「波大君もすごいですねー」
山田先生はモニターを眺めながら感心するように言った。モニターにはオルコットさんが放ったレーザーをソウ君がひらりとかわしているシーンだった。
「───遠堂」
「は、はい!」
モニターを眺めていた織斑先生がいきなり、不意打ちに近い形で私のことを呼んだので思わず声が裏返ってしまう………。
「今の波大は本気なのか?」
モニターを見つめながら織斑先生は私に聞いてくる。
「え!千冬姉、それってどう─────」
「織斑先生と呼べと言ってるだろ」
バシィンと相変わらずの出席簿で叩かれた音が聞こえてくる。痛くないのかなぁ~織斑君は……ソウ君は───
『あれだけはやばい!!!』
───って冷や汗を垂らしながら言ってたけど…。まだ私は一度も経験がないので、何とも言えない。見た目から言うと、とても痛そうには見えるが。
「なんで、そう思うんですか?」
「なっ!……一夏、よく見ろ!!」
私の質問に答えたのは、織斑先生ではなく驚いた表情でモニターを見つめている箒さんだった。
「な!…………笑っている」
織斑君もモニターを見てようやく気づいたみたいだ。
モニターにはオルコットさんの機体と同じ名前の特殊兵器『ブルー・ティアーズ』を使って攻撃している。ソウ君はそれをかわしながら隙を見てアサルトライフルを撃っている。あんな過酷そうな状況の中でもソウ君は楽しんでいるかのように笑っているのだ。
「────で、どうなんだ?」
「ソウ君はまだ余裕みたいですし、それだけじゃなくてただ単に今の状況を楽しんでいるだけだと思います。───だって、ソウ君が本気を出すのは……“命"がかかっている時だけですから」
「そうか」と織斑先生はモニターをくいるように見つめながら私に返事をした。
「へぇ~さすが幼馴染みだな」
「織斑君も箒さんのことは分かるでしょ」
「そりゃあそうだけど……たまに分からないことがあるんだよ」
「む……………」
箒さん、織斑君を睨み付けると嫌われますよ~。
「あ!」
山田先生がモニターを見つめながらそう小さく声を漏らす。私はモニターへと視線を戻すとそこには────
「おい!レーザーすべてが命中したぞ!」
「蒼星のやつ、大丈夫か………」
「ソウ君…………」
モニターにはブルー・ティアーズのレーザーによって起きた爆発の煙が映されていた…………。
◇
それなりにやるようですが、私にとってはまだまだのようですわね。
セシリア・オルコットは目の前の光景をみてそう結論付けた。
一夏との試合は油断してしまったセシリアだったが、今度は絶対に負けないと意気込んでセシリアは蒼星との試合に望んだのだ。
そして、この試合をあの人───織斑一夏は観戦しているのだろうかと考えてしまう。
セシリアにとって一夏は自分の理想の姿だった。何事にも揺らぐことのないあの目を前にしてセシリアは思わず惚れてしまった。
ふと、そこまで思考が昇ったときセシリアに一つの疑問が生じた。
ブザーが鳴らないのだ。
本来、鳴るはずの試合終了の合図であるブザーが鳴らないのである。
「───っ!」
セシリアの脳裏に電撃が走る。
セシリアが考えたブザーが鳴らない理由……それはもしかして一夏と同じパターンだったとすると………。
それを裏付けるかのように今の蒼星の状態は不自然だ。爆発で機体はまだ見えないが何も無さすぎるのだ。直撃したとなると到底無傷どころでは済まされずに機体に大きな損傷が走り、装備の幾らかは屑鉄となって使い物にならずに地面へと落ちるはず。………ISのハイパーセンサーでそれらは、本来ならすぐ分かるはずだが、それがない…………つまり、まだ試合は終わってないということになる。
「くっ…………」
セシリアの思考がそこまで至ると同時に自分の手に握ってあるライフルを爆発の中心へと向ける。
「これで終わりですわ!!」
引き金を引き、銃口から出たレーザーは真っ直ぐに煙の中心へと向かう。
「な…………………」
