魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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空白期編3

 

クイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノのふたりは、首都防衛隊に所属しており、現在は技術的、人道的観点から禁止とされているはずの戦闘機人の研究施設へと強制捜査の最中であった。

元々、今回の強制捜査は予定にはないものだった。だが、上層部からの辞令により、捜査を打ち切りにされそうになったために、予定を繰り上げて強行したのだ。

 

クイントもメガーヌも自分達に下った辞令には疑問を抱いていた。もしかしたら自分達の所属する組織の上層部がこの違法研究施設に一枚かんでいるのではとも推測出来ていた。

そして自分達の隊長であるゼスト・グランツもまたそんな上層部からの指示に粛々と従う事を良しとせず、捜査中止の辞令に先んじて行動を起こしたのだ。

 

これは組織人としてはグレーゾーンとも言えるギリギリの判断であり、事が済めば成否がどうあれ何らかの処罰が下る可能性もある。

だが、ゼストや他の隊員はもちろん、ふたりにもこのミッドチルダには守りたいと思う人達がいる。ここを見過ごせばその人たちに危害が及ぶ事こそ看過出来るわけがない。

故に、この非合法組織を検挙する事に全力を尽くすと言うのが彼ら、彼女立ちの総意だった。

 

そして現在、ふたりはゼスト隊長率いる部隊が以前から目星をつけていた研究施設に突入を果たしていた。

通路を駆け抜けつつ周囲を探ってみれば、事前情報では閉鎖されているとの事だったはずのこの場所は明らかに稼働していてどう考えてもきな臭い。

やはり自分達の推測は正しかったのだと確信を深めながら、関係者はひとりも逃さず一網打尽にするべく今は拙速をこそ肝要と駆け抜ける。

隊長であるゼストは管理局の中でも極僅かしかいないS+ランクを持ち、そんな彼に日頃から鍛えられている隊員の練度は高い。

その中でも特に高い実力を持つクイントとメガーヌのコンビは、ゼスト隊長とは別の部隊を率いて施設内部を奥へと進んで行けば、通路の終わりへ突き当たる。

 

最前衛を突っ走っていたクイントは、どうせ遠慮をする必要は無いと目の前に現れた扉を殴り壊して新たな部屋へと突入を果たしていた。

そんな友人の無茶苦茶な直進の仕方に、追いかけるメガーヌは呆れながらもその部屋へと足を踏み入れる。

 

「……随分と荒々しい扉の開け方ですね」

 

その部屋に居たのは、骨董品と見えるようなテーブルに着き、落ち着いた様子でカップを傾けている二十歳頃といった外見のひとりの女性。

 

「……貴女は一体何者?」

 

クイント達は、その彼女の落ち着き払った態度に僅かに困惑を覚える。今、現在進行形でこの施設ないは自分達に攻め込まれている。

だというのに、どうしてそんなに我関せずと紅茶を嗜んでいられるのかが分からない。

こうして武装している自分達を前にして、どうしてそんなに落ち着いていられるのだと、警戒心が疑問となって、口を突いて出る。

 

「ああ、私の事はどうぞお気になさらず。見ての通りお茶をしているだけですので」

「……この施設の関係者を黙って見過ごせるとでも思っているの?」

「いえ。私は美味しいお茶とお菓子が頂けると重宝しているだけで、此処の関係者ではありません。

関係者に用があるというのであれば、そちらの扉から行けば此処の主にすぐに逢えると思いますので、彼に直接話して下さい」

 

クイントが凄味を込めるように睨みを利かせても、彼女はそんなモノなど気にもならないと動じる事無く自分は無関係だと口にする。

しかも、それだけでなく主の所在まで明かす彼女の真意がどうしてもクイント達には分からなかった。

 

そんなクイント達の想いを知ってか知らずか、彼女は語るべき事は語ったと再びカップに注がれた紅茶を口にする。

その態度にも何の気負いも感じられない。その姿は本当に嘘など語っておらず、むしろ彼女の楽しみの邪魔をしているこちらの方が無粋なのではと思ってしまうほどの堂々とした態度だった。

 

だが、この場は非合法の研究施設であり、その中で平然とお茶をしている人物が普通なわけが無い。

クイントとメガーヌは部下達に目配せをすると、彼女が指し示した扉の向こうへと先行させ、自分達はこの場に残った。

 

