魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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後日談というよりは番外編その2。ちょっと4コマ漫画をイメージして書いています。


後日談3

 

「……ある程度は予想していましたが、これは都心の喧騒とはまた違う騒がしさですね」

 

普段の装いとはまた違う種類の衣服を身に纏い、道の真ん中に立ちながら彼女はふと言葉を漏らす。

あちらこちらから威勢の良い声が上がり、自分の脇を駆け抜けていく子供は楽しげな笑いを上げている。

今、彼女の目の前にあるこの神社の境内は、今日ばかりはと普段の静かさとは打って変わって活気に溢れていた。

その様子に、まるで別な世界に迷い込んでしまったのではという錯覚を彼女に抱かせる。

 

「ほら、早く行きましょう?」

「あ……」

 

彼女が無表情の中でも驚き戸惑っている事に気付いた連れが、その手を引く。

そして、彼女の方もその手に抗う事無く、喧騒の中へと踏み込んでいく。

 

 

──今日は、夏祭りだ。

 

 

事の発端は、彼女が久し振りに翠屋のケーキを食べに来たときの事。

彼女はいつも通りにケーキを食べに来ただけだったのだが、なにやら町全体が浮き足立っているような、そんな雰囲気を感じた。

一体どうしたのかと疑問に思い、そして疑問があるのなら解消するべきだと翠屋のマスターである士郎に尋ねた。

そして返ってきた答えが、今日から夏祭りが催されているという事だった。

 

彼女は夏祭りといっても特別何かをしようという思い入れも無い。精々が帰りがけにでも少し顔を出してみようか。その程度の認識だった。

 

「そうだ。折角だから私と一緒に夏祭に行ってみない?」

 

だがここで、桃子からそんな提案が上がって来た。

桃子、そして士郎達は、この自分達の娘によく似ている女性にはもっと色々な物を見て、知って欲しいと思っていた。

彼女は普段どのような環境の中に身を置いているかは、聞いていないので詳しくはしらない。だが、殺伐とした環境だというのは雰囲気から何となく察していた。

そして、まだ若い身の上でそんな生活を当然と望んでいる姿というのは見過ごしたく無かった。

 

故に、なんて言う事の無い、ありふれたような楽しい事を彼女に体験させたい。その一環として夏祭に誘ったのだ。

 

「……そうですね。別に断る理由もありませんので──」

「なら早速準備をしましょうか。あなた、お店の方はお願いしてもいいかしら?」

「ああ、こちらの事は任せて楽しんで来てくれ」

「それじゃあやっぱり浴衣からよね。えーと、確か押し入れに入っていたはず……」

 

桃子の行動は早かった。彼女が了承の旨を最後まで言い切る前に前掛けを外してとても楽しげに準備を始めていた。

そして士郎もまた、桃子が抜けた穴を埋めるべく、これからのシフトについて思考を巡らせていた。

この唐突とも思える高町夫妻の行動の前に、彼女はただ驚くばかりだった。

 

 

……と、そんな事が数時間前にあったのだった。

 

今の彼女は、桃子が何処からか調達してきた浴衣を身に纏っている。

藍色の布地の中に花火を象った色とりどりの刺繍がしてあり、また、普段は下ろしている髪も今回は頭の後ろの部分に結われており、彼女の落ち着いた雰囲気に良く似合っていた。

 

「あれは……?」

 

最初は少し尻込みしているような様子だったが、既にいつもの調子を取り戻した様子。

彼女は何か興味が引かれるものを見つけたのか、すたすたと歩き出す彼女をみて、桃子はなんとなく苦笑を浮かべながらその背中を追いかけるのだった。

 

 

 

『まずは』

 

 

「おめんを購入しました」

 

桃子は、この夏祭初心者の彼女をまずは何処に連れて行こうかと考えていたら、いつの間にか夏祭グッズを出店で買ってきていた。

彼女としては、別に桃子に自身の購入した物を見せる必要性は無いとは思っていたが、なんとなく記念すべき夏祭初めての品だという事で、見せてみたいと思ったのだ。

 

ちなみに、桃子は今の彼女の姿に『フリスビーを取って来たわんこ』の姿を幻視していたのは内緒だ。

 

「あら、白いキツネのおめんね。うん、可愛いと思うわよ」

「ただ、これを着けると前がよく見えません。

強度も無い上、視界も制限されては防具として役に立たない以上にデメリットしかありません。何故このような物が売り物として陳列されているのか理解に苦しみます」

「え~と、そういう事じゃないと思うんだけど……。ちょっと貸してみて?」

 

