IS学園は入学式当日からいきなり授業がある。なので、今その授業を受けている最中なんだけれども内容がとにかく難しい。
入学するまでの魔の1ヶ月猛特訓が効いたおかげかある程度は理解することが蒼星はできていたが、一番先頭の席にいる一夏は頭を抱えていた。因みにその時の先生は璃里亜と彼女の両親だ。
お~い、一夏そんなことしてると、先生に当てられるぞ………。
一時間目の授業をしているのは山田先生。織斑先生は入口近くの時間割り表にもたれ掛かっており、何も言わない。
「───であるからして、ISな基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、逸脱した───」
ああ、やばい………限界ギリギリな男子がここにいた。頭から煙が出るとは、きっとあれのことなんだろうな………。
「織斑君!何か分からないことはありませんか?」
ほら、俺の思った通り!…と思っているのをよそに山田先生は───なにせ、先生ですから!……とえっへん、と胸を張っていた。
「…………山田先生」
何か考えごとをしていた一夏が何かを決意したような声を放つ。
「はい!なんでしょう!」
「全然わかりません………」
「へ?…………」
一夏の発言が衝撃だったのか、まるで雷に打たれたかのように山田先生が胸を張り自慢げにしながら固まってしまった。
「えーと、他に分からない人はいませんか………」
山田先生は辺りを見回して確認する。もちろん誰も手を挙げない。
「…波大君は大丈夫ですか?」
「あ、はい。なんとか………」
「そうですか」
蒼星は大丈夫だということに山田先生は少し安心した様子。
「………織斑」
「はい」
何もせずにただ立っていた織斑先生が一夏の近くへと移動していく。
「ISの参考書はどうした?」
「…………もしかして、電話帳みたいに分厚いやつ?」
「ああ、そうだ」
「電話帳と間違って捨ててしまっ────」
バシン!………。
出席簿が再び一夏の頭へと一直線に降り下ろされる。
「必読と書いてあっただろが、馬鹿者目」
「………すみません」
「仕方ない、もう一度発行してやるから、一週間で覚えろ」
「え………いやいや、無理でしょ────」
「いいか?」
織斑先生のどす黒いオーラに思わず一夏ははい。と頷いてしまった。怖いよ、もう無茶苦茶を通り越してしまいそうな感じだと、蒼星は思っていると………。
「波大、お前何を考えていた」
蒼星の思考を織斑先生に読まれてしまった。読心術にも程度と言うのがあるはずなのに、織斑先生はそれを普通に乗り越えたような感じだろうか。
「いえ、何も」
「そうか。波大、お前は織斑を手伝え」
「あ…はい。分かりました」
ここで何か抵抗するとどんな目に遭うか分からないので大人しく返事をした。
「山田先生、授業の続きを」
「…はい、分かりました」
再び授業が再開した。
休み時間になり、クラスの中が騒がしくなるなか、織斑君の机に二人の男子が頭を抱えているかのようにしていた。
「おい、なんで俺もこんな目に遭うんだ」
「ごめん………頼むから、まじで」
「まあ……やるからにはやるけど」
男子達が悲鳴をあげているなか、廊下では2,3年生の人達が男性操縦者を一目見ようと混雑していた。
クラスの中も抜け駆けは禁止みたいなオーラがあり、なんだかやりにくいと私───璃里亜───は感じていた。
「ちょっと、よろしくて。」
もちろん私に向けられたわけがなく、男子達に一人の生徒が話しかけていた。
あ!………先越された…………。
◇
「ちょっと、よろしくて」
「へ?」「ん?」
一夏とISについて勉強している蒼星は話しかけてきた生徒の方へと体を向けた。
そこにはブロンドの女性が立っていた。
肌は陶磁器の様に白く綺麗で、少し垂れたような瞳は美しいサファイア。恐らくは欧州ヨーロッパ系だろうか。
フリル付きのカチューシャと、クルリと巻かれたロールヘアーがバネのように弾み、また見事なものである。
「まぁ、なんてお返事!? 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、”それ相応の態度”というものがあるのではないかしら!?」
「悪いな。俺、君が誰だか知らないんだ。ゴメンな」
「同じく」
俺は一夏のセリフに同意した。
「知らないっ!? この『セシリア・オルコット』を……イギリスの代表候補生にして、入試首席のこの私をッ!?」
バシン、と一夏の机を叩き、驚きとそれ以上の怒りをこめて、セシリアはずい、と迫ってきた。
「あ、質問」
「フッ、下々の要求に答えるのも貴族の務めですわ。宜しくてよ?」
一秒前までの怒りは何処へやら。セシリアは鼻を鳴らして髪を掻き上げた。
「………ダイヒョウコウホセイって、何?」
………ちなみに俺じゃない。
ガタタタターーーーーーーーン!
