魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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BATTLE5

 

アースラの通信士であるエイミィは、闇の書の残滓が引き起こした今回の事態が滞り無く進行出来るよう、魔導師や騎士の通信の仲介をしている。

事件の発生当初にシャマルが墜ちたという想定外の事態もあったが、そのシャマル本人が最後に齎した情報を元に今も事態解決のために邁進していた。

 

「エイミィ、他の様子はどうだ?」

 

そんな折、アースラ所属の執務官であるクロノ・ハラオウンから通信が入る。

流石はアースラの切り札と称されるだけの実力を持っているだけあり、事件に真摯に取り組んで成果を上げてきている。

その中でひと段落が着いたのか、他の仲間の様子が気になったらしい。

 

「はいはい。今は丁度なのはちゃんと繋がってるから、直接話してー」

 

エイミィが口頭で状況を教えてもいいのだが、直に話をした方がいいだろうと手元のモニターを操作してふたりの通信を繋げる。

その事によりクロノとなのは、ふたりの前に空間モニターが表示されて相手の顔をみえるようにする。

 

「あ、クロノくん。こちらなのはです。丁度今、闇の書の構成体(マテリアル)の内のひとりを眠らせたところです」

「マテリアル……! それで、大丈夫だったのか?」

 

上がった名称に、クロノは緊迫を感じる。マテリアルは騎士のひとりであるシャマルを既に倒している。

今、こうして話しているのだから無事で在ったというのは分かるが、それでも心配をするというのは当然の事だ。

 

「うん、わたしの偽物だったからびっくりしちゃったけど、最後はスターライトブレイカーの撃ち合いを真正面から正々堂々、全力全開で撃ち勝ったよ」

「集束砲の撃ち合い……」

 

なのはは事も無げに語るが、なのは最大の砲の威力を知るクロノからすれば、その光景は想像するだけで恐ろしい物があると思う。

ただでさえなのはの砲はバカげた威力だというのに、それが集束砲ときたら魔力の瞬間最大出力は特筆する事の無いクロノからすれば恐怖の権化にも見えるものだ。

表に出す事はしないが、その場に居合わせ無くて良かったと心の中で安堵していた。

 

「それにしても、あの子は使う魔法はわたしと同じなんだけど、独自の使い方をしていたからわたしの魔法はこんな使い方もあったんだな~って勉強になったよ」

「……そうか。とりあえず結界の外に被害を与えなかった事が喜ばしいな」

 

なのはの集束砲『スターライトブレイカー』は結界破壊効果がある。

結界を“貫通”ではない、“結界機能の完全破壊”という付加効果のために、結界の外に戦いの影響を与えなかったのは運が良かったという事で話を纏める。

 

「うぅ、なんかクロノ君の言葉にとげを感じるよ~っ」

「それはきっと気のせいだ。それよりもエイミィ。なのはがマテリアルを倒したというのなら、闇の欠片の発生率はどうなっている?」

 

シャマルから齎された情報により、闇の書の防衛プログラムのマテリアルが欠片の発生源である事は分かっている。

 ならば、その発生源が抑えられたというのなら結果はついてくるはずだとエイミィに状況を尋ねる。

 

 「えっと、ちょっと待ってね~。 ……うわ、すごい。発生速度ががくんと下がってるよ。やっぱりマテリアルを抑えれば今回の事件は解決に向かうって考えで間違い無いみたいだね」

 

アースラのセンサーが捉えた結果は良しというものだった。

これで、最初に立てた事件解決の仮説は肯定されたという事に喜色を浮かべる。

 

 「でも、シャマルを倒したマテリアルはなのはちゃんが戦った相手とは違うみたいだし、あと何体マテリアルがいるかっていうのは分からないからなぁ……」

 

とはいえ、希望は出来てもあとどれくらいで終わるかというビジョンが見えていない。

 ゴールの見えない持久戦は精神力を削る事は分かっている。エイミィは何とかしたいと上がってくる情報を精査するも、結論が出ないというのが現状だ。

 

