───ス、スタート!!
「さあ、行こうか………」
決まり文句に近いものを呟きながら、俺はいきなり“電子粒砲”を具現化さして、構える。
この電子粒砲には2つの攻撃手段が存在する。一つは、エネルギー弾として放つこと。電力消費が少ないまま、攻撃することが可能である。連続で続けることも出来る。そして、もう片方がレーザー砲として放つことだ。これは電気の消費が激しい代わりに命中すれば、確実に相手の機動力を落とすことが出来る。
今回、俺が選んだのはレーザーの方だ。
接近戦に持ってくると思っていた箒は俺の行動に驚く。さらに砲門からエネルギーが貯まっている証拠の漏れ光が出ていることからいち早くその場から動いた。
その瞬間、箒がいた空間をレーザーが突き刺さる。避けられてしまったようだが、少し紅椿に接触した反応が出た。だが、これだけでは、レーザー砲本来の特徴によって紅椿の動きの低下は期待出来ないだろう。
追撃したいのはやまやまだが、連発は難しい。何故ならレーザー砲は現状で2発が限界だからだ。さらに電気を生成するエネルギアも再び撃てるようにするにはレーザー砲一発につき、10分ほど時間がかかる。多用はあまり出来ない。
電子粒砲をしまい、代わりにムーンテライトを両手で掴んで構える。
箒が自慢のスラスターを吹かして、急接近して切りかかってくる。それを俺は大剣で防御する。上からの大振りなので、剣で防ぐのは容易い。
「っ!やはり、凄いな」
「そうか?それはそうと、気を付けた方がいいぞ?」
「───っ!あれか!」
笑みを浮かべた俺の考えを読んだのか、箒は距離をとる。箒が考えたのは電撃による一時的な機能の低下の回避。つまり、エネギアのエネルギー弾を警戒したのは正しい。もう既にエネギアは俺の周りに浮かんでいるのだから。
「いつの間に………」
「最初の不意打ちのときにね」
レーザー砲を放つと同時にエネギアも出しておき、体制を万全にしておく。
それにしても、紅椿はやはり、他の機体とは違って速い。今のも予想より少し速く箒が攻撃してきたので、危ない所だった。
「んじゃ、こっちからも行くかなぁ!」
俺はスラスターを使って箒に大剣を振りかざす。
箒は後ろへと避けようとしているつもりだが、甘い。一撃目は宙を切るが、勢いで俺自身が一回転。縦斬りから水平斬りへと切り替える。
箒の左肩辺りに延びた大剣。それでも、箒はどうにか剣で対応しようとしてくる。
が、箒は刀に対して、俺は大剣だ。重さが違う。ましてや、今の大剣には一撃目から繋げた分の勢いが追加されている。
ぐっ!と奥歯を噛み締めた箒だが、大剣の重さに耐えきれずに吹き飛ばされた。
「これなら、どうだ!」
体勢を戻した箒は右手に構えていた刀“天月”を振る。弾丸のようなエネルギー弾が出現してこちらに襲い掛かってくる。初見では対応が遅れていたと思うが、1度遠目とはいえ見ている。
───全て撃ち落せば良い。
エネギアによる電撃弾で相討ちを狙って負けじとこちらも放つ。小爆発が幾つも発生し、爆発で生じた煙により箒の姿が視認できなくなった。
すると、第二波が襲ってきた。
向こうも俺の位置を完全に把握していないのか、少しずれているがそれでも何個かは命中するだろう。
俺はあくまでも冷静だった。
箒のエネルギー弾の速度は確認済みで、あとはタイミングさえぴったりになれば確実に斬れる。
瞬時に計算されたデータによると、確実に機体に当たるのは3つ。当たる箇所も想定してもらい必要最低限の動きが出来るようにする。
まず、ムーンテライトを右肩から左斜め下に斬り、続けざまに水平斬り、最後に縦に振る。ダメージは麒麟に通ってはいないようだ。
《パパ、ビットを確認したよ》
ユカの通信が入る。
ビットを紅椿に搭載していたとは知らなかった。爆発による煙で未だに視界は悪いままだが、センサーによる箒の居場所は特定できる。
ユカの言うとおり、2機のビットの動きが確認された。
そして、箒がまた刀を振りかざすのも同時に確認した。今のは左手───“空裂”による帯状のレーザーによる攻撃だ。
今度もムーンテライトで対応しようとするが、想像以上の大きさに大剣の振り方が合わない。
咄嗟に回避に変更するが、それでも少し機体にかすってしまった。
「ようやく、一発目だな」
「まだまだこれからだろう?」
ようやく煙が晴れて、お互いの姿がはっきりと確認する。箒の周りにはビットが浮いていた。対する麒麟の周りにも多数のエネギアが円を描くようにして動きながら浮いている。