本日二度目の大転倒がクラス内で発生した。
「あ……あ………!」
セシリアは余りの事に頬をヒクヒクとさせている。どうやら突発的な出来事に弱いようだ。
それもそうだろう。まさか、そんな事を聞かれるとは思いもしなかったのだ。
というか、これには俺も頭を抱えていた。
「あ……!」
「あ……?」
「あ……なたはぁっ!!」
キッ!と、再起動を果たしたセシリアが一夏に迫る。
「信じられませんわ!! 日本の男性というのは、こんなにも知識に乏しいものなのかしら!?」
「それはひどいなあ…こんなことを言うのは世界中で一夏だけだ!」
「うわ!酷くねぇか!」
俺は一夏の突っ込みをスルーした。
「……織斑君、代表候補生ていうのはね、言葉から想像できる通りに国家代表になれる可能性がある人達のことを言うんだよ。ねぇ、ソウ君」
割り込む隙を見つけた璃里亜が俺に同意を求めて来る。
「そうだな、いわばエリートってところかな」
「へえ………わかったよ。ありがとな」
「それぐらい余裕です♪」
俺達の会話に入れたのが、嬉しいのか少し機嫌が良い璃里亜。
「そう!!エリートですわ!」
俺の頭からすっかり抜けていたセシリアがそう言った。
「そうだな………」
一夏が何気なく返した返事にセシリアは不満を持ったのか一夏に食いつく。
「…あなた、私をばかにしてますの」
「そんなつもりはないけど……」
たぶん、一夏は正直に言っているだけだと俺は思う。
「大体……何も知らないでよく、この学園に入れましたわね? 男で、ISを操縦できると聞いていましたけど……期待はずれですわ」
「俺に何かを期待されてもな……」
「まぁ、私は優秀ですから……あなたのような人間にも、優しくしてあげますわよ」
「………」
そう思うなら、早く解放して欲しい。
「分からない事があれば……そう、泣いて頼むのでしたら、教えて差し上げても良くてよ?」
「何せ私は入試で唯一、教官を倒した……エリート中のエリートなのですから!」
「あ、俺も倒したぞ」
「は────」
その瞬間、セシリアが凍りついた。
「はぁあああああああああああああっ!?」
またもや再起動した彼女は、一夏に信じられないといった視線を向けてきた。
「いや、倒したって言うか……いきなり突っ込んできたからそれを避けて……そしたら、壁に突っ込んで……で、気絶しちまって……」
「へぇ~、すごいな…」
「私だけだと聞いてましたが………」
「女子だけっていうオチじゃないのか」
「っ………!」
一夏がとどめを刺した。
「そういう蒼星はどうだったんだ?」
「ん?そりゃ勝てなかったよ」
「そ、そうですわね。そこの方の言うとおり、教官に勝てたのは私だけのはず……」
セシリアが何か呟いていたが気にせず続けた。
「そりゃあ、元世界一の織斑先生に勝てるわけないだろ。───精々、時間ギリギリまで耐えるのが限界だったよ」
「「「え…………」」」
「ん?どうしたんだ?」
「……蒼星、千冬姉に引き分けたのか?」
「時間切れで、引き分けってなったけどあのまま行けば普通に負けてたわ」
「それでも、すごいよ、ソウ君」
「そうか、アハハハハ」
「どうなってますの………この方といいその方といい………」
セシリアは黙り混んでしまった。
そして─────怒りに頬を紅潮させ、眉は釣り上がり、目鼻先まで顔が迫っている。
「お、落ち着け……なっ?」
「これが落ち着いて───!!」
その瞬間救いの鐘の音が鳴った。休み時間が終わったのだ。
流石にこの場ではこれ以上は無理と、セシリアもすぐに理解した。
「この続きは、また改めてしますわ!!」
だが、言葉通りに解釈すると次があるらしい。折角の上昇気分が段々と下り坂になっていく。
ズンズンと床を踏み抜くように、セシリアは自分の席に戻っていった。
