───試合、開始!!
本日は晴天なり………。
今日はいよいよ学年トーナメント本番の日になった。朝からIS学園は騒がしく全生徒が慌ただしく準備をしていた。
という俺も成り行きというかなんというか生徒会の一員になっているので会長に連行されて書類の作業や一般生徒への指示だし、先生方の連携等を任されてしまい色々忙しかった。さらに力仕事などは殆どが俺に回されて試合前からくたばりそうな勢いだった……。
それらが終わった生徒達は皆、各アリーナへと移動していく。俺も男子専用となっているアリーナへと移動する。
俺と一夏とシャルルしかいないのに無駄に広いアリーナでは空虚な感覚を覚えてしまう。一夏とシャルルは悠々と使っているが女子達の方は窮屈そうに使っていることだろう。気の毒なことだ。
「しかし凄いなこりゃ………」
一夏は観客席を映し出しているモニターを見ている。
確かに一夏がそう言うのも頷ける。観客席は殆どが埋まっており来賓の人もたくさん来ており各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々のお偉いさん達が一同に会している。
名前は………殆ど分からない。
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」
「ふーん、ご苦労なことだ」
「ん?一夏、他人事のように言うことか?まぁ、そんなの関係なしに一夏にはチェックは入っていると思うぞ。なんたってあのプリュンヒルデの弟だし」
“プリュンヒルデ”とはIS操縦者の最強の証である称号である。それを持っているのは織斑先生なのだ。故に弟にも期待が寄りかかるというわけだ。本人からしたら迷惑なことだろうけど……。
「それはそれで嫌だな……」
いつもの反応とは少し違う一夏。興味がないのだろうかそれとも何か別のことを考えていて返事が曖昧になっているのだろうか………多分後者だろう。
「蒼星もなんじゃない?」
「俺の場合は何もないからな、ついで程度なんじゃないか」
「そうかな?」
「それも大した実力もない奴だから放っておけとか思ってるんじゃないのか」
「蒼星でそう言われるなら俺は一体どうなるんだよ!?」
「そうだよ、もう少しポジティブに考えたらいいよ」
俺はあまり考えずに言ったのだが二人はお気に召さなかったみたいだ。
「やっぱりスズーとセシリアは不参加か」
「………そうみたいだ」
話題を変えると一夏はすぐに顔を顰めながら頷く。
この前のラウラ戦で、二人のISのダメージが酷かったから辞退せざるを得なかったようだ。璃里亜はなんとか無事だったので今回は参加してある。というよりも意気揚々に学年トーナメントを楽しみにしていた。
話を戻して、普通の生徒ならいざ知らず、あの二人は国家代表候補生であり専用機持ちだから、今回のトーナメントが出れないどころか参加すら出来ないのは立場上として悪くなるだろう。
それはそうと璃里亜のタッグの相手は誰になったのか気になった俺は璃里亜に聞いてみたのだが本人は教えないと口をそれ以上開いてくれなかった。まあ、相手が誰であろうと善処するしかないがな────
「二人の分まで頑張りますか」
「そうだね、僕たちが頑張らないと」
「ああ………」
「でも一夏はボーデヴィッヒさんとの対決が気になるみたいだね」
「当然だ。売られた喧嘩で鈴とセシリアと璃里亜が怪我したんだ。その借りはキッチリ返す」
「その意気だけど、あくまで最近の訓練で身に付けたコンビネーションは付け焼き刃に近いからな。油断するなよ」
「おおう!分かってるよ」
「でも気を付けていこう。ボーデヴィッヒさんは1年の中で蒼星と同じくらいかそれ以上に強い筈だから」
「いやー…照れるねー…」
シャルルに褒められて俺はちょっと鼻が高くなった。
「ああ、わかってる」
俺のボケはスルーされてしまったが…何かこの二人、更に親しくなっている感じになっている。まぁ同室だから、今の二人は親友以上恋人未満と言ったところだろう。 尤も、シャルルとしては一夏の恋人になりたいと思っているんだろう。儚く遠い夢だが。
時折、一夏に恋する乙女のような視線を送ってる。俺でも遠くから見ても分かるほどに。
そんなシャルルに一夏は全く気付いていないけど。
