「では、一年一組のクラス代表は織班一夏君に決定です。あ、一繋がりで良い感じですね♪」
朝のSHR、山田先生が嬉々として喋っている。クラスの女子達も大いに賑わっている。
……そして一番最前列にいる一夏は、呆然と周囲を見ている。
「山田先生!なんで俺がクラス代表になってるんですか!」
気をとり直した一夏が山田先生に質問した。まさか自分が選ばれるとは思ってもいなかったのだろう。
「それはですね───」
「私が辞退したからですわ!!」
山田先生の言葉を遮って誰かが大声を上げる。俺の目には背後にババーンという文字を浮かび上がらせながら、勢い良く席を立つセシリア・オルコットが映っていた。
教室中が静まる中、セシリアは一人声を張る。
「あの後私も反省いたしまして。いくら私が国家代表候補生とはいえ大人気なかったのも事実。そこで私はクラス代表を辞退しまして一夏さんに譲ったという訳ですわ!!」
「セシリア、分かってる~」
「やっぱり男の子がいるんだから立てないとね!」
女子連中は勝手なことばかり言うが当の本人からすればたまったものではないだろう。すると、一夏が何かに気づいたみたいで表情が少し変わる。
「なんで蒼星じゃなくて俺なんだ?」
「それは、俺よりもお前が弱いからだよ」
「ぐっ────そうだった……」
実を言うと俺と一夏も別の日にアリーナを少しの時間だけ借りて勝負をしていた。結果、俺の余裕勝ちだった。まあ…一夏が自分の機体の事をよく知らないお陰で自滅したのが殆どなんだけれど………。
一夏の機体『白式』は他の機体とは違って一次移行をした時点で単一仕様能力(ワンオブアビリティー)という機体によって変わってかるがどれも強力な能力の一つが使えるらしい。
普通、それは二次移行をしたら使える場合が殆どなのだが白式だけは例外みたく原因は不明らしい。ユカも麒麟の単一能力は二次移行してからじゃないと出来ないと言っていた。
閑話休題。
話がそれたが、一夏のその能力が『零式白夜』と言うらしい。簡単に説明するとそれを使って相手を攻撃したらISが自動的に操縦者を守る機能“絶対防御"が絶対発動してエネルギーを大量に消費させるものだ。そして、一夏の負けた原因でもある欠点だが…それは自分のエネルギーも消費することだ。元々白式自体の燃費も悪いのにさらに追い討ちをかけるようにエネルギーを激しく消費したら自分が負けるに決まっているのだ。
俺の麒麟の背中にあるエネルギアは零式白夜とは正反対とも言ってもいいぐらいだ。といってもエネルギアの生産するものはISを動かすエネルギーとは違うらしく武器の攻撃用に消費するしかない。変換も出来るらしいがそれほど回復は見込めないらしい。
「それでは皆さん、今日はこれでおしまいです。気をつけて帰ってくださいね~」
山田先生の一言で今日の授業が終わりだということを告げた。
しばらくすると、箒とセシリアがどっちが一夏の指導をするかということで揉めていた。
「ねえ、ソウ君。オルコットさんってもしかして…………」
巻き込まれたくないクラスメイトと同じように少し離れている俺の隣に璃里亜が来た。
「リリーの考えてる通りだと思うよ」
俺はあいつらの方を眺めたまま言った。璃里亜が言っているのはセシリアは一夏に惚れているのではないかということだ。
「ふぅ…………ライバルが減ったね」
ボソッと璃里亜が何かを呟いているのが聞こえてくるが聞き返しても教えてくれないことは分かっているのであえて聞かないことにした俺だった。
「それにしても…オルコットさん…雰囲気が変わったね」
璃里亜のいう通り、セシリアの雰囲気は最初とは全く違っていた。クラスメイトも皆、そう感じているはず。それもそのはず、セシリアはあの試合の後にクラスメイト全員に謝罪をしているのだ。
俺や一夏は個人で謝罪されたのでこちらも謝罪はしておいてこの話はこれで幕を閉じることにした。
「リリー、食堂行くか?」
「うん、行く」
俺と璃里亜はあの二人と一夏はそのままにしておくことで食堂に二人で向かおうと───