 「あ、それならわたしが倒した子が、マテリアルは『理』の自分と『力』の雷剣士、それと中枢を担う『王』の三基が居るって教えてくれたよ」

 「……随分親切だな」

 

クロノは自分達の情報をあっさり開示したというなのはの戦ったマテリアルに懐疑心を抱く。

もしや、こちらを混乱させるための欺瞞情報なのではないかと勘繰る。

 

「うんっ、わたしが言うのもなんだけど、ちょっと言動が物騒だったけど落ち着いた感じの良い子だったよ!」

 

……勘繰っていたのだが、なのはの笑顔を見ているとそんな自分の考えは的外れなのだと感じる。実際、なのはの対峙したマテリアルは嘘を言っていないのだろうと思う。

 

ただ、クロノの内心ではなのはの外見で言動は物騒で、落ち着いた感じの良い子というのはイメージ出来なかった。

まあ、なのはにしても砲撃を躊躇なく撃ち放つという点は間違いなく物騒ではあるが。

 

「だとするなら、言葉の響きや能力から察するにシャマルを倒したフェイトの偽物が『力』の雷剣士なんだろう。

もう一人、独自の自我を持つ『王』は誰からの報告が無いから、どんな外見や能力を所持しているかは分からないな」

 

クロノは無表情で砲撃魔法を淡々と連射する怪獣染みた女の子をマルチタクスの一部を使って想像しながらも、なのはの報告を真実と仮定して、推測を並べる。

マテリアルは他の欠片と違って強い力を持っている事は分かっている。限りある情報の中でも、少しでも分析して不足の事態を防ぐべく思考を巡らせる。

 

「う~ん、案外はやてちゃんの姿をしているんじゃないかな? それで、『ふはは~、見よ、まるで人間がゴミ屑のようだ~』なんて言っていたりして」

「なるほど。中枢なら夜天の主であるはやての姿を象るというのはあり得る話ではあるな。だがエイミィ。その妙な口調は一体誰だ?」

「誰って、私の予想した王様だったんだけど、変だった?」

「変というか、国を統べるべき王が、そこまであからさまな暴君なわけが無いだろう」

「う~ん、わたしもはやてちゃんがそういう事を言っているのって想像出来ないかも?」

「あはは、だよね~」

 

三人はそう言って笑っていたが、実際に中枢である“王”はそんなキャラだったという事は、このメンバーには知る由もない。

適当な事を言って、実は真実を射ていたエイミィ。ある意味凄かった。

 

「さて、情報交換はこのくらいにしておこう。エイミィ。僕達は次は何処に行けばいい?」

 

いい具合にリラックス出来たとはいえ、まだ事件は終わっていないのだからとクロノが気持ちを切り替える。

そんなクロノとは長い付き合いエイミィもまた、阿吽の呼吸とでもいうかのようにそれに応える。

 

「ひとまず、なのはちゃんの近くに大きな反応がもうひとつあるんだ。

さっき、ヴィータちゃんが行ってくれるって話だったんだけど、まだその結界は解かれていないから、中の様子が分からないんだ」

「わかりました。それじゃあわたしがいきます」

「いや、なのは。君はマテリアルをひとり倒したばかりなんだ。ここは僕が行ってもいいんだぞ」

 

何の迷いもなく自分が行くというなのはにクロノは待ったをかける。

この案件は元々自分達、管理局の仕事なのだ。将来的には嘱託魔導師の資格を取るつもりのようだが、現状のなのははあくまで現地協力者。無理をさせるわけにはいかないという考えだ。

 

「大丈夫だよ。無理はしていないし、一番近くに居るわたしが行くのが一番いいよ」

 

だが、それでもなのはは自分が行くと言う。

その笑顔を見ていると、反対する気も削がれてなんとなく視線を逸らす。

そんなクロノの反応を見て、認めたのだろうと察したエイミィが話を続ける。

 

「うん、じゃあ疲れてるかもしれないけどお願いするよ。他のみんなにも連絡を取るから、なのはちゃんも無茶はしちゃダメだよ」

「うん、わかりましたエイミィさん。それじゃあ、高町なのは、いきます!」

 

