達と同じようにライバルの出現かと思う。だとしたらこれから頑張らないと………。
「本音ちゃんはどうするの?」
「私も行くよ~」
「それじゃあ、私も行く」
胸にモヤモヤを感じながら私と本音は食堂を一緒に出るのだった………。
続く──────────────────────────────
遂に!!登場しました、簪!!
後、簪があんなにあっさりと蒼星の申し出を許諾したのには理由がありますので、皆さん、突っ込まないで!!
だって簪はこう言ってるんです。“今日話しただけ”と。