桃子は明らかに妙な勘違いをしている彼女の手からおめんを受け取ると、彼女の頭に引っ掛けるように斜めにつけてみる。

 

「うん、こうすればかわいいと思うわよ」

 

最後に少し位置を調節して、桃子は満足げに彼女のその姿を見やる。

彼女はあまり明るい色を身につけず、黒系が多い中で白いキツネのおめんはアクセントになっていてよく似合っているように見える。

 

「顔を隠すべき防具を、あえて顔を晒すように装着するとは……奥深いですね」

 

まあ、相変わらず彼女の認識はずれている様子なのは御愛嬌と思う事に、桃子はした。

 

 

 

『小腹が空いてきたので』

 

 

夏祭の出店が軒を連ねる中では、食べ物屋の割合が非常に多い。

そして夕刻でまだ食事を取っていないふたりが香る匂いに釣られて空腹感を覚えるのは当然の成り行きだ。

 

「う~ん、シュテルさんは何か食べたいものはある?」

 

桃子は、今日は彼女の案内がメインであるので、まずは彼女の意見を聞いてみる。

 

「そうですね。どれも初めてで興味深いです」

 

彼女は出店の一軒一軒を眺めるようにしながら、桃子の問いに答える。

並ぶ品は知識ではどんな食べ物かは知っているが、それは実際に食べてみなければ美味しいか美味しく無いかの判断は出来ないと今までの経験から分かっている。

だが、これほどの数を目の前にすると、どれかを選ぶというのも難しいと彼女は思い、

 

「なので、端から順序に全ての出店の品を食べていこうとおもいます」

 

ちょっとそれは無理だと思う桃子だった。

 

 

 

『驚きの味わい』

 

 

どうせ全種類を制覇しようとしても、ふたりともそこまで多くを食べれる訳ではないという事で、全部は諦めるとしてとりあえず一番近場にある物にする事にした。

 

「はいどうぞ! 出来たてで熱いから気をつけてな!」

 

店の人に代金を渡して受け取ったのはたこ焼きだ。

彼女は早速開けると、球体の形に焼き上げられたそれが現れ何とも言えない良い香りが漂ってくる。

 

「シュテルさん。出来たてのたこ焼きは本当に熱いから気をつけてね」

「分かりました」

 

彼女は桃子の忠告を受け、念入りに息を吹きかけてたこ焼きを冷ます。そしてこれくらいで十分だろうというところで息を吹きかけるのを止め、一口で頬張る。

 

「あ……っ!」

 

彼女は口の中に入れた感覚ではそれなりにまだ熱いが、十分に食べれるくらいに冷めていると判断した。たこ焼きを食べるべく思いっきり噛む。

その彼女の行動に、桃子は慌てた声を上げるが既に時遅し。

 

「あふっ!?」

 

たこ焼きは表面は冷めても中は十分に熱いまま。噛んだ事で、たこ焼き内部にあるその生地とタコが彼女の口の中に一挙に流れ出す! それはさながら噴火した溶岩の如し。

 

「……」

 

憐れ、その蹂躙に口内をモロに晒してしまった彼女は涙目となったのだった。

 

「……かき氷、食べる?」

 

──コクコク

 

そして、熱いのを冷ますべく桃子はかき氷を勧めると、彼女は無言のままに何度も頷いて見せていた。

ちなみに、彼女はこの直後にかき氷を手早く食べ過ぎて頭痛に苦しむ事になる。

 

 

 

『結局は』

 

 

「わたあめ……。原材料の通りのストレートな甘さだけですね」

 

「お好み焼き……。大味過ぎです。殆どソースを食べているような気分です」

 

「りんご飴……。何故りんごと飴を組み合わせたのかが理解できません」

 

「かき氷……。削った氷にシロップを掛けただけで五百円というのはぼったくりでは?」

 

「焼きそば……。麺が伸びていて食感がいまいちです」

 

「からあげ……。しょっぱいです。塩分の取り過ぎになりそうです」

 

出店で購入した食べ物に対して、彼女は率直に酷評をつけて回っていた。

 

「ほら、シュテルさん。品評もいいけど口の周りにソースが付いているわよ」

「むぐ……?」

 

でも、全部美味しくいただきました。

 

 

 

『出会い』

 

 