部下達だけに先行させるのは問題とも思うが、苦楽を共にして訓練に励んで来た仲間の実力を信頼している。この先は任せても良いと判断した。

それよりも、彼女の存在を放っておく事の方が危険な気がするとふたりとも何となく感じとっていたため、この場に自分達が残ったのだ。

 

「この施設は違法研究をしている疑いがあり、この場に居る貴女もまた参考人になります。

大人しくこちらの指示に従うというのであれば危害は加えません。

ですが、抵抗するのであれば相応の対処を以って貴女を捕縛させて貰います」

「……私は無関係だと言っているのですが?」

 

まずは、自主的に同行して貰いたいという旨をメガーヌが彼女に宣告する。

対する彼女の方は、あくまで自分は無関係であり、そちらの言い分を聞く必要性はまったく感じないという旨の言葉で返す。

 

「投降の意思は無し、と。なら、力づくで同行して貰うわよ?」

 

クイントは『リボルバーナックル』というデバイスを装着している両の拳を突き合わせ、重厚な金属音を鳴らしながら、戦闘の意欲を見せる。

メガーヌもまた実力行使もやむなしと、クイント程に露骨ではないがその意志を示していた。

 

「……モノ好きな方達ですね。私は貴女方を見逃すと言っているのに、わざわざ敵対しようとしているのですから」

 

そんなふたりの態度を前にして、彼女もまた雰囲気が変わる。

ふたりの目的はあくまでこの施設関連。ならば部外者である自分は関係ないと彼女は傍観を決め込み、視線を合わせる事すらしていなかった。

だが敵と言うのであれば話は別と、ここにきて初めてふたりに視線を向けていた。

 

「っ!?」

 

そんな彼女の視線に晒され、クイントとメガーヌは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

彼女自身は相変わらずイスに腰をおろし、カップを手にしたままではあるが、その瞳にははっきりと自分達を敵だと認識“した”事が見て取れた。

そして敵であるなら容赦する意味も無いと言葉にしなくてもその瞳だけで十分に物語っている。ここに来て、彼女は自分達が思っていた以上に危険な相手だと理解する。

自分達だけでも後れをとるつもりは毛頭無いが、ここは確実に彼女を捕獲するべきだと、メガーヌが自分達の中でも最大戦力である隊長のゼストに連絡を入れようとする。

 

「え……!?」

 

だが、ゼストに通信の一切が繋がらなかった。いや、ゼストだけでは無い。先行させた部下達にすらも連絡が届かなかった。

この状況を目の当たりにして、驚きのままに目を見開く。

 

「これは……、なるほど。おそらくはクアットロかウーノ辺りが施設内に魔力結合阻害領域、AMFを展開したようですね」

 

メガーヌのその様子からもしやと思い、彼女はカップをテーブルに戻すと自分の掌の中で魔力球をひとつ精製してみる。

するとそれが自身の意志とは無関係に霧散するのを見て、今この施設内で魔力の結合を阻害するフィールドが形成されているのだと理解する。

魔法とはプログラムに従って魔力を使って効果を発生させているのだが、その燃料に相当する物の運用を阻害されれば魔法を使う事は出来ない。

攻撃魔法はもちろん、念話も魔法の一部なのだから通じない事も当然だった。

 

「侵入者を内部に十分引き込んでからのAMFを使用。どうやら彼は、貴女方を誰ひとりとして逃すつもりは無いようですね」

 

そして、魔導師にとって鬼門と言える効果を発揮するAMFを侵入されてからすぐに使用しなかった理由について当たりをつける。

もし、侵入された直後に使用していたなら、侵入者側もこの効果に気付いてすぐに不利を悟って撤退をした可能性もあるが、此処まで侵入してからではそれも難しくなってくる。

施設の奥深くまで侵入を許す事はデメリッドも多い。だが、自分達の研究を明るみに出されるわけにはいかない故に、目撃者は全て確実に消したい。

おそらくはそういう思惑なのだろうと彼女は思う。

 

ただ、彼女はこれで目の前に居るふたりもまた著しく弱体化してしまった事と同義であるため、おそらくふたりと戦ってもあまり楽しくなさそうだと残念な気分になる。

これでは興醒めだと、彼女は立とうと浮かせかけた腰を再び下ろす。

 

「AMF、ですって……!?」

 

