───では、スタート!!
「なんで…あたるんだよ!おい!」
俺の予感の鋭さに少しイラつきを感じてしまうが今はそれどころではない。
他の人には分かりにくいがラウラに異変が起きた。今回の問題は外部ではなく内部から来るとは予想もしていなかった。
だが今から応援に行ってもギリギリ間に合うだろう。試合中だが、異常事態にとやかく言っていられる暇はない。
そう結論付けた俺はその場を勢いよく立つ。
「なみむー、どうしたの?」
「あ!ソウ君、どこ行くのー」
俺はそそくさと現場に向かうのであった。
『非常事態発生!トーナメントの全試合は現時刻をもって中止!状況をレベルDと断定、鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓及び生徒はすぐに避難すること!繰り返す!来賓及び生徒は───』
そんな放送が俺の耳に入る。
走りながらなのではっきりとは聞こえにくいが今のが避難を呼び掛ける放送だろう。
気になることはあの謎のISが持っていた武器に見覚えがあった。というよりあれは一夏の主要武器“雪片”に酷似しているのだ。もし、同一の雪片の“零落白夜”はシールドエネルギーを喰らう。
そしてISを斬れば絶対防御に同化し強制的にエネルギーを減らすことになる。
しかしその実態はどう抗ってもエネルギーによる刃、つまり複雑な原理の入ったビームサーベルである。そんな物で斬られれば人は傷付けられるしかない。故に危険物すれすれの代物だ。
今のISにエネルギーが無い一夏、シャルル、箒の3人は自然と危険な状況に入っている。俺の思考は最悪な状況も想定する必要があった
◇
「ぐぅぅ……ぁああああああアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ラウラの絶叫が走る。一夏の渾身の一撃を阻むようにして、閃光と雷光が迸った。
「くぅぅ………っ!?」
雪片の切っ先が弾かれ、一夏の進撃も止まる。それどころか、白式は大きく弾かれてしまった。
「一夏、一旦離れて!!」
「くそっ……!!」
何が起きているのか分からず、一夏はそのまま間合いを取り直した。
その目の前で、シュヴァルツェア・レーゲンは見るも無惨に形を失い───そして新たな形に生まれ変わる。ラウラは銀色の液体の様なものに覆われ見えなくなった。ISごとその銀色に包まれると一気にその姿を変えていく。
生まれたのは───その手に世界最強の刃を携えた、漆黒のIS。
「あれは……まさか!?」
黒いISが装備していたのは“雪片”だった。織斑先生の使用していた武器であり一夏の先代となる武器でもある。
「───ッ!!」
一夏は戸惑いと、それ以上の怒りを込めて雪片弐型を構えた。
直後に黒いISは一足で踏み込み、中腰から居合に見立てた繰り出された一撃を放つ。
それは、織斑千冬の太刀筋そのものだった。
「グッ!!」
構えた雪片が弾かれる。がら空きにされた懐目掛けて、黒いISは上段に刃を構えた。
「ちぃっ!!」
一夏は即座に緊急回避。唐竹に振り下ろされた一閃は、僅かに胸部のIS装甲を斬り裂く。
「くそっ……! 何でこいつ……ッ!!」
憤りと戸惑いと、混乱しグシャグシャになった頭で、それだけを何とか吐き出す。
「この野郎ぉぉぉ!! 千冬姉の真似してんじゃねぇぇ~!!」
「一夏ぁ!?」
一夏は黒いISに攻撃を仕掛けようとしていた。黒いISはターゲットを一夏に変えて迎撃しようとする。
「───!」
「ぐうっ!」
一夏の攻撃も空しく、黒いISはあっと言う間に雪片を弾いた。そして相手はそのまま上段の構えと移って、一夏に止めを差そうとする。
───すると。
「やらせるかっ!」
その間に巨大な剣が立ち塞がる。一夏には見慣れた剣がそこにあった
「大丈夫か、一夏?」
「蒼星…助かった…」
麒麟を展開した蒼星がムーンテライトを構えたまま後ろを振り向かず確認を取る。黒いISの攻撃を受け止めている蒼星だがその表情は珍しく曇っている。
一夏は一旦その場を退く。あのままいれば蒼星の戦闘に巻き込まれる可能性が高いと今までの付き合いから分かっていたからだ。が────
「んなっ!白式がっ!」
光と共に一夏のISが解除されてしまったのだ。
「一夏っ!白式が使えない以上、ここは俺に任せて、お前はすぐにシャルルを連れて避難しろ!」
「………がどうした……」
「え?」
「それがどうしたああっ!」
「ちょっ!お前何をしようとしてるんだよ!?」