軽口を叩いてみるが、箒は俺にかすったとは言え攻撃を当てれたことに舞い上がっている様子なのであまり意味はない。
あの慢心さはどうにか改善すべきだ。
「次はもっと本気でいく!」
「………」
箒は両手の刀を輝かせ、さらにビットもこちらへと向ける。
多数によるごり押しで攻めるつもりなのか。だったら、こちらもそれなりに順応さしてもらうしかない。
今度は完全に避けることに集中する。
「っ!全てかわされるのか!」
箒はそれでも、懲りずに攻撃を仕掛けてくる。ここは作戦を変更すべきなのに、冷静ではないかのか、それとも………。
《ユカ、充電率はどのくらいだ?》
《う~ん、83%越えたところだよ》
《よし、もうそろそろ行くか》
《了解でやっさぁー》
だから、どこでそんな言葉を覚えてくるんだよと内心、苦笑しながらも箒の隙を伺う。狙うのは疲れで攻撃が止む瞬間。
───今だ。
「───っ!」
結果、瞬間的に箒に接近戦を持ちかけることに成功する。ここまで行けば、後は俺の領域だ。
だが、今回はあえて隙を作って箒の行動を確かめさせてもらう。ここで、俺の考えが正しいと狙ってくるはずだ。
わざと距離をとると箒がそこを突いてきた。
「今だぁ!」
「………やっぱりか」
左手に握る空裂からエネルギーの斬撃が襲い掛かってくる。この行動に俺は確信したと同時に悲観した。
箒は紅椿の性能に頼りすぎている。その反面、自身では完全に制御できずに逆に自分がもてあそばれているとも気づいていない。普通、相手に効かないと判断すれば少しはやり方を変えるのだが、箒の場合は強引に変えずに押しきった。それは紅椿の性能に自信を持ちすぎているからだ。
今度は確実に避けようと、動こうとするがユカの慌てた通信が入る。
《パパ!後ろに皆が!》
「はあ!?嘘だろ!?」
背後には海岸があり、ここからでも皆が俺と箒の試合を見ていることが分かる。
このまま避けてしまうと、皆に被害が及んでしまう。それだけは駄目だ。箒はこの事態には気づいていないのか!?
自分の位置取りの失態に奥歯を噛み締めると同時にユカにある指示を出した。躊躇している暇はない。
《ユカ!あれを展開だ!》
《うん!》
───次の瞬間、爆発が俺を大きく包んだ。
その頃、海岸でも動揺が走っていた。一夏もその一人である。
「当たったのでしょか!?」
「今のは確実に蒼星に命中したわよ!」
セシリアと鈴も同じような反応を見せる。あの回避と剣術が飛び抜けている蒼星が被弾したのだ。驚くのも無理はない。
「ねぇ、僕には蒼星が避けようとしたように見えたんだけど………」
「あぁ………私もだ」
シャルロットとラウラは気付いていた。避ける素振りを見せていた蒼星に。だが、それをしなかったことに疑問が上がる。
一夏は隣の千冬へと視線を向けた。彼女は微動だに狼狽えた様子はない。隣の束も自身の妹が攻撃を与えたのに反応は薄い。
そして、一夏は一番慌てそうな離里亜、それに簪へと視線を向けた。
簪は今にも飛び出しそうな勢いになっている。それを離里亜が止めているとよく分からないことになっていた。
「かんちゃん、大丈夫だって」
「う、うん」
簪の慌てようは異常とも取れるほどだった。そんなに蒼星のことを気にかけているのだろうか。
「あいつ、わざと受けたな」
「千ふ───織斑先生、どういうことですか?」
危うくいつもの癖で出そうになったが、どうにか喉の奥で止める。
「今頃、あいつが避けていたらどうなっていた?」
「………?」
質問の意図が読み取れない一夏。シャルロットとラウラはそれで理解したらしく、頷いていた。
呆れ口調で答えたのは離里亜だった。
「織斑君、分からないの?いまの箒ちゃんの攻撃のことだよ」
ここで、鈴とセシリアもようやく理解する。そうなると、蒼星の不可解な行動も納得できる。
「だからなのね」
「箒さんは………?」
「目の前に集中して気づいていないようだね」
「………蒼星君は大丈夫でしょうか?」
「あぁ………本来は避けるはずだったのだが、気付いてしまって仕方なくだろうな。それでも兄様のことだから大丈夫だろう」
「どういうことだ?」
唯一分かっていない一夏が尋ねる。
「兄様が避けてなかったら、どうなっていた?」
「箒の放った斬撃が私たちのほうに来てるのよ」
「───っ!だからなのか!」
