「それでは、織斑君のクラス代表就任を祝って!かんぱーい!!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
「かんぱーい……」
クラスの女子が揃って元気な声でグラスを掲げる。当の本人である一夏は覇気の無い声でそれに続いた。
「いやーしかしうちのクラスに二人も男子が来てくれて、ほんと良かったねー」
先程乾杯の音頭を取った女子生徒がテーブルの食事に手をつける。日課の授業も終わった一年一組の生徒達は、一夏がクラス代表に就任した事を寮の食堂で祝っていた。貸切のため他の生徒もいない中、一夏を中心に女子達が騒いでいる。
(楽しそうだな………)
俺は少し離れた席に座って一人でジュースを飲んでいた。一夏の周りには一組以外の生徒がいるがそれは気にしてもきりがないので俺は当の昔に諦めている。と、中心人物の一夏がこちらに向かってくる。
「蒼星、何やってるんだ?」
「特になにも」
女子たちは自分達だけで話が盛り上がっている。
「まだ納得はいかないんだけどな~」
一夏はクラス代表になったことをあまり納得していないみたいだ。
「クラスの皆が認めてるんだぞ、頑張るしかないだろ」
「そうだよな~…」
「せめてクラス代表戦には勝てよ、一夏」
「ん、なんなんだ、それ?」
「お前……今後の予定とか見ておけよ。クラス代表戦はクラスごとの代表が試合をすることだ」
「善処します………」
「あいつらも特訓してくれて──」
「はいはーい!ちょっといいですかー!」
「へ?」
一夏がいきなりの乱入者に惚けた声を上げる。三人が座っているテーブルに近づいてきたのは、左の上腕部に“新聞部”と書かれた腕章をつけている生徒だった。首にはカメラが下げられ、右手にはボイスレコーダーを持っている。
「あの、あなた誰ですか?」
「ああ、私は新聞部で副部長の黛 薫子って言うんだけど。お三方、ちょっと質問いいかな?」
「俺たちなんて取材して、何するんですか?」
「おっと、期待のクラス代表君は分かっていないみたいだね。いきなり現れた二人の男子IS操縦者!その片方はいきなりクラス代表に!!キャッチコピーとしては十分過ぎるわ」
今の状況に俺はあまり乗り気ではなかった。一夏も俺と同様なのか、目を泳がさせている。
「じゃあまずは織斑君に質問しようかな~」
「は、はい。何ですか?」
ずい、と一夏の顔にボイスレコーダーを近づける薫子先輩。一夏も戸惑いながら何とか応じようとする
「じゃあまず質問。ズバリ、クラス代表になった感想は?」
「え、ええっと……さっき蒼星にも言ったけど、とにかく頑張ります」
「つまんないなぁ~。じゃあさ、この学園でやりたい事とかは?」
「まだ特には無いですけど……」
「うっわ、つまんない。まあこの辺りは捏造しておけばいいか……」
(いや、それでいいのか!?)
俺は口に出さずに心の中でつっこみを入れておく。薫子先輩は一夏の回答を聞き終えると、何やらポケットから取り出した手帳に書き込んだ。それが終わる。と今度は俺に質問の矛先を向けてくる。
「さあ、次は波大 蒼星君に質問!君がこの学園でやりたい事は?」
「……特には無いですかね」
「もう~つまんないなぁ。二人は折角女の園のIS学園に入学したんだよ?もっとこう、何かあるでしょ!?」
「いや、女の園って……」
「こう、“俺の女は絶対に守る!!”とか“仲間はやらせねぇ!!”とか」
この人、マンガやアニメの見すぎではないかと不安に思う俺だった。
「まあ、ここで過ごす内に何か出てくるかもね。何しろ入学してまだ20日くらいしか経ってないし。それじゃあ次は……時間が無いから捏造しとくね」
「そんなんで大丈夫なんですね………」
「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
黛子先輩がセシリアを見つけ、声をかけると飲みかけの飲み物を此方の机のスペースへ置き───
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」
───そう言いつつも、満更でもない様子のセシリア。
「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかと言うと、それはつまり────」
「あぁ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」
「さ、最後まで聞いてくださいな!」
「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑君に惚れたからって事にしよう」
「な…な…そんなことは…………」
セシリアが顔を真っ赤にして否定するが説得力が全く感じられない。
「じゃ、次に三人の写真を撮らせてもらおうかな」
薫子先輩がこっちにくるように指示を出す。
俺たちは真ん中に一夏がくるように並んだ。
「ほら、真ん中に手を出して重ねて」
俺が最初に出してその上に一夏が、少し躊躇ってからセシリアが手を重ねる。
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え!?───き、9」
「74.375」
「波大君、せいかーい」と共にパシャリとデジカメのシャッターが切られた。
と、その写真の中にはクラスの皆がいつの間にか乱入していた。
「オルコットさんにだけ抜け駆けはさせないよ~」
「っ!…そんなことはしませんわ!!」
「あはは」と辺りから笑顔が出てくる。微笑ましい光景である。
こうして、無事パーティーは終了したのであった。
