魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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Fate/Zeroとのクロスオーバーネタです。


星光 IN Fate/Zero

──聖杯戦争

 

それは手にした者の願いを叶えるとされる、最高位の聖遺物を降臨させるための魔術儀式。

 

参加者は7人の魔術師達と、聖杯の拠るべによって召喚された7人のサーヴァント。

 

それぞれが生前偉大な偉業を成し、死後信仰の対象となった英雄達、「英霊」をサーヴァントという形で召喚・使役し、聖杯というたったひとつの栄冠を手にするために互いに殺し合う。

すでに人間というカテゴリーから外れ、精霊に近い存在であるサーヴァント達の持つ力は絶大。

たった七組による戦いではあるが、確かにそれは戦争と呼ばれるだけの闘争だった。

 

戦いの舞台は周囲を海や山に囲まれた都市である冬木市。

一見するとごく平凡な都市でしか無いこの街で、すでに過去に3回の聖杯戦争は行われていたが、未だ聖杯を手にした者は現れなかった。

 

「では問いましょう。貴方が私のマスターですか?」

 

そしてここに、戦いの度に七騎呼ばれるサーヴァントの内、本来はあり得ないイレギュラーの一人のサーヴァントが召喚された。

闇色を思わせる黒い装束を身に纏い、感情の薄い無機質さを感じさせる瞳をしたその姿は、年端もいかない少女のモノ。

だが、彼女もまた間違いなくサーヴァントであり、人知を超えた力を有した存在である事は、見る者が見ればその身から溢れさせる強大な魔力で一目瞭然だ。

 

「貴方は私を呼び、私は貴方の望みを受理しました。

……では、始めましょう。私達の聖杯戦争を」

 

少女は謳うように、自身の聖杯戦争への参戦を告げる。

それは、過去最大級の闘争の渦を巻き起こしたとされる、四回目を数える聖杯戦争の開幕の合図でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fate/Zero ‐舞い降りるは星の光‐

 

 

 

―221:24:48

 

 

「閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ(みったせーみったせーみったせーみったせー)。繰り返すつどに四度ぉ~、──あれ、五度? えーと、ただ満たされるトキをー、破却する……だよなぁ? うん」

 

雨生龍之介は鼻唄交じりに、刷毛を用いて鮮やかな赤である「ソレ」でフローリングにとある紋様を描いてゆく。

それは龍之介が久方ぶりに帰省した実家の土蔵の中で見つけた、伴天連やサタンなどといった──いわゆるオカルトについて書かれた古書にあった内容のひとつ。

 

龍之介としては、別にその古書に綴られている内容の真贋などはどうでも良かった。

ただ、最近は『趣味』に対するモチベーションの低下に悩まされている中で得られたその内容は、インスピレーションを得るには十分な刺激だった事が重要だった。

ならばと龍之介は得た刺激を忘れる前に、さっそく古書にあった“霊脈の地”とされる土地に拠点を移した。

方針は雰囲気作りに重点を置くという事で、極力、古書の内容を忠実に再現するように努めた。

その過程だけでも最近のモチベーションの低下など無かったかのように龍之介の中に何とも言えない高揚感を齎し、まるで子供のように浮き立つ心を抑えられなかった。

 

──そして手始めに、夜遊び中の家出娘を深夜の廃工場で生贄風に殺してみた。

 

雨生龍之介という青年は、既に30を超える人を殺してきた殺人者であり、殺人という行為そのものに悦楽を見出す快楽殺人者。

人を殺す、というよりは『人の死を見る』事が大好きである龍之介であったが、流石に幾人も殺す中で、最近は手口が似通ってきてしまっていた事が悩みだった。

だが、初めての試みであったこの儀式殺人というスタイルは予想以上に刺激的で面白く、完全に龍之介を虜にした。

病み付きとなった彼は第二、大三と犯行を矢継ぎ早に繰り返し、平和な地方都市を恐怖のどん底に叩き落としたのだった。

 