対するクイント達は、彼女が何気なく呟いた事の意味するところに危機感を抱く。

管理世界の魔導師の大半を占めるミッド式魔法は魔力を放出するのが主なのだが、AMF下では、その力の殆どを封じられたようなもの。

白兵戦に特化したベルカ式にしても、武器の強化には魔力を使っているので、こちらもまた制限を大きく受けてしまう。

クイント達にも、自分達がそれなりの実力を持っているという自負はあるが、事前策も無くAMFに飛び込むのは自殺行為にも等しい。

実際、現状は既に退却する事すらも困難となっている。打破する術も殆ど無い。

 

もし魔法では無い銃器を使うというのであれば、この状況下でも打破する事も出来るかもしれない。

だが、時空管理局の謳う事として、質量兵器の使用はほぼ全面禁止されている。

当然の結果として誰もが魔法を使う補助であるデバイスは持っていても、質量兵器に準ずるような武装などを持っているわけも無かった。

 

「貴女ッ。今すぐこのAMFを解除させなさい!」

 

自分達には出来る事は無いのなら、出来る相手にさせれば良い。

そう思い、目の前で急に自分達に興味を失ったかのように、お茶受けのクッキーをかじっている彼女は、あくまで無関係だと言うが、少なくとも此処では客人という立場のはず。

ならば、そんな人物を蔑ろにされる事は無いはずだと強い言葉を叩きつけるようにAMFを解除するように言う。

 

「私には貴女方の頼みを聞く理由も謂れもありません」

 

だが、彼女はそんな言葉を、にべもなく切って捨てる。

そもそも、彼女はこの施設へと侵入者が現れた時点で、ウーノに退避するよう勧告されていたが、その程度は気にする程の事も無いと、お茶を続けていたのだ。

そんな自分を援護する謂れも、たとえ彼女が倒れるような事になって生じる不都合などもジェイル達には存在しない。

故に、彼女自身が窮地に立たされたとしても何の援護も無いと彼女は理解している。

 

「……なら、力ずくで言う事を聞いて貰うわよ!」

 

そんな事情が彼女にあるのだが、クイント達には知るよしは無いし、一刻の猶予も無い事から余裕も無い。今はただ、このフィールドをなんとかしなければという一念だ。

だからと、僅かにある可能性に賭けるべく、クイントは拳を握り締める。

 

同時に、足につけているローラーブレード型のデバイスを起動させ、地面を一気に駆け抜ける。

確かにミッド式の魔導師にはAMFはキツイが、ベルカ式である自分ならまだ戦えると気炎を上げる。

射撃や移動系の魔法は使う事は出来ないが、近づいて相手をぶん殴るぐらいの事なら出来ると、接近の勢いのままに振りかぶった拳を彼女に向けて放つ。

 

「――プロテクション」

 

だが、その一撃は彼女の展開した防御魔法の前に遮られる。並の魔導師が相手なら防御など関係無く吹き飛ばせるはずのクイントの一撃は、彼女の防御を破る事は出来なかった。

そして、その向こう側では目の前で拳が自身に迫っているというのに、まったくの涼しい顔で彼女はお茶を嗜む。

 

「そんなっ、AMF下でどうして魔法が使えるの!?」

 

そんな彼女の行動を目の当たりにして、メガーヌが信じられないと声を上げる。

自分は確かに魔法を使えなくなっているのに、どうして彼女は平然と魔法を使っていられるのだと叫ぶように疑問を呈する。

 

「AMFは魔力結合を阻害はしますが、完全に無効化しているわけではありません。

面倒ではありますが、阻害される以上の結合力で魔力を行使すれば魔法を使う事は出来ますよ」

 

そして彼女はあっさり種明かしをする。

彼女は魔法が使えない状況に陥ったとしても、幾つもの対処法を既に準備している。今回のコレもそのひとつ。

それは難しい小細工を弄しているのではない。単に力ずくで魔法を行使しているだけというものだった。

 

だが、言葉にするだけなら簡単ではあるが、実際にAMF下で魔法を使おうとしたら、それは高等技術だ。

それを片手間にとでも言うように容易く実行している姿がから、その実力の一端を良く表していた。

 

「私はこれでも自身の防御魔法の出力には自信があります。その程度の一撃では無駄という物です。

もし本気で破ろうというのなら、その三倍は持って来て下さい」

 

そして、彼女は実際にクイントの攻撃を防いでみて、AMF下という状況では自身の防御の突破は無理であると判断を下す。

相変わらずクイント達の事など眼中にないと、防御魔法に守られながらカップを傾ける。

 