黒いISの攻撃を流して同じように一度退いた蒼星は早くシャルルと箒を連れて避難するように促すが一夏はそんなことはしなかった。一夏にとって黒いISは自分が倒さないといけない相手だと頭が回らないのだ。
「仕方ない…」
《ユカ…エネギア展開頼む》
《分かったよー、パパ》
エネギアを展開した蒼星は生身のまま襲いかかろうとしている一夏の進路を阻むようにエネギアを動かす。
電流をバチバチ流して通ろうとするば危険だと思わせて動きを止める。
「やめろ!蒼星!」
「うっさいな。今のお前には何も出来ないだろ!」
「関係ねぇ!あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」
「落ち着け!このあほ!」
「あほって何だ!どかないんなら蒼星も──」
「黙れ───」
「──!!」
一夏は思わず言葉を止めてしまう。怒る素振りをまったく見せなかった蒼星からとんでもない黒いオーラが出ている。一夏には感じたことのない威圧感だ。
「冷静になったか……」
「あ、ああ……」
怒りは何処かへと飛んでいってしまったやら一夏は落ち着きを取り戻す。蒼星もいつもの雰囲気に元通りになっていた。
「そんなに織斑先生のISに姿が似ているのが気に入らないのか?」
「違う。あいつ……あれは、千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」
どうやら一夏は姿形より織斑先生のデータを利用してる事が気に入らなかったみたいだ。
「ほほー………一夏、他にあるよね」
「なんで分かるんだよ……確かにある。あんな、わけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねえと気がすまねえ」
「へぇー」
一夏が言った理由に蒼星は少し感心気味に声を上げる。
確かにラウラが使ってるあの力は、蒼星から見ても強いとは言えないと思えた。ただ単にIS任せだけの力で、操縦者自身の力ではない。そう感じられた。
「とにかく、俺はあいつをぶん殴るぞ。そのためにはまず正気に戻してからだ。止めないでくれよ、蒼星」
「……それはいい。けどな、今のお前に何が出来るんだ?白式のエネルギーが殆ど無い状態で、一体どうやって戦うつもりだ?もし、生身で戦いに行った所で、何も出来ずに負けるのが見え見えだ。ましてや、殺される場合だってあるんだぞ」
「ぐっ……」
蒼星の指摘に何も言えない一夏。黒いISは微動だにしていない。
何故かは分からないが都合がいいと蒼星は思う。
「もうすぐ教師陣の援護も来る。一夏がやる必要はまったく無くなるわけだが、俺はそれまでの時間稼ぎでもするが───」
「それでも、俺はやらなくてはならないんだ!!!」
蒼星の台詞を遮り、一夏は自分の決意を口に出す。
蒼星からしてみれば、ただのわがままな子供にしか思えなかった。
「いい加減にしろよ。はっきり言って今の一夏は無用だ。早くシャルルとここを離れろよ」
「蒼星君、ちょっといいかな?」
シャルルが二人の会話に入り込んできた。
「僕のリヴァイヴのエネルギーを白式に送ることが出来るはずだよ」
「本当か!?シャルル!?」
「落ち着け一夏。シャルル、そういうことなら、早速だが頼む」
「うん、任せて」
シャルルは早速、一夏の白式にエネルギーを供給する準備を始めた。
エネルギーを送ることが出来る技術は確か、相当なものだったはずだ。それが可能なのもシャルルがIS操縦者の熟練者ということになるからだ。
「箒、一つ頼みがある」
「蒼星、私は何をすればいいのだ?」
「箒には一夏の突っ込むタイミングの合図だ。あと一夏がたくさん、それについて聞いてくるから答えてくれるか?」
「ああ、分かった…」
「蒼星はどうするつもりだ?」
「動きを止める」
確実に一夏の一撃必殺を決めるにはあの黒いISの動きを制限する必要がある。
故にその役を引き受けるのは蒼星しかいない。
「一夏、無駄な心配だと思うが負けんなよ。そうだな……負けたら明日から女子生徒の制服で通うに決定だからな」
「なっ……分かってる。ここまで言って負けるとか男じゃなくなるからな」
完全に今ので、一夏が万が一負けることになれば一夏の後が終わることになる 。
シャルルからのエネルギーの受け渡しが終わったみたいで一夏は白式を展開してみる。
だが、まだ足りないみたいで展開出来たのは右腕装甲のみだった。
「よし、行くか」
「ああ……こっちは準備完了だ」
一夏の右手に握り締めた雪片が意思に呼応するかのように刀身が開いた。
「零落白夜───発動」