そして都合四度目となる今回は、前回までの生き血で魔法陣を描くのに血液が足りなくなってしまうという失敗を反省し、すこし多めに殺す事にした。

そんな本人からすればささやかな理由で彼は四人家族の民家に押し入り、就寝中の一家を惨殺した。

目論見通りの量の生き血を得て、今は嬉々と赤い魔法陣を描く真っ最中だった。

その横顔は返り血に濡れながらも、まるで無垢な子供のように楽しげであり、だが、それがかえってこの凄惨な光景を一層引き立てていた。

 

「……っ」

 

そんな光景をまざまざと見せつけさせられ続ける、一対の瞳があった。

猿轡を噛まされ、ロープで縛りあげられたそれは小学生程の少年であり、魔法陣を描くには三人分で十分だったというだけで殺されなかった四人家族の唯一の生き残り。

龍之介としてはどうせひとりだけ残しておくのも逆に可哀想だし、後々、何か楽しい殺し方を試してみよう。

だが、今はこの黒ミサ風殺人を完結させる方が先決だと、適当に放置されていたのだ。

 

少年は下手に煩くされて儀式を台無しにされたくないからと手足を縛られ、猿轡を噛まされているために逃げる事も声を上げる事も叶わない。

ただ、目の前で両親と姉が殺されて生き血を抜かれる光景。そして家族に流れていたはずの鮮やかな赤が、見慣れたリビングを塗り替えて行く光景を目の当たりにし続けた。

 

少年からすれば、こんな物は悪い夢以外の何物にも思えなかった。

 

普段通りに起きて学校に通い、将来に何の役に立つのだろうと疑問を覚えながらもみんなやっているからと授業を受け、放課後には親しい友人達と楽しく遊んで過ごす。

家に帰れば母親に宿題をしろと小言を言われたりはするが、両親や姉と囲う食卓の団欒はとても平穏で、そして当たり前だった。

そのまま母親の言いつけを半ば意図的に無視するように宿題もそこそこに布団に入り、また何時も通りの明日を迎えるはずだった。

 

「閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ(みったせーみったせー、みったしてみたしてみったっせ~)っと。はい、今度こそ五度ね。オーケイ?」

 

だから、深夜に叩き起こされて見せつけさせられるこの光景を、調子はずれの鼻唄らしきものを口ずさみながら赤を振り撒くこの青年の存在が認められない、信じられなかった。

だが、パジャマ越しに感じる冷たいフローリングの感触や、自身を縛るロープが食い込んでくる痛みが、この光景が現実であると突き付けてくる。

家族は殺され、そしてこの後には自分も殺される。そんな現実を認めるしか、少年に出来る事は存在しなかった。

 

(……イヤだ!!)

 

だが、少年はその現実を拒絶した。

こんな事はあってはならない。自分が殺されるなんてあるはずが無いと強く思う(願う)。

たとえ自分がピンチに陥ったとしても、きっと誰かが助けてくれるはずと思う(願う)。

だからこんな事はあり得ない、あり得ないのだから存在しないと拒絶する(願い請う)。

 

普通ならば拒絶はマイナスの意味が込められている。実際、少年は現実への嫌悪から拒絶の意志を滾らせている。

だがそれは、幼い心であるが故に、確かに純粋で真摯な意志(祈り)だった。

 

極限の状況に追い込まれて余計な思考が全て排除される。ただひたすらに自己の生存を望む。

目の前に現実は存在しない。ならば現実は自分の中にあると、自己へと意識を埋没させる。そこで生存に繋がる『何か』を探し求める。

深く、深く……。暗闇の中で光明を探し求めるように、少年は現実を拒絶するだけの何かを深淵の奥で探し求める。

 

「むぐぅッ、んん……ッ!!」

 

このまま大人しくしているべきでは無いと、自分を縛るロープが更に食い込んでその部分が赤黒く痣になる事も厭わず、ただ我武者羅に少年はもがく。

たとえどんなに無様であっても、生きる事以上に欲しい物は無いと、動かない体を無理矢理動かす。

痛みもある。恐怖もある。だが、それらも現実への拒絶の意志が塗り潰す。

 

「うわっ、すっげー。なんか煩いと思ったらめちゃめちゃ暴れてるじゃん」

 

