魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド= 作:のぶな
獲物を探して空をゆく彼女はひとつの影を見つけた。
ならば取る行動は決まっている。すぐに捕縛結界を展開して対象を結界の内に閉じ込め、その前に降り立つ。
「見つけたよ。闇の書の守護騎士」
彼女は獲物を捕らえた歓喜と、この相手が防衛プログラムを撃ち抜いた騎士だという事に対する憎しみを抱き、不敵に笑う。
「テスタロッサちゃん……? じゃ、ないわね」
翠色の騎士服を身にまとうシャマルは、普段は穏やかにしているその表情を厳しく引き締める。
アースラから原因不明の結界の発生の情報を受けて調査に来たのだったが、これが『それ』なのかと目の前に現れた相手を注意深く観察する。
青く長い髪はツインテールにまとめられ、身に付けたバリアジャケットは黒のボディースーツに青い色をしたマントやベルトなどをしている。
その姿は、シャマルの良く知る人物であるフェイト・テスタロッサに良く似ているが、感じる印象がまるで違う。
フェイトは良くも悪くも物静かな印象があるのだが、今目の前に居る少女のハキハキとした物言いは別人であると証明するかのようだ。
「姿形は、まあ借りものさ。僕が誰かはすぐに分かる」
彼女の方も自分の姿がフェイトと同じである事を否定しない。
ただ、その言葉の中にある『借りもの』という事を考えると、フェイトとは別人である事も同時に証言している。
そして、彼女は自分が誰かはすぐに分かるとも言う。
まるで、言葉にして説明しなくても、初対面であってもシャマルなら自分の正体にすぐに気づく事が出来るとでも言いたげだ。
張られている結界も、管理局の使うようなミッド式の魔法というよりは自分達の使うベルか式、もっと言えば古代ベルか式の魔法に近い事もシャマルは感じている。
「あんまり分かりたくは無いわね。だけど……」
理解するのが嫌だといって、目の前の相手を放置するような真似をする訳にも行かない。
シャマルにははっきりとした予感があった。そして確証は無くても肌で感じて分かる推測もある。
当たって欲しくない。でも、もしそうだとしたらやはり自分は逃げるわけにはいかない。
その意識が、直接戦闘を得意としていないシャマルをこの場に留まらせる。
「君のデータと力を手に入れて、僕は飛ぶ。
この身のうちに闇の書の闇を蘇らせ、決して砕けぬ、真の王となるためにッッ!」
そして彼女は決定的な一言を口にする。
(この子、闇の書の……!?)
当たって欲しくない推測が、やはり間違いではなかった。
――闇の書。
元は魔法を研究するための蒐集蓄積を目的とした巨大なストレージ。
だが、歴代の所有者により改造を重ねられ、呪われた魔導書へと変貌を遂げたモノ。
魔導師や魔法生物の持つリンカーコアを蒐集し、666のページを埋められた時、所有者や周囲を巻き込んで死を齎す、破滅的な力を持つロストロギア。
シャマルはその闇の書を守護する『ヴォルケンリッター』の内のひとりとして、永遠とも思える時間を戦いの中で過ごしていた。
だが、その永遠の呪いは、今の主である八神はやてと、その仲間達の力を合わせて断ち切る事が出来た。
既に、闇の書の名は過去のもの。
──そのはずだった。
「行くぞォ! 我が太刀に、一片の迷いなーーーしッ!!」
シャマルは動揺の中でも、情報を整理するべく思考を巡らせていたが、彼女にそれを待つつもりも、道理も無い。
後はもう戦うだけだと気炎を上げるその姿に、シャマルも状況分析は後回しにして戦わねばならない事を知る。
シャマルは夜天の書の守護騎士の中ではバックアップを担当している。
前線に出て戦うタイプではないが、騎士と呼ばれるのは伊達ではない。後衛型も後衛型なりの戦い方をみせようと意気込みながら、相手の出方を窺う。
距離は十分にある。セオリーで言えば牽制の魔力弾を使う場面だ。
相手は見たところミッド式の魔法を使うと当たりをつけ、その推測通りになる可能性が高いとシャマルは予測する。
「はぁぁっっ!!」
と思っていたら、彼女は真正面から突っ込んできた!