「あ~!!私も行く~」
そう言ってきたのはのほほんさんだ。断る理由はないので三人で食堂へと向かった。璃里亜の機嫌が少し悪くなっていることに俺は気付いてしまったがあえて見なかったことにした。
◇
時が過ぎるのは早いものでもう一夏がクラス代表になってから早3週間が過ぎていた。
相変わらずあの二人は争っていたが結局二人で一夏を指導をすることに落ち着いたみたいだった。一夏としては困った話でどうにかしてほしそうにしていたが、俺はあえて何もしていない。
あの光景を眺めていると、暇潰しにはちょうど良いからだ。
一夏には悪いがあの一夏を争ってのやり取りはそれなりに第三者から見ると面白い。特に俺としては周りが女子だらけということもあり、少しストレスも溜まりそうだったがあの二人のお陰で楽しく過ごさせてもらっている。
そして、今俺たちはグラウンドへと来ている。何故かというと今からここでISの実習訓練を行うためだ。
「これからISの飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、波大は前に出ろ」
織斑先生の言葉に従って素早く俺と一夏とセシリアが列から外れて前に出る。セシリアは前に出て耳に手を当てるとすぐにISを展開し終えるが、一夏はセシリアのISに目を奪われていて微動だにしない。俺はもう既に麒麟を展開している。
「遅いぞ。熟練した操縦者なら展開に一秒とも掛からないぞ」
一夏は少し焦りながらも、右手にある白式の待機状態であるガントレットに手を添える。
そして眩い光と共に一夏は白式をようやく展開した。
「よし。では飛べ!」
織斑先生の合図と共に俺たちは飛び出した。麒麟の充電はもう既に満タンであるので初めから猛スピードでぐんぐん上がる。
「蒼星さんの機体は相変わらずお早いですわね」
後から付いてきたセシリアがそう感嘆の声を漏らしてくる。
「まあ…早いだけが取り柄みたいだからな」
《早いだけが取り柄じゃないもん!》
冗談ぽく言ったのに、ユカは真面目に受け取ってしまったみたいで拗ねてしまった。
《分かってるって、ユカは可愛いからな》
《うんうん、そうだよそうだよ》
“可愛い"と聞こえたユカはすぐに機嫌を元に戻す。
「一夏はどうしたんだろうか?」
そういえばと、先程から一緒に飛んだはずの一夏がまだ来ていないのだ。
「一夏さんはまだあそこですわ」
セシリアが指差したのは織斑先生にしかられながらまだ地上辺りにいる一夏だった。なんとかフラフラしながらこちらに向かってきている。
「一夏、なにやってんだ、遅いぞ」
しばらくしてようやく近くまでやって来た一夏に俺は待ちくたびれたかのように言う。
「なんだかな~、慣れないんだよ」
「そうか?俺はもう慣れたけど」
「早いな!結構難しいんだぞ。えぇとなんだっけ?自分の前に角錘を展開するイメージだっけ?」
「一夏さん。所詮イメージはイメージ。自分でやりやすい方法を探し出すのが建設的でしてよ」
と、俺が居る反対側の一夏の隣にセシリアがやってきた。
「やりやすいイメージねぇ。うーん」
一夏は納得出来ていないみたいだったが、俺はなんというかユカのお陰でもあるのかすぐに飛ぶということに溶け込んでしまった。というより、昔に疑似体験をしている。
「──しかし、どうやって浮いてるのか不思議なものだな~」
セシリア、俺のISを一夏は交互に見ると、セシリアが口を開く。
「一夏さん、説明しても構いませんが、長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」
「──結構です」
一夏は即答で断った。確かにこれは頭が割れそうになるほどの難しさである。どうして分かる風な口を利いているのかと言われても………そりゃ、璃里亜に教えてもらったからだ。
「一夏さん…よろしければ、放課後二人で一緒に特訓しませんこと」
箒がいないのをチャンスとばかりにセシリアは一夏と約束を取ろうと頑張っている。
