───勇気を持って、行こう!
璃里亜達と離れて自分の部屋に戻ろうと俺は歩いていた。
(今日は大変な1日だったなぁー)
男子のシャルルが転校してきてより一層騒がしくなった一組。シャルルが女の子かもしれない疑惑はまだ消えない。それにラウラが一夏にビンタしようとしたのは気になるがそれは後回しにする……。
また訓練での山田先生が鈴とセシリアに無双を発揮しているのは凄かった。その後の俺と璃里亜の二人がかりでもそう簡単に倒せなかった。そして、璃里亜の専用機『エンドロード』の初陣によって遂に璃里亜も専用機持ちの一員となる日ともなった。
(そして…簪ちゃんか………)
自分でISを作っている少女。整備室で見かけてはいたけど直接会話をしたのは初めてだった。何処かで会ったことはないはずだと思うが懐かしい気分になったのは不思議だった。俺はISの製作に手伝えるかを聞いた。簪は承諾してくれた。
何故か簪のことがほっておけなくてあんなことを聞いてしまったけど、簪は喜んでもらえて良かった。うん、良かった。璃里亜の機嫌を良くするのは難題だが………。
と、そこまで思考が回った時に自分の部屋の前まで着いた。俺はドアを開けて中へ入ろうとする。
「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」
バタンとドアを取り敢えず閉める。今、俺…何を見たんだ………夢じゃなかったらさっきまで話していた人がいたぞ!楯無先輩が!
もう一回、夢だということを信じてドアを開ける。
「お帰りなさい♪私にします?私に────ちょっとー閉めないでよー!」
少し開いた瞬間にドアを閉めてドアに背もたれかかるようにする。何か言われたような気がするがそんなことを気にしてる余裕はない。
「三度目の正直だ。そうにちがいない!」
拳を握りしめてそう自分に言い聞かした俺は勇気を持って(無茶苦茶緊張する)ドアを開けた────
「お帰りなさい♪私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」
やはりいた!………それも選択肢がないというね……二度あることは三度あるということでしたか……そうですか。
楯無先輩の格好は白エプロンだけだ。世間の人はこれを裸エプロンというだろう。白いエプロンから伸びる、白い肌がとても眩しい。この人、自分のスタイルが良いって自覚しているんだろうか。いや、自覚しているからこそ故にこんな行動に出ているはずだ。確信犯だ、この人。
「……………」
「えー!無視なのー!お姉さん!怒るわよ♪」
「……それよりもさっさと出ていってください」
俺の脳内にはある台詞が浮かんでいた。会長が去り際に言いはなった“また後でね"の一言。それはこういうことだったのかと理解させられる羽目になっているのが現状だ。
出来る限り会長が視界に入らないようにする。
「それは出来ない相談ね」
「どうしてですか?」
「私、今日からこの部屋に住むから♪」
「え!」と出来るだけ会長の方を見ないようにしていた俺だったが振り返ってしまう。うふっと笑う会長の格好を見てすぐに顔を赤くして目線を背ける。そんな俺の反応をクスクスと笑って見ている会長。
「あらあら、可愛いわね」
「それよりも!どうしてこの部屋なんですか!?ていうか織斑先生が許可したんですか!」
「ええ。生徒会長権限を使ってね」
どう考えったって使い方が間違ってると思いますよ。生徒会長って何でもありなんですかぁ!という現実逃避をしてみる。
「取り敢えず服を着てください!」
「あら?私はこのままでもいいんだけど?」
会長が俺の背中に女子特有の膨らみを押し付けてきた。
「駄目に決まってます。ほら、早く」
そう急かすと会長は渋々上着を着てくれた。
(俺の一人部屋生活も終わったな…………)
ほんの少しの期間の夢のような時間はあっという間だったと今更後悔していた自分だった。せめてもう少し満喫すべきだった…。
◇
事態も落ち着いた所で───会長が服を着ただけだが───状況を整理をすることにした。
「………楯無先輩、ここに来た理由はなんですか」
「教えてほしいのかしら?」
「いいから、言ってください」
「あらあら蒼星君たら強引ね。まあ、いいわ。どっちにしろあなたにも知ってもらいたかったことだからね。じゃあ質問、蒼星君と一夏君は決定的な違いがあるのだけれど何か分かるかしら?」
「俺と一夏ですか………」