「俺も行くわ、一夏」
「ああ、わかった」
俺と璃里亜も自分の席へと戻った。もちろん、あの出席簿で叩かれたくないためだ。
さて、もうすぐ二時間目が開始される。
今度は織斑先生が担当するらしく、壇には彼女が立っている。
「おっと!忘れるとこだった。授業を始める前にクラス代表を決めておく」
クラス代表とは、再来週に行われるクラス対抗戦に出場する選手であり、同時にこのクラスのクラス長も兼任する。
その為、生徒会や委員会など、色々と駆り出されるポジションである。
絶対になりたくねぇ!
説明を聞き、一夏が思ったのはそれだった。
「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
「はい」
一人の生徒が手を上げた。立候補かと思われたがそうではなかった。
「織斑君を推薦します!」
「なっ……!?」
「私もそれがいいと思います」
「え……?」
「私も〜!」
「えぇ、何で俺っ!?」
「他には居ないか? いないなら、無投票当選だぞ?」
「はい、波大君を推薦します」
俺を推薦したのは、なんと璃里亜だった。
「私も~~」
次に手を挙げたのは、確か本音というのんびりした子だった。
他にも次々に同意の声が上がる。
「他には居ないか? いないなら、無投票当選だぞ?」
俺と一夏の気持ちはよそに次々と話が進んでいく。
「納得できませんわッ!!」
だが、それを遮って凛とした声が響いた。
「そんな選出は認められませんっ!」
セシリア・オルコットである。
「男がクラス代表だなんて、いい恥晒しですわ!! このセシリア・オルコットに、そんな屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
彼女はプライドが高い上、どうやら女尊男卑主義者のようだ。
そして彼女の怒りは止まらない。いよいよもってとんでもない所へ走りだした。
「大体、文化としても後進的なこんな国で暮らさなくてはいけない事自体、耐え難い屈辱だというのに……!!」
「……イギリスだって、大したお国自慢は無いだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ?」
流石にこれにはカチンときた一夏は、内心の怒りに任せて暴言を吐く。
「美味しい料理はたくさんありますわっ!!あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」
「その侮辱を先にやったのはお前だろうがっ!!」
それが更に、セシリアの怒りに油を注ぐ。売り言葉に買い言葉だ。
「決闘ですわ!!」
怒りを込めた指先を突きつけ、セシリアが叫ぶ。
「おぉ、いいぜ? 四の五の言うよりは、よっぽど分り易い!」
「私が勝ったらあなたを小間使い……いえ、奴隷にして差し上げますわ!!」
「好きにしろよ。で、ハンデはどのぐらいつける?」
「あら……早速、お願いかしら?」
それをハンデの申し入れと思ったのか、セシリアがフフンと鼻を鳴らした。
「”俺が”どのぐらい、ハンデをつければ良いかって事だよ」
「は……?」
一瞬の沈黙。
そして、クラス中が爆笑した。
「ちょっと織斑君、それ本気?」
「男が女より強いなんて……ISが出来る前の話だよ?」
「もしも男と女が戦争したら、三日持たないって言われてるのに」
次々に飛ぶ言葉。一夏はしまったと自分の迂闊な発言を後悔した。
「それはおかしいと思うけどな…………」
俺は誰にも気づかれない大きさで呟いた。
が──────。
「波大、どういうことだ、言ってみろ」
何故か織斑先生には聞こえたみたいだ。
続く───────────────────────────