結論から言うと、セシリアの考えは当たっていた。故にそれで相手にペースを奪われないためにも早めの対策にうって出たセシリアだったが、レーザーが同じく煙の中心から出てきたレーザーと命中し激突し合う。そして、自分の目の横にそのレーザーが通過したのだ。相手の攻撃力の方が自分のよりも上回っていると感じさせるものだった。
やがて煙が晴れて蒼星のISが姿を現した。
先程の機体よりも黄金色に輝きが増しており、後ろに浮かんでいる歯車もバチバチと音を立てながら回転している。
「やはり………あなたも一次移行でしたか…」
「あれ?思ったよりも反応が薄いな」
予想よりもリアクションのないセシリアに『麒麟』の操縦者は首をかしげていた…。
◇
「あれ?思ったよりも反応が薄いな」
セシリアの反応が想像したのと違って疑問を浮かべてるなか麒麟の一次移行が済んだことで色んな情報が頭に入ってくる。
まず、後ろにある歯車は『エネルギア』と言ってエネルギーを生産、増幅することが出来るらしい。その『エネルギア』が生産しているエネルギーは────
(電気とは………また………厄介なもので)
電気だった。攻撃にも使用できてその時には電撃となって襲いかかるようになっている。つまり、この機体は雷を自由に操れるみたいなのだ。
『パパ、白式も私たちと似たような展開だからじゃないかな』
(まじか…………)
頭に聞こえてくるユカの声に少し変な気分になりながら、新しく増えた武器一覧へと目を通す。
(電子粒砲に…………エネギア………それに)
電子粒砲────まあ、名前から想像すると大砲だよね…………電撃を発射する……今使うと想像がつかないので次の機会にでも……。 エネギア────これはよく分からないので後回しにすることにしよう…………。
そして、俺は最後の武器へと目を通す。
(
ひとまずこれを使うしか選択肢がない俺は直ぐ様、それの名前を心のなかで呼ぶ。
(来い、ムーンテライト)
そう言うと目の前に巨大な刀身を持つ大きな剣が現れた。黄金色にひかり輝いている剣がそこにあった。
俺はそれを握り感触を確かめるかのように剣を振るう。懐かしい感覚を確かめながら、あることを考える。これを製作してくれたのは離里亜の両親だ。もし、その二人が俺の最も手慣れている大剣を用意してくれたのだったら、ありがたい話になる。
「さあ、行こうか」
ムーンテライトを右手に持ち、麒麟をブルー・ティアーズの方へと動かす。
「そう簡単にさせるもんですか!!」
セシリアも負けじとレーザーを撃ってくるが一次移行をした麒麟のスピードにひらりとかわされてしまう。
「まずはっと────」
ひとまず近くに接近してきたビットを一台切り落とす。後ろで爆発がするがそんなことは気にせず、直ぐ様、2台目に移る。
麒麟のスピードが急激に早くなったのは一次移行が済んだだけではない。じゃあ、何故なのかというと、エネルギアによって作られた電撃エネルギー───略して電エネが機体の動きにより鋭さが増すようにしていたのだ。
「は、早いですわね………」
セシリアが驚いている間に、既に俺は3 台目に取りかかっていた。
「くっ…………簡単にやられてたまるもんですか!!」
3台目が爆発すると同時に4台目のビットがレーザーを放ってきた。俺はムーンテライトの刀身で防御するかのようにする。レーザーは刀身に直撃し、反射するかのように弾かれた。
「な………その剣、レーザー系が効かないんですか!…………」
「そうしないと、もたないからね!」
麒麟の装備の殆どがエネルギーを利用して攻撃するので相手からのエネルギー兵器が効かない場合が多いのである。
「おらああぁぁぁーー」
「………っ!」
遂に自分の懐に俺という害悪の侵入を許してしまったセシリア。だが、セシリアはまだ諦めていなかった。
「これでも、喰らいなさい!!」
ブルー・ティアーズから実弾のミサイルが二つ発射された。奥の手ばかりと出したようだが、まだまだ余裕で対処出来る。
「遅い!!」
俺はいとも軽く正面から迫ってくるミサイルを回避し、そのままムーンテライトで斬りかかっていく。
「──────っ!」
だが、何故かムーンテライトが機体に触れる瞬間、麒麟の動きが止まった。
(何故この方は止めを……さしてこないのでしょうか?)
