魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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ステージ2

 

闇の書の防衛プログラムは、再びその力を取り戻すべく、この地にある魔導師と騎士達の記憶と力を集めて再生しようとしていた。

 

それは次元世界を守る事を掲げる時空管理局にとって見過ごす事の出来ない事態。

管理局は事態解決のために動き出し、それに伴い、防衛プログラムを打ち抜いたこの地に住まう魔導師が立ち上がるのは当然の成り行き。

 

そう、遅かれ早かれ、彼女達が出逢うのは必然といえるものだった。

 

 

 

 

今この場に居るのはふたり。

ひとりは闇の書の構成体(マテリアル)の内の一基。

紫色の宝珠を先端に据えた杖型のデバイスを手にした、闇のような黒を基調とした色彩のバリアジャケットに身を包む少女。

 

そしてもうひとり。

赤い宝珠を先端に据えた杖型のデバイスを持ち、清純を思わせる白を基調とした色彩のバリアジャケットに身を包む少女。

 

姿かたちはまるで同じ。だが違う。

コインの表と裏のように、とても近く、そして巡り会うはずのないふたりがそこに居た。

 

「えと、わたしの偽者?」

 

管理局嘱託魔導師である高町なのはは、結界の中で出逢った闇の書の欠片と相対して最初に思ったのがそれだった。

 

ここに辿り着くまでに、今ではかけがえの無い仲間達となった者達。その過去の記憶を基に象った闇の欠片との戦いを経ていた。

その中で、可能性の一つとして予想はしていた。だが、実際に自分と同じ顔をした相手が出てくると流石に驚きを隠せず思わずそれは口を突いて出ていた。

 

「確かにこの身と魔導は貴女を蒐集した際の情報がもとになっています。

貴女というオリジナルが存在する以上、私は自身が偽者ではないと証明する事は出来ません」

 

そんな特に意味も無いような呟きだったのだが、律儀な彼女はそれに答える。

彼女は自分が偽者であると本物に告げられたのだ。自身の存在を否定されたと言ってもあながち間違いではない。

それを認める。

 

「ですが、私は確固とした自我を持ち此処に存在しています。私は、自身を偽者であるとは思っていません」

 

だが、彼女は自身の存在を明確に理解していた。

なのはの言う事ももっともだと理解した上で、自己を認識していた。それが『理』の構成体(マテリアル)である彼女の在り方。

故に、彼女にはなんの揺らぎも無かった。

 

「……あの、ごめんなさい」

 

揺らいだのは、むしろなのはの方だった。

 

目の前に居るのは、この地に散った魔導師と騎士の記憶を集めて象られた仮初の存在。

それは夢や幻と同じもので、目が覚めたら残滓も欠片も無く消える。

だから偽者で、嘘。本当はここにないものと、存在を否定していた。

 

そんな考え方を無自覚にでもしていた自分を、なのはは恥じた。

こうして自身の言葉がちゃんと届いているのに、目の前にいる彼女の存在を否定してしまうような事を、自分がしていいはずはないのに。

 

だから、誠心誠意を込め、謝罪の言葉を口にして頭を下げていた。

 

「貴女が謝る事は何も在りません。貴女の言葉は真実なのですから」

 

だが、彼女はもとより偽者と呼ばれても気分を害していたわけではない。

その謝罪を受けるいわれはないと答える。

 

「私がここに居るのは、闇の書を復活させるため。

そして貴女はそれを阻止するためにここに居る。

今ここで、それ以外の存在理由を議論する意味はありません」

 

そして続ける。自分たちは戦うためにここに居るのだと。

それでもまだ議論したいというのなら、まずはその力を示してみせろと、自身の魔法の杖たるデバイス『ルシフェリオン』をなのはに向ける。

 

「……闇の書を復活させるのは、諦めて貰う事は出来ないのかな?」

 

彼女は言葉で全てを語ってはいなかった。

だが、もとは同じ存在だからというように、彼女の真意は確かに届いていた。

なのはは愛機であるレイジングハートを構えながら、最後に訊ねる。

 