 

「……言ったわね」

 

クイントは彼女の余裕に溢れる態度と、その自信が過剰ではないと言えるだけの防御魔法の堅固さを身を以って体感していた。

だが、それでも今の彼女の姿に慢心があると、防御魔法に突き立てていた拳を引く。

 

クイントは一歩下がると、深く、大きく呼吸をする。そして真っ直ぐ前を見据えながら構えを取る。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

一歩を力強く踏みしめる。踏み込みのエネルギーを下半身から上半身に伝え、腰の回転によりその方向を転換する。

デバイスからはカートリッジが排出され、手首部分にある歯車状のパーツであるナックルスピナーが高速回転による唸りを上げる。

全身の力。デバイスの力。その全てを拳に乗せて、一気に打ち出す!

 

「!?」

 

その一撃の前に、先程まで防いでいたハズのバリアが、ガラス板を砕くかのように破られた。

その事に彼女も僅かに驚きに目を見開く。

 

「もういっちょぉッ!!」

「プロテクションっ」

 

クイントはリボルバーナックルを両手にそれぞれ装着している。ならばもう一発やるのは当然だと更に踏み込んでもう一撃を放つ。

それを彼女は再び防御魔法を展開していたが、それもまた破られる。だが、その先には彼女の姿は無い。クイントの二撃目は彼女の座っていたイスとテーブルを破壊するだけだった。

 

「……アンチェインナックル、ですか。まさか私の防壁を単純に力技で破られるとは思っていませんでした」

 

ふたつ目の防御魔法は時間稼ぎと目くらまし代わりにと、既に安全圏に身を置いていた彼女は、クイントの成した事を看破する。

 

アンチェインナックル。

 

完成系は一切のバインドや防壁をも打ち破るとされる、格闘系の中でも難易度の非常に高い『技』だ。

クイントのそれは、ほぼ完成系と言えるものであり、まさに“何物にも繋がれない拳”を体現していた。

このレベルならば、たとえその身をバインドで拘束されたとしても、無理矢理引き千切りながら拳を繰り出せるだろう。

 

「……どうやら貴女方の事を甘く見過ぎていたようですね。その点に関して謝罪をしましょう」

 

そして彼女は、AMFの影響を受けながらも自分の防御を破る程の実力がある事を見破れ無かった事に対して頭を下げる。

そんな彼女の殊勝とも見える態度に、クイントは僅かに困惑を覚える。

 

「ええ、貴女方は私と戦うだけの力があると認めましょう」

 

だが、頭を上げた時のその瞳を見て、その自分の思いが勘違いであったと知る。

 

彼女は醒めたはずの興を、再び燃え上がらせていた。

ペンダントとして首から掛けていた自身のデバイスであるルシフェリオンをその手に取ると、起動させる。

直後、彼女の魔力光である桜色に包まれる。そしてそれが解かれると、闇色の戦装束に身を包む彼女の姿がそこにあった。

 

「う……」

 

そこに立つ彼女は、異常だった。

別に何をしているというわけではない。ただ立っているだけだ。

だが、彼女のその身体から溢れ出すようにしている禍々しい魔力の気配は、AMFなどお構いなしに畏怖の念を抱かせる。

知らず気押され、負けん気の強い方であるはずのクイントでも、思わず後ずさってしまう。

 

「私に喧嘩を売ったのです。今更逃げるなど締まらない真似はしないで下さい」

 

だが、彼女はそれ以上の後退を許さない。ルシフェリオンの石突きで床を突くと同時に、結界を展開する。

それは、位相空間をずらした封時結界などとは違う。単にこの場を障壁で覆い隠すように展開した、シンプルなモノ。

物理的に壁で全方位を包囲されたようなものであり、またその強度も非常に高いために、確かに逃れる事は難しいといえるものだった。

 

「うそ、これってまさか……!」

 

だが、ふたり、特にメガーヌは彼女が展開した結界を目の当たりにして、別な意味での事実に気付く。

確かに彼女は逃がさないために結界を展開したのだろうが、この中では、先程まで阻害されていた魔力結合を通常通り行う事が出来たのだ。

目の前でクイントが戦おうとしているのをなんとか援護をしようと試行錯誤をしていたから、すぐにその事に気付いた。

 