それを最後に、なのはとの通信が途切れる。ここに残るのはクロノとエイミィ。

 

「……まったく、集束砲は反動が強いはずなのに全然平気なわけがないだろう。

とはいえ、現状なのはに頑張って貰って助かっている部分はあるが……」

「大丈夫だよ、クロノ君。ちゃんとフォローにの手もまわしているから」

「そうか。でも、一応なのはの現在位置の座標を教えてくれ」

「もう、ここは素直になのはちゃんが心配だから様子を見に行くために現在位置を教えて欲しいって言えばいいのに」

「む、ぅ……」

 

クールぶっていても、やっぱりクロノもお人よしだった。

そんな同僚をからかうエイミィがいた。

相変わらずふたりは仲良しである。

 

 

切ったモニターの先でそんなやり取りが行なわれているなどと知らないなのはは、アースラから送られてきた座標へ向けて飛んでいた。

近くと言われていただけあってすぐに到着したそこには、報告の通りまだ結界が張られていた。

 

ヴィータが最後に連絡をしてからだいぶ時間が経過しているはず。

それでもまだあの結界はこうしてここに存在しているのだから、中では何かが起こっているはず。

 

もしかしたらヴィータの身に何かあったのでは?

そう考えて、迷う必要はない。真っ直ぐになのはは結界に突入する。

 

「……あなたが“力”の雷剣士さん?」

 

そして、アースラの通信で幾度となくその存在が語られていたフェイトの姿をした闇の欠片の凝縮存在がそこにいた。

彼女は何をするでもなく結界の中心で瞳を閉じて佇んでいたが、なのはに呼びかけられてその瞳を開く。

 

「……いかにも。

そういう君は、闇の書の闇を撃ち抜いた、白い魔導師だね」

 

そして、その瞳は真っ直ぐなのはの姿を捉えながら口を開く。

なのはは真正面から見て、彼女が友達のフェイトの姿と本当に良く似ていると思った。

フェイトと違って優しさという印象は伝わって来ず、逆に怒りの感情を抱いているように見える。

でも、その奥では寂しそうに見えるところが、本当に良く似ていると思っていた。

 

「あの、ここにヴィータちゃんが来たはずなんだけど、何処に居るか知ってる?」

 

「ああ、ヴィータは今僕の中に居る。いや、ヴィータだけじゃない。他の守護騎士達もみな僕の中だ」

「そんな……」

 

先の闇の書事件では幾度となくぶつかり合ったヴィータの実力を、なのはは良く知っている。

負けるはずはないと思っていた相手が既に負けていたといわれてショックが隠せない。

 

ただ、実際のところを言えば、彼女とヴィータの戦いは決着がついていなかったのだが、ただ中に居ると言われれば、負けたと勘違いしても仕方がない。

 

「逆に僕からもひとつ尋ねるけど、君から懐かしい気配の残滓を感じる。

もしかして、他のマテリアルの事を知っているのかい?」

「……うん、わたしの偽物さんは、わたしが眠らせたよ」

 

彼女の問いに、なのはは隠す事無く応える。

自分の想いの丈の全てをぶつけて勝利を収めた。嘘を吐いたりして誤魔化すような真似をしたいとは思わなかったからだ。

 

「……そうか、彼女も消えたのか」

 

なのはの答えに、闇の書の闇のマテリアルは、残りは自分ひとりだけだと彼女は知った。

だが、落胆は無かった。元々、同じ闇から生まれた事は知識の中にあっても、自我を獲得してから実際に顔を合わせた事も無かったのだ。動揺するほど思い入れもなかった。

もしかしたら姉妹と言える間柄だったかもしれない相手が、知らない内に消えていたというのは少し寂しいと思ったが、それだけだ。

 

「……それにしても、君を見ていると苛立ちを感じる」

 

だが、それらの理由以上に、なのはに対して不快感を抱いていた。

その自身の中に渦巻く負の感情が、なのはに向けて口を衝いて出る。

 