「それは出来ません。貴女も、ダメだと言われたらそれで諦める道理はないのでしょう?」

 

なのはの問いを、彼女は否定で返す。そして逆に訊ね返す。

 

「うん、そうだよね。わたしだって止まらないもの」

 

なのはは彼女の問いを肯定で返す。

ふたり、それぞれの問いの答えは聞く前から分かり切っていた事。聞いたのは単なる確認のようなものだった。

 

「闇の書が復活したら、沢山の人が悲しい思いをする。辛い思いをする。

それを止めたいと思うわたしの気持ちが届かないなら、力づくでも届かせて見せる。

わたしの魔法は、そのためにあるんだ!」

 

互いの想いは既に決まっている。ならばあとは戦うのみ。

 

「時空管理局嘱託魔導師、高町なのは。レイジングハート・エクセリオン。いきます!」

「闇の書、その構成体(マテリアル)が一基。『理』の魔導師とその愛機ルシフェリオン、いきます」

 

そして、戦いの幕は上がる。

 

 

 

 

 

なのはの魔法のキャリアは極端に短い。

だが、ジュエルシード事件、闇の書事件と立て続けに起こった荒波に揉まれる中で培われた経験は通常の魔導師に引けをとらない。

いや、なまじ最初から実戦の連続だった事を鑑みるに、通常の魔導師のそれ以上の密度だ。

 

その中で鍛え上げられたなのはの実力は高い。

 

なのはの保有する才能は、莫大な魔力量と瞬間出力。そして優れた遠隔操作能力。

時間が無かった故に、それらのみを実戦向きに叩き伸ばされたのがなのはのスタイル。

 

発生させた誘導操作弾を舞わせて立体的に相手を追い詰める。追い詰められないまでも自由な機動を阻害して、その隙を死角から狙撃、あるいは防御ごと打ち砕く一撃必殺の砲で撃ち抜く。

そして自身の纏うバリアジャケットは遠隔からの射撃では揺るぎもしないような圧倒的な防御力を持つ。

中遠距離単独戦闘のエキスパートというのがなのはの戦い方だ。

 

接近戦の技能や補助魔法の運用に関してはあまり褒められたようなレベルではないものの、なのはの戦い方はそれを補って有り余るモノがあった。

平時においても、魔法の練習を欠かす事無く鍛錬を重ねきたそれは、既に管理局の中でも胸を張ってエースを名乗れるほどとなっている。

 

「ディバイン、バスターァァッ!」

 

そんな自身の力を証明するように、自身の主砲とも呼べる直射砲撃魔法を放つ。

莫大な魔力を直接叩きつけるというシンプルなそれは、下手な防御は容易く貫通して相手を一撃で打倒しうる力を持つ。

直撃すれば、それだけで終わりだ。

 

「ブラスト、ファイアーァァッ!」

 

だが、今敵対していた相手は、それで打倒する事は出来ない。

同種の砲撃魔法を放つ事で、真正面からなのはの砲撃を相殺してみせたのだ。

並の相手なら、砲撃魔法をぶつけ合っても一方的に押し勝てる威力を持つなのはの主砲を真正面から相殺してみせた彼女に、なのはは驚きを抱く。

 

そもそも、彼女は闇の書がなのはのリンカーコアを蒐集した際に得た情報をもとにされているのだ。その能力や魔力量はなのはと全くの同格。

相殺が出来ないわけが無い。

 

「パイロシューター!」

 

なのはに出来る事は自分にも出来る。

そんな事を言うかのように、今度は誘導操作弾を一度に十二発も発生させ、制空権を奪うべくなのはの周囲を舞わせる。

 

「く、アクセルシューター!」

 

そしてなのはも、彼女の使う誘導弾のオリジナルである誘導弾の魔法を展開。その尽くを撃ち落としてゆく。

 

使える魔法は同じ。戦術も同じ。それを考えると両者の戦いは全くの互角だった。

 

