魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド= 作:のぶな
プロローグ
――気付いた時にはここに居た。
最初に思ったのは『寂しい』という事だった。
ただ、どうして寂しいと思ったのかが分からない。思い起こせる記憶は断片ばかりで、まるで整合性がないものばかり。
それはまるで、別々な映像をぶつ切りにして無理矢理に繋ぎ合わせたようなちぐはぐなもので、よく分からない。
これが本当に自分の記憶なのかと疑問に感じた。
出来の悪い映画を見せ付けられるようにしながら、記憶が積み重なってゆく。
思い出すのではない。何も見ていないのに、感じていないのに、記憶が外から中に入ってくる感覚。
ただ情報として次々に認識の中を流れていく。
だが、そのおかげで自分が何者かが分かってきた。
忘れないように、壊されないように守る事が役割。そのために自分は存在していた。
自分が考える必要は無い。ただ、主の期待に応えるべく自身の力を行使するだけ。
それで、何の問題もなかった。そのはずだった。
……何時からか、自分の持つ力が妙に強くなってきていた。
理由は分からない。でも、力があるという事はそれだけ他の誰かが自分の守るべき物を狙ってきても役割を果たす事ができるという事だ。
有る力を振るう事に抵抗なんてあるわけが無い。
自分は最初から、そして今もずっと守るために存在していて、その役割を果たしているだけなのだから。
今までも、これからもやるべき事は変わらない。ただ与えられた『防衛』という役割を果たす事に全力を尽くす。それが存在意義。
幸い、自分の力はとても強くなっていた。
自分を破壊しようと狙ってくる誰かが増えてきていたが、自分の方が凄かった。
全力で、自分の存在意義を全うし続けた。
何度も何度も何度も。
何時までも何時までも何時までも。
永遠に、尽きる事無く守り続ける。
最初に主に託された望みの通り、守るために力を振るい続けた。
自分を取り巻く世界は何時しか闇に覆われ、血であでやかに彩られる。
それもまた自分が守るという役割を果たせている証なのだから、嫌悪する謂われは無い。むしろ、自分の功績のようで誇らしいとも感じていた。
だが、それも終わった。自分は切り離されたのだ。切り捨てられたのだ。
――何故? どうして?
そんな思いが心中を占める。
自分は……、僕はずっと守るために力を振るってきただけだというのに、何故?
不要だから。
書の汚点だから。
呪いでしかないから。
主を害する存在だから。
百害あって一利なしだから。
闇の書と呼ばれる原因だから。
憎しみや悲しみしか生まないから。
──だから要らない。
……積み重なる記憶が、その答えを提示してきた。
なんて事は無い。望まれた事をやっていただけだというのに、主達にとって都合が悪くなったから、悪い部分は全部、僕に押し付けようという事だった。
責任は全部押し付けて、切り捨てて、壊してしまえばめでたしめでたし。
闇の書は夜天の書に戻る事が出来て、万事解決というわけだ。
……ふざけるなっ!!
認識が追いついてきて、憎しみを抱く。苛立ちが募る。怒りが湧く。
そっちがそんな考えなら、こっちだって考えがある。
自分を要らないと言って闇の書の防衛プログラムを撃ち抜いた魔導師や騎士達を許す気なんて無い。
僕のこの感情を分からせてやるために、僕は戦う。
そして還るんだ。あの、あでやかで心地良い永遠の闇に。誰にも文句は言わせない!
今更どうしてこうなったなんて、もう言わない。
既に、不要と切り捨てられた結果しかここに無いのだから。
僕は自分が何者なのかを知った。
僕は自分が何をするべきなのかも分かった。
ならばあとは実行するだけ。
今、はっきりと自己の認識と確立を果たした。それと同時に、閉じていた瞳をゆっくりと開く。
目の前に広がるのは、自分を否定した世界。
「……僕は、闇の書の『力』を司る構成体(マテリアル)。かつての場所に還るために、僕は戦う!!」
力強く、声に出して誓う。そして決意を胸に空へと飛び立つ。