「って、いきなり!?」
彼女の突進は何の策も無いようなものだったが、逆にそれがシャマルにとってフェイントとなり、驚きに僅かに身体が硬直する。
だが、シャマルも騎士のひとり。すぐに平常心を取り戻すと、回避行動を取る。
彼女の方も、回避されてもすぐに追い縋って連続攻撃を仕掛けてくる
「僕より全然遅いくせに避けるなーッ!!」
だが、シャマルは彼女の攻撃を横に飛び上に飛んでと、その尽くを避けていく。
その様に危なげは無い。シャマルは彼女の攻撃を完全に見切って回避行動を取っていた。
「残念だけど、バックアップにとって回避は必須スキルなのよ!」
回復や補助を担当するバックアップにとって、一番必要なのは相手を打倒する攻撃力ではない。
そして、回復や補助のスキルでもない。
バックアップはチームにとって生命線とも呼べるもの。共に戦う仲間を時にはサポートし、時には受けたダメージを癒すのが役目。
その役割は、長期戦になればなるほど重要なものとなってくる。
戦いの中で、サポートの存在がなくなると、とたんに立ち行かなくなるのはよくある事。
故に、バックアップは墜とされるわけにはいかない。
生き残る事が最重要課題であり、そのために個人能力として防御や回避技能が必須となってくる。
シャマルは扱う防御魔法は堅牢ではあるが、シャマル本人の防御の出力自体ははっきり言って低い。
さらに、機動力という点を取ってみてもそれほど優秀というわけではない。
シャマルに出来る事は、相手の動きを良く見て、次にどんな行動を取るのかを分析して確実に回避できる方策を練って実行に移すというもの。
言うだけなら簡単だが、実際に戦闘中には呑気に考え込んでいる時間はないし、相手も動きを変幻自在に変えてくる。
それでもシャマルは回避をしてのけてみせる。騎士としての経験と、守護騎士の中でも参謀の役割を持つ者としての戦況認識能力のたまものだ。
騎士の名に偽りはないと、高速戦闘魔導師を相手取ってなお戦いを続けてみせる。
「こんのぉーっ!」
そして、彼女の方が何時までも変わらない状況に痺れを切らし、焦りから大振りな攻撃を繰り出す。
とはいえ、高速戦闘を得意とする彼女の能力は高さから大振りであっても十分速いし隙も少ない。
「今よ!」
だが、シャマルにとって、それは待ちに待ったチャンス。
自身の攻撃力の低さは良く知っている。相手がさらした隙を逃すわけには行かない。
バリアタイプの防御魔法を展開して、彼女の攻撃を受け、そして逸らす。
力技ではなく、技巧の粋として受け流し、僅かでしかなかった彼女の隙を明確な隙へと自力で作りかえる。
「シュゥートッ!!」
そこへ、シャマルのデバイスであるクラールヴィント。その指輪に着いたペンデュラムを飛ばし、反撃を加える。
「く、うわぁっ!?」
元々攻撃のためデバイスでは無いため、その威力は低い。現に、彼女の方も反撃を受けて驚いた様子はあるが、それほどダメージがあるとは言えない。
だが、それで十分。彼女は体勢を崩している。本命は……次!