だが、実際には互角ではない。

 

「あぅ!?」

 

なのはは全ての誘導弾を自身の誘導弾で相殺するつもりだった。

その思惑をはずれ、彼女の誘導弾の内のひとつが防御網を抜けて、なのはに命中する。

幸い、直撃ではなくかすめるようなもので、大したダメージは受けていない。

 

だが、ここで問題なのはダメージの云々ではなく、能力は互角のはずなのに、なのはの方が押され気味だという事実。

なのはと彼女との間には僅かだが、それでも確かに実力に「差」が存在していた。

 

そして、その差の理由は彼女にあった。

 

彼女も、発生した当初は確かになのはと互角の能力だった。

いや、なのはのリンカーコアを蒐集したのが闇の書事件の初期で、今の彼女はそのときの情報がもとになっている。

対してなのはは、それ以降も魔法の練習を欠かさず続け、実力を伸ばしていた。

実力に差があるというのなら、なのはの方が上で在るべきなのだ。

 

なら今ある差は何なのかといえば、答えはひとつ。彼女の能力に加算があったのだ。

それはつまり、この戦いの前に取り込んだクロノ・ハラオウンの事。

 

魔導師をひとり取り込んだからと言って、彼女の魔力量や瞬間出力が増大したという事は無い。

だが、クロノが魔導師ランクをAAA+の評価を得ていた最大の要因は、魔法の運用技術の高さによるものだ。

 

無論、彼女とクロノとではそもそもの戦い方からして違うのだから、直接の参考や実力アップに繋がる事は無い。

それでも、クロノの魔法技術は彼女にプラスに働く。その結果、彼女の実力はなのはのそれを僅かに上回ったのだ。

 

「ブラスト、ファイアーァァ!」

 

そして、徐々に制空権を奪われ始めたなのはの死角から、彼女は砲撃魔法を繰り出す。

隙を突かれてしまったなのはは、回避は間に合わずその一撃を受けてしまう。

 

彼女は砲撃魔法の際に発生した圧縮魔力の残滓をデバイスから放出させつつ、立ち上る爆煙を静かに見やる。

 

「……さすが私のオリジナル。やりますね」

 

そしてその煙の奥に、咄嗟に防御したらしい、無傷ではないがそれでもまだ戦いの意思を失わないなのはを見て、素直に賞賛を送る。

 

「まだまだ負けないよ!」

 

なのはの周囲に浮かぶ桜色の球体を見て、まだこの戦いが続くものだと彼女は知る。

 

……彼女は思う。

なのはと自分は、戦術は同じ。だから実際に戦えば拮抗する。

だが、スペック的に言えば自分が上回っている事は確実なのだ。実際なのはを追い詰めている。

 

だが、倒しきれていない。

 

僅かな差では圧倒すると言うほどではないが、確かになのはを自分は追い詰めている。

だが、最後のトドメまでがどうしても届かない。

今のように、あと一歩のところでなのはは踏みとどまって見せている。

 

そして、その要因に彼女は既に気付いている。

 

なのはにとって、最大の武器は魔法の才能ではない。

実戦で培った経験でもないし、ましてや単なる幸運で片付けて良いものでもない。

 

高町なのはの最大の武器はその心。

どんな時でも諦めない不屈の闘志。そして、その闘志を切らさない集中力だ。

 

それらは「理」の構成体(マテリアル)である彼女には無いモノだ。

彼女は常に冷静な思考で状況を判断する。決して激昂する事は無く、何時でも安定した精神状態を維持する。

それ故に「理」の名を冠しているのだ。

 

彼女の在り方は、決して悪いモノではない。むしろ戦いに生き残るために必要なもの。

だが、ここ一番の爆発力を生むと言う事は無い。

その違いが、今ここに現れているのだと彼女は考える。

果たして、このまま戦いを続けていて最後まで立っていられるのはどちらか?