逆に尊敬するに値する、一夏よ。
「さて、こっちの準備はできたぞ」
「僕も大丈夫だよ」
「よし」
一夏、シャルル、俺はISスーツへの着替えは済んでいる。一夏と俺はIS装着前の最終チェックをし、シャルルは男装用スーツの確認を終えた。
因みにシャルルのスーツはボディラインの肉付きを男のそれに見せる仕組みだそうだ。ISスーツって色々と便利な物だなとつくづく感じる。
「そろそろ対戦表が決まるはずだよね」
どう言う理由かは分からないが、突然のペア対戦への変更をされてから従来まで使用してたシステムが機能しなかったみたいだ。 本来であれば前日に出来ていたはずの対戦表が、今朝から生徒達が作っていた手作りの抽選クジで決める事になった。俺も少し手伝わされた………。
「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」
「え?二人ともどうして?」
一夏の台詞にシャルルが何故かと尋ねると、一夏が答える。
「待ち時間に色々考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。出たとこ勝負、思い切りのよさで行きたいだろ」
「ふふっ、そうかもね。僕だったら一番最初に手の内を晒すことになるから、ちょっと考えがマイナスに入っていたかも」
視野が広いシャルルらしい考えだと思う。確かに相手が先に手の内を見たら対策を立てられて逆に不利になる事もある。俺もそれに賛成だ。
それとは逆に一夏の方は単純だと思われるだろうが、別にそれはそれで間違っていない。下手に考えすぎて警戒して挑んだら、大して力を出せないまま負けると言うオチになる。まあ一夏らしいと言えば一夏らしいが……。
「俺は嫌だな……」
戦闘になると、どれだけ相手の情報を掴んで隙を突けるかが勝敗を分けると言っても過言ではない。故に俺はどうしても相手のことを何も知らずに立ち向かうと、どうしても引きぎみになってしまう。
「どうしてなんだ?」
「やっぱりいきなりは苦手意識を持ってしまうだよな…俺」
「へぇ~…そうなんだ」
シャルルは俺の発言が意外だったのか深く頷いている。俺は気にせずモニターを見ていると、さっきまで観客席が映っていた画面が切り替わった。
「あ、対戦相手が決まったみたい」
画面が変わった事にシャルルも気付き、一夏も食い入る様に見つめると、
「「────え?」」
「運命を感じるな」
出てきた文字を見て、一夏とシャルルは同時にぽかんとした声をあげ、俺は少し驚きながら声を上げた。
一回戦で一夏とシャルルの対戦相手がラウラそれに抽選で選ばれた箒だったからだ。
「で、俺はっと…………」
目線を横にずらしていき俺の名前がどこにあるかを探していく。
「あった、あった────って………マジかよ」
俺の名前はすぐ近くにあった。簪の名前も俺の隣にある。対戦相手は四組の生徒だったはずの名前が書かれていた。
さらにその隣には璃里亜の文字。
だとすると、ぶつかるのは一回戦を突破して二回戦目ということになる。するともう一人は……………。
「のほほんさんかよ」
そこには“布仏本音”の文字があった。あの二人は仲が良かったのもあってこういうのでも息が合うのだと璃里亜は考えたのであろう。確かにそっちの方が俺としてもやり易いし実力よりもそちらを選択したと思うが……なんというか簪もやりにくいだろう…自分のメイドが対戦相手だと一体どんな気持ちなんだろうかな…。
「蒼星は二回戦目が本番か」
「ああ……一夏頑張れよ」
「任しとけ、絶対に勝ってやる!」
一夏がそう宣言する。と、更衣室の扉が開いて一人の少女が入ってくる。
「波大君…迎えに来た…」
「簪ちゃん?どうしたんだ?」
「最後の仕上げをするからきてほしい…」
「そうだな…分かった、行くよ」
俺は一夏とシャルルに別れを告げて更衣室を後にした。
◇
「まさか一戦目で貴様と当たるとはな、織斑一夏。待つ手間が省けたというものだ」
「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」
アリーナのフィールドで相対する一夏とラウラ。隣にはそれぞれシャルルと箒が居た。試合開始のブザーが鳴る。
3…2…1…ビーーーーーーーーーーーー!