「えーいっ!!」
傍から聞くと気合いが籠もっていないようでも、本人にしては精一杯気合いを入れた掛け声と共にシャマルが放つのは、大竜巻。
それは、シャマルが防御に使う魔法である風の護盾という魔法のバリエーション。
相手の攻撃をシャットアウトする盾を構成する風状に渦巻く魔力を、前面に押し出す事によって大威力の攻撃となって繰り出される。
「なあぁっ!?」
彼女の方としては一方的に攻めていたはずなのに齎された反撃になすすべもなく大きく吹き飛ばされてしまう。
「こんのぉっ、舐めるなぁーッ!!」
だが、高い機動力に自信を持っている彼女は、シャマルの攻撃に吹き飛ばされる最中で体制を立て直してみせる。
「うそっ!?」
シャマルの風に単純に抗うのではなく、その流れに乗る事によってダメージを受け流す。
結果、吹き飛ばされはしたが、それほどダメージを受けていない。そんな彼女の対応の仕方にシャマルは驚きを抱く。
あの一撃だけで倒せるとは思っていなかったが、耐えるのでも、避けるのでも無い。あんな方法で防がれるとは思っていなかったシャマルだった。
「あ痛たた~。くぅっ、よくもやってくれたなっ。今度はこっちの番だ!」
言うが早いか、彼女は得意の速さを生かして、一定の距離を保ったままシャマルの背後を取る。
だが、シャマルはその動きも見えていた。背後は取らせまいと振り返る。
「こっちだこっちーっ!」
だが、次の瞬間にはすでにシャマルの背後に回っていた。いや、背後を取ったのではない。シャマルの背後を通過し、正面に現れる。そして止まる事もなく再び背後へ。
彼女は、シャマルを中心に円を描くように、周回していたのだ。
「どうだっ、僕の動きについて来れるものならついて来てみろ!」
シャマルの周りを回りながら、彼女は何処か挑発でもするように声を上げる。
彼女は自分の動きが見極められている事に気付いている。なら、見極める事が出来ないくらいのスピードで撹乱しょうという腹だ。
対するシャマルは、冷静に思考を巡らせる。
相手は単純に自分の周りを周回しているだけ。だが、機動力に関してはずば抜けている。
下手に周回に割り込んで動きを阻害しようとしたら、逆にその一瞬で斬りかかって来るだろう。
そうなったら、スペックの殆どが劣っているこちらが不利になる。
シャマルは自分の魔法ではあまりダメージは期待できない事はさっきのやり取りで分かっている。狙うのは、リンカーコアを摘出しての一発逆転。ただそれだけ。
そのためには、確実に相手の動きを止めなければならない。
この速度で移動し続けるのにも限界が在るはず。訪れる機会を、晒すだろう隙を見逃さないように、彼女の動きを常に目で追って、捕捉し続ける。
そして、
「はぅ~……?」
シャマルは目を回していた!
ぐるぐると回る単純な動きを追いかけていたのが原因だったが、シャマル自身のうっかりもまた大きな要因のひとつだった。
だが、間抜けな事をした事には代わりはない。明確な隙を自身でさらしてしまい、その上彼女の姿を見失ってしまった。
そして彼女は
「うなぁ~……?」
こちらも目を回していた。
そりゃあ、あれだけ回っていればそうだろう。
「はれ~、どこに行ったの~」
「うぅっ、シャマルがふたりに見えるぅ~。幻覚まほーを使うなんてずるいぞーっ」
ふたりで空中をふらふら漂っているのは、傍目に見ていて戦っているようには見えない光景だった。
「くぅっ。作戦失敗だったか。なら次だっ。行くぞ、バルニフィカス!」
彼女は頭をふるって、ぼやけた視界をはっきりとさせる。
そして、さっきまでのことは無かった事にするかのように、次なる攻撃を繰り出すべくデバイスに呼びかける。
それに応える彼女のデバイスは、フェイトの所有するバルディッシュ・アサルトをコピーした存在。
変形フォームもバルディッシュと同一であると証明するように、金色の魔力刃を展開して基本の斧形態から鎌形態へと移行する。
「光翼斬!!」
それを、彼女は肩に担ぐようにして大きく振りかぶると、そこから一気に振り抜く。
同時に、展開されていた金色の刃がデバイスより解き放たれ、さながらブーメランのように回転しながらシャマル目掛けて飛翔する。
圧縮魔力刃であるそれは、受ければ防御の上からであったとしても多くのダメージを負う事は必須の威力を持つ。
「むっ、そんなの当たらないわよっ」
だが、弾速があるものならともかく、緩やかな機動をするそれを真正面からバカ正直に撃たれても避ける事は容易もいいところと、こちらも復帰したシャマルは余裕で回避する。