「ヴァリアブルフィールドの広域展開です。AMFの効果はこの結界に遮られているので、内部では通常通り使えます。

無論、私とてこの範囲でこの質を何時までも維持は出来ません。精々は五分といったところでしょう」

 

彼女はメガーヌの気付いた事を肯定するように、自分の展開した結界の効果を教える。

AMFとは魔法を浸食してその結合を阻害する働きを持っている。だが、その魔法をAMFと中和するようにバリアで守れば、発動させる事が出来る。

高レベルの射撃魔法の使い手ならば、攻撃魔法の弾を外殻の膜状のバリアで包み、外部のバリアで相手のフィールドと中和させ、本命の弾を相手へと届かせる事が出来る。そういう話だ。

 

だが、今彼女がやっているのは、その部屋全域を覆う程のフィールドとして展開されている。

射撃魔法の弾という小型の物を対象としてバリアの膜を張るのでさえ難易度と魔力消費は高くなるのだが、今の彼女の負担はその比では無い。

だとうのに、まったく辛いような素振りなど表す事無く、彼女は改めてデバイスを構える。

 

「ですからどうぞ、全力でその五分間を抗って下さい」

 

これより戦いの刻であると告げる言葉が結界の中に静かに、でも確かに響く。

彼女は別に余裕からふたりに情けをかけているわけではない。どうせ戦うなら自分を楽しませてみせろと対等に戦える場を提供しただけ。

この結界の維持は確実に負担になっている。だが、その上で彼女は真っ向勝負を望む。

 

「……メガーヌ、これはもう、実力で切り抜けるしかないわよ?」

「そうみたいね。どちらにしろ、彼女は誰かさんのせいで私達を見逃す気はもう無いみたいだし、逃げようにもこの彼女の結界を突破した瞬間を狙い撃ちされるでしょうしね」

 

戦うという選択肢しか取れないと、ふたりは腹をくくる。

クイントはメガーヌの軽い嫌味に僅かに顔を顰めたが、ふたりにとってこの程度はほんのお遊び。むしろ、緊張し過ぎないように気を抜くのに丁度良いとお互いに分かっている。

 

「――パイロシューター」

 

そんなふたりのやり取りを尻目に、彼女は誘導操作弾を発動させる。

朗々と紡がれる彼女の言葉と共に浮かび上がるのは、魔力弾の発射体である桜色の魔力球達。

 

「……シュートッ」

「!!」

 

停滞は一瞬。会戦の狼煙として撃ち放たれる。その全てがクイント達に襲い掛かる。

次々と着弾する魔力弾が魔力の残滓による霧を発生させ、それが爆煙となってふたりの姿を覆い尽くす。

傍から見れば全段的中であり、これで勝負がついたようにも見える。だが、彼女はそれでも油断する事無く静かに、爆煙の先にあるであろう姿を見るように視線を向ける。

 

直後、爆煙の中から幾つもの光の帯が現れる。それらが、結界内に縦横無尽に張り巡らされる。

そしてその光の帯を道として、クイントが続けて爆煙の中から駆けるように飛び出してくる。

 

「いっくわよ~っ!!」

 

そしてその勢いのままに拳を振りかぶる。

この閉塞空間である屋内こそが陸戦魔導師の本領であると、彼女へ向けて躍りかかる!

 

「パイロシューター、ディフェンシブシフト」

 

だが、彼女の方もさるもの、その動きを把握した上で、宙を舞わせていた誘導操作弾をクイントの行く手を阻むように配置をする。

元々、彼女の誘導操作弾は相手の動きを阻害、制限するためのものであり、相手を直接だとうする目的のモノでは無い。これこそが意味正しい運用法である。

 

とはいえ、彼女の魔力資質の影響もあり、単なる誘導操作弾でありながら単発で対象を撃墜するだけの威力が秘められている。

クイントもフロントアタッカーとして打たれ強さには自信はあるが、一発ぐらいなら十分に耐えられるかもしれないが、配置されている分は明らかにその防御力の許容範囲を超える。

このまま直進をしたなら敗北は必須。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

だが、クイントは止まらない。むしろ更にローラーブレード型のデバイスに魔力を込めて加速を上げて行く。

自身の目の前に防御魔法を展開しながら、真正面からその猛威の中に突っ込んでいく。

 

「我が乞うは、城砦の守り、勇猛なる拳士に清銀の盾を。──エンチャント・ディフェンスグイン!」

 

何故なら、今のクイントは一人では無い。その行動を理解する戦友の補助魔法の淡い光がその身を優しく包み込む。その魔法効果により、耐久力を向上させていた。

この場は彼女の膨大な魔力によってAMFの魔法無効化を塗りつぶすほどの飽和状態の魔力に満ちている。

彼女も先程言った通り、この場でならクイントはもちろんメガーヌも魔法を使える。ならばこんな局面でも遅れをとるわけがない!