その台詞を言った直後に発動し、全てのエネルギーを消し去る刃が本来の刃の二倍近い長さに展開された。
一夏が意識を集中するように目を閉じると、さっきまで無駄にあった刃の長さがドンドンと短く細くなるが、逆に鋭さが増していった。
蒼星はそれを確認したのち頷くと黒いISへと接近。
相手は剣を上から振るって蒼星に襲いかかる。蒼星はムーンテライトを迎え撃つように下から上へと持ち上げた。
二つの剣が交差して、金属音が発生する。
───重い。だが、いける。
小競り合いのなか、蒼星は相手の剣をどうにか横へと反らし、その影響で相手の体勢がずれる。その瞬間、思いっきり自分の大剣を横一線へと振るった。
弾かれた剣は手から離れなかったものの、大きな隙を産み出した。けれど、蒼星も反動ですぐには動けない。
問題はない。止めは自分がする必要はないのだ。
「一夏!今だ!」
蒼星の合図する前に動き出していた一夏は真っ直ぐ相手を断ち斬った。
「やった!」
シャルルが歓喜の声を上げる。
黒いISが一夏によって真っ二つに割れると、割れた中からラウラが出てきた。
いつも付けていた眼帯が外れて、露わになった金色の左目を右目と共に一夏を見ている。
ラウラは酷く衰弱しきっている様子で、すぐに力を失って体勢を崩して倒れそうになるところを一夏が抱きかかえた。
その後は、非常事態警戒が解かれて遅れてやって来た教師陣がすぐにラウラを医務室へと連れて行くのであった。
◇
「ぅ………うぅ……」
意識が覚醒してきた。上半身をベッドから起こし辺りを見回す。
どうやら、ここは保健室のようだ。
だが、自分は何故ここにいるのだ?とラウラは疑問に思った。
が、その瞬間先程までの記憶が甦るように脳裏に流れ込んできた。
自分は何かに飲み込まれてしまい、その後は記憶が飛んでいることも。
「気がついたようだな、ボーデヴィッヒ」
すると、ベッドの周りを囲うカーテンが開けられて、織斑先生が入ってきた。
「きょ、教官」
「医者の話では全身に軽い打撲をしているようだ。しばらくは痛みに耐えることだな」
「…………」
織斑先生は近くにあったイスを引き寄せると、それに座った。
「い、一体…な、何があったのですか?」
「一応機密事項なのだがな…VTシステムは知っているな」
「は、はい。ヴァルキリートレースシステムですね。し、しかし、あれはもう無いはずでは?」
「そうだ。アラスカ条約によって使用はおろか、研究、開発が禁止にされている代物だ。そうであればもう無いものだが、それがお前のISに組み込まれていた」
「………」
ラウラは無言になった。織斑先生もそんなラウラの様子を黙って見つめていた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はい!」
突然呼ばれたことに驚いたラウラは声が上らいでしまった。
「お前は誰だ?」
「私は……」
再び訪れた静寂。数秒後、織斑先生は口を開く。
「誰でもないのならちょうどいい。お前は今から、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』になるがいい。何、時間は山の様にあるぞ。なにせ3年間はこの学園に在籍しなければならないからな。その後も、まぁ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」
「あ………」
織斑先生の言葉にラウラは衝撃を受けた。
あの鬼教官が励ましてくれるとは微塵も思っていなかったからだ。
「なんだ?私が言うのがそんなに不服か?」
「い、いえ!」
「冗談だ。はは」
ラウラの素直な反応に織斑先生は軽く笑みを浮かべる。
「………教官、一つお尋ねしたいことがあります」
「先生と呼べと言っただろ。───まあ、いい。何が知りたい」
「あのもう一人の男性操縦者についてです」
「波大 蒼星のことか」
「はい、あの男は何者なんですか?」
あの男からは自分には理解しがたい何かを感じた。
まるで命懸けの死闘を繰り広げた後のオーラが見られた。
はっきりと感じたのはあの男と対峙したときだ。
それは今までに感じたことのなかったものだった。一般人から見れば他の人となんらかわりないと思うほどの小さなものだったが、ラウラは軍人からなのか感じた。
「あいつのことは私にも分からん。ただ、あいつは強い」
「強いですか………」
「ああ。あいつの剣には重さがある」
「それは……?」
「私でも本気で行かないと足元を掬われるだろうな」
「な……教官が!?」
つまり、あいつには相当の実力が備わっているということになる。