「「叩きのめす!!」」
一夏とラウラは同時に飛び出した。一夏は瞬間加速を使い、ラウラはその一夏を見て右手を出す。その動作でAICが来るのは分かっているが避けることは不可能と一夏は判断する。
「───開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」
「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」
「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」
ラウラがそう言った直後、シュヴァルツェア・レーゲンに装備されている大型カノンがガキンッと巨大なリボルバーの回転音が轟いた。
動きが完全に止まってる一夏に大型カノンが狙いを定める。これにより一夏の敗北は決まるが──────
「させないよ」
「ぐぅうっ…!」
「何…?!くっ────」
一夏が捕まった事でラウラの集中が逸れて射線が開きシャルルのラファール・リヴァイブⅡのマシンガンが火を吹く。ラウラは反応しきれず、被弾した直後にAICを発動しそれ以上の被弾を防ぐ。
「蒼星のいった通りに上手くいったな」
「うん、そうだね」
一旦距離を取った一夏はシャルルと通信を取り、気を抜かずにラウラを見る。
『まあ…一夏のことだから、ラウラ君は考えずに飛び込んで来ると思ってるだろな』
こう試合前蒼星に言われた一夏は少し心を痛めてしまった。
自分はそんなに単純なのかと自覚はないのだがシャルルも隣で頷いていた事によりショックを受ける。
『だからあえて、そうしろ。そうしてラウラ君を油断さした所にシャルルがどーん!と行く』
蒼星の作戦に特に異論はなかった二人。試してみた結果、確かにうまくいった。
「でえええい!」
一夏がラウラを横から強襲する。しかしその斬撃は箒の打鉄によって防がれる。
「私を忘れてもらっては困るな、一夏! 流石にボーデヴィッヒがやられるとマズイからな!」
「箒か!」
白式の雪平と打鉄の近接ブレードが火花を散らす。まだまだ試合はこれからだと一夏は改めて気を引き締める。
観客席の一角。璃里亜、本音、セシリア、鈴の4人が並んで席に座っていた。
「織斑君、わざとAICに捕まったのかな?それ気を背けて、その内にシャルル君の集中砲火を浴びせる作戦だったみたいだね」
璃里亜には一夏とシャルルの作戦は即座に理解する。
「それに分断することも出来ましたわね」
セシリアのいった通り試合の状況が変わった。ラウラと一夏がぶつかり合い、箒とシャルルが戦闘にそれぞれ入ったのだ。一夏とシャルルの次の作戦がこれに持ち込むことだった。
「箒ちゃんだと───」
「デュノアさんには勝てませんわね」
「そうだよね~。でもおりむーがその間にやられちゃったら」
「デュノアだけじゃ勝てないでしょうね。デュノアがどれだけ早く篠ノ之を倒せるかが勝負ね」
「箒ちゃんも頑張るとは思うけど、シャルル君相手じゃ箒ちゃんに勝ち目は無いと思う。いくら強くてもそれは剣道での話だし。ISを使う試合やシャルル君の様な射撃型、それも熟練相手じゃせいぜい時間稼ぎが限度だと思うよ」
「厳しい事言いますわね…」
「あはは………ソウ君のが移っちゃったのかな…」
冷静に試合の状況を解説していく4人。と、そこに蒼星と簪がやって来た。
「おー…一夏…頑張ってるね」
「蒼星さん。入らしたのですか?」
「おう。んで…一夏たちの方は順調か」
「なんであんたが言うのよ」
「一夏に作戦伝えたの俺だし」
蒼星があっけなく言ったことに少し驚くがやはり納得してしまう所もあった。あの一夏がそんな事は考えないだろうと鈴とセシリアは心のすみで思っていたが現実になってしまった。
「簪ちゃん、調整は済んだの?」
「大丈夫……最終仕上げは済んだ」
「そっかぁ…楽しみだね♪」
「ところで、そちらのかたは?」
「ん?あぁ…更識 簪って言うんだ。因みにリリーと同じ日本代表候補生」
「へぇ~…あんたが蒼星のパートナーなのね。私のことは鈴でいいわよ」
「わたくしはセシリア・オルコットですわ。セシリアとお呼びくださいませ」
「うん…よろしく……」
照れながらもどうにか返事を返す簪。だが少し嬉しそうだ。
「もうそろそろ現状が変わりそうだな。箒もそろそろ限界だろう。後は二人がAICの弱点を突きながらの戦法で勝てるはずだ」