 

「……ああ、これが『楽しい』という感情なのですね」

 

彼女の表情は変わらない。声も相変わらず淡々としたものだ。

だが、彼女の心の中に湧き上がるものが在った。

 

必勝が既に決まっている戦いなぞ面白くない。

こうして互いの魔導を競い合い、何処までも高みに昇りつめる。

今こうして戦っていられる事が、面白く、そして楽しいものだと理解する。

 

彼女は決して感情を昂ぶらせていない。その心はあくまで常と変わっていない。

 

「故に残念です。永遠に貴女とは魔導を競い合いたいと思うのですが、あまり戦いばかりに時間を割く事は出来ません」

 

だが、さっきまでとは何かが変わっていた。本人も気付かぬうちに。

この戦いを始める前までなら、残念などとは口にもしなかったのに、こうして言葉にしているという事実がその証拠だった。

 

「遺憾ではありますが、決着をつけましょう」

 

自身の内情を理解しているのに気付けない彼女は、戦いに契機を打ち込む。

宣告すると同時に、なのはの放った誘導弾の全てを自身の誘導弾で相殺して見せる。

そして訪れるのは一凪の静寂。

 

彼女は、このまま戦いを続けていたとしても自分が勝てるだろうと考える。

だが、彼女の目的はあくまで闇の書の復活であり、この戦いの勝利ではない。

 

勝ったとしても、贄とするためには相手を自身に取り込まなくてはいけないのだが、自分では、その行為には時間がかかる。

さらに、行為の最中に妨害をされてしまうと、取り込む事が出来なくなってしまう。

 

時間があればそれだけ、なのはに対する救援が来る確率が上がる。

それでは自身の目的が果たせない。そう考え至った。

 

故に、自身の娯楽よりも目的を優先する。理論と理屈を重ねて、そう判断する。

その中で、彼女はひとつの魔法を発動させる魔法陣を展開する。

 

「その魔法は、まさか……!?」

 

彼女の発動させた魔法に戸惑うなのはだが、それも当然だ。

今、彼女が発動させようとしているのは、なのは自身にとっても最大最強の切り札。

周囲に散った魔力を集束して放つ集束砲と呼ばれる魔法、そのための魔法陣。

あれはなのはがレイジングハートのふたりで組み上げたのだ。見間違えるはずがなかった。

 

ただ、彼女は魔法陣を展開しただけで、周囲の魔力を集束はさせてはいない。

なのはとしても、そうやすやすと集束砲のチャージをさせるつもりはないが、何故彼女はこのタイミングで明らかな隙を晒してまで魔法陣を展開させたままでいるのかと疑問に思う。

 

「私もあまりまどろっこしい手法は好みではありません。

一撃必殺。お互い、最強の魔導を以って雌雄を決しましょう」

 

そして、そのなのはの疑問は彼女の『提案』によって答えを得る。

 

この戦闘空域に散った魔力を回収し、奪い合い、どちらが相手より高い威力の魔法を生み出すかという勝負。

魔力の瞬間最大出力が同一であるふたりにとって、明確な優劣の出る手法。

 

単純明快、正面から正々堂々の力比べ。

彼女は勝負を急ぐ事にした。だが、はっきり決着をつける気だ。

その気概が彼女の瞳にありありと浮かんでいる。

 

『どうしよう、レイジングハート?』

 

それを真正面から見たなのははレイジングハートに精神通話で相談をする。

現実問題として今までの戦闘でだいぶ魔力が削られている。なのはには負ける気は一切ないが、それでも決定打が見つからないのが事実だ。

 

だが、そんな理屈以上に、何とも分かりやすい決着のつけ方を提案して、その上こうして自分達が相談をしているのを律儀に待っている彼女に応えたいと思っていた。

 

そんな主の心中を察しながら、レイジングハートは思考する。

向こうは既に魔法陣を展開して待機しているが、その隙を狙って攻撃を加えようにも、おそらく回避か防御をされてしまうはず。

それに、そんな真似を選ぶ事はどこまでも真っ直ぐな心を持っている主の士気を下げる事にも繋がりかねない。

 