少年は隠れているわけでもなく、元よりふたりは同じくリビングに居たのだ。当然の事として少年が暴れている事に龍之介もすぐに気付いた。

龍之介も今まで多くの人の死を見て来た自負があったが、ここまで一心不乱に抵抗を見せるのは、しかもそれがこんな子供だというのは珍しいと驚きを抱く。

 

「うんうん、死ぬのは嫌だよな! よし、頑張れっ。俺はお前を応援するぞー!」

 

驚きながら、龍之介はその少年の行動に声援を送る、などという事をしていた。

元より、龍之介はひとりの人が死ぬ際の刺激や経験等といった情報量はとても自分の為になるという考えを持っている。

そのため、人ひとりを殺す際には、その人物の死を徹底的なまでに堪能し尽くす。絶命させるまでに半日以上の時間を費やす事もあるくらいだ。

 

そんな龍之介からしてみれば、ここまで生にしがみつこうという意志を見せる姿というのはとても心躍る物があった。

ここまで頑張って、だがそんな努力など無意味であるかのようにあっさり殺されたなら、この少年は一体どんな表情を浮かべるのか。

そんな想像をするだけでも心躍る思いだった。故に、龍之介は少年の足掻きを否定せず、愉悦を浮かべながらその姿を見下ろす。

 

「……ッ」

 

そんな龍之介の事をフローリングに這いつくばりながら見上げていた少年は、途端にその目つきを鋭くし、強く睨みつける。

少年は悟ったのだ。この惨状はこの青年が齎したのだと。そしてこの青年さえ居なければ良かったのだと。拒絶するべきは、コイツなのだと強く思う。

 

コイツを拒絶する方法など思いつかない。元々出来る事など思いつかない。

ならばせめて思うだけでもコイツを拒絶すると意志を固めた少年は、一層強く足掻いて見せる。

既に少年の中にあるのは拒絶の意志だけ。もはやそれは龍之介に対する物だけでは無い。

自分の周囲に形作る物全てを、自分をこんな目に遭わせた世界そのものにも至っていた。

 

──そう、こんな世界など消えてしまえば自分はまた平穏の中に戻れるのだ、と。

 

何処かにぶつけたのか、右手の甲の辺りに鈍い痛みを覚えるが、そんな物も無視してただ暴れる。

自分の身を省みない抵抗が功を奏したのか、少年の足掻きに屈したかのように猿轡が解け、拘束される中でも口が自由となった。

突然自由となった口を大きく開けて酸素を取り込み、肺を満たす。それは血液に乗って全身に行き渡り、半ば朦朧としてきた意識を覚醒させる。

一瞬、呼吸が止まる。縛られて動けない体に宿る全ての力を一点に集めるために集中するように。

 

そして、大きく口を開けて思いの丈の全てを込めた言葉にする。

 

「──イヤだッ!!(──助けてッ!!)」

 

 

……ここでひとつ、魔術における詠唱の意味について語ろう。

 

魔術において一小節で済む物から、五小節以上に及ぶ大掛かりな物まで様々な詠唱の形が存在する。

ただ、その全てにおいて共通事項にして重要な事は『自己暗示』にある。

 

簡単に言えば、魔術師は魔術を行使する際に「魔術回路」と呼ばれる擬似神経に魔力を通す事で魔術という神秘を起こしている。

その時に必要な事は、自身の起こそうとしている神秘がどのような物であるかという理解、そして魔術を実現させるイメージである。

 

これらはただ想像するだけでも意味があるが、人間ではただ脳内だけではイメージにほつれが生じる事を消す事が出来ない。

それを僅かでも減らすべく、自分が成そうとしている事のイメージを補完して確かとするを、そして自分が深く集中出来る言葉を自分の詠唱とする。

故に、魔術師の紡ぐ詠唱は個人個人で違っており、極論を言ってしまえば、イメージを明確に出来る手助けになるのであれば、その言葉は何だって構わないのだ。

 

たとえば、それがただの叫びであったとしても、込められた意味が明確であるのなら、それは間違いなく魔術における詠唱に違いは無い、という事。

 

 

「な、なんだ!?」

 