「闇の書の闇を撃ち抜いたという事、他のマテリアルを倒したという事もあるが、それ以上に、その僕を見る瞳が癪に障る。

すぐにでもぶん殴ってやりたい気分だ」

「えと、いきなりそんな事を言われても困るんだけど……」

 

初対面の相手にいきなり嫌われるというのは、なのはとしては辛いものがあった。しかも、その相手がとても親しい友達の顔をしていたら、辛さも倍増だ。

それが、なのはの心に痛みとなって突き刺さる。

 

「なんにせよ、僕は君が嫌いだ。嫌いだから気兼ねなく倒せる。そして、僕の糧とすれば、君に抱く不快感も消えるはずだ」

「……」

 

なのはは、どうしてそこまで自分を嫌うのかを聞きたいと思った。

だが、もう語る事は無いと言うかのようにデバイスを構える彼女の姿に聞くべき言葉が見つからない。

それに、なのはにも彼女と戦う理由がある。嫌われたままというのは悲しいけれど、それを呑み込むようになのはもまたデバイスを構える。

 

「ごめん、わたしもやられちゃうわけにはいかないんだ。

……ねぇ、やっぱり闇の書を復活させるのは諦めてもらう事は出来ないのかな?」

「出来る訳がないだろう。『理』の彼女は消えて、『王』は僕がこの手で倒した。ここまで来て、あの温かな永遠の闇に帰る事を諦めるつもりは無い。

そして、それ以上に僕は僕のために、この心に空いた穴を埋めるために今を戦うと決めたんだ!

さあっ、我が太刀の前に、君は散れッ!!」

 

実のところ、彼女はヴィータと闇の書の防衛プログラムの中枢たる王との連戦によるダメージが癒えきっているわけではない。今は単に外観だけを取り繕ったという状態だった。

だが、そんな素振りなどおくびにも出さずにデバイスを構える姿は、弱さを感じさせず、勝利を目指す心に満ちていた。

 

「ああ……なんか、ちょっと安心したかな」

 

戦闘の意欲をむき出しにする彼女を前にして、なのはは静かに息を吐き出しながら呟く。

油断をしているわけではない。むしろ適度な緊張と弛緩を維持して集中力を高めていく。

 

「ほんとのフェイトちゃんは、絶対にそんな事言わないから」

 

なのはの知るフェイトは優しくて強い子。

彼女の言う通り、他の多くの人を不幸にするような事を目的にするわけがない。やろうとするわけがない。

 

「安心して……、別人と思って戦えるッ!!」

 

なのはの足元に桜色の魔力光による魔法陣が展開される。

次いで、なのはの周囲に桜色の光球、誘導操作弾の発射体が次々と生じる。

 

「闇の書を復活させるわけにはいかない。だから、あなたの事はわたしが眠らせてあげる」

 

そして、真っ直ぐに彼女の姿を見据えながら、なのはは告げる。

自分の魔法は、相手を倒すためのものではない。悲しみや辛い事、それらの事情から生まれる罪を撃ち抜くためのものだから。

だから、フェイトと同じ姿であっても、みんなに悲しみを齎す彼女の事はほうって置けないのだから……!

 

「アクセル……シューター!」

 

お互い、既に戦意を持って対峙している。今更開始の合図など必要ない。

なのはが放つのは誘導操作弾。半年前の魔法を覚えたばかりの頃は三発の同時制御が限界だった。

だが、欠かさず行なってきた鍛錬の成果として、十二発のそれらは全てなのはの制御下にある。

不規則に揺れながら弧を描いて飛び、彼女に何時襲いかかろうと虎視眈々と狙うかのように、その周囲を舞う。

それはさながら、桜色の軌跡によって形成される牢獄。

 

その威力はなのはの魔力資質も相まって、下手な防御なら容易く打ち抜き、一撃でダウンさせる事も出来る。そんな魔力弾に取り囲まれて、彼女は動かずに居た。

 

「眠らせて“あげる”、だと……?」

 