それならばいっそ、ここは向こうに一発大ダメージを与えるチャンスととらえるべき。

今まで手堅く戦況を維持する彼女に対して逆転の目が見つからなかったのだ。

ここで一勝負をかけるのも間違いではない。

 

《Let’s shoot it》

『だよね!』

 

なのははレイジングハートの結論は自分と同じだったと証明するように即答すると同時に、レイジングハートを構え直す。

そんな主との心の繋がりを強く感じるレイジングハートもまた、その信頼に応えるべく魔法陣を展開する。

もちろんそれは、彼女の展開する魔法陣と同一のもの。

集束砲『スターライトブレイカー』だ。

 

視線は何処までも真っ直ぐ。なのはも彼女も、自身の必勝の意志を乗せて相手を見やる。

 

「……心地良い緊張感です。

私はいつでも平気ですので、カウントは貴女方に譲ります」

 

静かな、だが極限まで高められた集中力によって空気がちりちりするような感覚の中で、彼女は何時ものように抑揚の無い声で話しかける。

だが、何処となくその声が冷淡な物ではなく熱い想いが込められているような気がするとなのはは感じた。

 

「いくよっ、レイジングハート!」

《StarlightBreaker Standby Ready》

 

感じて、自分だって負けないと強い想いを胸にレイジングハートに呼びかける。

それに応えるようになのはの足元と全面に広がる魔法陣の煌めきがより一層強くなる。同時に彼女のそれもまた同様に光り輝く。

 

《Count start 9,8……》

 

そして、レイジングハートがカウントダウンを開始すると同時になのはと彼女のそれぞれの周囲に桜色の魔力光が生まれる。

全面に展開された魔法陣に集束されていき、互いの目前に巨大な魔力の塊を形成してゆく。

 

ふたりの魔力の波長は同一であり、さらに後に回収しやすいように使った魔力の拡散のさせ方にも特殊なプログラムを使っている。

そのため、普通なら相手の魔力は利用し辛いものであるはずなのだが、この場合はその限りではない。

相手と自分、その使った魔力の十全を集束していく。

 

《6、5……》

「ぅ……っ」

 

カウントも中盤に差し掛かったところで、なのはの表情が曇る。

ここまで来て、明らかになのはの集めた魔力量は彼女の集めた魔力量に劣っていた。

集束砲の撃ち合いとは即ち、周辺魔力の奪い合いに尽きると言っても過言ではない。

その過程で、魔法運用技術に僅かにだが確実に軍配の上がっている彼女の方が、なのはより多くの魔力を集める事が出来ていたのだ。

 

空間に散る魔力量にも限りはある。普段なら気にする事柄ではないのだが、この場ではふたりの魔導師が互いに負けまいと魔力を貪欲なまでに集めている。

そのため、通常以上の速度で周辺の魔力が減衰していく。

 

《3、2……》

 

そしてカウントは残り僅かにして、魔力の集束も打ち止めとなる。

魔力を集束する事によって形成される魔力の塊は、彼女の方が一回りばかり大きい。

このまま撃ち合えば、確実に自分が負けるとなのはは悟る。

 

「全力、全開っ……!!」

 

それでもなのはは諦めない。

周辺からの魔力の収集が足りないというのなら、他で補う。それは即ち自身の魔力。

その足りない分の魔力を補うべく、トリガーを引くだけの魔力さえ残っていれば良いと残り全ての魔力を注ぎ込む。

 

「!!」

 

その光景に彼女は目を見開く。

既に完成目前という状態のそこへ一挙に魔力を注ぎ込まれる事で、なのはの作り出した桜色の光球がその大きさが増していく。

ただ、その様相はすでに十分に膨らんだ風船に空気を注ぎ込むかのようで、少しの刺激を与えれば炸裂して爆発してしまいそうな危うさを感じる。

だというのに、なのはもレイジングハートも臆する事無く実行する。

 

これこそが、不屈の闘志のなせる技だと無言で語るかのように彼女の目には映った。

既に、魔力球の大きさは互角……!