異常に真っ先に気付いたのは、この場においてただひとり何物にも縛られずに居た龍之介だった。

背後で空気が動くのを感じ取った龍之介が振り返った先では、部屋は閉め切っているはずだというのに風が湧いていた。

最初は微風にすぎなかったそれはみるみる内に旋風となって吹き荒れる。

それだけでも起こり得ない現象だというのに、更に床に描かれた鮮血の魔法陣が何時しか燐光を放つ光景を、龍之介は信じられない気分で凝視していた。

 

龍之介は、確かに古書に綴られていた通りの儀式形態を再現していたがそれは多少の期待はあっても別に本当にオカルトな現象が起こるなんて信じていなかった。

だが、こうもあからさまに異常が目の前で起こる事は流石に想定外だった。そして何より、龍之介の勘は告げていた。これは自分にとって良くない物であると。

 

故に、龍之介はこの嫌な予感に従ってこの場を離れるべきだと考えた。

だが、既に竜巻と呼べるだけの勢いとなった巻き起こる風に、歩くどころか立つ事もままならない龍之介はただ目の前で起こる現象を見るだけだった。

それはさながら、先程まで少年が龍之介の事を見続ける事しか出来なかったように。

 

そして、一際強い閃光がその場を染め上げた。

 

──それはいわば、例外中の例外だった。

 

元より冬木の聖杯は、それ自身の要求によって七人のサーヴァントを必要とする。

つまり、サーヴァントの召喚は聖杯が行う事であり、魔術師はその仲介をしているに過ぎない。

この時、既に七騎中、六騎までサーヴァントは出揃っていた。あと一騎のサーヴァントを聖杯は欲していた事も事情にはある。

だがそれ以上に、この場において強い望みを抱く者がおり、その依り代としてその身を差し出す覚悟を示した人間が居たのだ。

自覚は無くとも、その身の内にほんの僅かでも魔術師を魔術師たらしめる「魔術回路」を持っていた。

そして、その抱いた願いの属性は、“今”の聖杯にとってとても近しいモノでもある。

 

たとえこの場にあった魔法陣が稚拙なそれであったとしても。

詠唱が詠唱としての形をなしていなかったとしても。

 

強い願いを持つ者が居るのなら、──願望器である聖杯は、奇跡を成就する。

 

……何時しか、室内に吹き荒れていた風は止んでいた。

燐光を放っていた魔法陣の輝きも今は消え、床に描かれていた鮮血も黒く干からびて焼け焦げたかのように黒ずんでいた。

まるで何事も無かったかのような静寂がこの場を包み込む。だが、荒れた室内が確かにその事実があった事を示していた。

 

「聖杯の依るべに従い、サーヴァント、キャスター。ここに参上しました」

 

だが、そんな物達よりも、もっとこれが現実であると示す存在が部屋の中央に佇んでいた。

 

栗色の髪をショートカットにし、黒を基調とした衣服を身に纏う。

携えるのは何処か機械的な様相ではあるが、紫の珠を先端に頂いたそれは間違いなく杖であろう。

言葉を紡ぐと共にゆっくりと開く蒼い瞳は、さながら無機質なガラス細工のようで、年相応にあるはずの感情が見て取れない。

 

それはとても可愛らしい外見をした幼い少女だった。

だが、ただ立っているだけだというのに、視線を外すことが出来ない存在感。この凄惨な殺人現場において全く取り乱さない冷静さ。

そして血に彩られたこの場において、少女の存在は全く違和感が無く、一層少女の存在が引きたてられている事が、何より少女が普通ではない事を証明するようだった。

 

「……へぇ、吃驚したなぁ。なぁなぁお嬢ちゃん。君は一体どうしてこんなところに居るんだい?」

 

龍之介は目の前の少女の存在がおかしい事。少女は自分にとって良くないモノである事は何となく感じ取っていた。

だが、そんな危機感以上に、今まで多く見て来たどの『死』よりも、『死』が似合うと感じる少女の姿に見惚れていた。

数多の人間模様を観察し、死を探求し、死に精通し、死の裏返しである生についても学んできた自負が龍之介にはあった。

だが、今まで自分が積み重ねて来たものなど、少女はそれに比べるべくもない。その想いに心を満たされ、この場から逃げるという考えがすっぽり抜け落ちていたのだった。

 