理由は不明だが、セシリアにとっては好都合だった。
「インターセプター!!」
すぐさま、近接装備をコールして呼び出し直前まで迫っている蒼星に襲いかかる。セシリアにとって近接戦闘は苦手だが今はそう言っていられる状況ではない。
一旦、距離を置こうと離れようとした麒麟にセシリアの放ったミサイルが麒麟の背中の歯車へと命中しゆっくりと麒麟はアリーナの地面へと落ちていった………。
────勝者、セシリア・オルコット!
自分の勝利が決まるアナウンスが鳴り、本来喜ぶところだが、セシリアはただじっと蒼星の乗っている麒麟を見つめていた。
(私はやはり……まだまだですわね)
本来の目的である勝ち星は手にいれることは出来たが、今回の勝利はセシリアにとって、あまり素直に喜べるものではなかった────
◇
─────勝者、セシリア・オルコット。
《負けたか、俺?》
《うん、エネルギーがなくなったよ》
俺は今、地面へと横たわっている。敗因はあの時だ……。
ムーンテライトでセシリアの機体を攻撃する寸前までいったのだ。だが、その瞬間に無意識に攻撃するのを躊躇ってしまった。
(あの世界の影響なのか…………)
やはり、ISという兵器は意図も簡単に人の命を奪えることができ、傷つけることが出来る。今の試合ではそんな事は絶対にないのだが、もしもの場合が脳裏に浮かんで思わず止まってしまったのかもしれない。
《…………パパ》
ユカも心配そうになっているのが声を通じて伝わってくる。俺はまだ、未だに過去に捕らわれたままなのかもしれない。
《ユカ、戻ろうか、ママも待ってるから》
《うん!でも、ママと話せるのはまだ先だよ、パパ》
《ママの専用機が来てからか?》
《うん!》と声越しに勢いよく頷いていそうなほど、ユカの声は弾んでいる。
俺はその場を立ち上がり、璃里亜達が待っているであろうビットへと麒麟を飛ばした。
◇
「お疲れ、蒼星。惜しかったな」
ビットに戻った俺を待っていたのは一夏達だった。
「ああ……」と言いながら俺は麒麟を解除して足をビットへと着ける。
麒麟の待機状態は稲妻の形をしたペンダントが付いてあるネックレスみたいな物だった。けど、ここまで雷にこだわる必要はあるのだろうか…………?