 

「痛……くっ、無いッ!!」

 

メガーヌの補助を受けたクイントと、彼女の誘導操作弾が激突を果たす。

彼女の誘導弾は確かにクイントの体力と魔力を一挙に削っていくが、メガーヌの加護を得たその身は桜色の暴威の全てを耐え抜き、突き破る。

振りかぶった拳に装着されたリボルバーナックルからカートリッジが排出され、唸りを上げる。

圧縮された魔力が、クイントの上半身から拳を強化する。

 

「猛きをその身に力を与える祈りの光をッ、──ブーストアップ・ストライクパワー!」

 

ダメ押しと言わんばかりに、完全にタイミングを合わせたメガーヌの魔法がリボルバーナックルに宿る。

ストライクパワーのその名の通り、打撃力を一挙に引き上げられたその一撃は、既に非殺傷設定など意味を成さず、物理的な威力で対象を粉砕する威力があると分かっている。

 

「ナックル──」

 

だが、クイントにもメガーヌにも手加減をしようという考えは頭には無い。

この相手はそんな事をしてなんとか出来るような相手ではないと理屈では無い、殆ど勘で理解をしている。

 

「──ダスターァァッ!!」

 

彼女は常の場合であれば、相手が真正面から攻めて来たなら、それを真正面から迎え撃ち、実力を持って圧倒する。

だが、クイントの一撃は単純な力技ながらも込められた力の総量が群を抜いているため防御をし切る苦しい。

その上、今は対AMF用の意味を込めた結界を同時展開している身の上では、防御は愚策であると思考する。

 

「──ラウンドシールド!」

 

思考して、それでもあえて彼女は地をしっかりと踏みしめるようにして立ち、防御魔法を展開する。

確かに回避をするべきだが、この屋内という空間で、しかもクイントは足場として使う光の帯の影響で自由に動ける空間が少なくなっている。

この現状では、回避をし続けても遠くない未来の内に捉えられてしまう。だったら最初の一手から受けた方がロスも少ない。

なにより、先程彼女自身が、ふたりに対して逃げるような真似はしないように言ったのだ。その当人が逃げるような事など出来るわけが無い。

今回の戦いにはごく短い時間だけの制限がある。逃げてなどいられない!

 

「く、ぅ……」

 

彼女が防御魔法を展開した直後、拳と防御魔法のぶつかり合いとは思えないような、重い爆撃音と間違うような鈍い音が響き渡る。

 

真正面から受けて、やはりその威力は並はずれている事を実感する。

元々がカートリッジシステムによる威力の底上げされた一撃必倒のそれに、補助魔法による強化がかかっている。

シンプルながらも重い一撃に、彼女は膝を屈しそうになる。

 

だが、負けるつもりなど毛頭ないという自負が、彼女にはある。故に、逃げずに耐える!

 

「──ルベライト」

 

そして、彼女が使うのは拘束魔法。

拘束魔法の類いは、使用者と対象の距離が離れれば離れる程に発動に誤差が発生する。

だが、逆を言えばこの拳を打ち合う程の至近距離でならば、ほぼタイムラグゼロで拘束魔法を発動させる事が出来ると言う事。

 

防御魔法で相手の攻撃を受け切ると同時に拘束魔法で相手を束縛する。

中~遠距離戦を得意とする彼女にとっての、対近距離用の必勝法のひとつ。あとはこの拘束した相手に殲滅の一撃を加えて終わりだ。

 

「舐めるなぁぁっ!!」

 

だが、今相手をしているクイントはアンチェインナックルを習得しているシューティングアーツの使い手。

この程度の拘束などでは止まらないと力強く足で床を踏みしめる。下半身から腰へ、そして上半身へと力を増幅させながら移動させる。

そして、その身を拘束する光のリングを力づくで引き千切る……!