まさに当たらなければどうと言う事はないと証明する。
攻撃を回避された彼女だったが、シャマルの行動に残念がるどころか喜色を浮かべる。
「残念だったなっ。それはどんなに避けようとも何処までも君を追いかけ続けるぞ!!」
彼女の言葉を証明するように、圧縮魔力刃は大きく弧を描くようにして再びシャマルへと襲い掛かる。
「あっはっはーっ。せいぜい逃げ惑えばいいさ!」
シャマルが何処までも避けるというのなら、こっちは何処までも追いかけていく魔法を使えばよいというのが彼女の考えだ。
弾速は犠牲にしたが、それ以上に誘導性と威力を上げた魔力刃は、彼女の言う通り何処までもシャマルを追いかけるだろう。
そして彼女自身もいる。シャマルが下手を打ったら、一気に攻め立てるつもりだ。
「守ってっクラールヴィント!」
だが、対峙するシャマルは、そんな彼女の思惑には乗らない。
魔力刃の性質を看破し、避け続けるのも益は無しと判断したシャマルは、今度は避けるのではなく、自身の前面に渦巻く風の盾を作り出し、正面から魔力刃を受ける。
直後、刃に籠められた魔力が爆発をして、彼女の魔力光である金色の爆煙がシャマルの姿を覆いつくす。
至近距離からの魔力爆発。それは直撃を受けたらそれだけで終わりそうな威力だった。
「……私自身の防御力はともかく、私の魔法の防御力は甘く見ないでよね?」
だが、シャマルは何のダメージもなく爆煙の中から姿を現す。
シャマルの風の護盾の魔法は、彼女の魔力刃による攻撃を完全にシャットアウトしていたのだ。
そんなシャマルの姿を目の当たりにした彼女は、
「ちょ、それは違うだろーっ!!」
なにやら別な意味で憤慨していた。
「普通、刃状の魔力弾で追跡されたら、追いかけられながら相手の目前まで移動して、直前で機動を変えて相手にお返ししてやるって言うのがお約束だろうがぁっ!!」
「そ、そんなお約束知らないわよ!?」
「なら勉強不足だぞっ。ちゃんとマンガを読んで勉強していろよ!」
「マンガのお話なの!?」
彼女の情報源がマンガだという事に驚きを隠せないシャマル。
とりあえず、機動力の高くないシャマルでは、彼女の言うお約束の真似事は出来ないのだが、そんな事は彼女にとってはどうでもいいらしい。
「それに、爆煙の中から無傷で現れるなんて妙にカッコイイ演出なんて、シャマルのくせに生意気だぁッ!」
「えぇーっ!?」
彼女からすれば、カッコイイシャマルに腹が立っていたようだった。
そんな事は、シャマルからすれば理不尽な言いがかりでしかない。普通に戦っているだけだというのに、どうして自分が怒られなければならないのかとシャマルは思う。
「……こうなったら、仕方がない。僕の方がカッコ良く君をたおーす!!
さあ、戦いを再開しようじゃないか!!」
そして、彼女はカッコイイという部分で妙な対抗意識をシャマルに抱いていた。
(うぅ~、なんだかやり辛い~)
鼻息を荒くして中々に理不尽な事を言ってみせる彼女に、シャマルは頭痛がする思いを抱いていた。
闇の書の関係者らしい彼女だが、わがままを言う子供っぽい姿を見ていると、悪い子ではないとは感じる。だからこそ、対処に困る。
仲間であるヴィータも子供っぽい部分があるが、それとはまた違うベクトルを突き進む彼女をどうすればいいのかと頭を悩ませる。
補助と回復のエキスパートであっても、自身のこの頭痛を治す魔法は思いつかなかった。
「で~んじ~ん……」
彼女の子供っぽさに毒気を抜かれていたシャマルを他所に、彼女は周囲に魔力弾の発射体である金色の魔力弾を幾つも浮かべさせる。
その姿に、シャマルはハッとする。まだ、戦闘中だというのに、意識を戦闘のそれから日常のそれへと戻してしまっていた事に気付く。
「しょーうッ!!」
だが、シャマルが意識を戦闘に戻しきるよりも早く、彼女は魔力弾を放つ。
それは硬く鋭い弾頭の射撃魔法。誘導性のない直射型であるが、その分速度と威力に優れている。
設置した発射体は六発。それを、時間差を置いて連続発射する。
いつもなら、相応の対処をするところだが、今のシャマルには余裕がない。
咄嗟に魔法陣の盾を展開して、魔力弾を防ぐ。
「うっ……」
硬く鋭い彼女の魔力弾を真正面から防御して、魔力が削られるのを感じる。
中々に選択を失敗と思うが、今更過去を変えられない。油断していた自分が悪かったと受け入れて、シャマルはこれからの方策に頭を巡らせる。
「電刃衝、電刃衝、電刃衝ぉ!!」