一通り食べ物屋を巡り、腹も膨れたところで、ふたりは次にくじ引き屋を訪れていた。

くじは一回五百円という事で、千円を渡して二回分くじを引かせて貰う事になった。

 

「あ~、残念。7等とハズレだね。はい、とりあえず7等の景品だよ」

 

が、結果はそんなモノだった。

とはいえ、特に落胆する事も無く、彼女は7等の景品を受け取る。

 

「これは……」

 

そして、今、彼女の手の平の上には一匹の黒ネコを象った小さめの貯金箱。

その妙にデフォルメされた黒ネコのつぶらな瞳が真っ直ぐに彼女の事を見つめていた。

彼女の方もまた、なんとなく黒ネコ型の貯金箱から視線が外せない……!

 

「……」

 

そこには、彼女と黒ネコのふたりだけの世界が構築されていた。

 

 

 

『このくじ引き屋はハズレなしがウリらしい』

 

 

「お~い嬢ちゃん?」

「……はっ」

 

くじ引き屋の店主に声を掛けられ、彼女は現実に戻って来た。

彼女が隣を見れば、桃子が苦笑しながら見ていたという事に気付き、気恥かしさを覚えて頬が熱くなるような気がしていた。

 

「はい、ハズレの型抜きだよ」

「……なんですか、これは?」

 

そんな中、くじ引き屋が彼女に2枚の小さな板の様な物を差し出してきたので、先程までの事は無かった事にするように彼女はそれを受け取る。

 

「……味はありませんね」

「いや、ソレは食べ物じゃないからね」

 

彼女はとりあえず半分食べてみたが、ピンク色のお菓子のような見た目の割に美味しく無かったと眉をひそめる。

そしてそれも当然と、くじ引き屋が型抜きについて教えてくれた事によると、これは、小麦粉で出来た板に彫られた形を綺麗に抜き出すという遊び方をするものであるという事。

そして、型抜きを成功させたなら、抜いた型に応じた賞金が出るという事だった。

 

「なるほど。まあ、やりませんが」

 

……だが、彼女は興味が湧かなかったらしかった。

というか、既に型抜きの板には彼女の歯型が付いているので、そもそも挑戦が出来ないのだが。

 

 

 

『強敵現る』

 

 

「……弾が真っ直ぐ飛びません」

 

次に彼女が挑戦したのは射的屋だった。

彼女は魔法を使うためのデバイスではあるが、実物の銃器の使用経験があるので密かに自信があったのだが、実際にやってみれば的にかすりもしなかった。

まあ、これは玩具の銃であるし、打ち出す弾もコルクなので空気抵抗をモロに受けて弾道が安定しないので、真っ直ぐ飛ばないのはある意味当然だ。

 

「……」

 

だが、彼女は基本的に負けず嫌いなのだ。

武器が悪いからといって泣き寝入りするつもりは毛頭ない。出来る中で最善をこなすだけだと意識を集中させる。

トリガーを引く事によって発生するエネルギー。その伝導率。発射角度。打ちだされた弾の受ける空気抵抗。風向き……。

 

(見えた……!)

 

真っ直ぐ飛ばない理由は理解した。ならば後はその要因を全て計算し尽くす。

“砕け得ぬ闇”として持つ演算能力を無駄にフルに活用して、必殺の一撃を的に届けるただそのために……!

 

──ポコン

 

「……当たったのですが?」

「いや、残念だね。倒れないとポイントにならないんだよ」

「……」

 

──ポコン

──ポコン

──ポコン

 

「……まったく倒れないのですが?」

「はは、そうだね~」

 

的並ぶ台の中央に鎮座する『王将』と彫り込まれた木製の大きな置物は、相も変わらず泰然とそこに在り続けていた。

 

 

 

『続・強敵現る』

 

 

彼女はかつて無い敵の存在に戦慄を覚えていた。

今までも難敵は多く出会って来た。だが、そのどれもが諦める事をしなければ打倒の可能性は僅かでも確かにあった。

 

「く……っ」

 

だが、今相対している敵は、倒れない。倒す手段が存在しないのだ。その事実が彼女に重くのしかかる。

最強を目指す自分が、こんなところで挫折してしまって良いのかと心を苛む。

 

……まあ、実際にはあの置物は射的の景品というよりはただの飾りの様なもので、店側としても取らせようという意図は最初から皆無の品なのだが。

 

「ねえシュテルさん。あの置物がそんなに気に入ったの?」

 