「ソウ君のお陰で私達は助けられたんだよ。かんちゃんもその事に気づいてISを展開しようとしたんだよね?」
「はい………そうです」
簪の慌てようにもこれで、説明がつく。
そうなると蒼星はわざと攻撃を受けないといけない事態に陥ったことになる。
いつの間にか蒼星に救われたことに一夏は唖然とする。
蒼星の容態はどうなっているのかと一同は視線を元に戻す。そこには有り得ないものが鎮座していた。
「あれは………盾………でしょうか?」
セシリアも自信がないのか曖昧になってしまう。無理もない。盾にしては形がいびつなのだ。
所々くぼみらしきものが見えるし、特に問題なのが盾自体が巨大過ぎる。あれでは構えていると敵の動きが見えない。
「なみむー、使い道ないって言ってたのに~」
「………本音、どういうこと?」
「大きすぎて持てないって言ってたよ~」
「でも、持ってるじゃない」
こちらからは蒼星の背中しか見えないので、巨大盾はあまり見えない。彼が盾を持っているように見えるのだ。
「え!?浮いていますわ!」
セシリアが驚愕の声を上げる。
巨大盾が蒼星の背中に移動したのだ。しかも勝手に。本人が操作しているものだろうと思われるが、それにしても違和感が満載だ。
離里亜だけが詳細を知っているようで、皆の疑惑に答えた。
「エネギアを嵌めてるんだよ」
「あ!だから操れるんだね」
「なるほど、それであの大きさでも平気なのか。いや、あれほどではないと出来ないのか?」
あのくぼみにはちょうどエネギアが嵌まるほどの物だった。そういう仕様だろうか。あんなに巨大になるのも理由がありそうだ。
「私の両親が遊び気分で作ったって言ってたから、デタラメらしいよ………あれ」
苦笑いした離里亜の台詞を聞いた後、再び視線を試合に戻したのだった。
“ヴォルスシールド”はとてつもない大きさを誇る盾であり、さらに取っ手がないという、普通だと持つことさえ不可能とされる装備である。つまり、まったく使えない失敗作である。
だが、俺はある窪みの存在に気付くと同時にある使い道の可能性が脳裏に浮かんだ。そうなると、取っ手なんて不要となるのでないかと思った。
この窪みはエネギアとぴったり同じサイズなのだ。もしや、エネギアをここに嵌めてみればどうなるのか。
一か八かの賭けに出るつもりはなかったのだが、とやかく言ってる暇がなかったのでヴォルスシールドを展開して即座にエネギアをくぼみに嵌めた。
結論から言うと、俺の考えは正しかった。
ちょうどエネギアが嵌まり、歪な形の盾も六角形へと変貌。さらにエネギアから電流を流すことで盾本体から磁力が発生してエネギアを一切離さないのだ。
この仕組みは電磁石の応用だろう。
ハイパーセンサーで箒を見てみると、彼女は面を食らったような表情をしていた。まあ………初見なので普通の反応だろう。
「な、なんなのだ………それは!?」
「見ての通りだろうよ。………まあ、遊び心満載だけどな」
俺は苦笑すると同時に離里亜の両親に尊敬の念を祈る。
他の機体にとっては、巨大で、持つことが出来ない鬱陶しいこと極まりない代物なのだが、麒麟にとってはありがたい物だった。何故ならこれは麒麟しか使えない盾なのだから。
俺専用と書かれたあの貼り紙もそんな意図があったのだろうか。………いや、多分それはあまり関係ないだろう。
頭で意識することで操作できるヴォルスシールドは応用性が増す。それに両手も空いているのだ。盾などは片手などが塞がるのが大抵だが、これはそんな理屈を底からひっくり返す。
データによると、これは主に実弾などを防ぐ物らしい。麒麟はエネルギー兵器がほとんどだったので、これは戦闘を有利に進められる。
「箒」
「何だ?」
「………いや、何でもない」
箒には自身で気づいてもらいたい。そんな気持ちから俺は黙っておくことにした。
ヴォルスシールドの配置を変える。
「さて、今のは攻撃は当たってないから無効だよな」
「あ………あぁ」
箒が曖昧な返事をしている間にヴォルスシールドを背中辺りへと場所を変える。エネルギアを防御するためだ。エネルギアは麒麟にとって第二の心臓と言っても過言ではないので、こうして守るのは当たり前なのだ。
「ほら、まだ本番はこれからだ!」
「っ!!」
大剣を握り締め直して、箒に襲い掛かる。流石の2回目は防がれる。箒の2本の刀と俺のムーンテライトがぶつかり合い火花を散らす。
箒は苦悶の表情を浮かべた。対する俺は余裕の表情だ。
「はぁぁぁああああ!!」