だがそれは、『動けない』からではない。

防御魔法を展開するでも、こちらも射撃魔法を使って相殺しようというわけでも無い。

ただ、デバイスを構えたままに佇みながら、なのはの言葉に反感を抱く。

その反感の思いを怒りに変え、その身の内に溜め込むように瞳を閉じる。

 

「僕はッ、君のその物言いに腹が立つんだよ!!」

 

そして、今まで自分を抑えて溜めていた憤怒の情を一気に解放、爆発させる。

デバイスに魔力刃を展開させて斧形態から鎌形態に移行させる。周囲を舞う魔力弾を睥睨する。

激情の中でも失わない冷静さを以って、彼女の視線がなのはの姿を射抜く。

 

その鬼気迫るとも思える彼女の気迫に、なのはは僅かに尻込みしそうになる。

だが、ジュエルシード事件、闇の書事件と幼いながらも次元世界を揺るがしかねないような大事件に真っ向から対峙してきたという経験がなのはにはある。

これくらいで怯んでいられないと、魔力弾を操作して彼女に攻撃を仕掛ける。

 

──刹那、金色の一閃が桜色の包囲網を切り裂いた。

 

「え……?」

 

あまりの速過ぎる彼女の一撃を認識出来ず、金色の光の残滓だけしかなのはの目には映っていなかったのだ。

その光景に、なのはは驚きを漏らしてしまう。

 

自分が攻撃しようとしたはず。だが、彼女を攻めようとした一部の魔力弾がその一閃によって打ち消されていた。

明らかに彼女の方が後手だったはずなのに、ただ鋭さと速さだけで先手を奪い返していたのだと理解するのに一瞬遅れてしまった。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

だが、その一瞬の時間でもあれば彼女にとっては十分。

なのはが包囲網に出来た裂け目を補うべく魔力弾を操作するのに先駆けて、彼女はその身を躍らせ包囲網を突き破る。

 

彼我の距離は、高機動魔法で踏み込むには僅かに遠く、遠距離の撃ち合いをするには僅かに近いという微妙な間があった。

だが、彼女に迷いは無い。最短距離を最短時間で詰めるべく、なのはに向かって一直線に飛翔する。

最初から接近するという一択しかない彼女の判断速度も相まって、通常では考えられない速度で彼我の距離を喰らい尽す。

 

対するなのはは、即座に魔力弾の操作の大半を放棄し、防御魔法を発動させる。

幾ら彼女の速度が圧倒的ではあっても、魔力弾の飛翔速度に勝ちようはない。すぐに追撃をするべく魔力弾を彼女に向けて放つという選択肢をなのはは持っていた。

だが迎撃しようとしても当たる気が全くしない。避けようとしても避けきれる気がしない。

 

故に、防御という選択肢をなのは選んだ。

それは、何の根拠はない、ただの勘。

 

「たぁぁぁっ!!」

「くぅ……!?」

 

それが、この場において最善の選択だったどうかは分からない。

だが、なのはは五体満足のままにここに立っているのだから、少なくとも間違った選択ではないというのは確かだった。

 

「眠らせてあげる? ふざけるなッ!!

何でそんなに上から目線で言われなきゃならないんだっ。君はそんなに僕の事を取るに足りない存在だと見下しているのか!?」

「う、くぅ……」

 

怒りの炎がともった瞳でなのはの事を睨みつけながら、防御魔法越しに彼女はなのはを糾弾する。

その怒りの思いの丈を示すかのように、魔力刃を押し込んでいく。

 

「それに、別人だと思って戦えるだって?