部屋に居るときに会長からある程度のことは聞いていたので、弱点を推測するのは容易いことだった。
「弱点って言うと…集中の事…」
「そう。AICは相手の慣性を殺して拘束する機能だってな。だけど使用する場合相手に集中して発動しなきゃ駄目だ。1対1じゃ無敵に成りえるが今回はタッグ戦、今の様に分断されている間に1人削らないと不利になるのが目に見えている」
「もう分断されてる時点で勝負は決まっているんだね」
「だといいがな………」
璃里亜の言う通りに進むと一夏達が勝利を収めるだろう。だが蒼星には嫌な胸騒ぎがして落ち着かなかった。
気のせいだと思いたい蒼星だが前の無人機の襲来もあり最後まで油断できない。
箒を戦闘不能に追い込んだシャルルは即座に一夏の援護へと向かう。
「残念だったな」
「くっ!」
「限界までシールドエネルギーを消耗してはもう戦えまい!あと1撃でも入れば私の勝ちだ!」
「やらせないよ!」
「邪魔だ!」
ラウラが一夏に止めを刺そうとするがシャルルが妨害する。しかしラウラは4本のワイヤーで牽制して一夏への斬撃を止めない。
「うぁ!」
「シャルル!くっ!」
「次は貴様だ!落ちろ!」
「ぐあっ…!」
「は、ははっ!手こずらせて!私の勝ちだ!」
「まだ終わってないよ!」
ラウラが一夏と白式が脱力するのを見て勝利宣言をするが、シャルルが瞬間加速を使いラウラを強襲する。ラウラは思わず目を見開く。
「な、瞬間加速だと!?データでは…」
「使って無かった?当然だよ、今初めて使ったからね」
「なんだと…!まさか、この戦いで覚えたというのか!?」
「データに頼り過ぎだよ!」
「ふっ…だが私の停止結界の前では無力!」
ラウラがシャルルに対してAICを発動させようとする……。
───しかし寸での所でラウラの予想していない所から射撃が叩き込まれる。ラウラが銃撃の元を見ると、一夏が以前訓練の時使っていた55口径アサルトライフル『ヴェント』を構えて不敵に笑っていた。
「これならAICは使えないだろ!」
「この…死に損ないがぁ!」
一夏は最後の作戦通りに進み思わず笑みを浮かべる。これを思い付いたのも蒼星の一言だった。
『一夏、たまには射撃でもしろよ』
白式には射撃装備がないので蒼星の言うことは出来なかった。しかしシャルルから教えてもらった許可を出してもらえば他の機体から装備を使えることが出来るのでこの作戦も決行することにしたのだ。
「でも、間合いに入る事は出来た」
「それが、どうしたぁ!第2世代型の攻撃力では、このシュヴァルツェア・レーゲンを落とす事など………!」
「この距離なら、外さない…!」
シャルルはラウラの目を見ながらほぼ零距離で盾の表面装甲を強制
ここに来てようやくラウラに焦りの表情が浮かぶ。
盾殺しは単純な攻撃力では第2世代最強武器と言われており、その威力は第3世代に引けを取らない化け物級の装備である。
「「おおおお!」」
シャルルとラウラの声と影が重なる。お互いに相手に近接武器を当てようと交錯。だがラウラの悪足掻きもむなしく意味なく終わってしまう。
「ぐうぅっ…!」
盾殺しの杭がラウラの腹部に叩きつけられ、パイルバンカーとしての効果を発揮する。リボルバー機構により何度も零距離から強力な衝撃を与え内部に無視出来ないダメージを与えていく。
あと少しでラウラを倒せるという所で異変が起きた。
「あああああああぁぁっっ!!」
ラウラは悲鳴をあげた。
(私はあいつに負けるのか……)
ラウラの脳裏にその言葉がよぎる。一夏に負けるということ。ラウラにとって織斑先生とはいつも厳しく凛々しく堂々としている教官だった。
故にその表情と、そんな表情をさせる一夏の存在が許せなかった。認められなかった。それにもう一人の男にもいまだに戦うことすら出来ていない。
『───願うか……?汝、力を欲するか……?』
突然ラウラの頭の中から何かが呟くのを聞こえた。
それを聞いた事にラウラは何の疑問も抱かずにこう答える。
(言うまでもない。力があるのなら、奴を倒す力を得られるのなら、私の全てをくれてやる!だから、力を……比類なき最強を、唯一無二の絶対を───織斑一夏を倒す力を私によこせ!!)
次の瞬間ラウラに異変が起きた───
続く──────────────────────────────
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