龍之介が少女に声をかけたのは、殆ど意識してのモノでは無かった。むしろ、まだ自失の最中にあると言っても間違いではない。

それでも何かに突き動かされるように、道端で親しい相手と出会ったかのように、愛嬌のある笑顔を浮かべながら少女に歩み寄る。

 

「……」

「あ、もしかして緊張しちゃってたりしてる? 大丈夫大丈夫っ。俺も君と仲良くしたいだけなんだし、そんな肩肘張る事は何にもないって」

 

少女に動きは無い。ただ親しげに話しかけてくる龍之介の姿を視界に収めるだけ。

龍之介はそんな少女に対して軽口を叩きながら、ポケットの中に忍ばせてあったナイフがきちんとある事を確認する。

龍之介の中にあるのは、このまま自分の手の届く範囲に少女が入ったら、そのかわいい顔を鮮血に染めたいという欲求。

それを果たすべく一歩、また一歩と確実に歩み寄る。

 

そして、自分の手の届くところまで来た。

ポケットから手を抜き放つと共にナイフを振り抜き少女の頸動脈を掻っ切る事は、龍之介にとっては慣れ親しんだ動きで容易い事。

ここまで来れば目的は達成したも同然と龍之介の浮かべる笑みが深くなる。同時に、ポケットからナイフを抜き放つ!

 

「……召喚をされてすぐに贄を用意しているとは、私のマスターはとても準備の良い方のようですね」

 

……だが、そのナイフが振るわれる事は無かった。

 

少女は無造作にその手を前に突き出しただけ。だが、それだけの事。

だが、ただの人とサーヴァントとの間にある身体能力の差は圧倒的であり、後から動き出したというのに、龍之介のナイフより先にその体を穿ったのだ。

 

「へ?」

 

少女の手が自分の体を貫いている。

その事実を前にして龍之介は何が起こっているのかが理解できないとでもいうように、緊迫感の欠片も無いような間の抜けた声を漏れて出る。

振り抜こうとしたナイフを持つ手は中空で止まり、ただ穿たれた自身の胸を茫然と見つめる。

 

「……“蒐集行使”」

「な、ふぇっ、ふぐあぁぁッ……!?」

 

しばしの沈黙が流れた。だが、それは少女の呟くような静かな声を契機に打ち破られる。

少女の声に呼応するように、龍之介の口からは本人の意思など関係なく苦悶と困惑の入り混じった悲鳴が上がる。

少女の発したその言葉の意味は、龍之介には何ら分かる事は無かった。だが、自分の中から何かが失われて行く事。そしてそれが少女に奪われている事だけは感じ取っていた。

 

「……あはっ」

 

自分が死ぬ事だけは違えようも無く理解した。理解して、不思議と口元に笑みが浮かぶ事を自覚していた。

自分は今までそれなりに死を振りまいてきた。だが、そんな自分がより圧倒的な死の前に蹂躙される事はこの上なく爽快だった。

今は痛みもあるし、苦しみもある。だというのに、それらも何か愛おしいモノのように感じる。

そして、これこそが自分が追い求めていた『死』が何たるかの答えだと、これが自分の死に様であると唐突に感得したのだった。

 

「蒐集完了」

 

少女はそう告げると共に、突き刺していた手を抜き放つ。それと共に、龍之介の体は糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏す。

少女は龍之介の中にあった、龍之介が生きる上で必要不可欠な何かを一滴残らず吸い上げたのだ。今この場に倒れたのは、その残りカスだけ。

すぐ近くに居るはずの少女の声が、何処かとんでも無く遠くから聞こえるように龍之介は感じていた。それが、龍之介の最後の意識。

雨生龍之介という青年の人生とも言えた死への探求は、こうして充足感に心を満たされながら幕を閉じたのだった。

 

「あ……」

 

それら一連の全てを、未だロープに縛られ碌に身動きの出来ずに床に這いつくばっていた少年は見ていた。

普通なら平和な日本に住む一般人の持つ倫理観により拒否感を覚えるところだが、今の少年は様々な感覚がマヒしている状態。

先程までは圧倒的強者としてそこに居た青年が、あっさりと自分以下へと堕ちてゆき、今も目の前で倒れたままピクリともしない。

そんなモノを目の当たりにして、不思議と嫌悪感や恐怖心など湧かなかった。

ただ、消えてしまえと思っていた相手が本当に消えてしまった事で、さながら目的を達成による目的の喪失感に包まれたかのように、呆けているばかり。

 