確かに姿形は借り物さ。だけど、僕は僕以外の誰でも無い。僕を通して他人の面影を追うなっ、僕と戦うというのなら最初から僕の事を見ていろ!!」

 

さらに彼女は、なのはの防御の上から幾重にも斬撃を見舞う。

彼女の攻撃は確かに軽い。だがそれを補って有り余る鋭さは、防御の上からどんどんなのはの魔力を削っていく。

 

その圧力の前に、反論する余裕も無いなのはは歯を食いしばって堪える。

堪えながら、破棄していない分の魔力弾を操作して、彼女の死角、背後から急襲させる。

 

「ふっ……!」

 

だが、まるで彼女は背中にも目があるかのようにその魔力弾を察知すると、一呼吸の間に、なのはから離れる。

押し込んでいたのが嘘かのように圧力がなくなった事に、なのはは僅かばかりの安堵を抱く。

 

だが、安心も油断もしていられない。守護騎士達を倒したという実力の一端を垣間見て、余裕を持っていられるはずも無い。

その中で、彼女の言葉に対してそんなつもりで言ったわけじゃないと返事をしたいと思い、彼女の姿を探す。

 

彼女はフェイトの姿と同様、その魔法資質も高速戦を得意としていると分かった。

なら、ヒットアンドウェイとして、ここは一旦距離を置くはず。

ジュエルシード事件の際には何度もぶつかり、勝つためにイメージファイトの相手として設定していたフェイトとの戦いの経験から、そうであるとなのはは思った。

 

《Master!!》

 

だが、セオリーを気にしない彼女の戦いにヒットアンドウェイの『ウェイ』は無い。

苛烈なまでに防御よりも攻撃を優先して攻め立てる戦い方をする彼女は、すでになのはの正面から背面に回りこんで、再び魔力刃を振りかぶっていた。

 

その事にいち早く気付いたなのはのデバイスであるレイジングハートが警戒の声を上げる。

だが、完全に想定外だった彼女の行動を前にして、なのはの反応が追いついてこない。

これは、なのはが遅いのではない、彼女の方が速過ぎるのだ。

 

防御魔法は一旦切ってしまったため、レイジングハート内に設定されている自動防御の再発動には間に合わない。

そして、既に彼女の刃は振り下ろされている。

 

《Flash Move》

 

その中で、レイジングハートは魔力リソースの一部を割いて発動の準備を済ませていた高機動魔法を、なのはの意志を無視して発動させていた。

突然、視界が高速で動いたためなのはは驚き、身体が泳いでしまっていたが、ついさっきまで自分が居た場所を彼女の魔力刃が切り裂いていた事に気付き、冷や汗を流す。

なのはは、咄嗟の判断で窮地を救ってくれた相棒に感謝の言葉を伝えようとする。

 

だが、口に出して礼を言う暇が無かった。

攻撃を空振りして、それでもすぐに逃す気はないと追撃を仕掛けようと、彼女が真っ直ぐになのはの事を睨みつける勢いで見据えていたからだ。

体勢を崩し、防御しようにも踏み止まれない事は明白。故に防御は出来ず、回避も出来ないという現状で、なのはは操作していた魔力弾を自分と彼女の間に割り込ませる。

狙いをつける余裕も無い。少なくとも体勢を整えるだけのただの時間稼ぎでしかない。

 

「それがどうしたぁ!!」

 

それを、彼女は流れるような動きで、襲い掛かる弾体を魔力刃で次々と切り伏せていく。

ひとつ、ふたつと、一連の動きの中で切り捨てる姿は、完全に誘導弾の機動を見切っていた。

 

「電刃衝!」

 

そして最後のひとつを、身体を横薙ぎに一転させながら切り裂くと共に、手の中に発生させていた金色の球体を投げつけるようにして撃ち放つ。

彼女の手の内より離れた光球は、その身を鋭利な刃とするかのような鋭さと固さの弾頭と成して一直線になのはに肉薄する。

 

それを、何とか体勢を立て直したなのはには、再び体勢を崩すわけにはいかないと防御をする。

強力な防御を持つなのはにとって、魔力弾の一発程度で揺らぎはしない。

だが、途切れないラッシュを繰り出す彼女の前に、砲撃魔法のチャージをさせて貰えないどころか、制空権を制する機会が訪れないという現状に危機感を抱いていた。

 

接近戦のスキルを伸ばしていなかったなのはに、纏わり着くように何処までも白兵戦の間合いで挑みかかってくる彼女に対処が追いつかない。

今もまた、防御魔法を以って彼女の刃を遮る。

 

「てりゃぁぁっ!!」

 