俺と一夏を比べるとするとやはり、身体的な能力だとは考えにくい。そうだとしても会長がここに来ても繋がりが薄いからだ。だとすると………。
「後ろ楯ですね………」
「そうよ。一夏君には世界最強の姉の織斑先生に篠ノ乃博士という強力すぎるほどの楯があるのよ。それで何処も手出しが出来ないってわけなの」
会長の言うとおり。一夏の背後には世界最強の二人がいる。それでも一夏を無理矢理に調べようとすることは世界を敵に回すと等しいことになる。さすがにそこまでの覚悟でやろうとする馬鹿はいないだろう。
「俺には何もないってことですか」
「ええ。蒼星君は一応企業に属しているけど、それでもまだ到底足りないのよ。企業に属しているだけでもIS委員会がうるさいんだから」
「言い換えると会長は監視役だということになりますね」
「私達『更識』は代々暗部として各国の裏事情を把握しているわ。故に色々と私がやると都合が良いのよ」
「それ、俺に言ってもいいんですか?」
なんか今のは俺が聞いてはいけなさそうなほどの事だったような感じがするが会長は意図もあっさりと言った。
「大丈夫よ」
「元々貴方もその立場なのにね………」とポツリと付け足すように呟くが蒼星には聞こえない。
「だったら、あと何個か質問しますよ。───この時期に会長が来るよりも初めからの方が良かったのでは?」
「そうしたかったんだけど、こちらも忙しくてね。それに蒼星君はあの事件の被害者で貴方の精神状態が分からないから、もしものことを考えて幼馴染みの璃里亜ちゃんと一緒の部屋にしたら精神状態も安定するんじゃないか?との結論が出てこうなったのよ」
「で、とうとう会長の登場っと」
「私はラスボスじゃないわよ。これでも生徒会は忙しいのよ。ということで────」
会長が立ち上がりこちらに指差した瞬間に蒼星のパソコンからメールの着信音が鳴り響く。
「あ……友達からのメールですね」
「タイミングが良いのか…悪いのか……」
「で、会長が裏に詳しいってことはあの事件についても?」
蒼星に話題転換をされて会長は少し残念な気持ちになる。
「大体のことは知ってるわ。でも、蒼星君達が内部でどんなことをしてきたのかは分からないわ」
「それ、誰かに言ってるんですか?」
「勿論言ってないわよ。あ!でも、私のメイドちゃんと織斑先生には少しだけ伝えてあるわ」
「んー……………まあ、大丈夫か………」
あの事件のことはできる限りあいつらには知られてほしくない。璃里亜もそうだがあの事件の影響はとても大きい。同情されてもこちらの気持ちなど第三者が分かりはしないし、何よりも今の関係が壊れそうで怖いからだ。
「言わないでくださいよ」
「分かってるわよ」
「じゃあ、俺シャワー浴びて寝ますんで」
俺はそう言い、シャワー室に入る。と、その前に。
「ちょっかいをかけないでくださいよ」
「はいはい、分かったわよ~」
ベッドに転がりながら会長は返事をする。その態度に本当かどうか怪しいところだが鍵はかけれるのでシャワーを浴びることにした。
無事、あの後も何事もなく眠りにつくことが出来た…朝に一騒動あるのも知らずに。
◇
「はぁー、朝からなんだよ……」
俺は朝一番にため息をついた。原因はさっき生徒会の仕事で朝早く出ていった会長だ。
なんと!会長は朝から俺のベッドの中に潜り込もうとしてきたのだ。俺はそれにどうにかいち早く察知して回避することにしたがそのせいで思いっきり目が覚めてしまった。
「メモ………………」
ふと目線の向けた先にはテーブルの上に紙が置いてあった。こんなことが出来るのは会長しかいない。嫌な予感に襲われながらもメモの内容を見てみる。
『暇になったら生徒会室に来てね♪』
最後に“愛しの楯無より♪"と書かれていた。
(なんだ…これは…………)
気分が重くなりがらも俺は朝御飯を食べるために食堂へと向かうのだった……。
………因みに生徒会へは行っていない。
◇
数日後、俺は一夏達の訓練の様子を見るためにアリーナへと来ていたが……
「こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかんっ!という感じだ」
「なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。……はあ?なんでわかんないのよバカ」
「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ」
「…………率直に言わせてもらう。全然分からん!」