気合いのかけ声と共に箒の大剣を押してくる力が増してくる。その力を利用して俺は一気に力を抜いた。箒が体勢を崩す素振りを見せる。
「そう来ると思っていたぞ!!」
「そうかい!なら!!」
反撃とばかりに箒が刀を振りかざす。が、それを受け止めたのは俺ではない。
「っ!厄介な!」
身代わりとなったのはヴォルスシールドだ。いつでも、こうして敵との間に滑り込ませることでどんな不利な体勢でも防げる。
さらにヴォルスシールドの中央が開く。そこから氷山の一角を現したのは巨大な機関銃の砲身だ。
唖然とする箒に俺は容赦はしない。
とてつもない轟音と共に銃弾が放たれる。至近距離からの攻撃となったので、確実に箒は手負いをおうはずだ。それはそうと、雨のような弾丸の量に俺自身も少し舌を巻いていた。
箒は数十発をもろに喰らった様子だが展開装甲を防御形態へと移動し、残りを防いだ。
「びっくり?」
「あぁ、デタラメ兵器だな………」
「ははは、流石にこれ以上の機能はないので期待はしない方が身のためだよ」
今の台詞を箒がどう受け取ったかは分からないが、そのままの意味でこれ以上のドッキリは一切仕込まれていない。
警戒してくれるか、俺の言葉を信用して突撃してくるか悩ましい所だ。
箒が選んだのは後者の方だった。
少しの自分を信じてくれた信用感の喜びを感じるが、それよりも言葉を鵜呑みにするのは実戦では危ないので今の俺の気持ちの大半を占めるのは落胆だった。
こういう会話のやり取りも一種の戦闘だと俺は思うからだ。相手の心を探る心理戦と言ったところだろうか。
巨大盾を前へと突き放つ。箒の視界が盾に遮られている、その内に次の攻撃体制へと移行する。
箒は巨大盾をさらりとかわす。勢いは衰えることを知らない。
俺は麒麟の最大スピードで箒の背後へと回る。
“瞬時回転(イグニッション・ターン)”。
これは、
さらに瞬間加速に必要なエネルギーは電撃エネルギーで補うことで、シールドエネルギーは減らない。電撃エネルギーは実に便利な物である。
「なんだ!?今のは!?」
「最近覚えたんだよっ!!」
俺はがら空きの箒の背に向かって大剣を降りおろす。が、次の瞬間に動きが停止した。俺自身の意志で反射的に止めざるを得なかった。
『二人とも試合はそこまでだ!!』
織斑先生からの試合の中断を旨とする通信によって俺は大剣を振るうのを止めた。
剣先は箒の体の目の前寸前で停止していた。少しでも近づけば触れるほどの至近距離だ。
「もうタイムアップですか?」
『わ、私はまだやれます!』
俺の感覚だとまだ、制限時間は過ぎていないはずだ。織斑先生は、重い口調で告げた。
『問題が発生した。こちらと合流しろ』
「なるほど。了解です」
「…………了解しました」
これ以上の展開は必要ないので、全ての装備をしまう。頑張ってくれたユカにも一言声をかけておく。
《ユカ、お疲れさま》
《うん………でも、パパ………》
《あぁ、何があったんだろうな》
ただ事ではないのは確かだ。それも相当の事態を及ぼすものだと、俺は直感的に感じていた。
嫌な予感で、心は落ち着かなかった。
続く───────────────────────────
“SAO帰還者内密談笑会”
ソウ「では、本題に入るぞ」
リリー「早速!?早いよ!!」
ソウ「でも、アスナも暇そうにしてるぞ」
アスナ「え!?し、してないよ!!」
ユカ「でも、アス姉、さっき欠伸してたよね?」
アスナ「ユ、ユカちゃん!!」
ソウ「ということで、ほら早く発表しろって」
リリー「では、今回のテーマはこちら!!」
ユカ「“パパのSAO装備について”だよ」
ソウ「何?俺が何を使っていたかって?」
アスナ「確か、両手剣だったよね?」
ソウ「まあね。最初は片手剣だったんだけど、両手剣に変えたんだ」
リリー「でも、なんで?」
ソウ「ソロだったから、効率よくモンスターを倒したいがために攻撃力の高いものを選んだら両手剣になった」
リリー「そういえば、キリト君とソウ君ってどっちが強いの?」
ソウ「さあ?あいつが二刀流で来るなら、こっちも月歩でやるまでだ」
アスナ「キリト君もデュエルしてみないと分からんって言ってたね」
ユカ「なら、やってみよう!!」
ソウ「また今度な」
ユカ・リリー・アスナ「「「えぇ~」」」
ソウ「よし、今回はこれで終わりだな」
ユカ・リリー・アスナ「「「えぇ~」」」
ソウ「………やらないからな!!」
───以上。