◇
「おはよー織斑君、波大君。ねぇ聞いた転校生の噂?」
「転校生?今の時期に?」
「そう。なんでも、中国の代表候補生なんだってさ」
「珍しいな」
HR前の空いた時間、一般の高校の様にざわついている教室にて。俺と一夏はようやく環境に慣れてきたのか、女子との会話に戸惑いを感じる事が少なくなっていた。
「あら、私の存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら?」
「このクラスに転入する訳では無いのだろう?騒ぐほどのことでもあるまい」
「どんな人なんだろうね~」
席が離れているセシリアと箒がいつの間にか側に居た。ちなみに場所は一夏の席である。俺と璃里亜も荷物を自分の席に置いて一夏の席に集まっている。
「む、気になるのか?」
「ん?ああそうだな、少し」
すると、箒は少し不機嫌そうになる。
「ふん…今のお前に他人を気にしている余裕が有るのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」
「そうですわ一夏さん!対抗戦に向けて実戦に近い訓練をいたしましょう!」
先程からセシリアは手を腰に置いて謎のポーズをとっている。イギリスの人は皆、こんなのだろうか……俺には意味が理解不能なのだが………。
「そうだな…俺が頑張らないとな!」
「頑張れ!!男性操縦者!!」
「いや、蒼星も一緒だろ」
普通に俺のボケに突っ込まれてしまった。
「蒼星は他人事みたいに言いやがって…」
「いやだって、そうだし」
「おい!」
「そう言っているソウ君!他人事じゃないんだよ!」
「そうだよ。織斑君が優勝したらクラス全員が幸せなんだよ」
何故、こんなに一夏に期待が寄せられているかというと優勝商品が半年間デザートが無料になるフリーパス券だからだ。
《私も食べたいな~》
ユカが俺に聞こえるようにわざとらしく呟く。ちなみに俺の脳内に直接聞こえるので他の皆には聞こえていない。
「それに、専用機持ちはここと四組しかない、楽勝…のはずだよ」
何やら自信がない発言だな。おい。
「───その情報は古いよ!」
と、教室の入り口から声がして見てみると、一人の女子がいた。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単にはいかないわよ」
と、腕を組んで、片膝を上げて壁にもたれかかっているのは───
「鈴?お前…鈴なのか?」
勿論、言ったのは俺じゃない。
「そうよ。中国代表候補生…凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
と、決まった。と言うような感じに頭を振るうと、ツインテールが揺れる。
「お前何かっこ付けてんだ?すげぇ似合わないぞ」
「なぁ!?なんてこと言うのよ、あんた!」
顔を赤らめて少女は動揺する。一夏のいう通りだとあれが本来の姿みたいだ。一夏の知り合いというと、勿論あの人とも知り合いというわけで………。
バシィンと教室に響き渡る甲高い音。あの人が出席簿で叩いた音だ。
「痛ぁ!!邪魔するんじゃないわよ!!」
少女が謎の人物を見ないで攻撃的な声を上げる。丁度少女の背後にその人物が立っているので、少女はその人物が誰かは分からなかった。
しかし少女以外はその人物が誰なのか分かっているため、誰も声を上げない。
「ほぉ?いつから貴様は教師に口答え出来る身分になったのだ?」
「教師が何よ!私は───」
少女の言葉が最後まで一夏達に届く事は無かった。何故なら謎の人物が手に持った出席簿を少女の頭を思いきり振り下ろしたのである。少女は痛みで涙を滲ませると共に振り返ると、ようやくその人物が誰かを理解した。
「ち、千冬さん……」
「ここでは織斑先生と呼ばんか。さて、私の記憶によれば貴様は二組だったはずだが?さっさと教室に戻れ」
「一夏、また後で来るからね!逃げるんじゃないわよ!!」
そう言い残すと再び走り去っていく少女。
「リリー、俺たちも戻るぞ」
「うん………」
俺と璃里亜もあんな目に遭いたくないのでさっさと席に戻る。だが、勇敢なのか先ほどの少女について聞きたいらしく一夏の席の周りに人が集まる。
「「「「「「痛いっ!?」」」」」」
「むぐっ」「きゃうっ」「あっだァ」
「席に着け馬鹿共」
「学習しろよ…」
席を立っていた生徒達は織斑先生の出席簿アタック(一夏の時、威力1.5倍の気が…)を喰らい沈黙する。席に着いた後何事も無かったかの様にSHRが行われ授業が始まる。
セシリアと箒は朝の一夏の反応の事で頭が一杯だったのか織斑先生に制裁を何度も食らっていた。
◇
「「一夏(さん)のせいだ(ですわ)!!」」
「なんでだよ………」
授業が一通り終わり、昼休みに入った。すると、箒とセシリアの二人は一夏に文句を言いつけていた。
一夏のいうとおり一夏には非がないはずなのだが………。
「一夏~、先に食堂行くからな~」
「え!おい、ちょっ────」
相手するのも気疲れするので一夏は置いて先に行くことにした。
「んで、のほほんさん、何してるの?」
「んー、抱きついてるの」
最近、ずっとのほほんさんが俺の腕に抱きついてきていると気づいた。何故かは相変わらず不明。のほほさんだからということで納得しておくことにした。
「じゃ私もー」
そう言うと璃里亜も腕に抱きついてくる。
《パパ、浮気はだめだよ》
ユカの注意が入ってくるが俺はそんなに余裕がなかった。周りの視線がなんだか怖いんですけど………。
ていうか!浮気って言葉なんで知ってるの!しかもまだ結婚してないんですけど!