「……何、このカオス?」
「あはは……………」
本日のIS学園は土曜日の午前には理論学習、午後は完全な自由時間になってる。かと言って土曜日の午後はアリーナが全開放だから殆どが実習に使ってる。俺や一夏達もアリーナでISの練習をしているのは言うまでも無いのだが。
俺は目の前の光景に呆れていた。一夏に教えている指導者達の指導の仕方にだ。
箒、鈴、セシリアにやらせてみたのだが全然ダメだった。箒は訳の分からん擬音だらけの説明で、鈴は感覚の一点張り。そしてセシリアは細かすぎて逆に分かり辛かった。
ちなみに璃里亜は最初に一通り説明してから自分で見せてくれる有言実行的なタイプだ。
「シャルル、一夏と模擬戦してくれないか?」
「うん。分かったよ」
俺の隣にいるシャルルに一夏と試合をしてくれるように頼むと快くシャルルは承諾してくれた。一夏のほうへと歩いていき早速、声をかける。
「一夏、ちょっと相手してくれる?白式と戦ってみたいんだ」
ISを纏ったシャルルが一夏に勝負を申し込む。その事に一夏は助かったかのようにシャルルを見ている。
逃げる口実が出来たようだ。
「分かった、シャルル。と言う訳だから三人とも、また後でな」
「「「むぅ……」」」
「リリー、行くぞ」
「はぁーい」
あの三人の指導を見ているよりもシャルルと一夏の模擬戦を見ている方が断然いいからなと俺は思う。
シャルルが纏ってるISは見た感じ“ラファール・リヴァイヴ”だと思うがIS学園にある量産機と違って専用機のようだ。恐らくスペックは量産機よりかなり上に違いない。何よりも機体の色がオレンジと色々改造している。
模擬戦の結果は一夏のぼろ敗けだった。俺的にはもう少し頑張って善処して欲しかった。まあ、射撃武器を把握してないからすぐに負けてしまうのは仕方ないけど。
「ええとね、一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが……」
「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほどんど間合いを詰められなかったよね?」
「うっ……、確かに。『
「一夏の攻めかたは単純だからな」
「蒼星とはまだ戦ってないから分からないけど、一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」
「直線的か……うーん」
「言っておくけど織斑君。瞬時加速中に下手に軌道を変えようなんて考えは止めた方がいいよ」
俺の左隣にいる璃里亜がアドバイスを挟む。
「え?何でだ?直線的な攻撃じゃ読まれ易いんだろ?」
「確かにそうなんだけど、そういう事をしちゃうと逆に織斑君の体に負担が掛かってしまうんだよ。そうでしょシャルル君?」
「うん。遠堂さんの言うとおり、空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」
「……なるほど」
璃里亜とシャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話の度に頷く一夏。やはりあの三人よりも同じ男子の方が良いのだろう。離里亜は別として。その証拠に一夏は意気揚々とシャルルの説明を聞いている。
さらに女子相手だと、あのスーツだしな。殆ど水着に近い。それによって俺や一夏は色々な所に目が行ってしまう事がしばしばある。正直やり辛いのが本音。
「ふん。ワタシのアドバイスをちゃんと聞かないからだ。蒼星も蒼星でアイツの味方をするとは……」
「あんなにわかりやすく教えてやったのに、なによ。リリーもなんで分かってくれないのよ」
「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら。それに蒼星さんも」
もうこの三人は無茶苦茶だ。後で一夏の実習訓練の相手でもさせてあげないとヤバイかもな……と璃里亜が三人の方にちゃんと納得させる為か向かっていった。
「おっと……危ない………」
璃里亜の機体を見ていると俺の目の前を弾丸が通る。この第三アリーナでも多くの生徒が訓練に励んでいる。だが、学園で三名しかいない男子が目当てに、第三アリーナは使用希望者が続出している。
正直言って生徒が多すぎるから訓練スペースが狭い。同時に別のグループ同士が一夏やシャルルにぶつかったり流れ弾に当たったりとちょっとしたトラブルがあった。