セシリアが話していると、更に割って入るように通信回路が開き───
『一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!』
何かを感じ取ったのかは分からないが地上にいる箒のどなり声が聞こえてくる。
(ていうか、なんでスピーカーをもってるんだよ………)
隣にいる山田先生はスピーカーを箒に取られてしまっていておろおろしていた。
何故、俺たち三人が地上の山田先生や篠ノ之、他のクラスメイトが見えるのかというと、ISに備わっているハイパーセンサーによる補正のおかげだ。
上空二百メートルのこの位置から、クラスメイトの顔や睫毛まで鮮明に見える……。
これでも、まだ制限がかかっていいと言うんだから凄いもんだ………。
『織斑、オルコット、波大、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ』
「分かりました。では、お先に失礼しますわ。一夏さん、蒼星さん」
一番乗りでセシリアが完全停止をするために地上に向かった。代表候補生でもあるのでしっかり10センチのところで停止をしていた。
「さすがだな~…じゃ一夏。先行くからな」
俺はエネルギアの回転数を少し速くして、地上に向かって高速で移動し、そして少しづつ減速していき停止していく。ギリギリなことに地上から3センチのところで止まった。
「波大、早すぎるぞ。もう少しゆっくりでも大丈夫だ」
そう言ったのは織斑先生だ。地上からギリギリのところで止まってさらにスピードも周りから見ればそれなりに早かったせいで砂ぼこりが発生したみたいだ。実際にあまり俺からも周りが見えない。
と────
ドーーーンと、近くで大きな爆発が起きた。原因は一夏が制御を誤ってそのままグラウンドに激突して大きなクレーターを作っていたからだ。
(なにやってるんだ、あいつ……)
俺がそう考えていると、一夏の元に接近する影があった。しかも、ふたつ。
「一夏、大丈夫か!?」
「一夏さん、お怪我はございませんか?」
「あ、ああ。大丈夫」
「ふん、ISを装着していれば怪我などしない。そんな心配をする必要はないだろう」
「あら、人を心配するのは当然の事ですわよ。篠ノ之さんは配慮が足りないのでは?」
「ぬぬぬ……」
「むむむ……」
とうとう一夏そっちのけで睨み合いを始めた二人。一夏は地面に座り込んだまま何をしていいのか分からずじまいだ。
(おーい、そんなことしてると───)
「何がしたいのだ、貴様らは」
「ふぎゃっ!!」
「っ!!」
いつの間にか織斑先生が箒達の隣に移動し、出席簿を二人の頭に振り下ろしていた。あまりの痛みに二人揃って頭を抱えて蹲る。
「全く……織斑はさっさと立ち上がれ」
「は、はいっ!!」
織斑先生の言葉には謎の強制力があるように感じられた。一夏はそそくさとクレーターから出てきた。
「織斑、あとで穴は塞いでおけよ。さっさと進めるぞ。次は武装展開の実演だ。まずはオルコット、やってみろ」
「はい!」と勢いよく返事をしたセシリアは直ぐ様、ライフルを取り出す。流石、代表候補生だが、問題が一つ───
「セシリア、ちょっと危ないんですけど」
何故か隣にいる俺に銃口が向けられているのだ。いきなりだったので俺は少し身を屈んでしまった。
「波大のいう通りだ。横に向けて銃身を向けるのはやめろ。それで誰を撃つ気だ」
「し、しかし、これはわたくしのイメージを固めるのに──────」
「直せ。いいな」
「は、はい」
彼女の選択肢は一つしかない。
「ではセシリア、近接用の武装を展開しろ」
セシリアは銃器を光の粒子に変換した。これを『収納』と呼ぶらしい。
そして新たに近接用の武装を『展開』と呼ぶ。
──だが、セシリアの手のひらの上の光はなかなか像を結ばず、くるくると空中をさ迷っていた。
「くっ……」
「まだか?」
急かす織斑先生の言葉に、セシリアは───
「す、すぐです。──ああ、もぅっ……!!