「蒼星、ここいいか?」
「ん、どうぞ」
いつも通り、のほほんさんは食堂に着くなりどこかへ行ってしまった。空いてる席に俺と璃里亜は座って、俺は焼きうどんに璃里亜は焼きそばを食べているところに一夏がやって来たところだ。
今、座っている席は6人までいけるので特に一夏達が座っても問題はない。
「ん、あれ…………?」
一夏の後ろにいたのは箒でも、セシリアでもなくてあの噂の転校生だった。それに気づいた一夏が紹介を始める。
「ああ、こっちは鈴。二組のクラス代表で俺の幼馴染みだよ」
そう言うと一夏は俺の隣に座り、鈴は一夏の隣に座る。
「アンタ、名前は?」
「ああ、俺は波大蒼星。んで、こっちが遠堂璃里亜」
「あんた………どこかで見たような……」
鈴はそう言うなり、俺の顔をじっと見つめてくる。
「テレビで見たんだろ、男性操縦者で有名だからな」
「……まあ、いいや」
鈴はそれほど深く考えない性格みたいだと俺はそう思った。
「そういや鈴、お前いつの間にこっち来たんだ?それにこっちに戻って来るなら一言言ってくれよ」
「そんな事よりアンタ何やってんの?男でIS動かすなんて前代未聞よ?」
一夏と鈴は幼馴染みらしく近況について話をしていた。話に入れない俺と璃里亜は目の前の麺をどんどん減らしていく。話しているといきなり机に箒とセシリアが群がってきた。
「さあ、説明してもらおうか一夏!その女は一体誰なのだ!?」
「私も聞きたいですわ!可及的速やかに!!」
「い、いや俺の幼馴染みだよ。前に言ってなかったか?」
「は、初耳だ!!そもそも──」
その言葉を皮切りに箒とセシリア、鈴が騒ぎ出した。女三人寄れば姦しいとは良く言った物で、一夏すら会話に入る事は出来なかった。俺はずっと麺を啜る。
「そういや鈴と箒って面識無かったよな?ほら鈴、こっちが箒。前に話しただろ?俺が小学校の時通ってた剣道道場の娘だ」
「ふぅん、そうなんだ。はじめまして、これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
一夏の目には竜と虎がにらみあっているように見えているだろう。大丈夫、俺も見えているから………。
「ん、んんっ。私の存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰 鈴音さん?」
「…誰?」
「な!?私はイギリス代表候補生セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存知無いないと!?」
「うん、アタシ他の国とか興味無いし」
「んなっ、なっ…!」
(あれ?……このやり取り、二度目じゃないか?)