そんなどうでもいいようで、彼女は真剣に葛藤している中、桃子がその背中に声をかけていた。

 

「……気に入ったという訳ではありません。ただ倒したいだけです」

 

彼女はこの状況で何故桃子が声をかけて来たのかは分からない。

だが、尋ねられた以上は答えを返さなければと、返事をする。

 

「なるほど、分かったわ。ならちょっと待っててね」

 

桃子は彼女の真剣な瞳を前にして、ひとつウィンクをしてみせていた。

 

 

 

『真・強敵現る』

 

 

「ねえお兄さん。あの景品って倒れないのかしら?」

「あー、あれねぇ……」

「あの景品って倒れないのかしら?」

「う~ん、他のモノならサービスしてもいいけど……」

「倒れないのかしら?」

「いや、ちょっと……」

「倒れないの?」

「う、ぐ……」

「倒れるわよね?」

「…………」

「よし。それじゃあシュテルさん、もう一回やってみて」

 

彼女は桃子と射的屋との会話の意味は分からなかったが、とりあえず指示通りにもう一度撃ってみる。

 

──ポコン

 

まあ、結果は相変わらず……

 

「おー、地震が~」

 

……と思っていたら、射的屋わざとらしい棒読みのセリフと共に置物に歩み寄ると、そのまま手で倒してしまっていた。

 

「やったわねっ、シュテルさん!」

「……」

 

彼女の中では予想外過ぎる展開の前に、珍しい事に開いた口が塞がらないでいた。

とりあえず、心の中で密かに桃子への尊敬の念を抱いていた。

 

 

 

『強敵現る・その後』

 

 

「……重い」

 

手に入れた王将と書かれた木製の置物は、重くて大きくて歩くのにやたらと邪魔だった。

さもあらん。

 

 

 

『最後の締め』

 

 

夏祭、今宵の締めとして色とりどりの花火が上がり、夜空を彩る。

それを、彼女と桃子は肩を並べて見上げていた。

 

「……今日は楽しかったわ。付き合ってくれてありがとう」

 

桃子は花火を見上げたまま、今日の出来事を思い返していた。

最初はあっちへふらふら、こっちへふらふらと思うままに動く小さな子供のような彼女を、放っておくには危なっかしかった。

もし迷子になったとしても、いい大人なのだから相応の対応は出来ると分かっていても、世話を焼かなければという思いだった。

 

だが、それは別に面倒とか、大変などという事は無い。むしろ楽しかったとはっきり言えた。

彼女は特に楽しそうな表情を浮かべていたわけではない。だが、率直な物言いをする彼女が不平不満を一言も口にしていなかったのは、彼女も楽しんでいた事だと思う。

今日は突然の申し入れだったが、こうして楽しんで貰えて、自分も楽しむ事が出来たのだから良かったと思うと自然と感謝の言葉が口を突いて出ていた。

 

「いえ、別に礼を言われる事は何もありません」

 

そして彼女の方は、相変わらずの仏頂面で何でもないと答えてみせる。そんならしさが可笑しい気がして何となく桃子は笑みをこぼす。

 

「……何でしょうか。今の貴女の笑みを見ていると、私は面白くないという想いを感じます」

 

何処か拗ねたような態度を見せる。あまり表情は豊かではないが、最近は初めて出会った時と比べて感情は豊かになっている気がする。

そう思うと、彼女には悪いが余計に嬉しくて笑みを収める事が出来ない。

そして、そんな桃子の態度に、彼女は更に不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。

 

「ただ──」

 

だが、桃子が改めて彼女の顔を見た時、そこには何時もの感情の薄い表情は無かった。

 

「──私も今日は楽しかった。それは間違いのない本当の事ですね」

 

彼女は薄く微笑んでいた。それは、『楽しかった』という想いが本当の事であると十二分に物語っていたように桃子は感じた。

打ち上げあられた花火によって照らし出されたその表情は、とても綺麗なものに桃子は見えた。

 

 

 





星光の殲滅者(夏祭りモード)

右手:わたあめ
左手:りんご飴
頭 :狐のお面
身体:藍色の浴衣

持ち物
王将と書かれた置物(射的の景品)
黒猫型の貯金箱(くじ引きの景品)
金魚すくいのアレ×30(あなあき)
水ヨーヨー(みょんみょん)
型抜きの欠片(かじった跡付き)


ひとつだけ聞かせろ、――お前、ルシフェリオンは何処へやった?


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