「一夏の『白式』って後付武装がないんだよね?」
「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域が空いてないらしい。だから量子変換は無理だって言われた」
「多分だけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」
「ワンオフ・アビリティーっていうと……蒼星、なんだっけ?」
「お前なぁ……この間の授業で出てたのをもう忘れたのかよ。簡単に言うと必殺技だ」
「あはは、そうかもね。各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のことだよ」
シャルルは代表候補生でもあるのですらすらと専門用語を出して説明をしている。しかも分かりやすく。璃里亜といい勝負だな。
「でも普通はセカンドシフトの時に発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いけどね。それでそれ以外の特殊能力を誰でも使える様にしたのが第3世代IS。オルコットさんのBTや凰さんの衝撃砲がそうだよ」
「あ!それで思い出した。蒼星に聞きたいことが……………」
二人で会話しているのを眺めていた俺だが一夏がこちらに向いたなり、言葉を止める。
「ん?どうした?」
「蒼星、何してるの?」
一夏と後から見たシャルルがこちらを見て固まっている。シャルルの説明は既に知っていたので取り敢えずエネギアを十個ほど展開して体の周りをぐるぐる回転さしていただけなのだが………。
「まだ慣れないから特訓してる最中だが?」
「俺、初めてみるんだが?」
「え!そうなの、てっきり知っているものだと………」
「最近になって使い始めたからな……これ集中力がだいぶいるからな。疲れるわ」
「詳しく教えてくれないかな?」
「いいよ。この装備の名前は“エネギア”。後ろにあるエネルギアのちびバージョンだな。セシリアのビットと同じようにエネルギー弾を発射出来たり合体させてシールドにさせたり、前に俺が見せたトラップなんかにも応用出来たり優れものだ」
「セシリアのと同じなら蒼星も動けないのか?」
一夏の不謹慎な発言を聞いてしまったセシリアは顔をしかめる。弱点を言われるのはあまり気分が良くないからな。
「いや、自分も動けるほどに使ってるからそんなことはないぞ」
「何個まで同時に可能なの?」
「えー、自分も動けるようにするんだったら10個。エネギアだけに集中するなら25個だな」
「へえー、結構な数だね」
「麒麟の能力もついてるのか?」
さっきから一方的な質問が多いような気がするが……。
「麒麟の能力って?」
麒麟を知らないシャルルが首を傾げる。それに気づいた一夏が俺の代わりに説明し始める。
「シャルルは知らないのか。蒼星の機体の名前が麒麟でな。最大の特徴が雷を操れるところなんだ」
「え!すごいね」
「一夏、よく考えろよ。山田先生と戦ったときの最後に山田先生の動きが鈍くなったのは気づかなかったのか?」
「いや………分からなかった…」
「あれはエネギアの電撃の網に山田先生が捕まったからだ」
「でもなんで山田先生は避けなかったの?」
「璃里亜の攻撃に必死だからな」
「へえー………蒼星と璃里亜は凄いな。鈴とセシリアはぼろ敗けだったのに」
また一夏の不用意な発言に遠くから聞き耳を立てている少女二人は不機嫌になる。
「話を変えて一夏のやっぱ白式の単一仕様って『零落白夜』だよな」
「そうだね。でも白式は第1形態なのにアビリティーがあるってすごい異常事態だよ。前例が全く無いからね。しかもそのアビリティーって織斑先生の…初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じなんだよね?」
「そそ。まぁ姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」
「うぅん、姉弟だからってだけじゃ理由にならないよ。さっき一夏が言った様にISと操縦者が最高状態の時に発現するものだし、姉妹で同じだった人は居ないからね」
「そっか。この話は結論も出なさそうだし置いといて。訓練再会しないか?」
「あ、うんそうだね。じゃあ、はいこれ」
俺たちは訓練を再開することにした。
続く──────────────────────────────
次回はオリ要素を入れるつもりです!