このやり取りに親近感を俺は覚えていたが黙っていることにする……。
「い、言っておきますけど私あなたの様な方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったらアタシが勝つよ。悪いけど強いもん」
「い、言ってくれますわね…」
鈴のためらいの無い言葉の勢いにセシリアはタジタジ。箒も箸を置き拳を握り締めていた。食べ終わっている璃里亜はただ楽しそうに眺めている。
「実をいうことな、リリー。俺にも幼馴染みがいるんだ」
「え!本当なの!?」
俺がボソッと呟くように言うと璃里亜は盛大に反応する。
その反応を見た俺は思わず噴き出してしまうと自分がはめられたことに気づいた璃里亜は顔を赤くしてそっぽを向く。
《パパ!いたずらは駄目!》
ユカにも怒られてしまった………。
「ごめん、ごめん、あれ見てるとつい……」
「ふん、ソウ君、知らない!」
「じゃあ、先に退散しますか」
「え……ちょっと待ってよーー」
俺はさっさと退散するようにその場を去る。後ろから璃里亜が追いかけてきた。
「あの二人は仲がいいの?」
「ああ、あの二人も幼馴染みだからな」
「へぇー」と鈴は興味げがなさそうに答えた。
「はあー、めんどくさー」
授業も終わり特訓でも使用かと考えていたら織斑先生から資料を運ぶように言われた。思ったよりも時間がかかってしまい、俺は部屋へと戻る為に歩いていた。
「ただいまー…………って」
扉を呑気に開けながら中に入ると璃里亜がいる。それはいいとして何故だろう……俺のベッドの上に丸まって顔を伏せている子猫みたいなのがいる……。
「鈴さん……なの?」
「あ!ソウ君!こっち、こっち」
俺が来たことに気づいた璃里亜がこっちにくるように手を向ける。
「ほら、ソウ君も来たことだし始めましょう」
「ぐすっ……」
(あれ?泣いてるのか……)
鈴を見てみると体がびくびく動いていることが分かる。
「なんで、こんな状況に……?」
「私が廊下で鈴ちゃんがへこんでいるのを見つけたから連れてきたの」
璃里亜が当たり前のように言う。
(鈴ちゃん…ってもう仲良くなってるのか?)
璃里亜は昔は人見知りの性格だったが、今はそんなことは感じさせないほどになっている。
「んで、何があった?」
俺がそう言うと鈴はぽつりぽつりと話始めた……。
「……つまり一夏と約束してたけど当の一夏は約束を忘れていたばかりか、意味を間違えて覚えていたって事?」
「そういう事よ。ったく、ホントあいつは……」
鈴の話だと一夏と昔にある約束をしていたらしいが当の本人は間違って意味を捉えていたらしい。それも。
『料理が上手くなったら毎日私の酢豚を食べてほしい』
を、一夏は………。
『毎日酢豚をおごってもらえる』
と解釈していた。何故、酢豚なのかというと鈴は中国人なので、日本特有の告白を自分で少し換えたらしい。
「ふーん、鈴ちゃんは一夏君のことが好きなの?」
「へっ!?べべべ別にそんな事……」
鈴は手を左右に振りながら否定の意思を示していたが、途中から失速して顔を俯かせてしまう。耳まで真っ赤な鈴を見て、俺の方も恥ずかしくなった。
「じゃ、じゃあ落ち着いたみたいだし、そろそろ──」
「あんたたち、私に協力しなさい!」
鈴がいきなり、そんなことを言い出した。俺はぽかーんとなるが璃里亜は誰が見たって乗り気になっていると見える。
「別にいいけど……俺たちでいいのか?」
「あんたたちも幼馴染みでしょ!なら、私の気持ちも分かってくれるから」
「俺にはセカンドとかいないけど……」
「それは関係ないわよ!!」と思いっきり否定されてしまった。
一夏によると箒がファースト幼馴染み。鈴がセカンド幼馴染みらしい。ていうか幼馴染みに順番ってつけるものかな………。
「うん!分かるよ!鈴ちゃん!」
璃里亜は完全にノリノリである。
「え!あんたも似たようなような事あったの!?」
「うん!」
「おーい嘘をつくんじゃないんですよー」
「今日のお昼」
(まだ根に持ってたんですか………)
璃里亜が言っているのは今日のお昼にまだ璃里亜が知らない幼馴染みがいると冗談でからかったことだ。
「あんたの事、蒼星って呼ぶから私のことも鈴で呼び捨てで構わないわ」
「分かったよ……」
ここまで来るともう俺たちが協力することは決定事項みたいなものだ。
「で、どうするつもりだ?」
「そうね…………」
鈴は何も考えていなかったらしく考え込む。
「クラス代表戦ってどう?」
「フリーパス券はどうするんだ?」
「それよりも、鈴ちゃん優先!」
もうここまで来ると誰にも璃里亜は止められないと幼馴染みが言っている。
「そうね……そうだ!来月のクラス対抗戦、そこで一夏をギャフンと言わせてやるのよ!!」
「そう言えば君って、二組のクラス代表だっけ?」
「ええ。と言うことでアンタ達、私が勝つ為に協力しなさいね!!」
そう言うと鈴はこちらに手を出してくる。
「よろしくね、蒼星」
続く───────────────────────────────