「私はこの世に闇と破壊の混沌を呼び覚ます者。貴方の世界への拒絶の意志を実現するべく召喚に応じました。

故に、私のマスター足る人物は、世界を破滅させる意志を持って居て欲しいところです」

 

少女の意識には既に龍之介の事など存在しない。

それよりも重要なことがあると、未だ倒れ伏す少年へと歩み寄り、言葉を告げる。

 

「では問いましょう。貴方は私のマスターですか?」

 

淡々と言葉を紡ぐその少女の表情には相変わらず感情が見て取れない。だが、そこにある意志は確かにあった。

自分は全てを破壊したい。貴方はそれに賛同するか否か、と。

 

「……」

 

少年は自分ではどうにもできなかった青年をあっさり殺して見せた少女は、見た目と違って本当に破滅という望みを叶えてしまいそうだと感じる。

もしここで頷けば、確かにこの子は全てを破壊するために行動を開始するだろう事は容易に想像が出来た。

だが、少年からすれば既に自分を危険に追いやった対象が居なくなった今、殊更この拒絶の意志を持ち続ける意味も無い。

それ以前に、マスターなどと言われても何の事だか意味が全く分からないのだ。ここで首を横に振って、少女との縁を切って元の日常に戻る事も選択肢の一つだ。

 

「……君が、僕を守ってくれるというのなら」

 

だが、少年は少女の問いかけに首肯してみせた。

確かにここで少女を否定すればきっと日常に戻れただろう。だが、日常の象徴である家族は既に居ない。残ったのは何の力も持たない自分と世界に抱いた拒絶の念だけ。

もう、自分の見える世界は一変してしまった。こんな状況で、一体何を頼ればいいのかなど、幼い少年には分からない。

だが、ここで頷けば少なくともこの目の前に居る少女は自分の味方だと分かっていた。他の誰と知らない人を頼るより、この少女を頼りたいと、そう思ったのだ。

 

「ええ、良いでしょう。現実は辛いモノばかり。貴方は心地良い永遠の夢の中でまどろんで居て下さい」

 

少女は少年の出した条件を認めた。杖を持つ左手とは逆の右手には、何時の間にか一冊の本があった。

それは表紙に剣十字をあしらった紫の色に染まるように彩られた魔導書。

少年の前に片膝を着くようにしながら差し出されてなら、まるで風でも吹いたかのように勝手に開かれページがめくられる。

そしてとあるページで止まった時、少年の身体は闇に包まれ、その魔導書の中に取り込まれ、役目を終えた魔導書はパタンと自分からページを閉じた。

 

「貴方は私を呼び、私は貴方の望みを受理しました。

……では、始めましょう。私達の聖杯戦争を」

 

少女は自身の胸へと手を当て、取り込んだマスターとなった少年へと囁くように言葉を告げる。

自身の存在意義を全うする、その意志を胸に。

 

今夜、ここに七騎のサーヴァントが全て揃った。

最後の一騎たるサーヴァントは、イレギュラーであるため、本来ならあり得ないサーヴァント。

だが、そんな事などどうでも良い事。こうして儀式を始める準備の全てが整ったのだ。

 

──ならば始めよう。

 

この瞬間、聖杯戦争の幕が上がったのだった。

 

 

 

-221:12:48

-■■■:■■:■■

 

 




ステータス

クラス :キャスター
マスター:不明
真名  :─(星光の殲滅者)
性別  :女性
属性  :秩序・悪

筋力:D 魔力:A+ 耐久:B 幸運:E 敏捷:C 宝具:B

飛行:A
空を飛ぶ能力。
ランクAならば、重力や慣性などといった物理法則を半ば無視したかのような機動で空を飛ぶ事が出来る。
「魔法少女って空を飛ぶものじゃないの?」
「なんて頼もしい思い込みーッ!?」