 

「――ルベライト」

「な……!?」

 

だが、その直後、桜色の光のリングが澄んだ音を奏でながら再度クイントのその身を拘束する。

それだけでは終わらない。更に二重、三重と光のリングが積み重ねられていく。

至近距離であるため、発動にタイムラグの無いそれらに対してクイントでは抗う事が出来ず、光のリングに身体が覆われて行く。

 

「……アンチェインナックルは確かに厄介な技です。それは十分な脅威と認識します。

ですが、それが技である以上、構えからの一連の動作をする事が出来なければ成す事は叶わないはずです」

「くぅ……!?」

 

クイントの肢体を何重にもによる拘束魔法により雁字搦めにし、これで十分だろうと、彼女はふわりと後方へと跳び、ルシフェリオンの先端をクイントへと向ける。

同時に、ルシフェリオンはその形態を通常状態から砲撃形態のそれへと変化させる。

彼女の足元にミッド式の円を基調とした魔法陣が展開される。ルシフェリオンを取り巻くように円環状の魔法陣が展開される。

何より、そこに集約される膨大な魔力から、砲撃魔法を放とうとしている事が誰の目にも明らかであった。

 

明らかなオーバーキルでありそうな砲撃魔法の前に晒され、クイントの顔が恐怖に青く染まる。

恥も分外も無い。ただ全力で逃げなければと、動かない身体を無理矢理に総動員して、バインドを引き千切っていく。

咄嗟の事に火事場の馬鹿力も働いているのか、全身の筋肉が断裂するような痛みを覚えながらも、身体を動かしていく。

メガーヌもまた、バインドブレイクの効果のある魔法を使ってクイントを縛るバインドを破壊していく。

 

「大丈夫です。私にいたぶる趣味はありません。……一撃で潰します」

 

だが、どう考えても時間が足りなさすぎた。冷たくただ宣告された現実は桜色の絶望となってふたりの前に具現する。

 

「あなた、一体何者、なの……?」

 

既に手詰まりという状況の中で、メガーヌがぽつりと疑問の言葉を投げかける。

クイントもメガーヌも魔導師のランクはAAであり、これは管理局の中でもかなり上位に位置する実力者である証明だ。

そしてそんなふたりがコンビで戦うなら、たとえSランクオーバーを相手取ったとしても十分に戦えるはずだった。

だが、実際には殆ど一方的にやられてしまうという現実を突き付けられた。

そして、これほどの魔法の使い手が無名であるはずもないという疑問が口を突いて出ていた。

 

「……ああ、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね」

 

問われた彼女は、名乗る事をすっかり失念していたと何気ない様子で口を開く。

 

「私は闇の書の再構築体である“砕け得ぬ闇”。貴女方からすれば、『星光の殲滅者』と言った方が通りは良いですか?」

 

既に決着は揺るがない。ならば手向けの花を添えてその終わりを彩ろう。既に臨界を迎えた魔力チャージされた向こうからそんな声が二人に届く。

 

「星光の……」

「……殲滅者!?」

 

そしてふたりは、自分達が相手取ろうとしていた相手が何者かを知る。同時に何故彼女はこんな場所にいるのだと半ば混乱じみた思いを抱く。

 

その悪名は知っている。

出会った相手に破滅を運ぶ黒い天使。星の光を思わせる魔法で全てを殲滅する。

第一級のロストロギアである悪名高き『闇の書』が、独自の自我を持って世界を渡り歩く悪夢の具現。

最近の管理局内で重大なニュースとして取り上げられていた話であるのだから、クイントもメガーヌもその名を聞き及んでいた。

 

だが、その目撃例の多くは他の次元世界であり、ミッドチルダにおいてはその名はあまりなじみがない。

さらに、管理局の一部では彼女に対して肯定的な意見を口にする人も少なからずいた。

曰く、闇の書のように自身を中心にひとつの次元世界を崩壊させるような事は無く、破壊の対象として猛威を振るうのも、何故か管理局が敵対しつつも手を出しにくい相手ばかりだった。

思惑は不明だが、上手く利用をすれば平穏を害するものを排除する役割を果たさせる事が出来るはず。

 

……そんな話を聞いた覚えもあった。

 

だが、それは彼女の人となりを知らない人が、齎されたデータから勝手に都合のよい姿を想像しただけのものだと実感する。

彼女は危険だと本能が警鐘を鳴らす。彼女の危険性は何が何でも周知させなければならない。

 

「それではさようなら。――ブラストファイアー!!」

 

だが、それは全てが遅すぎた。

 