そしてついに、彼女の渾身の一撃の前になのはの防御魔法も切り裂かれた。

割れたガラス板のように散る防御魔法の欠片を視界に映しながら、更に斬撃を見舞おうという彼女のその姿に、なのはは咄嗟にレイジングハートを掲げる。

 

直後、金属同士のぶつかり合う甲高い音が響き渡る。なのはのレイジングハートが彼女の斬撃の進行上に割って入り、阻んでいたのだ。

正直なところ、なのはは狙っていたわけではなく、ただ運が良かっただけの結果。

それでも、まだなのはは無事でいる。互いのデバイスの接触している一点から、込められた魔力が火花のように散らせながら、ギリギリの鍔迫り合いを演じる。

 

「……ああ、僕が君を嫌いな理由を、刃を交えて良く分かった」

 

至近で彼女はなのはの事を憤怒の情を込めた視線で睨みつける。

語る言葉は静かだが、それでも端々から零れる怒りは確かに込められていると良く分かる声色で言葉を続ける。

 

「君は僕を切り捨てられるべき存在だと割り切っている。僕という存在をこの世に在ってはならないものだと思っているんだ。

僕はこうしてここに居るのに、僕を認めないと君の瞳が物語るから、僕は君が嫌いなんだ!!」

「そんな事、ないよ!!」

 

なのははそんな事は思っていないと、押し込まれそうになるのを必死に堪えながら。

 

「あるんだよッ。君はどうせ僕の事を『フェイトの偽物』だと思っているんだろ!!」

「それは……」

 

なのはは彼女の言葉を否定しようとした。だが、出来なかった。

実際、クロノ達と話しているとき、マテリアル達の事を自分達の『偽物』としていた。

そして、その言葉になんの違和感を持っていなかったという自分に気付き、これでは本当に相手の事を見ていなかったのではと、愕然とする。

 

「僕は偽物なんかじゃないっ、僕は……僕なんだ!!」

 

鍔迫り合いの圧力が緩んだと思った直後、なのはは腹部に痛みと衝撃を覚えた。それと同時に、なのはの視界が後方に流れていく。

彼女が思いっきり蹴り飛ばしていたのだ。斬撃と比べて威力が更に低いわけではあっても、痛い事には変わりは無い。

 

腹部を右手で抑えながら、それでも油断しないようにデバイスを構えるなのはだったが、不思議と彼女から追撃が来なかった。

何故と思いながらも、彼女の佇むその姿を見やる。

 

「……君と刃を交えて、僕が何をしたいのか分かったよ」

 

何をするでもなく、彼女はそこに居た。

 

「僕は『僕』を証明するっ。誰も僕を認めないなんて、それこそ認めない。

世界が僕を否定するというのなら、まずはそのふざけた現実を打ち破る!! いくぞ、バルニフィカス!!」

 

彼女の叫びに応えて、バルニフィカスは形態を変える。それは、フルドライブモードの大型剣形態。

金色の魔力で刃が編まれるよりも早く、一気になのはへと肉薄する。

 

迫られた側のなのはは、彼女の言葉に動揺をしていた。そのために反応が出来ない。

そんな主の心理状態を理解したレイジングハートは、独自の判断として防御魔法を展開させる。

 

「でりゃーっ!!」

 

大型剣を振りまわすようにして回転。そのまま遠心力を加えてなのはの防御の上から叩きつける。

それは確かになのはの防御に阻まれたが、そんな事はお構いなしに、その防御ごと丸ごとなのはの事を吹き飛ばす。

 

「雷刃、滅殺!」

 

掲げる金色の刀身に紫電が落ちる。雷光を迸らせる剣を肩に担ぐように構える。

吹き飛ばされながらも、その途中でなんとか踏み止まったなのはが見上げたのは、そんな彼女の姿。

 

「極光斬!!」

 

そして、躊躇なぞ欠片も存在しないその刃は、ただ真っ直ぐになのはに振り下ろされた。

なのはに、避けるすべは残されていなかった。

 

 

 




次回、最終話。
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