『インターセプター』!」
こうして武器の名前を呼んで取り出す方法はまだ初心者の人が使う方法で代表候補生のセシリアにとっては屈辱みたいらしい。俺は名前を呼びながら展開するのはカッコいいと思うが。
「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」
「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですから、問題ありませんわ!」
「ほう。……織斑と波大との対戦で初心者に懐を許していたように見えたが?」
「あ、あれは、その……」
何だか、俺にも罪悪感が芽生えたきたのは何故だろう………。
「次に、織斑。武器を展開して見せろ。そのくらい自在にできるだろう」
「は、はい」
そして一夏は右手に集中した。
白式の右手に雪片弐型を展開させた。展開までの一秒であった。
「遅い。0,5秒で出せるようにしろ」
(相変わらず厳しいんだな~)
ふとそんなことを考えていると織斑先生がこっちの方に目を向けてきた。
「最後に波大。近接武器を展開してみろ」
二十四時間心の中をあの人は読んでるんじゃないか?と思いながらも俺はムーンテライトを展開する。
「0,7秒か、まあまあだな」
微妙に誉めているのかいないのか分からないが……まあ……誉めているほうだと思う。
「どうも?」
「射撃武器も展開しろ」
織斑先生はセシリアの時と同じようにもう一つの装備を展開するように言ってくる。
「え!蒼星、射撃武器もあるのか!」
「まだ装備がありましたの!」
一夏とセシリアが驚いていた。あぁ……そういえば、見せたことがなかったな。ん?使う機会がなかったのか。
「え………でも…先生」
「ん、何か、問題でもあるのか?」
「いえ、特にないです……」
俺は諦めて射撃武器──
「0,8秒か…こちらもまあまあだな」
電子粒砲は見た目はバズーカなのだが砲口が上下に別れているかのように真ん中に亀裂が走っているかなような隙間が出来ている。というか殆ど内部も見えている。
「弾はどこにあるんだ?」
一夏は電子粒砲の近くまできて色んな方向から眺めている。
「弾はないよ」
俺がそう言うと一夏だけでなくクラス全員が驚いた顔をしていた──璃里亜はしていないが──。
「これ、エネルギー砲なんだ」
電子粒砲もエネルギアで生産した雷によって初めて使える麒麟専用の装備の一つだ。
「ということは、これも第3世代兵器ですの?」
セシリアもいつの間にか近くまでやって来ていた。
「んー………少し違うかな」
「というとですの?」
「第3世代兵器は多分、これじゃなくてこっち」
俺は背中に浮いてぐるぐる回っているエネルギアの方を指差す。
「そういえば、なんで回ってるんだ、それ?」
「そうですわね。何か、意味があるんですの?」
「あるよ。これが回ることによって、エネルギーを生産してるから。そのエネルギーを使ってこの電子粒砲が使えるって訳」
「それは本当ですの!?」
「シールドエネルギーとは別のエネルギーだけどね」
「電気エネルギーみたいなものか?」
「へえ、よく分かったな。そう!一夏の言ったとおり麒麟は雷を自由に操れる機体なんだ」
「なるほど…だからあんなスピードが出ますのね……」
セシリアも納得したのか、頷いている。それに何故かクラスメイトも全員頷いている。
「波大、それほどにしておけ」
授業の時間が迫っているのか、それともまた別の理由なのかは分からないが、織斑先生の終わりの言葉が入る。
「時間だな。これで授業を終了する。織斑、ちゃんと片付けておけよ」
「は、はい」
授業は無事終了を告げて、一夏以外は皆教室に戻る。
「蒼星~、手伝ってくれよ~」
「じゃあ、なんか奢れよ」
こういうときに女子たちはアピールできるチャンスなのだが重労働は嫌なのか、もう誰もいない。
こうして穴を塞いだ俺たちは時間ギリギリになってしまったが、なんとか次の授業に間に合った。
続く──────────────────────────────
麒麟の装備の一部の紹介となっています。出番はまた今度ですけどね。