 

「スターライトォ──」

「ルシフェリオン──」

 

レイジングハートのカウントはゼロとなり、ふたりは引き金を引くべく高らかに宣言する。

 

「「ブレイカーァァッ!!」」

 

そして、真正面から二種類の桜色の極大の砲撃がぶつかり合い、ほぼ互角のせめぎ合いを演じる。

その余波は十分な距離を置いていたハズだというのに、なのはと彼女の身体を激しく揺さぶる。

それでも一歩も下がる気は無いと歯を食いしばってその場にとどまり続ける。

 

だが、そのぶつかり合いは『ほぼ互角』であって『互角』では無かった。

なのはの側が僅かばかり足りていなかった。せめぎ合いを経て、押され始めようとする。

 

「レイジングハート!!」

《All light》

 

だが、なのはは撃ち負けていない。集束砲を放ちながらも断続的に魔力を供給するという無茶を押し通し、『ほぼ互角』の優劣を力づくで逆転させて見せていた。

 

そう、この集束砲の撃ち合いはなのはの勝利。

 

「っ……!?」

 

それを証明するようになのはの撃ち放った桜色の砲撃は、彼女のその姿を呑み込んでいた。

 

「……わたしの勝ち、だよね?」

 

砲撃の余韻の中で、なのははぽつりと呟く。それと同時に、なのはは意識を手放す。

魔力喪失による気絶であり、無茶な魔力運用の代償でもあった。

既に飛行魔法を維持する事もかなわない。靴に煌々と輝いていた桜色の翼は消失し、なのはは重力に引かれてその身を落下させていく。

 

「……そうですね。貴女の勝利です」

 

その身体を、彼女は受け止めていた。

バリアジャケットには少なくない損傷が見て取れるが、そこに居たのは、紛れもなくなのはと戦っていた彼女だった。

 

確かに彼女は砲撃に呑まれていた。だが、その直前までのせめぎ合いによって威力の大半を失っていたため、戦闘不能となる程のダメージを彼女は負っていなかった。

そして、なのはのような無茶も無理もしていなかったため、こうして自分の意志で立って居られた。

 

「全てをかけた勝負に敗北したのですから、私が退くべきなのですが、私がこうして在る以上、やらなければならない事もまた事実……」

 

彼女は自身の腕の中で気絶したままのなのはを見つめながら考えを巡らせる。

勝てば官軍という言葉がある通り、最後まで生き残った方が勝者であり、闇の書の復活という目的を果たすという最重要事項がある。なのはに気にかける必要は無いと考える。

 

だが、その一方で理屈ではなく感情がその答えを受け入れない。

先程のぶつかり合いは自身の全てを賭ける心づもりで臨んでいた。そして、決着はその結果に委ねたのだ。敗者は潔く去るべきと思う。

 

理屈と感情が相容れない答えを導き出す。

その間で揺れ動き、彼女は深く悩む。

 

「……今はあえて生き恥を晒しましょう」

 

そして答えを選んだ。なのはの身体を、彼女の身体から溢れだした闇が覆い隠していく。

彼女が優先したのは闇の書の闇の復活。それが、彼女の出した結論。

自分の感傷にかまけていられるような状況ではないという思考からの選択。

理解はしているというのに納得が出来ていないという感覚に戸惑いながらも、決意を胸にする。

 

「代わりに約束をします。いずれ貴女とはきちんと決着をつけるべくもう一度戦うと。

そして、悩む必要もないくらいの明確な勝利を収めてみせます」

 

彼女はこの行動に納得が出来ていない。ならば、次こそは納得出来る結果を残したい。

自分が存在していれば、再戦の機会はあるはず。故に、今は恥と知っていても生き汚く足掻いて見せる。

 

 

そうして、彼女は新たにひとりの魔導師を取り込んだ。

 

 

 

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