それにあいつはそれを出さずに隠蔽している。
一体、何がしたいのか。ただ、単に力を隠しているだけなのだろうか。
「波大……蒼星……」
ラウラはこの時一つの決断をしたのだった。
◇
「そういえば、学年トーナメントはどうなるんだ?」
「ん~。中止だって~。でも、データは取りたいみたいだから一回戦はやるみたいだよ~」
「へぇーそうなんだ」
食堂で和風定食を食べている蒼星の疑問に答えたのは蒼星の目の前に座って食べている本音だった。
その本音の隣には何故か無茶苦茶落ち込んでいる璃里亜の姿が見られた。
一夏とシャルルはまだ教師達による事情聴取が続いているみたいだ。蒼星は担当が織斑先生だったので軽く話をするだけで終わった。
テーブルにいるのは璃里亜と本音と蒼星の三人。他の専用機持ち達は皆、何らかの報告とかがあるみたいで食堂に来ていない。
「リリー、どうしたんだ?さっきから?」
「う……………」
蒼星には璃里亜の落ち込んでいる理由が分からなかった。
落ち込みだしたのは食堂で会ったときにはもうなっていたから、その前だということになる。となると考えられるのは、やはり学年トーナメントに関することだと思われるが…………。
「あ……」
そこまで考えて蒼星の頭にある一つの答えが出てきた。
「もしかして……あの約束のことか?」
簪とパートナーを組んだことで機嫌を悪く出した璃里亜に出した条件が───
『俺に勝てたら一日俺のこと自由にしてやるから』
あの時は後になったらどうにかなるだろうと浅ましい気持ちで言ってしまった。
けど、学年トーナメントは一回戦しかしない。蒼星と璃里亜が当たるのは二回戦なのだ。つまり戦えない。
そのことで璃里亜は残念がっているんだと思われる。
「うん……もう…あの約束は無効なんだね……」
「わぁ~、ソウ君が女の子泣かした~」
「いやいや、何もしてないから」
そこまでされると、男としてどうかと思うがしょうがない。
蒼星はため息をついてしょうがなく言う。
「今度、遊びに行くか」
「え!?本当!?」
相当どこかに一緒に行きたいらしく、蒼星の一言に即様食いついた璃里亜。
本音は微笑ましそうに眺めている。
「もうすぐ臨海学校もあるし、水着とか買いにいかないとな」
「やったー!」
機嫌を良くした璃里亜は喜びのあまり、立ち上がってしまった。周りからの注目を浴びてしまい璃里亜は顔を赤くしながら席に座る。
「何してるんだよ」
「だって………///」
上目使いで蒼星の方を見る璃里亜にそれ以上何も言えなくなってしまった。
「あ!いました。波大君。こんなところにいたんですね。探しましたよ」
そう言いながらやって来たのは山田先生だった。
相当探していたらしく少し息が切れていた。
「どうしたんです?もしかしてまだ事情聴取が終わってないとか?」
「いえいえ、そうじゃないです。なんと!朗報です。波大君!」
ガッツポーズをしてくる山田先生。
「なんとですね。遂に遂に男子の大浴場の使用が解禁です!」
「あ、そですか」
素っ気なく答えた蒼星に山田先生は意外そうな顔をした。
「あ、あれれ……おかしいですね?織斑君は喜んでいましたのに……はぅ」
オーバーリアクション気味に言ったことに今更羞恥心を感じたのか山田先生がだんだんと小さくなっていく。
お風呂と言われてもそれほどこだわりがない蒼星。
一夏には同じ部屋の時に散々風呂に入りたいという話をされてきたので一夏のお風呂好きはいやというほど知っている。
だが、蒼星は別にお風呂は嫌いではないがそこまでして入りたくはない。
これでも日本人だ。
まあ、折角なんで蒼星は後で入ることにした。
「何で大浴場が解禁になったんですか?」
若干涙目になっておろおろしている山田先生に聞いたのは璃里亜だ。
いきなり男子が使えるようになったと思うと疑問に思うところもあるのだろう。
「え、えーっとですねー。本来なら昨日が大浴場のボイラー点検だったのですが業者の手違いで今日、点検になったのですよ。それで点検は既に終わりましたので、それなら男子の三人に使ってもらおうっていう上層部の粋な計らいってやつなんですよー」
「山田先生、俺は後から入るので先に一夏に入るように言っておいてください」
「あ、はい。分かりました」
そういえばシャルルが風呂に入るとか、色んな意味でやばくなる。
まあ、一夏がどうにかするだろうと任せることにした。
その後は蒼星は部屋に戻るのだった。
続く───────────────────────────────
感想、誤字脱字の指摘などお待ちしてま~す。