かわいい:EX
かわいい女の子が魔法を使うから魔法少女なのか、魔法を使う女の子がかわいいから魔法少女なのか。
どちらにしろ、かわいい事には違いない(断言)。


保有スキル

ミッドチルダ式魔法:B+
魔術師達が目指す『魔法』とは違う、ミットチルダという次元世界発祥の魔法技術。
主に遠距離攻撃を得意とするほか、マルチタクス、飛行、防御、拘束と様々な魔法を使う事が出来る。
また、この世界における「魔術」とは理念の根本から違うため、Bランク以下の対魔力はその効果の対象に該当しない。
(ただし、『魔術の無効化』ではなく、『魔力の結合を散らす』という形ならば話は別になる)

破壊衝動:B
その胸の内に抱える、この世全てに対する『破壊したい』という欲求にして、存在理念。
殲滅戦などの状況下で一部のステータスが向上する。
狂戦士(バーサーカー)のクラススキルである『狂化』に近いが、こちらは彼女が自分の意志で行動しているため、思考力が失われる事は無い。

自己改造:A
蒐集行使。
魂喰らいの一種であり、対象の魔力を吸収して自らの力とする能力。
さらにこのスキルの場合、魔力吸収の際に情報をコピーする事で、対象の保有スキルを習得する事が出来る。
また、スキルを習得する際に自身の身体へのフィードバックが起こる可能性がある。
そのために姿形に変化が起こるので、このスキルを使用する度に正当な英霊から遠ざかってゆく。

鉄壁スカート:E
見えそうで見えない。見る者の希望を打ち砕く、あるいはロマンを掻き立てる憎いあんちくしょう。
でも、ランクが低いのであんまり鉄壁では無い。


宝具

“闇に煌めく紅き明星”(ルシフェリオン):B+
ミッドチルダ式魔法を扱う際の補助を行う機構を持つ、機械仕掛けの魔導師の杖。
魔法行使の詠唱代行。効率的な魔力運用の補佐。索敵や自動防御等といった機能を持つ他、『ルシフェリオンブレイカー』などの強力な魔法を放つ。
また、搭載する「カートリッジシステム」により、保有スキルであるミッドチルダ式魔法のランクを瞬間的に増加する事も出来る。

大人モード:B
一度は打ち砕かれた『闇の書の闇』である防衛プログラムが再構築を果たし、パワーアップした“砕け得ぬ闇”となった姿。
蒐集行使により、所持する魔道書の666ページ埋まる相当の魔力吸収をする事で発動させる事が可能となる。
ステータスの向上。保有スキルに「ベルカ式魔法」などの追加。宝具であるルシフェリオンに「ブラスターシステム」などのバージョンアップがなされる。

“魔法少女という名の幻想譚”(ナーサリーライム・オブ・マジックガール):EX
創作物の登場人物が持つ役割の一つである『魔法少女』という概念が集約されたモノ。
当人だけではなく『魔法少女』という概念の認知度によって、彼女はサーヴァントとして知名度補正を受ける事が出来るようになる。
彼女の真名を誰も知らずとも、魔法少女という概念を知っている人が多くいるのであれば、その力を発揮する事が出来る。


詳細。

彼女はこことは違う世界で、『闇の書の闇』と呼ばれた防衛プログラムの断片が独自の自我を取得、破滅を齎す者として存在していた者、……ではない。
その正体は、ゲーム、アニメ、マンガなどに登場する『魔法少女』という概念が形となった存在である。
今の『星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)』という姿と能力も、この空想のキャラクターの中でも召喚者であるマスターの願いに近い形である事から選ばれた物。
もし召喚者の願いが違う物であったならば、その姿も能力も全く別な魔法少女のソレとして召喚を受けた事だろう。

全ては召喚者の心を映す鏡である。
そのため、キャラクターとしての名前はあるが、その実は英霊としての真名は持っていない。
容姿も、能力も、性格も。全ては幻想の産物に過ぎない事を、この彼女自身は自覚している。
だが、確かに自分は此処に存在しているという事もまた理解しており、誰からも存在を否定されても、自分が思う限り、自分は此処に居ると考えている。
故に、自己の存在意義を全うするべく、この世に闇と破壊の混沌を呼び覚ますべく力を振るう。


……というネタ投下で星光の殲滅者シナリオは終了。次回から別シナリオの開始です。
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