桜色の魔力光が一挙に膨れ上がり、解き放たれる。それはクイントを、そしてその後ろに居たメガーヌの姿をも巻き込んで突き抜けて行く。

部屋の壁も何もかも、自身の手で展開していた結界すらも突き破りゆくそれに抗う術など在りはしない。

クイントとメガーヌは、もはやただの光が全てを塗りつぶす光景を最後に、その意識は完全に刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

「……客人である貴女の手を煩わせるような真似をさせてしまい、申し訳ありません」

「別に構いませんよ、トーレ。私は全てを理解した上で此処に居座っていたのですから」

 

戦いの余波で完全に壊れてしまっていたティーセットの前に、何をするでもなく佇んでいた彼女に、戦闘機人の3番目であり、実質的に実践部隊のリーダーであるトーレが声をかけていた

トーレはつい先ほど、チンクが侵入者達の隊長でありS+ランクのゼストを撃破したという報告を受けていた。

それにより侵入者は一切の漏らしもなく全滅を完了していた。故に手が空いたので、彼女の元を訪れていた。

 

トーレとしては、主であるジェイルが彼女を客人として扱っている以上、自分もまたそれに準ずる接し方をするべきだと思っていた。

だが、実際には自分達の実戦経験不足を補うために彼女の存在を利用するべくクアットロが状況操作をしていた事を苦々しくも思っていた。

 

もっとも、そんなトーレの心配などは杞憂でしか無く、彼女はクアットロの行動も理解した上でこの場に居続けた。

それに、彼女自身にもAAランクの魔導師のリンカーコアをふたつも得る機会があったのだから、十分な収穫があったのだから文句など言うはずも無かった。

 

「そう言っていただけると気分が楽になります。……それにしても、随分と景気良く砲撃魔法を使いましたね」

 

トーレが見た先は彼女の砲撃魔法によって作られた跡。

正直に言ってしまえば、今回は侵入者以上に彼女が一番被害を出していたのだが、それは言葉にせずに口を噤む。

 

「この魔導師ふたりはどうぞお好きなようにして下さい」

 

彼女の足元には、無造作に転がされたように、クイントとメガーヌの姿があった。

強力な魔力ダメージの上、リンカーコアの蒐集をされたふたりはピクリとも身動きをしていなかった。

彼女が指し示さなければ、ただのもの言わぬオブジェクトでしかなかった。

 

「……実は以前から疑問に思っていたのですが、どうして貴女は非殺傷設定で魔法を使うのですか?

貴女のその行動理念を考えれば、殺傷設定の魔法の方が都合は良いと思うのですが」

 

だが、クイントもメガーヌも僅かだが、胸を上下させ呼吸をしている。死んではいない。

その事を確かめたトーレが、ふと常々思っていた疑問を彼女にぶつける。

 

彼女の目的であり、存在理念は『世に破壊を齎し、怨嗟の声を響かせる事』だと、ジェイルからは聞いていた。

だが、それを実行するのなら、相手を殺してしまう事が正しいはず。なのに彼女は常時使う魔法は非殺傷に設定している。

これでは彼女の目的とは矛盾するのではないかと思っていたのだ。

 

「簡単な事です。断末魔の叫びは最初で最後の1回だけですが、苦悶の叫びは生きている間なら何度でも上げさせる事が出来るからです。

それに、一度完膚無きまでに叩きのめされてなお立ち上がってくるような相手ならば、――ええ、楽しく魔導を競い合う事が出来るでしょう?」

 

別に情けをかけているわけでもないし、相手の生存をどうしても望んでいるわけでもない。

彼女にとっての非殺傷設定とは、彼女と再戦する資格があるか無いかの選定の手段の様なもの。

非殺傷設定の魔法を使って相手が死んでしまうならそれこそ生かしておく価値も無い。

 

「それでは、皆後始末に忙しいでしょうし、今日はここでお暇させて貰いましょう」

 

トーレの疑問には答えたと、彼女は踵を返す。

その背中は何処までも孤高で、そして力強かったとトーレは見送りながら思ったのだった。

 

 

 




ぐちゃぐちゃにされたお茶とクッキーの恨みぃぃッ。
それが砲撃をぶっ放した一番の理由です。いや、食べ物の恨みって怖いですよね。
あと、ぶっぱしてから「やっべ、やり過ぎた」と思ってそそくさと逃げ出したなんて事実はありません。ええありませんとも。
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