だが、シャマルが態勢を立て直すよりも、彼女の方が圧倒的に速い。
先ほどはタメて数を設置して放った魔法を、さらに連続で繰り出していく。
それらは単発であるが故にリロードの間隔が非常に短い。シャマルに防御の魔法を解除させる暇を与えずに、次々と撃ち込まれていく。
シャマルは彼女の攻撃を防ぎながら、このままでは不味い事を感じる。
ここは多少のダメージは覚悟してシールドを解いて仕切りなおしをしなければと思う。
「やあぁぁっっ!!」
しかし、ここでも彼女の速さの方がシャマルの上を行く。
直射魔法の連射に飽きた彼女が、今度はその高い機動力を生かして一気に肉薄する。
シャマルは、もう少しこの場の膠着が続くのではと予測したが、それよりも彼女の短気さが、シャマルを良い意味で裏切った。
刹那とも思える極小の時間でしかなかったが、高機動がウリの彼女からすれば十分。
既に、彼我の距離は白兵戦のそれ。
目の前に在る彼女の姿を認識し、シールドを回り込まれるとシャマルは思った。
「やぁッ!!」
だが、ここでも彼女はシャマルの予測を裏切る。
事もあろうか、シールドを回り込むのではなく真正面からそのデバイスを振り下ろしていた。
当然の事として、彼女の攻撃はシールドに阻まれる。彼女の攻撃はスピードこそあれども軽い。防御を破られる様子も無い。
「ていっ、とぁッ!!」
それでもなお、彼女はその手を止めない。怯む事無く、防がれるというのに真正面から次々と攻撃を加えていく。
(やば……!)
そしてシャマルは焦燥を抱く。
シャマルは攻撃の苛烈さと、次々と予想外の行動を取る彼女に対して防御を解くタイミングを失い、ずっと同一のシールドを展開し続けていた。
彼女の攻撃は一撃一撃が軽いといえる。だが、それも積み重なれば、既にそれは軽くなどない。
攻撃を耐え続けたシャマルのシールドが耐久限界値へと間近に迫ってきていたのだ。
「砕け散れぇぇッ!!」
そして、彼女は圧縮魔力刃を展開した鎌形態で、全身を捻るようにして全力で薙ぎ払い攻撃を繰り出す。
それがトドメ。限界を超えたシャマルのシールドが、衝撃を加えられたガラス板のように砕け散る。
「そんなっ……」
目の前で起こった事に呆然と呟きを漏らすシャマルは、シールドを破られた反動でとっさに身体の自由が利かない。
決定的な、明確な隙をさらしてしまった事に、更に愕然とする。
「もらった!」
彼女はその自らが作り出した好機にシャマルへと添えるように手をかざす。
直後、ふたりの間に金色の魔力光で構成された魔法陣が展開される。
「電刃爆光破ッ!!」
それをシャマルが認識したのと同時に、彼女は至近距離から砲撃魔法を繰り出す。
速度重視で最低限の魔力量で発動による砲撃魔法は本来の威力と比べればだいぶ出力が下がるが、この距離ならそれで十分。
「きゃぁっ!?」
シャマルは齎された爆発に大きく吹き飛ばされる。戦闘不能に陥るほどに至るまでではないが、間違いなく大ダメージだ。
それでもまだ敗北はしていないと、シャマルは吹き飛ばされながらも受け身を取るよう態勢を立て直す。
「天破ッ」
だが、その移動した先に、金色のリングが出現していた。
(バインド!?)
それが拘束魔法だと気付いた時には既に手遅れ。シャマルのその肢体が捕らえられる。
さらに、周囲に濃密な魔力が集まり、魔法を発生させる。
「雷神槌!!」
それは電気の魔力変換資質を十二分に発揮した魔法。肢体を拘束され身動きの取れないシャマルに強力な雷撃が浴びせられる。
「きゃぁぁぁっ!?」
そしてトドメと、彼女がデバイスを振りながらポーズを決めると、一気に爆発を引き起こす。
これにより、シャマルは戦闘の続行を不可能とするダメージを負うのだった。
「強いぞ凄いぞカッコイイ!!」
相手の防御を打ち破り、至近距離からの爆撃。最後はど派手な魔法でドドメを決める事が出来てご満悦の様子。
自身の功績を称えるように、バトンを回すようにデバイスを振り回しながら彼女は勝利を喜んでいた。
「……さて」
そんな行為にも満足して、改めてシャマルを見やる。
雷撃を浴びせてもまだ、拘束は解いていなかったため、その姿は中空にあったままだ。
「くぅ、……あなたは私をいったいどうするつもり?」
これ以上はどうする事も出来ないと悟り、それでもシャマルは毅然とした態度で彼女に臨んでいた。
「どうするも何も、僕達はもともと闇の書の一部だろ。君たちが勝手に切り捨て砕こうとした、呪いとやらのね!」
(やっぱり……、この子、闇の書の、防衛システムの断片データ……?)