「え~と、波大君。試合、残念でしたね。あ!あと、これを読んでおいてくださいね」
山田先生の腕には巨大とも言える重たそうな本があった。
「それ……読まないと駄目なんですか?」
「大丈夫だよ、ソウ君。私が教えてあげるから」
目が点になってしまっている俺を璃里亜は励ますかのように言ってくる。
だけど…これ…“あなたの町の電話帳"三冊位の分厚さがあるような………。
そこに一人の人影が近づく。
「───蒼星、ひとつ聞きたいことがある」
そう言ってきたのは箒だった。
「え!何?」
「……何故、あの時
「!!」
箒が言っているのは俺が攻撃しなかった理由を聞いているのだろう。だが、それを教えるということは今までの経緯をすべて話さないといけないことになる。理由を知っている璃里亜の表情も暗くなっている。
「え!何も躊躇ってはいないけど………まだ機体の調子が完全じゃないからそう見えただけだと思うが?」
「……そうか」
俺は思わず誤魔化してしまったが箒はそれで納得してくれたみたいで思わず胸を撫で下ろしてしまう。
「おい、貴様ら!早く自分の部屋に戻れ────波大と織斑は部屋でゆっくり休んでおけ」
織斑先生の一言で全員が自分の部屋へと移動していったのであった…………。
◇
「織斑 一夏…」
部屋に備え付けられたシャワールームで今日の試合の汗を流すセシリア。その整った体に沿って温水が流れるがセシリアの頭の中には自分に立ち向かって来る一夏の姿があった。
「あの方は…」
セシリアの男性に対する一般像は女尊男卑に染まっていると思われるが厳密には違う。セシリアの家庭から来る外来的な原因にあった。
セシリアの家族は母親と父親とセシリアの3人家族。そして、側にはメイドが付いている。
しかし父親はオルコット家に来た婿養子であり立場は母親よりも低いものだった。まだ幼いセシリアは父が母の顔色を伺っている姿しか見ておらず、他にいた男性も母のご機嫌取りなどをして碌な者が居なかったせいでイメージが歪んでしまっていた。
女尊男卑による男性を見下す風潮は歪みを深くさせただけに過ぎない。そんな男性のイメージが強くなっていたせいか彼女は自然と他人に高圧的になり、代わりに無意識で他人に自分以上の強さと勇ましさを求めていた。
そこに世界初の男性操縦者が目の前に現われ素人にも関わらず自分を撃墜あと一歩まで、一歩も引かずに追い詰めた。その意思の強さはセシリアが男性に求めていた理想の人物であった。
簡単に言えば、一夏はセシリアのストライクゾーンど真ん中であったのだ。
これまで良い出会いが無かった彼女が恋に落ちるのは自然の流れだっただろう。
「一夏さん…」
ウットリとトリップしながら今日の試合での一夏の雄姿を思い浮かべるセシリア。それと───
「波大…蒼星…」
一夏の後から戦った二人目の男性。セシリアは今日の戦闘を通して蒼星をライバルみたいな存在だと感じていた。試合の内容はセシリアがビットで攻撃し続けているように思えたがあの人は時折、油断していると弾丸が直撃コースに飛んでくるのだ。
それも当の本人は牽制程度にしか思っていない様子だった。あの弾丸の威力はセシリアにとっては脅威とはほど遠いものだったがやはり、それでも同じ狙撃主のセシリアには蒼星が雲の上の存在位に感じていた。
(でも………どうして……)
一夏と同じく一次移行を終えた麒麟は自分の想像以上のスピードで一夏の時とはまた違った迷いが生じた。そして、気づいた時には自分の目の前に侵入を許してしまった大剣が迫ってきていた。だが、蒼星は剣を振るうことはなく結局蒼星の背中に追尾機能で戻ってきたミサイルが命中し、セシリアの勝ちで終わった。
(理由はともあれ………今度は本気の勝負をしてみたいですわ)
セシリアはそう心のなかで誓っていた───
◇
「──へっくしゅん!」
「ソウ君、大丈夫?」
寮の部屋へと戻った俺を待っていたのは何故か盛大なくしゃみだった。璃里亜も思わず心配している。
誰か、噂でもしているんだろうか………。
「あ!そういえば、リリー!なんでユカが麒麟にいるってことを知ってるんだ?」
セシリアとの試合前に璃里亜は俺に、ユカをよろしくと言っていたのだ。
「お父さんから聞いてたからだよー」
そう璃里亜は明後日の方向を向きながら答える。
璃里亜の両親は俺の麒麟とまだ出来ていないが璃里亜の専用機の開発、整備を担当している。
「なぜ、俺に言わないのだ!」
「ふふ…驚いたでしょ」
「驚くわ!誰だって」
そりゃ…AIが元々、ISでした…なんて言われて驚かない方がおかしいと思うぞ。
「じゃあ、お休みー」
「あ…………………寝やがった」
璃里亜がベッドに潜り込んでしまったので俺も寝ることにした。
続く───────────────────────────
最後に攻撃出来なかったのは、蒼星のトラウマの一端のせいだからですよ。また、そこの所も後に書くつもりです。ただ、どれくらい先になるかは………。