シャマルの問いかけに対し、彼女は苛立ちを見せながら返す。
その答えの内容に、シャマルは自身が最初に思った事が当たりだった事を確信する。
さらに、そこから自分がここに来るきっかけとなったアースラからの通信によって齎された情報を加味し、分析をする。
「……街中に結界を作っていたのもあなたの仕業だったのね」
エイミィから入った通信によれば、似たような結界が幾つも発生しているという事だった。
それらの原因はその時は不明だと言われていたが、闇の書の防衛システムが働いていると分かれば、その推測も出来るという話。
「そうさ。そして僕だけじゃない。今頃、あちこちで僕らの欠片が生まれている。砕かれた闇を、もう一度蘇らせるためにね!」
そして、彼女はそれを肯定した。
今回の事件の始まりは闇の書だという事を、そして、防衛プログラムがもう一度再生を果そうとしているその事実を。
「──そう、この街に沈んだ記憶を呼び覚ますんだ。
闇の欠片が、魔導師や騎士たちの強い願いや妄執を形にして君たちを襲う!」
最後に彼女はシャマルにビシリと指を指しながら、そう言って締める。
事態はもう始まっている。さあ、絶望をするが良いとでも言うかのようだった。
「……そう、色々教えてくれて、ありがとう」
「へ?」
だが、シャマルの表情に浮かんだのは、負の感情ではなかった。
むしろ、これから先に対して希望を抱いているようなもの。そのあまりの予想外すぎるリアクションに、彼女は呆けた声を出す。
「あなたが教えてくれた情報は、既に仲間に送ったわ。わたしだって、負けたからといってただじゃ終わらないわよ」
「な、なんだってーっ!?」
そう、シャマルは彼女に拘束されていながらも、クラールヴィントを通して得た情報を仲間へと送っていたのだ。
確かにこれ以上の戦闘は出来ないし、逃げる事も叶わないと悟っていた。
だが、シャマルはこの敗北を次へと繋げるために、自身に出来る事を全力でこなしていたのだ。
それは、情報伝達はシャマルの得意分野であり、そして守護騎士において参謀の役割を持つ者としての矜持だった。
「ふふっ、すぐにわたしが送ったデータをもとにみんなが対処をしてくれる。第二、第三と送られる刺客が、いずれあなたを倒すわ!
確かにあなたは強いけど、それももう終わりよ。私は所詮バックアップ担当。みんなの中では一番戦闘能力が低いわ。
私に勝てて喜んでいるところ悪いけど、あまりいい気にならないでよね」
シャマルは内心、もうはやてなみんなに会えないだろう事を悲しく、辛いと思っていた。
だが、そんな胸の内をさらす事無く、毅然として振舞う。
目の前には斃すべき相手がいる。そんな相手に屈するわけには行かないと言葉を紡ぐ。
「……言いたい事は、それだけかい?」
「え?」
シャマルの行動に、悔しそうにしていた彼女だったが、ふと、その表情が消えると、真っ直ぐにシャマルを見据える。
その光景を目の当たりにしたシャマルは、同時に意識を刈り取られた。
「僕は、王への道を諦めはしない。どうせ、みんな越えなければいけない障害なんだ。
立ちふさがるというのなら、僕はそれを乗り越えてみせる……!」
シャマルの意識が途絶える前に聞こえてきたのは、確固たる決意を胸に秘めたような力強い声。
もしかしたら、余計な挑発をしてしまったのではないかと思いながら、シャマルの意識は闇に落ちた。
アホの子とドジっ子の邂逅回でした。